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167話 「予想内だけど予想外」

「じゃじゃーん! ラルフさんの登場だよ!」


 生意気な冒険者に喧嘩を売られて気まずい空気になっているファルベ達と正反対の無邪気で元気な声が部屋中に響く。


「いやーここまで冒険者やら騎士やらが集まると壮観だね! 気持ちが良いよ!」


「なんでそんなハイテンションなんだ……」


 意味が分からないくらいに元気な声にファルベは思わず耳を塞ぐ。ラルフはファルベの言葉を華麗にスルーして壇上に上がると、部屋に集まった冒険者たちを見回して話す。


「今日は集まってくれてありがとう! ここに集まってくれた人たちと、ここに入りきらなかった人たちには、魔界という未知なる土地に行ってもらう! かつて僕たちが冒険者という制度を創った時から目的としていた場所だ。だけどいつしかその目的を放棄せざるをえなくなり、今まで魔界に行くことをタブーにしていた」


 ラルフの言葉に、ある者は驚き、ある者は頷き、ある者は笑い、さまざまな反応を見せていた。


「君たちは今回の遠征で世界を救った英雄として祭り上げられるだろう。だけど、その過程は過酷なものになると思うかつての上級冒険者ですら困難を極めた道だ。恐らく死傷者ゼロで解決できるものじゃない。今日集まってくれた頼もしい仲間も帰ってこれない人間だっているだろう。それでも、ここに来てくれたこと、まずは感謝させてほしい」


 壇上のラルフが頭を下げる。さっきのテンションからは考えられないほど真剣な声色と言葉に、思わず息を呑む。

 騒がしかった部屋の中に静寂が訪れ、全員がラルフの台詞に耳を傾ける。


「僕も全力で力を貸すし、できる限り情報提供の面で協力する。だからみんな、必ず生きて帰ってこよう! 君たちには未来がある! 平和で争いのない、幸せな未来がある! 魔界に居る、魔王を倒せば、その先にある場所で、きっと誰も傷つかない世界が待ってる!」


 この世界を脅かし続ける「魔物」。その元凶さえ討伐すれば、必ず平和になった世界を歩くことができる。国境壁なんて壁も取り払って、魔物の恐怖から解放された野原でただ一日をゆっくりと過ごすこともできる。


『だが、このままでは少年の行いは世界を破滅させるぞ。正義を振りかざし、自分で自分の世界を終わらせることとなる。それでも良いと言うのか』


 かつてのシムルグの言葉が脳裏に蘇る。あの時も今も、この言葉に対する答えは変わってない。だけど少しだけ、不安になる部分もある。結局シムルグの考えを完全に否定しきることはできなかったから。


「大丈夫……大丈夫だ。俺は、間違ったことしてない」


 ファルベが自分を鼓舞するように呟いた直後、


「みんな、必ずこの作戦を成功させよう! 他ならぬみんなのために! みんなの、未来のために!」


 ラルフがその言葉で演説を締める。そして、部屋中に歓喜の声が響き渡る。ラルフがここまで声を張り上げることなんて初めて見た。死地に向かう人間たちの士気を上げるための演説にしては中々のものではないだろうか。


 かくいうファルベも演説には良くできた記憶もないし、ラルフに上から目線でなにかを言う資格もないのだが。


「前置きはこのくらいにして、作戦を伝えようか。帰ってきた先遣隊からの情報で魔界までのルートを作ることに成功したんだ。なるべく魔物と出会わないようにしたつもりだけど、実際に向かうと魔物に出会うかもしれない。それで、主力部隊と迎撃部隊に分かれて行軍してほしい。主力部隊は魔界に到達した際の戦力だ。魔王討伐においても尽力してもらう予定になってる」


 ラルフが壁につけた板に丸をいくつか描いて、それをさらに大きな丸で囲む。主力部隊の簡単な図なのだろうが、歪な丸がごちゃごちゃ書かれているのは非常に見にくい。


「次に迎撃部隊だけど、これは道中で魔物と出会ってしまった場合や、賊に襲われた場合の対応をする部隊だ。魔王と戦う前に主力部隊を消耗させたくないし、怪我も負わせたくない。できるだけ万全の態勢で戦いを挑むには大切な役割だ」


 人類の敵は魔物だけじゃない。シムルグたちのような人間が残っていないとも限らないのだ。


「それで、役割分担だけど、迎撃部隊の隊長としてディータ君……」


 ラルフがそこまで言ったところで、緑髪の男が大声で遮ってきた。


「ちょっと待った!! おれみてぇな人間がなんで雑魚処理部隊に配属されなきゃなんねえんだよ! 明らかに魔王討伐の主力だろうが!」


 さっきファルベに絡んできたグルドラ帝国出身の男だ。噛み付くのはファルベだけにじゃなくてラルフにも同じようだ。


「おれぁ英雄だぞ! 雑魚ばっか相手にするような器じゃねえってんだよぉ!」


 唾を飛ばしながら喚き立て、ラルフも苦笑いを浮かべている。


「はぁ……なにかやらかすかと思ってたら、予想より早かったな……」


 悪い予感が当たりやすいと言っても、ここまで即回収することも珍しいのではないか。

 ファルベは大きくため息を吐いた。



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