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その後も報酬の良さと点数の良さどちらも兼ね備えた袋狼狩りが続いた

安全のため幽霊鮫と遭遇した場所から距離をとった所で討伐した


ジグの懸念していたようなことは何も起こらず、五回目の討伐が終わる

その間はほぼシアーシャだけで戦闘を行い、ジグは周囲の警戒に努めた

彼女の要望で程よい殺傷力の出力の調整と、魔獣相手の距離の取り方を試していたようだ




「おめでとうございます。評価値が十点に達したので九等級に昇格です」


ギルドで報告を済ませると昇級を告げられる


「ありがとうございます」


内心ようやくか、という感想ではあるものの表には出さず礼を言う


「最短の昇級、流石ですね。…ですが働きすぎです、少しお休みください。疲れがたまると思わぬミスをするものです」

「そうなんですか?普通はどのくらいのペースでやるものなんです?」

「一般的なパーティーで一日おき、ハイペースなところでも三日に一日は休みを入れます。ほとんどソロで毎日こなしているシアーシャさんははっきり言って異常です」


異常ときたか

あまり目立ちすぎるのも本意ではない


面倒ですがたまには休みを入れますか…


「そう、ですね。ちょっと張り切りすぎちゃったみたいです。せっかくなので少し休みますね」

「そうしてください。それと一定数依頼をこなしたのでパーティー紹介もできるようになりましたが、どうされますか?」

「うーん…保留で」

「かしこまりました」


人と組むにももう少し常識的な魔術を覚える必要がある

幸いこちらの人間は魔力量を感じ取れるほど鋭くはないようだ

あまり大規模な術を使わなければ騒ぎにならないだろう


「シアーシャさんのことは話題になっています。あまり無茶な勧誘がされるようでしたらギルドに一報下さい。しかるべき対応をしますので」

「話題に、ですか?」


どういうことだろう

目立ちすぎるのも~なんて考えた直後にこれだ


「女性の冒険者自体はそこまで珍しいものではありません。しかしソロで新人、将来有望で見目も素晴らしい。男の人が放っておくほうがおかしいというものです」


以前にもジグに言われたが、自分は男に受ける顔をしているらしい

ずっと一人だったので他人と容姿を比較したことがないから実感はないが


ジグさんの反応が薄いから社交辞令だと思ってましたよ…


「今まではパーティーが組めませんでしたから静かですが、これから勧誘はたくさん来るはずです。特に若い方は周りが見えないことも多い。一緒にいる男性にも構わず近寄ってくるでしょう」


ジグが睨みを飛ばしていれば大丈夫かと思ったがそうでも無いようだ

男の性欲とは時に命の危険すら上回るものなのかと、妙に感心してしまう


「分かりました。ジグさんがやっちゃう前にギルドに伝えますね」

「…なんとなくそんな気はしていましたが、強いですか?彼は」


日々多くの人間を見ているだけはある

戦いに長じていなくとも目は肥えているようだ


「とっても」


簡潔な答えにため息をつく受付嬢


「そうなる前に伝えてくださると、とても助かります…」


渋くなる顔に笑いながら踵を返す


併設された食堂に着く


「こっちだ」


ジグはもう戻っていたようだ

手を上げる彼の元に行くとカードを掲げる


「無事、昇級です」

「おめでとう」


どや顔で胸を張る彼女にぱちぱちと手を叩く

しかしそのあと少し不満げな顔になった


「…でも少しは休めって言われちゃいました。働きすぎだって」

「まあ、そうだろうな」


予想していたのか驚きはないようだ


「でも私まだ疲れてないんですよ?」

「疲れた状態までもっていくなということだ。寝て起きた時に万全な体調を維持できるようにしておけ。ギリギリを攻めると想定外の事態が起きた時にあっさりやられるぞ」

「はーい」


不満そうな彼女に少し笑ってしまう

やりたいことがあるときにブレーキを踏まれる

自分にも覚えがあった

剣の腕が上達し始めた頃、強くなるのが嬉しくてがむしゃらに振り続けてベテランにぶん殴られて止められたものだ


「そう腐るな。明日は出かけないか?大手の魔具を扱っている店を探しておいたんだが…」

「魔具!?行きます行きます!」


言い終える前に食いついてきたシアーシャに苦笑する


「朝食の後早速行きましょう。あ、少し待っていてもらってもいいですか?本を借りてきます」

「ああ」


シアーシャはとっくに十等級に許される書物はあらかた読み終えたようで、昇級の日を心待ちにしていた

ここ最近の彼女は依頼か読書かの毎日だ




彼女を見送ると店員に飲み物を頼んで待つ


「ここ、いいかしら?」


ジグは声の主を見た


妙な女だ、というのが一目見た感想だった

ゆったりとした法衣の様なものを着ている

銀の髪と女性的な体も目を引くが、特徴的なのは眼帯だ

両の目を覆うように布が掛けられており、目が開いている様子もない


盲目の神官とでも言おうか



「…どうぞ」


周囲を見るとそれなりに人入りはあるが空席がないわけではない

わざわざ同席したい理由があるようだ

水差しでコップに注ぐと差し出す


「ありがと」



たおやかな仕草で腰掛けると頬づえを付いてこちらに顔を向けた

視線は見えなくともこちらを観察しているのがよくわかる


だがジグは視線を気にも留めず素知らぬ顔をして茶をすする

頂いた手前彼女も水を飲む

しばらくそうしているとしびれを切らした眼帯女から声をかけてきた


「何の用か聞かないの?」

「相席だろう?」


即答に思わず固まる


「……アラン君に頼まれてね、人を探していたの」


埓が明かないと察した眼帯女が勝手に話し始める


「助けてもらったお礼をしたいんですって」


お礼、ねぇ…


「そうなのか。しかし心当たりがないな。他をあたったほうがいいんじゃないか」

「その日、その時間帯に依頼をしていたパーティーには全て当たったわ。でも全員心当たりがないって言うのよ。おかしいと思わない?」


やはり面倒なことになったようだ

横のつながりは敵に回すと本当に厄介だな

しかしこちらにあたりを付けるのが早すぎる気もする



「その人たちを詳しく調べると、腕は悪くないんだけど幽霊鮫の術を見破れるほどの隠し玉を持っていそうな人はいないのよねえ。…ところがある人物だけは情報がまるでないのよ」


なるほど

他が普通すぎて消去法でたどり着いたか

シアーシャは期待の新人と目立っているようだし無理もない


「でもその子は女性。助けてくれたのは男の声だったって言うから空振りかなーとも思ったんだけど…なんでもその子、男を荷物持ちに連れ回しているって言うじゃない」


眼帯女はこちらの反応を見逃さないようにしている

ジグは表情を動かさずに見返す


「でも会ってみたらびっくり。これが荷物持ちですって?随分ガタイのいい荷物持ちがいるものね」

「年季が入ってるんだ。ベテランの荷物持ちでな」

「武器は?」

「荷物を守るために必要なんだ」

「…そう」


崩れない表情に眼帯女が遠まわしな言い方では無駄と判断

直接的な方法にシフトする


「単刀直入に聞くけ、ど…」


その表情が途中から青ざめていく

スーと体温が下がるとともに冷や汗が出てきた

体の中で何かが暴れるのを必死で押さえつける

急激な体調の変化に声が詰まる


「大丈夫か?」

「い、いえ…平気よ」


気遣いに返すのも精一杯だ

息も荒くなりその手がお腹をさすろうとした時




「そうか?無理はしないほうがいい。トイレに行きたくて仕方がないだろう?」


「っ!!」



この、男…!



彼は先程から茶をすするだけで水には一切手をつけていない

ニヤニヤといやらしい顔でこちらを見る


「ああそうだ、聞きたいことがあったんだな。今だけ特別サービスでなんでも素直に答えてやろう。ゆっくりとな」

「こ、の…糞野郎…!」


憎々しげに顔を歪める眼帯女


「何を言う。糞がしたいのはお前じゃないのか?」

「…くっ!」


我慢の限界と眼帯女が駆け込むのを見送る

刺激を与えたくないのかへこへこと、しかし急ごうとしている様は実に滑稽だ



入れ替わりにシアーシャが戻ってきた

へっぴり腰で走る女を不思議そうな目で見る


「何ですかあれ?」

「さあ?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ひでぇw 魔女さんに言った「薄い繋がりの為のささやかな恩売り」とは違って、いきなり現れて詮索してきた初対面の女は、薄い敵対関係として扱ったってことか。 言うなれば「小蝿を追い払う為の軽い…
[一言] 描写の分に句点が無いのと、視点変わったことを示す記号無いのが読んでて不便。違和感。
[気になる点] 最下級の冒険者が受けれる依頼を、冒険者の中でも上の下のパーティーが受けてるのは大丈夫? それと、誰視点なのかわからなくてめちゃくちゃ読みにくいです
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