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作ったアカウント片っ端から凍結されました……パラレルスペースかませて何とか作成したので今度こそ、これでお願いします。@ERf1414213 

店舗特典SS書いているんですが加減が難しいですね……うっかり本編に載せてもおかしくない内容になってしまう。

ベイツを威嚇していたエルシアは座っている面々に気づくと眼帯の奥で目を丸くした。


「何この面子。イサナまでいるなんてどういう集まり?」

「一言で言えば、ジグに借りだったり一悶着あった奴らの集いだな」


そう言うベイツも過去を思い出して苦笑いしながら頭を掻いた。

それだけでエルシアは諸々の事情を察したのか何とも言えない微妙な表情をして額に手を当てると、呻き声とも唸り声ともつかない声を漏らす。


「ハァー…………そういうこと。昼間に起きたっていう騒ぎの当事者はあいつなのね?」

「そういうことだ。てめえもちっと協力しやがれ。どうせあいつに借りでもあるんだろ?」


以前ジグからワダツミと似たような騒ぎになったと聞いていたベイツがにやつく。

事態を把握したエルシアは銀髪を揺らしてそっぽを向いた。


「お生憎様だけど、私はあの男とは手打ちになったの。武器を取り戻すのに二百万以上も掛かったんだから!」


予定外の痛い出費を思い出して憤慨するエルシアを余所に、ウルバスがベイツへひそひそと尋ねる。


「ねえ、どうして彼女を呼んだの?」

「んお? そうか、お前は知らなかったな。こいつ、元澄人教なんだよ」

「えっ!?」


唐突なカミングアウトにウルバスが驚きの声を上げて固まってしまう。

黙ってしまった彼の代わりに面白そうな顔をしたイサナが耳を上下に動かして後を継ぐ。


「へえ、初耳ね。その法衣は伊達じゃなかったんだ?」

「チッ……ハゲめ、余計なことを」

「隠すようなことでもあるまいに」


カッカッカと笑うベイツを睨みつけていたエルシアだが、諦めたように溜息をついた。


「……で? 私に何をさせたいの?」


確かにあの男との借りは清算されている。それは本人が口にしたことで、彼自身一度言ったことをそう簡単に翻す男ではないだろう。良くも悪くも、仕事に関してあの男は今時珍しいくらいに実直だ。


エルシアは敵対したからこそジグの性格を理解していた。三対一の局面で、あの戦闘中でも曲げない流儀には少なからず思う所もあった。

貸しを作っておくのも悪くはない……そう思える程度には。



「物分かりがいいじゃねえか。まあ、話自体は実にシンプルでな」


そして、その甘い判断を即座に後悔することとなる。


「ジグ達が澄人教徒どもに殴り込みを掛けに行っちまった」


「なんでよっ!?」



あまりにも想定外のことに思わず拳をテーブルに叩きつけてしまう。

てっきり仲裁をして欲しいだとかの和平的な頼みごとが来ると思っていたエルシアはあまりの展開に思わず声を荒げた。


「実は……」


興奮する彼女にウルバスが先ほどと同じように事情を説明する。




「はぁん……なるほどね、確かにそれはまずいわ」


話を聞き終えたエルシアが毛先をいじりながら嘆息した。


「お前は何がやつらの禁句だったのか分かるのかよ?」

「そりゃまあ、一応ね。迂闊に口にすると面倒だから教えないけど」


元澄人教徒からするとそれだけ厄介な事態になっているらしい。


「……にしても普通、敵の本拠地へ殴り込みに行く? 頭おかしいんじゃないの?」

「ジグらしいんじゃない?」


いつぞやジィンスゥ・ヤへ彼が来た時のことを思い出して愉しげにイサナが笑った。

そんな彼女にエルシアが怪訝そうにした。


「イサナ、あなたはあの大男とどういう関係なの?」

「……色々ありすぎて一言では言い表せない、かな? 強いて言うなら借りがある、とだけ」


またそれか。

あの男を語る者は二言目には借りだの仕事だのと似たようなことばかり言う。


(全く、どういうやつなんだか……)



「それでエルシア、敵の戦力は分かる?」


既に戦う気満々の戦闘狂が爛々とした目で聞いてくる。


「……大部分は素人程度の人間しかいないわ。でも中には冒険者もそれなりに混じっていて、そいつらの力量はその地方によるわね。大抵は五等級行くか行かないかくらいだけど……そこまでは私には分からない」

「ふぅん……五等級か。そのくらいしかいないならジグだけで充分足りそうだけど?」

「普通はそれだけいればチンピラや冒険者の一人や二人は十分処理できるんだけどね……」


無論、その程度のはずはない。

澄人教はマフィアも迂闊には手を出せない存在なのだ。それはただ各地に点在していて横の繋がりがあるから、という理由だけではない。


「澄人教には荒事専門の僧兵を育成する部門があるの」

「僧兵ってのは分かるが、育成……?」


言葉の表現に不穏なものを感じたベイツが眉間に皺を寄せた。


「そう、育成よ。敬虔な信徒たちは自らの子供を教会へ差し出し、その信心深さを示す」

「……」


イサナとベイツが話の結末をおぼろげに理解して無言で視線を険しくした。

黙した二人の代わりにウルバスが続きを促す。


「……子供たちは、どうなるの?」

「預けられた子供たちは徹底的に教義と戦い方を教え込まれるわ。そして幼い頃から亜人の罪と、人の素晴らしさを信じて疑わない純粋な教徒が出来上がる。罪人を処理するのに罪悪感なんて必要ないからね……私も元はそこにいた。色々あって、抜けたけど」


さらりと自分の過去を告げる彼女にベイツまでもが息を呑む。


「……すまん」

「なんて顔してんのよハゲ。笑える顔してるのがあんたの取り柄だってのに」


エルシアは沈んだ顔をしているベイツにおどけてみせる。


「ふん……抜かせ。似非臭い雰囲気に納得がいっただけだ」


彼女の意図を察してすぐにいつもの調子を取り戻すベイツ。

エルシアにとってその過去は既に割り切っていることのようだ。ならば、自分が口を出すことは何もない。



「そういう訳で、数は少ないけど澄人教の僧兵は強い。余所との揉め事全般を対応するから場数もそうだけど、何より対人経験が豊富なのよ」

「……僕たちは澄人教に絡まれるのは何度かあったけど、僧兵なんて存在は初めて聞いた」

「それはあなたが真っ当に生きている証拠よ、ウルバス」


突然の褒め言葉にウルバスが首を捻ってぱちくりと目を瞬かせた。

彼の真っ直ぐで邪気のない視線に、人知れず眼帯の奥で目を細める。まだ何も知らなかった頃、自分も盲目的に彼らを罪人と断じていた時期があったのは忸怩たる思いだ。


「澄人教は亜人を大罪人と称して迫害しているんだけど、基本的には直接手を出すことは少ないの。貴重な労働力だからね」


如何に澄人教と言えども亜人というだけで殺し回れば国が黙っていない。安価な労働力を片っ端から排除できるほど余裕のある国などどこにもないからだ。


しかし物事には例外がある。


「澄人教の掲げる罪人ではなく、本当の意味で罪を犯した亜人。彼らを処罰することだけは黙認されているわ」

「……なるほどな。余所との揉め事担当ってのはついでで、本命はそっちかい」

「そういうこと。亜人は肉体が強い種族が多いし、それを活かして冒険者みたいな職業に就いている者も珍しくない。処罰する側にも相応の実力が求められる」


最初から人間以外を狩る目的で育成された戦闘装置。それが澄人教の僧兵なのだとエルシアは語った。

それが誇張ではないことは他ならぬ元僧兵であるエルシアの実力を見れば分かるというもの。


「なるほどね、楽し……厄介そう」

「確かにそんなのがぞろぞろいたら流石にジグでも不味そうだな」

「エルシアくらい強いのが沢山……想像したくない」


ウルバスとベイツが険しい面持ちで頷く。

事態を重く受け止めた二人にエルシアがその心配は無用だと付け加える。


「それはないわ。僧兵は貴重なの。一か所にそう何人も配備できるほどポンポン育てられない。脱落者も多いのよ? ……ただ、一つだけ注意しなくちゃいけないことがある」

「これ以上、何を?」


聞きたくないが、聞かなくてはならない。

度重なる不安要素にウルバスがくじけそうになりながらも問う。


「僧兵のなかでも、とびきり優秀な者には一つの役職が与えられる。数多の亜人を屠り、その罪を償わせた者だけが名乗ることのできる特別ないさお―――免罪官」







激しい剣戟の音が教会内に響き渡り、同じだけの火花が散る。

二つの影は幾度となく交差し、ぶつかり合ってなお止まらない。広いはずの教会内を所狭しと駆けずり回り、なお足りぬとばかりに壁を蹴り、宙を舞う。


「はぁ!」

ふん!」


赤の双刃剣と、金の錫杖。

二つの軌跡はいずれも劣らぬ勢いで相手の命を奪おうと攻め立て、相手に命を奪わせまいと防ぐ。

互角に渡り合っているように見えたその攻防は、ほんのわずかにではあるが傾き始めた。




―――押されているのは、ジグの方だった。



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― 新着の感想 ―
カンボジアのポルポト派が育成した少年兵だな
ちゃんとボスらしい強さをもった人だったのか、免罪の人ー!
免罪官も被害者だな、ある意味
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