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113話 「いつものやり取り」

「シャルロットさん……確かにあの方ならししょーに付いて行ってもバレない可能性が高い……だって」


 驚いたように目を見開いたルナは呟く。ルナの脳内には以前会った時にしたファルベの説明が思い浮かんでいるのだろう。

 シャルロットの持つ能力は、隠密行動もできて戦闘にも応用できる。何故なら、


「『時間停止』のスキルを持っているからな」


 ルナの言葉をファルベが引き継ぐ。そのスキルの有用性に関してはファルベもシャルロットとの共闘でよく理解している。


「あの能力でしたら、見つかりそうなときは即座に離脱できますし、メルトさんに近付ければ相手が手を出す前に取り押さえることも可能です!」


「そこまでできるかは分かんねえけどな。あいつのスキルも別に万能じゃねえし」


「そうなんですか?」


「じゃないとシャルロットが俺に勝てない理由がないだろ」


 本当の意味で「時間を止める」ことができるなら、ファルベにとって勝ち目はない。しかし、スキルの性質として、必ず利点があればその反対もあるのだ。だからこそ、ファルベは知識と技術でシャルロットを上回ることができている。


「その理由って聞かせてもらうことはできますか? もしかしたら、ルナもシャルロットさんとご一緒する時が有るかもしれませんし、知っておけば何らかの役に立つかと」


「指定の時間まで少し時間もあるしシャルロットを呼び出しながら説明するってのもできるけど……まずはラルフのやつに連絡だな」


「さっきししょーが、あの方に連絡するのを止めたんですよね? メルトさんが連れていかれたことを話さないように」


 ついさっきと矛盾した行動をとるファルベに疑問を持つルナ。開いたままの通信機は通信待機中を意味する橙色の光が明滅している。


「連れていかれたこと、は話さねえよ。衛兵の死体の処理を任せるつもりだからな」


 そう言って視線を向けた先には光のともらない瞳を持った死体が二つ。せめて安らかに眠れるようにラルフに手配してもらわなければならない。

 惨殺されている死体を目にしても冷静な判断ができる自分を呪いながら、ファルベはルナに連絡を取るように指示する。


 声が聞こえないようにラルフと話すルナから少し離れて、ファルベも通信機を使って協力者に連絡を取る。


「今、仕事中か?」


『仕事中と言えば仕事中ではあるね。だが、キミと話す余裕くらいはあるよ。一体なに用だい?』


「俺の連れが犯罪集団の人間に捕まった。恐らく、お前が調べている組織の一味だ」


『なら、救助隊が必要のはずだけど……ラルフではなく、私に連絡を取ってくるってことは犯人側からなにか言われているのかな?』


「話が速くて助かるよ」


 大規模な掃討作戦をするならラルフに話を通し、彼の方からシャルロットに作戦に参加するかの意志が問われる。つまり、ファルベから直接連絡をもらっている時点で、正規の手順を踏めない事情があるのだと察してくれたようだ。


 とはいえこの一瞬でその結論に至れる辺り、シャルロットの頭の回転の速さは頼りになる。


「端的に言うと、脅迫されてる。メル……俺の連れを助けたいなら一人で来いって」


『なるほど、そういうことか。キミは連れの女性を助けたいけど犯人側の主張を呑む気はない。だから付いてきても絶対にバレない味方を欲しているということだね』


「ここまで察しが良いともはや怖いくらいだけどな。……っていうか、俺の連れが女なんて情報伝えてないはずなんだが」


『いつもキミは見かけるたび新しい女の子を侍らせているじゃないか』


「不本意すぎる!」


 シャルロットからのとんでもない偏見を知ってファルベはその理不尽さに嘆く。別に連れたくて女ばかり連れてるわけじゃないのに……


「ともかく、お前に協力してほしいんだ」


『分かったよ。けど、一つ条件がある』


「なんだよ」


『これからはお前とかシャルロットではなくシャルと……』


 そこで通信を切る。いつもの文句なのだから、聞く必要もない。もはや口癖なんじゃないのか?


「ルナ、そっちはどうだ?」


 シャルロットの了承も得て、再びルナの元へ戻る。そして声をかけると、


「ばっちりです! ちゃんと場所も伝えましたし、近くの騎士団詰所から人員を派遣してくれるそうです」


「じゃあ後は、シャルロットと合流してメルトを助けに行くだけだな」


 あらかた準備が整って、ファルベはルナと共にその場を後にする。死体を放置するのも心が痛むが、下手に触ってファルベ達が犯人だと勘違いされるのも困る。

 裏路地から出るにあたってルナにそう説明すると、


「いや、ルナが説明したので勘違いはしないでしょう」


「お前がどうやって説明したのか知らないからな。注意しとくに越したことはないだろ」


「信用がなさすぎますね!?」


 ある程度人間的に成長したとはいえ、仕事におけるルナのポンコツぶりが完全に直ったわけではない。警戒を怠らないファルベに落ち込むルナ。


「あ、そういえばどこで落ち合うとか決めてらっしゃるんですか?」


「途中で通話を切ったから決めてない。けど、あいつも仕事中って言ってたし、一旦仕事の報告もかねてギルドに戻るだろうからそこで会えるよ」


 前に聞いた話だと、シャルロットの現在の仕事は消息を絶った中級冒険者の集団の調査だったはずだ。

 直接ラルフに報告しに行くというのも手間だし、その中間にあるギルドに逐一報告していると考えるのが道理だ。


「では、ギルドですね。……最近、ギルドを集合場所として使うことが多い気がします。普通は仕事を受けに行く場所なのに……」


「それだけが使い方じゃないし、気にしない気にしない」


 本来の使い方だと思えないルナはどこか申し訳なさそうに呟く。けれど、それで誰かに迷惑をかけるわけでもなし。全く表情を変えずにスタスタと足を進めるファルベを戸惑いながら追いかけてくる。


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