第一話:「ヴァルハラ・オンライン」
20XX年、
とある会社が画期的なゲーム機を開発した。そのゲーム機の名は《アザー・リアリティー》。
ゲーム上で人間の感覚機能である五感を体感できる最先端のVR技術を駆使して開発されたゲーム機だ。
各ゲーム会社が次々にVRゲームを発売した。
恋愛シュミレーションゲームや、歴史上の人物になりきるゲームなどいろいろな物が発売された。
その中でも群を抜いて人気を博したのは、
現実とは異なる別の世界を体感できるゲーム、VRMMORPG、《ヴァルハラ・オンライン》だ。
VRMMORPGとは、「Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role Playing Game」仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームの略称だ。
《ヴァルハラ・オンライン》には、剣や魔法、スキルという要素が存在し、エルフやドワーフなどこの世に存在しない種族も登場する。
このゲームは、北欧神話をモチーフにしている。
プレイヤーはアカウント作成時に決まった種族の陣営に入り、基本プレイを行なう。
基本プレイには、レベル、基本ストーリー、ギルドなどいろいろな要素があった。その中でも、一番の目玉とされていることは、運営が定期的に開催するギルド対抗イベントだ。
運営はいろいろなイベントを開催するが、定期的に行なうギルド対抗イベントは、ギルド累計でポイントを競い合うイベントで、上位になると限定アイテムを獲得することが出来る。
種族の他にも、職業という要素が存在する。
聖騎士や魔術師など誰もが一度は憧れたことがあるような職業が数千通り存在する。
いろいろな要素が盛り込まれているこのゲームは一世を風靡した。
この物語は、
《ヴァルハラ・オンライン》が発売してから十五年後の話だ……。
ーーー
《ヴァルハラ・オンライン》の発売から十五年でこのゲームの人気も衰退した。
プレイ人口も減り、ついにサービス最終日を迎えた……。
とある樹海の中にそびえ立つ神殿。名を『煉獄』
ここは、《ヴァルハラ・オンライン》で最難関と言われる迷宮だ。『煉獄』という名を冠するのにふさわしく、この迷宮を制覇したギルドは未だに存在しない。だが、今日。サービス最終日に一つのギルドがこの迷宮を制覇した。
制覇したギルドの名前は《ONE FOR ALL》。
ギルド《ONE FOR ALL》は、《ヴァルハラ・オンライン》サービス開始当初からある古参ギルドだ。
ギルド対抗戦で無敗の成績を誇り、所属メンバーも《ヴァルハラ・オンライン》の中でもTOPプレイヤーがそろっている。
そのギルドは、人間族や吸血族などいろいろな種族で構成されている。だが、それは異様なことだ。
このゲームの第一線で活躍しているギルドは大抵、同種族のみで構成される。それは、対抗イベントで同種ボーナスがあるためだ。
だが他とは違い、このギルドは、他種族のみで構成されているため、多くのプレイヤーに知られている。
「いやぁ、なんとかなりましたね!蘭々ジルンさん」
俺は、鳥人族の男に向かってそう言った。
プレイヤーネーム《蘭々ジルン》。
鳥人族とは、鳥が人間族のように二足歩行する種族。ジルンさんは、射手の職と取っていて、マスタークラスの称号を持っている。
ジルンさんは、弓をストレージにしまい腰を下ろした。
「そうですね、最終層に『エンド・ワールド』と『ギル・クロック』がいたのは驚きましたけど、セラフさんが特攻装備を持ってきてくれていて良かったです」
俺のプレイヤーネームは《SERAPH》。
ギルド《ONE FOR ALL》の副ギルド長兼代理ギルド長だ。
このギルド長は別にいるが、現在その人は引退中だ。
正式には、ある日を境にギルド長をやっていた人がログインをしなくなった。俺たちは、いつでも戻ってこれるようにギルド長の座を空けたままにして副ギルド長だった俺が代理として入っている。
「いかなる状況になっても冷静に立ち回れるよう準備を怠らない。流石はギルド長だ」
そう言った白い鎧の聖騎士
プレイヤーネーム《聖騎士・ヨハネ》。
ギルド発足の立役者の一人にして、ジルンさんと同じようにマスタークラスの称号を持っている。
ギルド《ONE FOR ALL》は、始めに俺と引退中のギルド長とヨハネさんを含む五人で発足した。
「代理ですよ代理」
「代理でも、私達個性の強いメンバーをまとめられたのはセラフさんだけだ。みんな、あなたには感謝していますよ」
メンバー全員がTOPプレイヤーのため個性が強い。そのため、ギルド長の仕事は大変だった。
素材採取でも一悶着あり、そのたびにまとめなければならなかった。
ギルド《ONE FOR ALL》は、《ヴァルハラ・オンライン》の中でも最前線を張っている強ギルドだ。そのため、加入条件も厳しい。
加入条件は、
・Lv.95以上。
・職業のマスタークラスの習得。
・スペシャルイベントTOP3入賞を三度以上経験。
・ギルド《ONE FOR ALL》にまだ所属していない種族が一つである者。
このようになっている。
加入条件が厳しいため、全盛期でも十三人しかいなかった。
メンバーもどんどん引退していって現在では、ここにいる五人しか残っていない。俺以外の四人も、サービス最終日ということで俺が無理を言って来て貰った。
ジルンさん、ヨハネさんの他に、ケット・シーさん。機神・デウス=マキナさんの二人も来てくれた。
俺たちは、
『煉獄』から、ギルドホームに移動した。
ギルド《ONE FOR ALL》のギルドホームは、《ヴァルハラ・オンライン》で実装されているギルドホームの中でも最も有名で一番の広さを持つギルドホームだ。
《ヴァルハラ・オンライン》は、北欧神話を元に作られている。そして、我ら《ONE FOR ALL》のギルドホームは《ユグドラシル》という大きな世界樹に作られている。
十四階層からなる巨大な世界樹で、活動の中心拠点としている部屋は十四階層にある。その部屋は、大きな丸いテーブルがあり、それを囲むように豪華なイスが置かれている。
部屋の隅には、ネームプレートとそれぞれの姿を彷彿とさせる旗が飾れており、そこには、各個人専用のアイテムボックスが置かれている。
そのアイテムボックスのほとんどは俺が管理している。
その周りには、NPCが立っている。
このゲームは、Lv.100に到達すると一体だけ高位NPCを作成することが出来る。(高位NPCは一体のみだが、低位NPCは何体でも作成できる)作成できるNPCは自分の種族がランダムで継承される。そのため、限られた種族のNPCしか作られないが、このギルドには、新しい種族が一つでもある者しか入れないため、多くの種族のNPCが作成された。
「うわぁ、なっつかしいなぁ。
あの頃と何にも変わっていない」
部屋に転移するなり、ヨハネさんがそう言った。
続けてジルンさん、ケットさん、マキナさんも部屋に入ってきた。
「そうですね、ボックスの中も整頓されていてまるで時間が経っていないようですね」
「頑張って維持していますからね」
そう、ギルドホームは同じギルドが持っておくためには維持をするためにお金が必要になる。それは、ヴァルハラ通貨で金貨十億枚が必要になる。
十億枚を稼ぐには、先ほど潜った迷宮を数回ほど回らなければならない。当然、何回もクリア出来るわけもないので、手頃な迷宮もしくはクエストを受けてコツコツ貯めている。
「ここに入るのも数年ぶりですから懐かしさを感じますね」
「ギルド発足から約十五年、このホームを獲得してから十四年。長い時間をこのホームで過ごしましたからね」
「思い出したら笑えてきますね。みんなで素材集めに出かけたり、高難易度のボスに挑んだり、対抗戦に勝つためにみんなで戦術を考えたり。
あの頃はホントに楽しかったですね」
部屋にいる各々が昔のことを思い出していた。
協力し合った思い出、対立した思い出、良い思い出も苦い思い出もその全てが懐かしく尊い物に感じる。
「ヴァルハラ・オンラインも、残り一時間で終了ですね」
ケットさんは部屋を見回りながらそう言った。
そう、《ヴァルハラ・オンライン》は残り一時間でサービスを終了する。ウィンドウの右上に『残り1:00:00』と表示されている。
「そうですね、これで終わりと考えると早かったような、長かったような。不思議な気持ちになりますね」
ギルドの十五年間の歴史が今日終わる。
達成感もあったが、やはり寂しくもある。
「どうします?僕は終了する時までログインしたままいようと思いますが、皆さんは?」
「私は、もうそろそろ落ちます。
明日も朝早くから仕事に行かなければならないので」
「僕も落ちます」
「私も、朝から会議があるので……」
「私も落ちます。明日ようやく志望校の受験なので」
どうやら俺以外のみんなは、
明日も忙しいから落ちるようだ。まあ、こればかりは仕方が無い。
今日来てくれただけでもありがたい。
「そうですか……分かりました。
皆さん、今までありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。最近はログイン出来なかったけど、最後に一緒に出来て僕は楽しかったです」
「こちらこそですよ。ジルンさん、今までありがとうございました」
「セラフさん今までありがとうございました。アタナと一緒にゲームが出来て良かったです」
「こちらこそですよ、マキナさん。
僕の方こそ、マキナさんと一緒にプレイできて楽しかったです」
「最後までいたかったのですが、すみません」
「受験じゃあ仕方がありませんよ。
忙しいのに、誘いに乗ってくれてありがとうございました。ケットさん、受験頑張ってくださいよ!」
「はい!」
俺は、ジルンさん、マキナさん、ケットさんに挨拶をした。俺の前に、ヨハネさんが歩いてきた。
「セラフさん、すみません。
ギルド発足時からいるにもかかわらず最近はプレイできて無くて」
「仕方がありませんよ。事情もありますし、仕事優先です」
「ハハ、そう言ってもらえてありがたいです……あっ!そうだ」
彼はそう言って自分のウィンドウを開き、装備を外していった。
装備を外すと、鎧の中からまがまがしい骸骨顔が見えてきた。
「えっ!?ヨハネさんて骸骨族だったんですか!?」
「そうですよ……あれ?言っていませんでしたっけ?」
「はい、初知りです」
骸骨族が聖騎士って……この人は、こういうジョークがホントに好きだな。
それにしても、十年来の付き合いなのに今まで知らなかったな。
「今のうちに見といてくださいよ?これで、見納めなんですから」
「そうですね」
「コホンッ、本題に戻りましょう。
確か、セラフさんは引退していったみんなの装備を飾っていましたよね?」
「ええ、宝物庫の奥にある部屋に」
「では、私のもよろしくお願いします。
装備達もサービスが終わる瞬間に消えたままじゃあかわいそうですし」
確かに、今来ていない八人の装備は大切に展示してある。サービスが終わるまでに俺のも飾ろうと思っていたからちょうど良いな。
「……分かりました。
装備、大切に預からさせていただきます」
俺はそう言って、
ヨハネさんから装備を受け取った。
「じゃあ、僕のも」
「私のも」
「私も」
そう言って、
残りのみんなも装備を渡してきた。
「はい、皆さんの装備確かにお預かりさせていただきました」
俺は、みんなの装備をインベントリーにしまい込んだ。
みんなの装備はクラスが高いため、インベントリーの容量が満帆になった。
「それでは、私はこれで落ちます。またいずれどこかで」
「はい、またどこかでお会いしましょう」
ヨハネさんの一言でみんなログアウトしていった。
みんながいなくなった部屋は妙に広く寂しく感じた。最近一人のことが多かったため慣れたと思っていたが、久しぶりに会えたためか、寂しく感じた。
俺はそこから宝物庫まで転移した。
宝物庫には、俺とヨハネさんの作ったNPCの二体が守護している。ヨハネさんの作成したNPCは白い鎧を纏っているため、種族に気づくことが出来なかった。
NPC達は、命令を変更していないため動くことはない。
「お前達もこんなところで、寂しいよな……よし」
俺は、NPCのステータス画面を開いた。
《ルシフェル》
・種族 天使族、不死族
・Lv.100
・称号 漆黒の守護者
・職業 死霊術士Lv.10、詠唱魔術師Lv.10、神聖魔術師Lv.10、守護者Lv.10……。
・スキル 魔に堕ちた王、不死王、神の使い、魔王の覇気、魔法強化、魔法多重化、精霊耐性……。
・状態 正常
・作成者 SERAPH
黒いローブを着てローブに着いているフードを深々と被っている。そして、背中から黒い大きな翼が生えている。
この女型NPCが、俺が作ったNPCだ。
久しぶりに見たけど、すごいステータスしてるな……。スキルとか俺も持っていないスキルとかあるし、これは盛りすぎたな。
このスキルを覚えさせるのに一体どれだけイベントを回ったことか。
NPCにスキルを覚えさせるには、スキルポイントが必要になる。
イベントで運営が出すミッションや高難易度のクエストをクリアすることでポイントが付与される。そのポイントを使ってスキルを獲得する。
スキルは指定した物を必ず獲得できるとは限らない。スキルは、ポイントを使って回せるガチャで獲得できる。
俺が、魔に堕ちた王をルシフェルに覚えさせるのに何百回もガチャを回した。
このスキルは、イベント限定の固有スキルだ。
固有スキルというのは、《ヴァルハラ・オンライン》上で一つしか存在しないスキルだ。
このスキルは、あるイベントでしか獲得することが出来ず、しかも、天使族のカルマ値がマイナスの者にしか付けることが出来ない。
スキルの効果は、カルマ値がマイナスの敵からの攻撃を無効化する。カルマ値は、種族やプレイスタイルによって異なる。
カルマ値がマイナスと言うことは、骸骨族や不死族などの世間一般的にあくとされる種族の攻撃は全て無効化できる。
プレイスタイルも、強行や利害の一致のない一方的な強制PVPなど、運営がプレイヤーアカウントの評価を下げるとカルマ値も下がる。
このスキルのおかげで、ギルド防衛戦は楽になった。
もっとも、このスキルは強すぎるが故に対策が施された。スキルの弱体化では、固有スキルを持つプレイヤーの反感を買ってしまうので、戦闘中、自身のカルマ値をゼロにするというこのスキル相手以外では使わない魔法を作った。
称号 漆黒の守護者は、
戦闘開始から三百秒間、VITとDEFとINTが二倍に増加する。というものだ。
一見余り強くなさそうに見えるが、十分に強い。この称号で上がるステータスは防御面で大切になる。それが二倍になるんだからロクにダメージが入らない。
この称号とあのスキルのおかげで、宝物庫に攻めてきた敵は全て、ルシフェルとヨハネさんが作ったNPCの二体で返り討ちにされた。
《イゼベル・テアデラ》
・種族 骸骨族、人間族
・Lv.100
・称号 黒き騎士
・職業 神聖騎士Lv.10、暗黒騎士Lv.10、精霊術士Lv.10、守護者Lv.10……。
・スキル 聖魔の騎士、不死王、聖魔覇気、魔法攻撃完全耐性、神騎竜召喚、聖魔耐性……。
・状態 正常
・作成者 聖騎士・ヨハネ
ルシフェルもそうだったけど、イゼベルもぶっ壊れキャラだな。
一番壊れてるのは、固有スキルの聖魔の騎士だ。このスキルは、聖剣と魔剣の両方をノーリスクで使えるという物だ。普通、聖剣は神聖騎士などの信仰系職業のみ。魔剣は、暗黒騎士などの反信仰系職業でしか装備できない。
聖剣も魔剣も他の武器と違って、武器にスキルが宿っている。宿っているスキルは、強力な耐性が付いている物や、相手に対して効果を発揮する物など強力な物が多い。
強力な物が多いが、その分リスクもある。
聖剣も魔剣も装備している間、ダメージや状態異常を負い続けなければならない。このリスクがあるため、信仰系や反信仰系の職業を習得しているプレイヤーでも聖剣と魔剣を使わない者もいる。
それを、ノーリスクで使えるこの固有スキルは、イベント時にすごい争奪戦になった。スキルガチャは、全てのプレイヤーと連動しているため、出たら終わり。
当時、ヨハネさんに協力を頼まれて迷宮に潜り続けた。仕事を休み、予定をキャンセルしてまで手伝った。そして、イベント最終日にようやく引き当てることが出来た。
あの時は本当に死ぬ気でやったもんだ。
俺は、二体を遺物内待機状態にした。
遺物内待機状態とは、高位NPCは作成時に依り代となる遺物が必要になる。作成後は、NPCを遺物内に戻すことが出来る。
ルシフェルは黒い石が埋め込まれている指輪、イゼベルは白と黒が入り交じっているような剣に変化した。
何のためにある機能なのかと思っていたが、このためなんだと思った。
俺はその後、ホーム内を転移して、残り十一体の高位NPCを回収した。回収した高位NPC達と共にとある部屋に入った。
広く長い広間の奥に玉座が十三席置かれており、その玉座には、旗と同じ各々の姿を彷彿とさせる模様が彫り込まれていた。
ここは、ギルド対抗戦で相手ギルドを迎え撃つのにかっこいい部屋を作ろうとギルド長が提案してみんなで作り上げた『聖戦の玉座』だ。
結局、一度もここを使うことはなかったが、最後くらいはここで終えるのも良いだろう。
俺は、遺物の中からNPC達を出した。
NPCを出すと、半分に分かれて横に一直線上に並び、跪いた。
「ん?これは……命令をしていないが、ここに来ると勝手に動くように設定でもされていたのか?」
俺が作ったルシフェルにはそんな設定をした覚えはない。だとしたら、この部屋に設定していたのか。
「この設定だけは、消しておこうか」
俺は、宝物庫に転移して奥の部屋に入った。
奥の部屋には、それぞれ、ゴット級の装備が八人分飾られていた。
「皆さんの装備を一度回収させていただきますね」
俺は、インベントリーを開いてとある袋を取り出した。
この袋は、自分のインベントリーの半分の容量を持つアイテム袋だ。この袋は、一定量課金をするともらえる特典だ。
俺は、八人の装備をアイテム袋にしまった。
このゲームの装備は、階級が高ければ高いほど容量も大きい。八人の装備を入れると《0/500》だったのが、《496/500》になった。
俺は、装備を回収した後、さらに奥に進んだ。
奥には、一つの大きな宝箱とその上に高雅な装飾がされている杖と指輪が浮いていた。俺は、その両方を回収し、指を付けて杖を握った。
杖の名前は《ロッド・オブ・ワン》、リングの名前が《ユグド・オブ・リング》どちらもこの世に一つしか無いアイテム。
ギルド対抗戦二十連勝すると作成権が与えられるスパーラティヴ級アイテムだ。
スパーラティヴ級というのは、
下級、中級、上級、ユニーク級、ワールド級、ゴッド級となっていて、スパーラティヴ級というのは他とは全く別の位になっている。
公式ではないが、位置的にはゴッドの上という扱いになっている。
「このアイテムを作るのに、みんな無理をしたっけ……学校を休学したり、仕事の有給を全て使った人もいたっけ」
寝らず食わずで二日間ぶっ通しで周回したときは、流石に死んだと思ったな。最後の方は記憶無くていつの間にか素材が集まっていたような感じだったし。
俺は、アイテムを付けたまま、
『聖戦の玉座』の部屋に戻った。
「ロッド・オブ・ワン!!」
そう唱えると杖が光り出し、
俺の目の前にウィンドウが開いた。
ウィンドウには、《聖戦の玉座》と書かれており、下には、この部屋の詳細設定が書かれていた。
「うわぁ、何だこの設定の量は……これ考えたのジョーカーさんだな」
プレイヤーネーム《銀翼のジョーカー》
盗人の上位互換の怪盗の職業を習得していて、ギルド対抗戦では、情報索敵を主に務めていた。
あの人は、ギルド対抗戦でも予告状みたいな物を出すし、こういう設定を考えるのがホントに好きだったよな。
「ええっと……あ、あった」
設定には、
『NPCは玉座に座るプレイヤーを崇めるように跪く』と書かれていた。
俺は、その内容を全て消した。
「これで、自由に動けるだろう」
そう思い、NPCの方を見たが、
一体たりとも動こうとしなかった。
「命令がそのまま実行されているのか……自由にせよ」
命令を上書きするために、
新たに命令を出したが、動かなかった。
「なんだ?新手のバグか?」
どうすることも出来ないのでそのままにしておくことにした。
俺は、下級NPCを作り出し、みんなの防具を着させた。下位NPCは元となる設定を入れない限り動くことが出来ない。魂の入っていない抜け殻のようになっている。
防具を着させた下位NPC達を玉座に座らせた。
そうこうしている間に、ウィンドウに表示されている時間が刻一刻と0に近づいていた。
《00:01:00》
《ヴァルハラ・オンライン》サービス終了まで残り一分を切った。
すると、この部屋は十二階にも関わらず床が水のようなものに埋められ始めた。
《00:00:35》
「このゲームは、北欧神話を元にしているから、
サービスの終わりはこの世界の終わり、《ラグナロク》ってことか……」
北欧神話は、九つの世界が海中に沈んで世界が終わった。ここは、九つの世界に根を張っている《ユグドラシル》と同じ名前。ここが水の沈んで終わりということか。
《00:00:10》
残り十秒か……。
残り十秒で、十五年間の歴史が終わる。
《00:00:08》
みんなで成し遂げたことも、
ギルド「ONE FOR ALL」の歴史は今日、今ここで終わる。
《00:00:04」
「明日は、朝から仕事か……早くお風呂入って寝なきゃな」
《00:00:01》
部屋一帯が完全に水で包まれた。
水に包まれたが特に苦しいという感覚には、襲われなかった。
「今までお前達には助けられたな、
お前達のことは忘れない。またな、子供達よ」
《00:00:00》
ゲームが終わる瞬間というのは見たことないがどんな感じなのだろうか……すこし、楽しみだ。
ウィンドウ右上の数字がゼロになった。
ゼロになった瞬間視界が一気に光に覆われた。
ーーー
視界が鮮明になり始め、《アザー・リアリティー》の内側が見えると思ったが、鮮明になった視界はさっきまでいた部屋のままだった。
あれ?終わってない?
サービス終了は延期になったのか?それとも、自発的にログアウトしないといけないのか?
俺は、ウィンドウを開いてログアウトしようとしたとき、異変に気がついた。
いつも視界の端に見えていたウィンドウ画面がなかった。ウィンドウ画面がなければログアウトをすることが出来ない。
またバグってる?
サービス終わってもログインしたままだからバグが起きたのか?運営に聞いてみるか……。
「コール」
俺は、運営にメッセージを送るための魔法を使った。
魔法を発動させたときのピロンッという音は聞こえたが、運営の応答はない。
「これは……どうなっているんだ!?」
俺が焦りながらそう言った。すると、跪いていたNPCのうち、一人が俺の目の前に歩いてきた。
歩いてきたのは、黒いローブに無を包み、背中部分からは黒い翼が生えている女型NPC。そう、俺が作成したNPCだった。
ルシフェルは、
俺の目の前まで歩いてくると、再び跪いた。
「いかがなさいましたか、主様?」
ルシフェルは、不思議そうにこっちを見ながらそう言った。
……えっ?
い、今……ルシフェルが喋った!?
「え、えぇぇぇぇ!?」
こうして《ヴァルハラ・オンライン》のサービスが終了して、
新たな何かが始まった……。