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109話 「異質な状況」

待ち合わせ場所のギルド前に着いたのは太陽が落ちていく時間帯だった。仕事を終えた冒険者やそれを迎えに来た家族らしき人間の姿が見える。

 そんな中で一つだけ異質に映る人物の姿を視界に捉える。古ぼけた焦げ茶色の外套を被った少女の姿だ。誰かを探すようにキョロキョロと忙しなく辺りを見回している。


「よ、ルナ。待たせたな」


「あ、ししょー! おかえりなさい!」


 こちらに気付いた瞬間、ぱあっと表情を明るくして小走りで駆け寄ってくる。短い黒髪が風にたなびく。


「まだメルトは帰ってきてないのか?」


 約束の場所にはルナの姿しかなかった。それに違和感を覚えてファルベは質問する。帰ってくる前に治療師の下に向かったという情報だけは受け取っていたが、それにしても未だに帰ってこないのは遅すぎる。


「そうですね……連絡もありませんし、まだ治りきってないのかも?」


「ていうか、お前メルトがどこに行ったのか聞いてないのかよ。治療師っつっても、どこにいる誰か分からないと迎えに行けないだろ」


「あっ!? そういえばそうですね! 忘れてましたすみません……」


 ルナはそう言って深く頭を下げる。ファルベはそれほど意表を突いた質問をしたつもりはなかったのだが、この返事からして何も知らないらしい。

 普通行き先くらいは聞いておくものだと思うが、恐らく心理的に余裕のない状態だったルナには難しかったのだろう。現場を直接見たわけでもないファルベが騒ぎの渦中にいたルナを責めるのはお門違いとも思える。

 だから、


「いや良いよ。……本当は良くはねえけど、仕方ねえ。こんなこともあろうかと、俺も対策はしてあるから」


 申し訳なさそうに眉を寄せているルナをファルベは許す。そんなファルベの言葉を聞いたルナは不思議そうに小首を傾げて呟く。


「対策、ですか?」


「そう。対策だ。まあ、大したことでもないんだけど」


 ファルベは懐に手を突っ込むと取り出す。それはルナと話すときにも使ってた通信機だ。


「それって通信機ですよね。それがどうかしたんですか?」


「ルナに持たせてるやつと同じのをメルトにも持たせてある。最悪ルナがポカしても大丈夫なようにな」


 ルナの額を軽く突いて茶化す。ファルベだってルナに絶対的な信頼を置いているわけではない。いや、その力自体は信用しているのだが、ルナ本人の知識や判断能力は人並み程度だ。だから、ファルベと同じように行動できるものと最初から思っていない。


 そういうこともあり、万が一のためにメルトに通信機を渡していた。今それが友好的に使えるということは予想だにしていなかったが。


「もう、意地悪なこと言わないで下さいよ……でもメルトさんも持ってるなら安心ですね」


「そうだな……って、あれ?」


 淡く光り始めた通信機内の水晶は、その性能を発揮する直前で発光を止める。これは通信が途中でキャンセルされた際に起きる事象であり、それはつまり。


「切られたな」


「メルトさんが? なんで……」


 ファルベからの連絡を絶つ意味はないことに気付いたのだろう。ルナは小首を傾げて疑問を提示する。


「別にあいつが切ったって決まったわけじゃないさ。メルトは衛兵と一緒に行動してるんだろ?そっちがやった可能性もある」


「それもする意味があるとは思えませんよ。わざわざ衛兵さんが通信を途絶させる必要なんて……」


「さあな。俺だってそれは分かんねえよ。とにかく、何が起きてるか判断するにも、一回現場を見てみたい。ルナが立ち会った事件ってどこで起きたんだ?」


「ああ、それならこちらです――」


 自分の記憶を辿って進行方向に指さしながら、駆けだす。



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