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いくつかの傭兵団と正規兵の隊長格達の打ち合わせが終わった後、半時程して討伐隊は出発した。
大木の立ち並ぶ深い森の中を行軍していく。
傭兵100、正規兵100の一個中隊での進行は非常に目立つ。
加えて外様も多く連携も即席のものであるため奇襲にはかなり弱いだろう。
それでも並の武装集団や生物兵器では相手にならない。
数の差とはそれだけの有利をもたらす。
絶対に勝てる。
誰もがそう思っていた。
ソレを目にするまでは。
異常が起きたのは昼を少し回ったころだろうか。
斥候に出ていた兵が家を見つけたという。
「こんなところに住んでいるものなど聞いたこともない。敵の拠点である可能性が高い」
将軍は敵が本当に魔女である可能性は低いと見ていた。
過去の討伐隊は誰一人として帰ってはこなかった。
仮に敵が魔女であった場合、多くの人間を一人も逃がさずに倒すことなど可能だろうか?
いかに敵が強力であったとしても個人である以上できることには限度があるはずだ。
以上のことから想定するに不意を突かれ包囲された可能性が高い。
既に隊の周辺には複数の斥候を放ってある。
その警戒網には意図的に穴を作り、その場所には傭兵を配置してある。
彼らには悪いが盾になってもらおう、それくらいの金は払っている。
そこから少し進むと開けた場所に出た。
「あれが報告にあった家か。なんだあの家は……?」
大きさは少し広めの民家といったところか。
遠目だが木造ではない。
石造りにも見えない。
強いて言うならば、土。
土で家を造ることがないとは言わないが、木材が周りにいくらでもあるというのにあえての土。
その違和感に首をひねりつつも将軍は指示を出す。
「各員警戒態勢。一番隊で前方の家を包囲し中を確認しろ。二番隊は援護、それ以外の隊は周辺の…」
途中で切れた指示に部下が怪訝な表情をするも、すぐにその理由に気づく。
いつの間にか、家の前に一人の女がいた。
歳は20代前半くらいだろうか。
腰ほどまでに伸びた髪は墨を落としたように黒く、瞳は吸い込まれるような蒼。
対してそのかんばせは透き通るような白。
絶世の、といってもいい美女なのにそれを見た兵たちに浮かぶ感情はただ一つ。
―――恐ろしい。
そうとしか表現できない何かを感じ取った将軍は理解した。
あれが魔女だと。
「…っ総員戦闘態勢!敵は正面の魔女だ!盾前へ、弓兵構え!」
恐怖を経験でねじ伏せて指示を飛ばす。
アレはまずい。
過去幾度となく感じた中で最も危険であろう存在に、少し前の緩み切った自分を殴りたい気持ちだ。
一拍遅れて兵たちもすぐに指示に従い動く。
いつの間にか魔女はこちらに手を向けている。
何事か喋っているようだが、距離があるので聞き取れない。
その間に兵たちの準備が整った。
盾を前方に並べてしゃがみ、その後ろで弓兵が矢をつがえる。
「狙え、撃…」
命令を出そうとした瞬間。
不思議な香りがした。
今までに嗅いだことのない、言いようのない刺激臭。
「なんだ?」
誰かが口にしたその直後。
―――大地が牙を剥いた。