✒ 続・本屋に刑事が来たよ! 3
セロフィート
「 ははぁ……。
そういう事なら、ワタシの本屋は協力は出来そうにないですね 」
大窪刑事
「 それは何故ですかな?
お聞きしても? 」
セロフィート
「 えぇ、構いません。
実は──、ワタシの本屋には防犯カメラという物を取り付けてないのです。
ですから、仮に万引きをされていても調べる事が出来ませんし、証拠になるような映像も無いです 」
大窪刑事
「 まさか!
今時、防犯カメラを設置してないと言うんですか!
なんて無用心なんですか! 」
セロフィート
「 巡回に来たお巡りさんにも『 無用心だ! 』と言われましたね。
──万引きの常習犯だった被害者達の持ち物の中に、万引きされたような物は入っていたのですか? 」
大窪刑事
「 ……いや、それらしい物は──。
確かに被害者達の持ち物の中に万引きされたような書籍は見当たらなかったと思うが…… 」
畠田野刑事
「 被害者達の持ち物の画像はありますよ。
確認してもらえるようにスマホにダウンロードしときましたからね! 」
畠田野刑事は、自分のスマホを取り出すと、アルバムのアイコンをタッチし、フォルダに切り替えると不慮の事故に遭った被害者達の持ち物の画像を出した。
畠田野刑事
「 此方です。
何分、被害者数が多いもので、画像数も多くて確認してもらうにしても時間が掛かってしまいますけどね… 」
セロフィート
「 ………………万引きされたような書籍は見当たりませんね。
商店街から離れた場所にも大きな本屋はありますけど、行かれました? 」
大窪刑事
「 他の刑事が担当に当たっています。
不慮の事故に関しては “ 事件性は無い ” と判断され、処理される事になりました。
不慮の事故に遭った被害者は万引きの常習犯で、補導歴だけでなく逮捕歴もある犯罪者も混ざっている事もあり、捜査の打ち切りが決まりました 」
セロフィート
「 そうですか。
死人が出ていないのが幸いですね 」
畠田野刑事
「 そう言えば──、30年前にも万引き犯達が様々な事件を起こして、万引き以外の罪で逮捕された事件がありましたよね。
万引き犯が万引きをした店舗の敷地内を出た途端に事故に遭って亡くなったり、別の万引き犯が起こした事件に巻き込まれて亡くなったり── 」
大窪刑事
「 あぁ──、それ等の事件なら30年前じゃなくて40年前だな。
私が若手刑事になって2年後ぐらいに起こりだした奇妙な事件だったからな。
良く覚えているよ。
先輩達と彼此走り回ったもんだ 」
セロフィート
「 日本では奇妙な事故や事件が起きるのですね。
今回の不慮の事故も40年前に起きていたという奇妙な事故や事件と何等かの関連が? 」
大窪刑事
「 いや、それはどうかな。
40年前に起きた事故や事件は他県で起きていたんですよ。
私は20年前に移動になりましてね、此方に引っ越して来た身ですから 」
セロフィート
「 他県から来られたのですか 」
畠田野刑事
「 40年前には多くの万引き犯が亡くなったり、事件や事故を起こしたりしたから、一時期は万引きする人も減少していたみたいですよ。
年数が経つと残忍な事件も悲惨な事故も忘れ去られてしまいますから、世代が変わるに連れて万引きをする人も増加しましたよね。
つい1週間前も万引き被害に遭っていた個人経営の本屋が閉店してましたよ。
防犯カメラを設置していても、出入り口に万引き防止センサーを設置していても、盗る奴は盗るんですね。
一体どうやって万引きセンサーに引っ掛からないで万引きするんだか……。
万引き犯の手口も年々に手が込んで来てますよ。
もっと別の事に熱中すれば良いのに、何だって万引きなんていう犯罪に手を染めたがるんだか── 」
セロフィート
「 日常では味わえないスリルを感じたいのでは?
平凡な日常に退屈しているのでしょう?
ふふふ… 」
畠田野刑事
「 万引きされる側からしたら迷惑な話ですね 」
セロフィート
「 現行犯逮捕した万引き犯の両腕を切断したら良いのではないですか? 」
畠田野刑事
「 へ?
両腕を切断……ですか?? 」
セロフィート
「 外国では窃盗犯への厳罰として腕を切断する刑が現在も健在のようですし、日本も見習えば良いのでは?
両腕が無ければ、万引きをしたくても、流石に出来ないでしょう?
両腕を切断されて失うと分かれば、万引きする人も減少するのではないですか?
両腕が無いと日常生活も不便になりますし、困るでしょう?
中には義手を付けて万引きをする変わり者も居るかも知れませんけど? 」
大窪刑事
「 セロさん……無茶を言わんでくださいよ。
“ 死刑を禁止しよう ” ってデモ活動が全国で行われている現在の日本で、窃盗犯の両腕を切断する刑罰なんて認められませんよ…。
今や、犯罪を起こした犯罪者に刑罰を与えて罰するよりも “ 心のケアをしよう ” という活動が盛んなんです。
世間では “ 犯罪者ファースト ” やら “ 加害者ファースト ” って言われてるんですがね、事件や事故に遭った被害者や被害者遺族の事を考えないイカれた馬鹿野郎な奴等がおかしなデモ活動を日本全国で起こしてるんですよ 」
セロフィート
「 ははぁ……。
そうなのですか? 」
畠田野刑事
「 事件や事故を起こした加害者や犯罪者を罰する事を良しとしない団体なんですよ!
頭がイカれてますよ!!
加害者や犯罪者が事件や事故を起こしたのは “ 心の病気だから ” とか “ 精神的な問題だから ” とかで、刑罰を与えたり刑務所に入れて集団生活させるなんて、病状を悪化させるだけだから、刑務所に入れるのを廃止しろ!!──とかアホな事を言ってるんですよ。
何でも彼でも “ 病気の所為 ” にして加害者と犯罪者を優遇したいみたいですね。
迷惑な団体ですよ 」
セロフィート
「 その団体の人達は、自分達が被害者や被害者遺族になった事はあるのですか? 」
大窪刑事
「 あればデモ活動なんかに参加はしないでしょうな。
デモ活動をしている団体のバックに付いているのは、統一天生教会っていう日本でも大きな宗教団体でしてね、警察ですら口出しや手出しが出来ないんですよ 」
セロフィート
「 宗教団体ですか。
“ 宗教 ” を私利私欲の為に悪用するとは、許せない団体ですね 」
畠田野刑事
「 宗教家ってのは、ヤバい奴等が多いんですよね!
地下鉄で大事件を起こしやがったオ●ムもそうでしたし! 」
セロフィート
「 畠田野刑事、宗教は何も悪くありませんよ。
宗教とは──、神佛の実在を信じ、神佛のお力を信じ、神佛の法を信じ、神佛の教えを信じる──これ等の根本を教えるのが宗教なのです。
信仰とは──、これ等の教えを信じ、法を信じ、これに遵い行う事──、神佛の法や教えの実践的行為を “ 信仰 ” といいます。
悪いのは、宗教や信仰を悪用する罰当たりな人間達です。
罰するならば、神佛の教えと法に対して、罰当たりな事をしている恥ずべき人間を厳しく罰するべきです。
私腹を肥やす為に信者を騙し、金儲けの道具として宗教や信仰を悪用する輩を許してはいけません 」
大窪刑事
「 セロさんは信仰心のある方のようですな 」
セロフィート
「 生かされている存在である以上、誰もが信仰の中で生活をしているのです。
この世に生を受けて生かされている者は、例外なく信仰者です。
信仰の中で生活をしているのですから、本当の無神論者は居ません。
仮に “ 無神論者が居る ” と言うならば、神佛から授かった生命を自分勝手な理由と都合で中絶し、無かった事にするような良心を失った身勝手極まりない人達でしょう。
生かされている命を粗末に扱い、身勝手に自ら命を絶つ者達も無神論者と言えるでしょうね。
自分で自分を殺す事は、最も罪深い悪行と言われていますし。
どんなに辛い事情があろうと、自殺をした人間は間違っても天国へは行けません。
人間へも簡単には生まれ変われないでしょう。
親が子殺しをしても同様ですし、子供が親殺しをしても同様です。
神佛の与えられる罰に比べると人間が犯罪者へ与える処罰,刑罰は欠伸が出る程生温いものです。
自分の犯した罪を揉み消そうとしたり、厳罰を軽減させようと躍起になったり、お金の為に法の抜け道を犯罪者に教え、必死に犯罪者の罪を軽くする手助けをする協力者達には呆れてしまいます。
良識を失い良心を何処かに捨ててしまった者達も無神論者と言えますね。
悪事に手を染め、真っ当に生きようとしない事は、神佛に背を向けて生きる事になりますからね 」
大窪刑事
「 つまり、セロさんは──、良識があり、良心を失わず、悪事に手を染める事もなく、真面目に誠実に真っ当な生活を送っている善良な国民は皆、無神論者ではなく信仰者──という事になりますな 」
セロフィート
「 そうなりますか?
酸素が必要である生物は皆、信仰者だと思えば分かり易いかも知れません。
酸素を構成しているのは、人知を超越した目には見えない不可思議な力の存在です。
昔の人間達は未知なる力,神秘的な力を神と尊称し、佛と呼称し、信仰の対象にしていましたからね 」
畠田野刑事
「 えぇと……セロさんは母国で教祖でもされていたんですか? 」
セロフィート
「 いいえ。
ワタシが信じるのは〈 久遠実成 〉だけです 」
畠田野刑事
「 くおんじつじょう……ですか?? 」
セロフィート
「 それこそ、検索とやらで意味を調べてはどうですか? 」
畠田野刑事
「 そ、そうですね…。
セロさんは宗教の勧誘なんてされませんよね? 」
セロフィート
「 刑事さんを勧誘ですか?
畠田野刑事はワタシを逮捕したいと? 」
畠田野刑事
「 い、いえっ!!
とんでもないですよ!! 」
セロフィート
「 良かったです。
安心しました。
ワタシも逮捕はされたくないですし 」
大窪刑事
「 セロさん、刑事を勧誘しても逮捕はされませんよ。
捜査妨害で厳重注意されるぐらいです 」
セロフィート
「 ははぁ……そうですか。
つまりワタシは畠田野刑事に誤認逮捕をされる所だったのですね? 」
大窪刑事
「 あっはっはっはっ!
刑事勧誘の罪で誤認逮捕とは大失態になりますな! 」
畠田野刑事
「 ちょっ、一寸ぉ~~、大窪さぁん!!
セロさんに乗っからないでくださいよぉ~~!! 」
大窪刑事
「 ──随分と長居をしてしまいましたな。
畠田野、失礼するぞ 」
畠田野刑事
「 あぁ、はい!
他の店にも確認をしないといけませんもんね! 」
セロフィート
「 時間が経つのは早いですね 」
──*──*──*── 1階・本屋
セロフィート
「 御苦労様です。
お気を付けて── 」
【 セロカ君の本屋 】の正面玄関から出て行く大窪刑事と畠田野刑事に声を掛けて見送ったセロフィートは、マオが待っているであろう屋上へ向かって歩き出した。