第二話:「現状把握と今後」
《ユグドラシル十二階層》
ユグドラシル内にある【聖戦の玉座】という部屋。
攻めてきたプレイヤーをかっこよく迎えたいというギルドメンバーの発言から作られた部屋。
天井には天使や悪魔や人外の生き物が書かれた「聖戦」を彷彿とさせるような絵が掛かれており、
壁には、
「ONE FOR ALL」のギルドメンバー十三人の一人一人をモチーフとした旗が飾られており、
奥の方には、
十三席の玉座が並んでいる。
現在、十三席の玉座には、
ヴァルハラ・オンライン上でも高位装備を着た者達が並んでいた。
ルシフェルは、
俺の目の前で深々と頭を下げ跪いた。
「無事にお目覚めになられて幸いでございます」
ルシフェル深々と頭を下げた。
俺の目の前の光景は明らかに異様な物だった。
NPCは戦闘時には自動的に動くことが出来るが、
通常時には命令を入れない限り動くことはない。
だが、
今のルシフェルは意思があるように動いている。
一体何が起こっているのだろうか?
俺が考え込んでいると、
ルシフェルは、俺の周りの玉座を見た。
「主様。他の玉座に居られる方々は……」
ルシフェルは、
俺以外の友が気になっているようだ。
「ああ、これは下級NPCに友の装備品を装備させている。
見かけで惑わしてしまって悪かった」
「滅相もございません。私の方こそ失言を……」
ルシフェルは、再び頭を下げた。
こうして会話をしてみて確信した。
彼女達NPCは、自身で思考し、発言し行動が出来る。
「まさか、本当に生きているのか……」
俺は思わず呟いた。
ひとまず今は、
現状の把握と、
NPC達のチェックだ。
「ひとまず、友の装備を宝物庫に戻すとしよう」
俺は玉座から起ち上がった。
この現状でも、
ヴァルハラ・オンラインの機能は生きているのか確認しておこう。
俺はヨハネさんの装備に手をかざした。
すると、
目の前にアイテムウィンドウが表示された。
「なるほど、ヴァルハラ・オンラインの機能は健在か」
実際にヨハネさんの装備を、
インベントリーの中に移すことが出来た。
「お前達も手伝ってくれ」
「かしこまりました」
「そうだな……ルシフェルとイゼベル。
それに、メギドラとグレイシアも手伝ってくれ」
俺がそう呼びかけると、
呼びかけた四人が「仰せのままに」と言って早速動いてくれた。
「その他の者は、この部屋を散策並びに、
自身に異常が無いかを確認しろ」
【仰せのままに!】
その後、
俺たちは友の装備を回収した。
回収し終わった瞬間、
一人のNPCが俺の元に来て跪いた。
「セラフ様」
「お前は……」
「銀翼のジョーカー様が一役、アビゲールでございます」
目の前に跪いたのは、
白い衣装を身に纏い、目にはモノクルを着け、
前にアニメで見た怪盗のような姿をしていた。
そういえば、
ジョーカーさん。あのアニメを見てこのNPCを作ったんだっけ……。
あの人自身も怪盗のような見た目で、《怪盗》のクラスをとる位だ。
相当怪盗という物が好きだったんだろう。
「恐れながら御確認して頂きたい事がございます」
「なんだ?」
「セラフ様の管理者ウィンドウから、
私はどのように表示されておりますでしょうか?」
「どういうことだ?」
「私自身で確認したところ。どうも力が出せないような感覚が常にしております。
もしや、何らかの状態異常に掛かっているのではないかと推測致しました」
「なるほど」
指示を出してからそれほど時間は経っていないが、
自身の異常を確認して、俺に懇願してきたか。
やはり、
NPC達は自身で物事をしっかりと考えられるようだな。
「いいだろう。
ひとまず友の装備を先に戻してきても良いか?」
「もちろんでございます。
私の身よりも、御方々の装備の方が重要でございます」
「そんな事は無い。
私は、友の装備かお前達か選ばないといけないとしたら、
間違いなくお前達を選ぶ」
「セラフ様……!」
「今はとりあえず遺物内待機状態になっててくれるか?」
「かしこまりました」
アビゲールは、
少し眩しい光を放ちながら、
自身が付けていたモノクルの中に戻った。
「アビゲールの遺物はこれだったのか」
俺はモノクルをインベントリーの中入れた。
「お前達、装備は回収し終わったか?」
「はい」
「では、宝物庫まで転移する」
ルシフェル達は、
俺の目の前に集まった。
「主様お待ちください。
我々もアビゲール同様、どこか異常をきたしているようです」
「願わくば、我々も同行させて頂けないでしょうか?」
そう言ってきたのは、
悪魔のような見た目をした者と、森妖精族の色白の少女と色黒の少年。
それに、執事のような格好をした体格の良い老人のNPC達だった。
「お前達、主様のお時間を煩わせるとは」
「別に構わない。お前達も遺物内待機状態になるがいい」
「仰せのままに」
と言うとすぐに、
遺物内待機状態になった。
「お前達はどこか異常は無いか?」
俺がそう問いかけると、
「私は問題ありません」
「わたくしも問題ございません」
「我も問題はござらぬ」
「わっちも大丈夫でありんす」
問題の起きているNPC達と、
起こっていないNPC達の差は何なのだろうか?
まあ、今は良いか。
「そうか。それでは転移する」
俺は指にはめているアイテムを使い、
転移しようとした瞬間。
《十二階層にて異常魔力現象を検出しました》
突如目の前にメッセージウィンドウが現れた瞬間、
それは起こった。
「なにっ!?」
俺が使用したアイテムは解除された。
その瞬間、
天井付近に、青黒い魔力の渦のような物が発生した。
「何だあれは!?」
魔力の渦は、
何かを吸い込もうとしていた。
「う、、」
近くでうめき声のような物が聞こえた。
声の方へ目を向けると、
近くにいたNPC達が苦しそうに膝をついていた。
「どうした!」
「わ、分かりません」
「ただ、身体に力が入らなく」
「あ、主様……」
「……っ!?」
NPC達が遺物内待機状態に変化した。
「なんだと!?」
辺りに目を向けると、
他のNPC達も同様。
遺物内待機状態に戻っていた。
「お前達!」
離れた位置にいたNPC達の遺物が、
渦に吸い込まれた。
「な、なんだと!?」
俺はスキルや魔法を発動させようとしたが、
全て解除された。
「クソッ!}
俺はすぐに、
近くにいたNPC達をインベントリーの中に隠した。
しかし、
遺物内待機状態になったため、
ケットさんや、マキナさん達。
友の装備が元の状態に戻った。
「ま、まてっ!!」
装備が渦に吸い込まれるように、
宙に浮いていった。
「させるかぁ!うっ、、」
俺は手を伸ばした。
だが、
渦から突然降り注いだ雷に撃たれ、
一瞬スタン状態になった。
「く……クッソ」
俺は薄れゆく意識の中、
握りしめていた《ロッド・オブ・ワン》に魔力を込めた。
すると、
杖が光り始めた。
「う、、、なんだ……」
俺はここで意識が途切れた……。
ーーー
「……さま……」
誰か、
俺を呼ぶ声がする。
「あ……さま……」
まただ。
誰なんだ?
「主様!」
俺はその声と共に目を開いた。
「良かった……本当に良かった」
目の前には、
涙ぐんだ目をしたルシフェルがいた。
「……っ!」
俺はすぐさま起き上がり、
辺りを見渡した。
聖戦の玉座は、
天井が当落し、瓦礫が部屋中に散らばっていた。
「これは……ルシフェル」
「はっ!」
「被害規模は……」
「十二階層は重大な被害が出ており、
現在、中位NPCに他の場所を調査させております」
違う、
俺が聞きたいのは……。
「……」
「その様子だと、私が何を聞きたいのか分かっているようだな」
「……はい」
「では聞こう。そっちの被害規模は?」
「……セラフ様を除いた十二名の御方々の装備の内、約半数。
高位NPC並びに、特殊管理NPC合わせて八体が現在行方……」
ルシフェルの報告を聞きながら、
あの時のことを思い出し、怒りが沸点に達した。
「クソがぁぁぁ!」
俺は床に手をたたきつけながら、
そう叫んだ。
あの現象や、あの時何も出来なかった自分に対して、
抑えることの出来ない怒りがあふれ出てきた。
身体から漏れ出た【覇気】は、
十二階層であるこの部屋に地鳴りを発生させた。
「あ、主様!御静まりください!
主様の影響で、ユグドラシルが持ちません!」
「っ!」
俺はルシフェルで我に返った。
崩れていた天井は被害がよりひどくなり、
叩き付けた床もヒビが入り、今にも崩れそうだった。
「すまない。少々取り乱した」
そうだ、ここで俺が取り乱してもどうしようもない。
現状の把握すら出来ていない状態でのあれだ。
ここにいる皆が不安に思っていることだろう。
ユグドラシルの主である俺がしっかりしないといけない。
「ルシフェル。
残っている高位NPCを直ちに集めろ」
「かしこまりました」
俺はルシフェルに命令をして、
聖戦の玉座を後にした。
その後、
俺は十階層にある【闘技場の間】に移動した。
ここは、
コロッセオのように、
部屋の中央に舞台があり、
周りには、観客席のような物が設置されている。
「ここは被害が出ていないようだな」
これから人数が集まる。
立ち話にするのも悪いし、
イスを用意しておくか……。
「『ロッド・オブ・ワン』!」
スパーラティヴ級アイテム。
ギルド武器『ロッド・オブ・ワン』。
このアイテムを使えば、ギルドホーム内を作り替えることが出来る。
俺は早速、
闘技場の中央に、
聖戦の玉座に置いてあるような玉座を出した。
「流石に部屋の雰囲気に合わないな……」
闘技場の中央にイスが並んでいる。
これだけを見ると、
どこかの貴族の遊びみたいだな……。
「罪人をイスに座らせて、周りに獰猛な猛獣を放つ……みたいな?」
「お望みでありましたら、すぐに手配致しましょう」
「っ!?」
後ろから急に声がして振り向くと、
ルシフェルを先頭に、
現在、ユグドラシルにいる高位NPC全九体がいた。
「いや、必要ない」
「かしこまりました」
残ったNPCは、
あの時遺物内待機状態にしてインベントリーの中に入れていた者だけか。
「つまり、あいつも行方不明ということか……」
「……主様?」
「いや、なんでもない。
あの現象から残ったのは、ここいる九体のみなのだな?」
「はい。権限を使用して確認致しました」
俺が作成したNPCルシフェルは、
ギルドNPCの管理権限を与えている。
このギルドホームを守る砦であるNPC。
いくら個が強くても管理、統括をする者がいなければその強さを発揮することは出来ない。
「それでは主様。
すでにご存じだとは思いますが、
三度紹介させて頂きたいと思います」
ルシフェルがそう言うと、
執事のような服を着た老人のNPCが前に出た。
「ユグドラシル一階層並びに二階層守護戦力管理責任者。
三階層管理守護者。リアム・ドラゲルド」
「セラフ様。リアム・ドラゲルド
ここに伺候いたしました」
リアム・ドラゲルド。
龍人族の仲間が作ったNPC。
たしか、
一階層と二階層は管理モンスターが中心で、
そのモンスターを管理統括しているのがこのリアム。
そして、三階層守護者。
「続いて、四階層管理守護者。アイラ・ラフォーラ。アイル・ラフォーラ」
「セラフ様!ラフォーラ姉弟ここに伺候いたしました」
「主様に拝謁できたこと光栄に思います!」
姉が純森妖精族のアイラ・ラフォーラ。
弟が闇妖精族のアイル・ラフォーラ。
この双子は四階層の管理守護を任せている。
見た目は二人とも子供だが、LV.は100。
攻めてきたプレイヤーを初見殺しするために低階層に任せているが、
二人とも上層階に任せても遜色ないステータスをしている。
「七階層九階層管理守護者。
並びに、魔獣管理責任者。
グレイシア・ネーヴェ」
「わっち如きが主様に拝謁できること、心よりの感謝を」
髪が少し青みがかり、
肌が白くて、雪国の女王のような姿を彷彿とさせる見た目をしているグレイシアは、
七階層~九階層管理守護者で、
ルシフェルとイゼベル。メギドラと同等の戦闘力を誇るNPC。
種族は《真祖吸血鬼:精霊族》
相反する二つの種族を持っているため、非常に噂になったNPCだ。
精霊も、氷の精霊でゲーム内でもかなり希な最高位精霊だ。
プレイヤーの中には、
グレイシアを一目見ようと七階層まで登ろうとした奴もいるくらいだ。
「十階層守護者。
並びに、ユグドラシル財政責任者。
イリヤ・ブラッド」
「セラフ様。至高なる貴方様にお仕えできること恐悦至極に存じます」
イリヤ・ブラッド。
悪魔の中でも、
至高の存在とされる悪魔君主という種族。
イリヤは、下位悪魔、上位悪魔、悪魔公爵を配下に加えており、
守護する十階層は別名魔界と呼ばれるほどプレイヤー達を恐れさせたな。
最も、ほとんどのプレイヤーは上階層に登ってくることは無かったが……。
「そして、十一階層管理守護者。
ユグドラシル管理階層守護者最強戦力。
メギドラでございます」
「主。御命令を」
メギドラ。
こいつはユグドラシルが誇る管理階層守護者最強の高位NPCだ。
俺もメギドラと一対一で戦えば恐らく勝てないだろう。
種族は龍神。
竜系統の最上位種族で、
ヴァルハラ・オンラインでも最強と呼ばれる四大種族の一つ。
その中でも、
メギドラは、制作者が親馬鹿で、
イベントで手に入れた希少スキルをふんだんに施された最強個体。
ユグドラシルのNPCが守る階層の最後を守るに当たって誰れを置くかと会議になった時は、
満場一致でメギドラに決まったくらい強い。
今は人間族のような姿で和風の着物のような格好をしているが、
戦闘時には、本来の龍の姿になる。
……まあ、滅多に見ることはないが。
「メギドラ。主に対してその態度はなに?無礼でしょう?」
ルシフェルはメギドラを睨み付けながら、
低い声でそう言った。
「我は我なりに主を崇めている。お前の主観を押しつけるな」
メギドラも、ルシフェルの問いに対して、
好戦的に反応した。
「……トカゲが」
「女狐が……」
この二人はどうやら仲が悪いようだな。
ルシフェルは俺が作り上げた個体。
俺なりに最強を考えてルシフェルを作った。今では俺よりも強いだろう。
いつか、この二人が本気で戦うところを見てみたい気もするな。
「まあいい。気を取り直しまして、
情報収集部門統括。
並びに、
作戦指揮補佐。
アビゲール・ブラックウィング」
「セラフ様。進言致したいことがございます」
アビゲールは跪きながらそう言った。
「何だ?」
「私の本業は情報収集。
現在ユグドラシルでなにが起こっているのか調査する許可を頂きたいと」
確かに、
あの現象もそうだが、
今俺たちに何が起こっているのか知っておく必要がある。
そのために、
アビゲールに動いて貰うのはかなり言い考えだ、
しかし……。
「しかし、お前は異常をきたしているのではなかったか?」
「その事ならもう問題はございません。
先程から不調も解消され、今まで通りの最高のパフォーマンスを発揮することが可能です」
不調が解消された?
何で解消されたんだ?
期限付きの状態異常を受けていた?
そえとも、
あの現象が起こる兆しに当てられていたのか?
だがまあ、
普通に動けるのであれば動いて貰うとしよう。
「ならば、アビゲール。
ユグドラシルの外の状況、行方が分からない者達の捜索。並びに、近隣を調査せよ」
「承知致しました」
アビゲールはそう言って、
深く頭を下げた。
「……ああそうだ。これを持って行くといい」
「これは!?」
俺はインベントリーから緑色の石がはまった腕輪を取り出し、
アビゲールに与えた。
「これを使えばユグドラシルのどの階層にも移動できる。
外にもすぐに出ることが出来る。すぐに移動できるように持っておくといい」
「このような物をいただけるとは……この褒美に見合う以上の働きをして参ります」
アビゲールは腕輪を装備し、
転移していった。
「よろしいのですか?あのような貴重な物をお渡ししても」
あの腕輪は足して基調でも何でもない。
作ろうと思えばいくつでも作ることが出来る。
ルシフェルはNPC達の管理を任しているし、
管理守護者達の統括を担って貰っている。
一応ルシフェルにも渡しておいた方が良いか。
「ルシフェル。お前にも効率的に動けるように渡しておこう」
インベントリーからもう一つ取り出して、
ルシフェルに手渡した。
「ありがたき幸せでございます」
ルシフェルはそう言って、
大事そうに腕にはめた。
「コホン。
それでは、
ユグドラシル管理補佐。
並びに、
宝物庫管理守護者。
イゼベル・テアデラ」
「セラフ様。ご無事にお目覚めされたこと心よりお慶び申し上げます」
イゼベル。
ヨハネさんと同じような白い鎧を身に着けている。
鎧の中は見たことはないが、
種族が骸骨族と人間族だから、恐らく中は骸骨族のような姿をしているのだろう。
なんでイゼベルが骸骨族なのに、ヨハネさんと同じだと気がつかなかったのだろうか?
イゼベルは、その多様性から、
宝物庫の守護を任せている。
現在、ユグドラシルの階層管理守護は任せていないが、
それは実力が足りないからなどではない。
イゼベルの強さは、高位NPC達の中でも四本の指に入るほどだ。
「それでは最後に、
ユグドラシル防衛管理統括、
NPC管理統括。並びに、作戦指揮長。
十三階層特別室護衛責任者。
ルシフェル。我が主セラフ様の元に伺候致しました」
「ああ、ここまでご苦労だった」
「そんな、もったいなきお言葉」
これで、現状のNPC達は揃った。
今後どうするか分からない状況で、ユグドラシル最高戦力の四人だけじゃなく、
偵察に向いているアビゲール。
多くの配下がいるイリヤに、森の魔獣や上位精霊を従えるラフォーラ姉弟。
モンスターを操るスキルを持つリアム。
これだけの戦力がいれば如何なる状況でも対応出来る気がする。
「五階層管理守護者。六階層管理守護者。合わせて四名。
特別管理NPC全四体が現在行方不明となっております」
五階層、六階層管理守護者もそうだが、
一番まずいのは、特別管理NPCだ。
「あいつらの行方が分からないのは……かなり問題だな。
「はい。管理ウィンドウで確認したところ、
八体の表示がオフになり、ここからでは確認できない状況となっております」
表示がオフになっているということは、
情報管理権限が他社に移ったか、
何らかの力で封印。もしくは洗脳状態にあるということ。
「現在、アビゲールと共に情報収集部門に行方を調査させております。
見つかるのも、時間の問題かと……」
「ああそうだな。とりあえずそちらはアビゲールに任せることにしよう。
これから、ひとまず今後について考えよう」
「承知致しました」
「皆、用意した席に腰掛けるといい」
その後、
俺が用意した席に座るのは恐れ多いと、
座らない物が多かったが、
主の威厳を出して座らせた。
「今後についてと言ったが、
正直今は情報が乏しい。
アビゲールが戻り次第始めるとしよう」
「承知致しました」
とは言いつつ、
今できることは何もないから暇になってしまうな……。
みんなを態々集め他のに、時間を無駄にするのも惜しいな……。
そうだ、どうせだったら、管理守護者達の実力を再確認しておきたいな。
「管理守護者達よ。ここで時間を潰すのもなんだ、
これから身体でも動かさないか?」
「といいますと?」
「お前達もここに来てからまだ一度も戦闘をしていないだろう?
もしかしたら、知らないうちに力が出せないという状況になっている可能性もある。
一度戦闘をしておけば、その確認も出来るだろう?」
「なるほど、それは良いお考えですね」
管理守護者達も乗り気になってくれたようで良かった。
「主よ。戦闘と言うことは相手が必要。
管理守護者同士で戦うと流石にここがもたないのではないか?」
「ああ、だから今回は、私が召喚する者達と戦って貰う」
俺はそう言って、
杖を掲げた。
『最上位天使召喚』
『最上位魔人召喚』
『最上位精霊召喚』
俺は魔法を発動させ、
合計で数百体召喚した。
「ほう」
「これでしたらわっち達の相手も多少は務まる」
「我は少し暇だな」
「アイル!あたし達は精霊を相手しよう!」
「うん!一緒に行こう!」
召喚した者達を見た守護者達はそれぞれ動こうとしていた。
だが、メギドラやルシフェルは者達なそう顔をしていた。
「ルシフェル。メギドラ」
「はい」
「何だ主よ」
「お前達はお互いで戦うといい」
「っ!」
「っ」
この二人の戦いは、
見てみたいと思っていた。
良い機会だ。しっかりと見るとしよう。
「お前達が戦えるようにしてやる」
この二人となると、
相当強力な物が必要だな。
『第八式界位魔法 絶対障壁』
俺は魔法で、
紫色の障壁を張った。
この魔法は、第八式界位魔法。
第一から第十式界位魔法からなる魔法階級の中で、
上から二番目に位置する魔法だ。
ちょっとやそっとでは破壊されることはない。
「この中で存分にやると良い」
「ありがとうございます」
「へへ、ちょっとは楽しくなってきたじゃねーか」
二人はそう言いながら中に入っていった。
「それじゃあ、各々自分の状態を確認しながら身体を動かすように」
「はっ!」
その後、
全員がほぼ一斉に動き始めた。
その瞬間、
十階層一体が揺れ始めた。
「全員一斉はまずかったか?」
俺が召喚した者達が次々に倒されていく。
召喚した者一体一体がLv.80同等の力を持っているのにもかかわらず、
管理守護者達に倒されていく。
「友たちよ……皆の子供達は恐ろしいほど強いな」
俺はあ目の前の光景を唖然と見ながら、
障壁の方へ目を移した。
「っ……おいおい」
俺が作った障壁は、
いたる所にヒビや亀裂が入り、
今にも崩壊してしまいそうだった。
「どうやら、メギドラもルシフェルも力を抑えながら戦っているようだな」
メギドラは人の姿のままで戦っており、
ルシフェルは完全武装になっていなかった。
「『第九式界位魔法』!」
「『第十式界位魔法』!」
「っ!?ちょっま……」
「ただいま戻りました」
二人が魔法を発動しようとした瞬間、
俺の後ろにアビゲールが転移してきた。
「よしっ!」
俺は杖を掲げて、
スキルを発動させた。
【魔法解除】
===
【魔法解除】
・消費SP35
・《効果》
スキル範囲内にある魔法効果を全て解除する。
・クールタイム3分
===
俺がスキルを使った瞬間、
絶対障壁や召喚した者達、
二人が発動させようとしていた魔法が解除された。
「そこまで!」
管理守護者達は、
俺の声と共に戦闘を終了させた。
「アビゲールが帰還した。これより話し合いを始める」
俺は闘技場を元の状態に戻した。
「それでは、アビゲールよ。
お前の見てきた物を教えてくれ」
「承知致しました」
アビゲールは一度コホンッと咳払いをして、
全員の前に立った。
「ユグドラシルの周辺は、深い森林が広がっていました。
以前ユグドラシルがあった場所とは全く異なる位置にあり、ユグドラシル全体がどこかに転移したと考えられます。
近隣周辺は深い森しかなく、
集落や町などは確認することは出来ませんでした」
「なるほど……」
「ただ、辺りが森林ということで、
ユグドラシルを隠すには絶好の場所となり、
何者かが攻めてくる可能性は低いと考えられます」
ヴァルハラ・オンラインのサービスが終わったと同時に、
ログインしたままだった俺はユグドラシルごとどこかに転移した。
NPCやあの現象時の痛みは本物だった。つまり、今見えている世界や感じている世界は本物。
俺はゲームの中に取り残され、現実の世界ではないところで目覚めてしまったということか……。
現実世界の俺の身体は今どうなっているんだろう?アザー・リアリティーを付けたまま死んでしまっているのだろうか?
俺はこの世界から戻ることは可能なのか?そもそも戻る必要は……。
今はそんな事はどうでも良いか。今の問題は……。
「ユグドラシル近隣の情報は以上です。続いてですが……行方が分からなくなった仲間達の情報は、一つも入手することが出来ませんでした」
やはりか……。
「今後は調査範囲を更に拡大して調査して参ります」
「ご苦労だった。今後も頼むぞ」
「はい。命に替えましても」
ひとまず、大体の事は分かった。
情報を整理して、これからあ俺たちがやらないといけないことは……。
「これより、私達の今後の活動内容を伝える」
「はっ!」
管理守護者達は、
一斉に俺に視線を集めた。
「ギルドONE FOR ALLはユグドラシルと名乗り。
行方の分からない者達の捜索と友たちの装備を捜索することを最優先に、この世界での我々の存在の確立を目的に行動する」
こうして、
しばらくの間の活動方針が決まった。