✒ 続・本屋に刑事が来たよ! 2
──*──*──*── 本屋・1階
セロフィート
「 お待たせしましたね、刑事さん 」
本屋の店員に扮している〈 器人形 〉に案内されたセロフィートは、休憩スペースにあるソファーに腰を下ろして座っている刑事に声を掛けた。
刑事は2人居た。
1人はマオと無駄に仲の良い若手の刑事で、2人目は先輩なのか上司なのか、若手の刑事よりも目上の刑事だ。
若手刑事
「 あぁ、セロさん!
お仕事中に済みません!
1ヵ月前にマオ君から借りた傘を返しに来たんです。
『 5倍の日以外は御客が少ないから来ても大丈夫だよ 』って教えてもらってましたから…… 」
セロフィート
「 そうですか。
態々傘を──。
御親切に有り難う御座います 」
店員
「 店長、傘は受け取り、BRへ置いてあります 」
セロフィート
「 有り難う。
仕事に戻りなさい 」
店員
「 失礼致します 」
セロフィートと2名の刑事に頭を下げた〈 器人形 〉は自分に与えられた仕事をする為に会計レジへ戻って行った。
セロフィート
「 傘を返しに来ただけではなさそうですね。
場所を変えましょうか 」
セロフィートは2名の刑事を促すと2階へ続く階段へ向かって歩き始める。
2名の刑事も互いの顔を見合わせて頷く。
ソファーから腰を上げて立ち上がると、セロフィートの後ろを歩いた。
──*──*──*── 本屋・2階
──*──*──*── 応接室
セロフィート
「 応接室です。
どうぞ、お入りください 」
セロフィートに案内された2名の刑事は応接室へ入ると長いソファーに腰を下ろして座った。
セロフィートは淹れたての紅茶と紅茶に合うスイーツを用意し、テーブルの上に出す。
セロフィート
「 本格的な紅茶ではなくて申し訳ないですね 」
年輩刑事
「 いえ、御構い無く。
これはティーパックですか? 」
セロフィート
「 インスタントスティックです。
湯を注ぐだけで紅茶が飲めるのは画期的ですね。
ティーパックは蓋をして蒸らす必要がありますけど、待つのが苦手な人にはインスタントスティックは有り難い代物です。
注ぐ湯の量を気を付ければ良いだけですし 」
若手刑事
「 インスタントスティックで紅茶が飲めるなんて、確かに画期的ですね!
手間の掛かる紅茶を手軽に飲めるのは嬉しいし、有り難いですよ!
僕は普段から紅茶は飲まないので買った事はないんですけど 」
年輩刑事
「 それを言うなら私もだ。
飲むのはインスタントコーヒーばかりだからな 」
セロフィート
「 インスタントコーヒーもあります。
コーヒーにしますか? 」
年輩刑事
「 いやいや、紅茶で結構です。
こんな機会でもないと紅茶を飲む事もありませんからな 」
セロフィート
「 様々なインスタントスティックを取り揃えています。
2杯目は御好きなスティックをどうぞ 」
年輩刑事
「 いやはや、忝ない。
有り難う御座います 」
若手刑事
「 珍しいスティックもありますね 」
セロフィート
「 日本全国から取り寄せていますから、珍しいスティックがあるのは当然です。
気になるスティックがあるなら、どうぞ。
差し上げますよ 」
若手刑事
「 えぇっ?!
いや、流石にそれは……。
有り難いんですけど……今は勤務中なので…… 」
セロフィート
「 あぁ……そうでしたね。
では、非番の時にでも来てください。
従業員だけでは飲みきれない程ありますから、御裾分けします 」
若手刑事
「 良いんですか!?
有り難う御座います!! 」
セロフィート
「 年輩さんも、非番の時に訪ねてくだされば御裾分けします。
賞味期限もありますから、頂いてもらえると助かります 」
年輩刑事
「 いやぁ……それは有り難い限りです。
妻は私と違って紅茶が好きでしてな(////)
妻の為にも今度の非番に来させていただきますよ 」
セロフィート
「 御待ちしています。
──では、本題を聞きましょうか 」
若手刑事
「 ──はい 」
年輩刑事
「 ──そうですな。
実は……1ヵ月前まで頻発して起きていた不慮の事故の件に関しての事です 」
セロフィート
「 ははぁ……。
不慮の事故……。
確かに1ヵ月前までは商店街の付近で起きていましたね。
それがどうしたのですか? 」
若手刑事
「 …………不慮の事故に遭った被害者は病院へ運ばれるのですが──、全員が半身不随と診断され、生涯ベッド生活を余儀無くされているんです 」
セロフィート
「 ははぁ…。
不慮の事故に遭った全員が──半身不随ですか?
それは……奇妙…ですね? 」
年輩刑事
「 えぇ……。
とても奇妙な事故なんです。
こんな事故は刑事になってから初めての事です 」
若手
「 それは違くないですか、大窪さん。
奇妙な事件と言ったら、“ 尻穴牛蒡 ” があったじゃないですか!
死人すら出なかった事件ですけど、1週間に30件 ~ 40件は起きてましたよ!
あれはどんな事件よりも衝撃的で凄い事件でしたよ!
腹が捩れる程、ダチと笑い合いましたもん!! 」
大窪刑事
「 畠田野、止さないか。
もう、10年以上も前の事件だ。
まぁ……警察関係の上層部や政治家達が被害に遭ったニュースを見た時は確かに……腹が捩れたが…… 」
畠田野刑事
「 大窪さんもじゃないですかぁ~~!
あの事件は伝説ですよ!!
まぁ、1週間に20件に減ってからは、流石にゾッとしましたけど…… 」
大窪刑事
「 あぁ……そうだな。
あれは…やり過ぎだと私も思ったよ。
だが、あの死人が出なかった事件のお蔭もあってか、多少は世間もマシになったのも事実だ。
事件数が激変したからな 」
畠田野刑事
「 皆、“ 尻穴牛蒡 ” の被害に遭いたくなかったんでしょうね。
尻に牛蒡を突っ込まれて、大事な部分を切り取られるんですもんね!
そりゃ、犯罪者も大人しくなりますって 」
セロフィート
「 日本では奇妙な事件が良く起きるのですか? 」
畠田野刑事
「 あ──、済みません!
セロさんは日本に来て間もないんですか?
日本語が上手なので滞在歴が長いのかと…… 」
セロフィート
「 日本に来たのは2年前です。
日本語は母国で練習しました 」
畠田野刑事
「 そうなんですね。
2年前なら、“ 尻穴牛蒡 ” の事は知らないですよね。
ネットでも凄くバズってたんで、今でも検索すれば動画で見れますよ!
検索は【 尻牛蒡事件 】でするとヒットしますんで、腹が立ってムシャクシャしてる時や笑いたい時に見るのが、お薦めですよ!」
セロフィート
「 そうですか。
後でマオと見てみますね 」
畠田野刑事
「 えぇ、是非、見てみてください! 」
大窪刑事
「 話がズレてしまったな。
不慮の事故の話に戻そう。
不慮の事故に遭った被害者達なのだが──、全員に共通点がある事が捜査で分かったんですよ 」
セロフィート
「 被害者の共通点ですか? 」
畠田野刑事
「 全員が何度も警察に補導されているって事が判明したんですよ!
それも、共通点は “ 万引き ” なんです 」
セロフィート
「 万引きが共通点ですか?
万引きで補導された事のある人達ばかりが、不慮の事故に遭い、半身不随で入院している──という事ですか? 」
畠田野刑事
「 そうなんです!
こんな不思議な事ってあるんですね!
全員が万引きの常習犯なんですよ!
万引きの常習犯達が病院に運ばれて、一生涯半身不随として生きるんです!!
いや~~~、こんな不思議な事って有るんですね! 」
大窪刑事
「 畠田野、言葉を慎め。
私達は刑事なんだぞ 」
畠田野刑事
「 あっ、済みません…… 」
セロフィート
「 万引きの常習犯だと判明したのは分かりましたけど──、それで何故…ワタシの本屋へ来たのですか? 」
大窪刑事
「 あぁ……それはですね、この商店街にある店に寄っては確認をさせて頂いてるんですよ 」
セロフィート
「 確認ですか? 」
畠田野刑事
「 えぇ、そうなんです。
不慮の事故は起こらなくなりましたけど、被害者達による万引き被害を受けていないかの確認と言いますか。
被害者達は不慮の事故が起きた当日に、商店街にある何処かの店で万引きをしていたのではないか──と考えている刑事達も居るんですよ。
考え過ぎだとは思うんですけど、疑わしい事は1つずつ潰していかないといけなくて…… 」
セロフィート
「 ははぁ……。
それで、不慮の事故が起きた全ての当日に、ワタシの本屋で万引きが起きていないか──、確認をしたいのですね 」
畠田野刑事
「 はい、そうなんです!
御協力、宜しくお願いします!! 」
若手の畠田野刑事は、向かいに座るセロフィートへ深々と頭を下げて、捜査協力をしてもらえないか真剣に頼み込むのだった。




