落とし物達の願い
歩いている人のポケットからぽろり。
何かがこぼれ落ちた。
それは手編みの手袋。
持ち主のお母さんが精一杯編んでくれたもの。
向こうで行きかう人の一人。そのバッグからぽとり。
それは傷んだキーホルダー。
寿命を迎えてチェーンが壊れてしまったみたい。
地面に落ちたキーホルダーは、人に踏まれないかハラハラしっぱなし。
ちょっとよそ見をしているうちに。
手の中に持っていたものがぽとっ。
定期券ケースの中から定期券が飛び出した。
それは何でもない道の上に静かに着地する。
今日も、昨日も、明日も。
世界のどこかで落し物は発生していく。
落とされたものたちは、持ち主とわかれて心細い思いをしている。
誰かによって交番に届けられるものもいれば、誰かによって安全なところに寄せられるものもいる。
中には誰にも見つけてもらえないものもいる。
でも、みんなに共通しているのは、ずっと落とし主を待っているということ。
世界中の落し物たちは、みんな「はやくみつけて」と今日も願っている。