128話 「コーヒーブレイクのその後で」
どれくらいの時間話したのか。気づけばコップは空になって、底に黒いシミがこびりついていた。
「すっかり話し込んでしまったね」
「まあいいんじゃない? ボクも久しぶりに何も考えず過ごせたし、こういうのもたまにはさ」
「そうだね。ところで、それ、おかわりするかい?」
シャルロットはシエロの目の前にある空のコップを指差す。
「いらないかな。ボクにはちょっと苦すぎた」
シャルロットの目には結構砂糖を入れているように見えたのだが、それでも足りなかったらしい。
「甘いものもあるけど……」
「じゃあそれで」
食い気味でシャルロットの言葉に同調するシエロ。
「よほど苦かったんだね……」
「うん。我慢はしてたんだけど、流石にダメだった」
甘党すぎるシエロのために追加の注文する。しばらく待って店員が戻ってきた直後、
「……ん?」
「どうしたの? シャル」
「どうやら、シエロはデザートを食べられなさそうだよ」
シャルロットが懐から取り出したのは懐中時計のような円形の物体。通信用魔道具だ。
中にはめられた水晶から青白い光を放たれている。
『やあ、シャルロットくん。今時間あるかい?』
「大丈夫だよ。ちょうど雑談も一区切りついたところだ」
声の主はラルフだった。半日ほど前に聞いた陽気な声だが、いつものようにふざけているような感じでもない。
シャルロットはラルフの目的をおおよそ理解していた。
「ところで、通信をかけてきたのは準備が整ったということかい?」
『流石はシャルロットくんだ。話が早いよ』
「これは私でなくとも察せられると思うけれどね。それにしても、私の予想を超える速さで準備を終わらせたようだ」
ラルフの作る討伐隊――冒険者や騎士の中から適した人間を厳選し、確実に任務を遂行できる組織を完成させるのは容易くない。
世界で有数の知名度を誇るラルフですらその例に漏れないと思っていたのだが。
「もう数日はかかるものだとばかり思っていたよ。まさか当日中だとは」
『それが僕の仕事だからっていうのもあるけど、何より僕にとって冒険者は必要な存在だからね。失うわけにはいかない』
「まさか君にそんな正義感があったとはね。少し意外だった」
『正義感……ふむ、正義感か。なるほど……』
「……?」
シャルロットの言葉に違和感を覚えたのか、その言葉を反芻する。
『気にしないで欲しいな。ただの独り言だよ。………………そう見えるんだね』
「で、本題はなに? さっきからシャルとあんたで通じ合ってるみたいでボクが暇なんですけどー」
横道に逸れていた話にツッコミを入れるシエロ。せっかくの甘味もお預けを食らっているが故に機嫌が良くなさそうだ。
『ああ、そうだったそうだった。それで、本題なんだけどね。討伐隊の準備が整ったんだ。もう既にファルベくんには来てもらってる。だから君たちにも召集をかけようと思ってね』
「なるほど。だからシャルも驚いていたのか」
シエロが納得いったように頷く。
「確かに、準備が早いね。それだけ事態の収束を急いでるんだろうけど」
『そうだね。僕はいち早くこの事態を収めようとしてるのは事実だ。だから、今日で終わらせる』
「……今日?」
予想外の単語に、思わずシャルロットは聞き返す。その言葉に自信があるような不敵な笑みを浮かべたラルフは、
『今日の夜に、拠点に奇襲して潰す。相手に反撃をさせる時間すら与える気はないよ』
そう言った。




