王族との繋がり
十月二十四日にピガース国にてパーティが行われる。王女の誕生日を祝ってのことだ。
そのパーティーに俺も参加することになった。
「そろそろお前を領の外へ連れ出すものいい経験になるだろうと思ってな。」
辺境伯ということもあるためか、父さんは遠出してのパーティーにはあまり参加したがらない。
今回は、俺を領の外へ連れ出すのもいい経験になるだろうと思ったらしい。
可愛い子には旅をさせろとか、そんなのか?いや、親が同行しているから違うか。
いつもとはちがう土地を見て、見聞を広げさせたいといったところか。
「しかし、同盟国とはいえ、他国なのによくお誘いがきたね?」
父さんに聞いてみた。
国同士の付き合いというのはほとんどわからないが、一国の王族が、他国の一領主に対して娘の誕生日パーティーに招待状を送るものか?
「ピガース国王陛下とはちょっとした繋がりがあってな。センタウル国王陛下にも招待状は届いている。」
スパイと疑われるんじゃないかとか心配になったが、自国のトップにも話が通っているなら大丈夫か。
「しかし、誕生日まであまり時間ないな。余裕をもって出発するんでしょ?」
「そうだな。六日前に出る。」
「六日……。」
この街・シタラからピガース国の王都・マルカブまでは馬車でだいたい五日~七日ほどかかる。
すこしバラツキがあるのは、魔物の存在が原因だ。
魔物に遭遇せず、すんなり移動できればいいのだが。
「リオンが魔物を懸念しているのはわかるが、ピガース国では十月に祝祭があってな。十月祭という。まぁ、名前はそのまんまだな。王都に人が集まる。だから祝祭の前に周辺の魔物の駆除を行っているんだ。」
なるほど。祝祭で多くの人に王都に来てもらうため、周辺の魔物の駆除をしているのか。
魔物に遭遇する可能性が低いならパーティーの前日には到着できる……か?
「わかった。今日が十日だから残り八日だね。明日にでもプレゼントを探してくるよ。」
今から街へ出るには少し遅い時間だ。明日にしよう。
ただ、王族へのプレゼントってどのレベルならいいんだろ?
失礼になるものだったりしたら大変だ。後で調べないと。
マルスさんならその辺にも詳しいか?
「それにしても急だよね。こういうのは一か月前あたりに招待されるものだと思うんだけど……。」
「あぁ、それはアイツがルーズだからだな。」
「アイツ……。それにルーズって……。国王なんでしょ?」
「まぁそうなんだが。いや、国王としては頑張っているさ。ただ、その反動なのか相手が友人レベルになるとかなり気を抜いてしまうんだよ。」
「……。」
この口ぶり。父さんとピガース国王陛下は友人なのか?
「去年だって、母さんが例年出しているお祝いの手紙の返事になんて来たと思う?誕生日パーティーに招待したのに出席しないどころか返事すら寄越さないとは何事だ!ってな。」
「えっと……。」
「ふふ。後から、ごめん、出し忘れてたわって謝罪の手紙が来たのよ。」
母さんが執務室に入ってきた。
手には母さんの手作りお菓子。後ろに控えているメイドがお茶の用意をしてくれる。
「……で、今回は出し忘れはしていないけれど、直前になったと?」
「いや、アイツは出し忘れている。招待状を送ってくれたのは第二王妃だ。出し忘れている手紙を見つけたので急いでお送りします、と。」
……俺の中でピガース国王陛下のイメージがダラシナイ人になった。
「ピガース国王陛下と父さんの関係が気になるよ……。なに?学生時代の友人だったとか?」
「……ふん。まぁ、おいおいな。」
父さんはしかめっ面をして答える。口直しとばかりに母さんのお菓子を口に運ぶ。
「ふふっ。ねぇリオン。王女、セレスティア殿下は私の姉さんの子供なのよ。」
うん?
「母さんにお姉さんがいるというのも初耳だったかと思うけど……え?母さんって王族?」
「私はピガース王国のアンドロメダ伯爵の娘。姉さんは王妃になったけど、私は王族ではないわ。」
余談だが、母さんは父さんと結婚後、姓をインディナロークへ変更している。
センタウル王国やピガース王国など、この周辺国では、「夫婦同姓」と「夫婦別姓」がある。
結婚時にどちらか決めるのだそうだ。多いのは、「夫婦同姓」らしい。
なお、「ダブルネーム」はないようだ。
叔母が王妃、従妹が王女か。
なんかすごく恐れ多いというかなんというか……。
前世ではただの一般人だったから、王族とかは遠い世界の住人で特に思うこともなかったけど、いざ身近に、しかも親戚にいるとか困惑するな。どう接すればいいんだこれは。
「本当は母さんも行きたいのだけれど……。」
「む、いかんぞ。お前に何かあったら、お前だけではなく、お腹の子供にまで影響がでる。」
母さんは妊娠しているからね。長距離の移動は負担がかかる。
故郷というのであれば帰りたい気持ちもわかるし、姉の子供に会いたいのだろう。
だが、俺も止めさせてもらう。
「ちなみに、今まで母さんの生まれにかかわる話がなかったのは親類に王族がいるから?」
「そうだな。親類に王族がいると吹聴したところで面倒事に巻き込まれることが多くなるだけだしな。」
確かに。面倒事に巻き込まれるリスクが大きくなる気がするよ。
別に自分が王族というわけではないのだし、虎の威を借りる狐になりたくもない。
「リオンにはもう少し大きくなってからと話そうとは思ってはいたのだが。ふむ、まぁ、杞憂だったな。」
「ん?どういうこと?」
「いやなに。自分は王族の親類だと意識して変に増長しないかと懸念していただけだ。お前はほんとにできた息子だよ。」
「父さんと母さんの子供だからね。父さんと母さんの教育も良かった。」
「ぬかせ。」
父さんは苦笑いをしている。
父さんは酒に酔っているとき、父親らしく叱ったりしたいと愚痴をこぼすときがあるらしい。
たまにはヤンチャして迷惑をかけてあげてください、と執事に言われたとき、俺はどういう顔をしていたんだろうな……。
「それにしても、父さんと母さんの出会いも非常に気になるところ。母さんのお姉さんに会ったらその辺の話を聞いてみよう。」
「……。」
……あれ、空気が。
「姉さんは既に亡くなっているわ。」
……。
「姉さんはもともと体が弱くてね。……ねぇ、リオン。リオンはね、姉さんとセレスティア殿下……ティーとは会っているのよ。」
そうなのか。それらしき人と会った記憶にはないから、前世の俺としての意識が覚醒する前なのだろう。
そういえば、意識が覚醒した次の日あたりから父さんと母さんがしばらく俺の前に現れなかった。ずっと俺の面倒を見てくれていたメイドが俺の母親なのかと思い直していたぐらいだ。
今思えば、初日に父さんが呼ばれて、父さんは驚いたような顔をして何処かに去っていった。もしかして?
「リオンが生まれるときね、姉さんとティーが来てくれたのよ。ティーが生まれる時は私が姉さんの元に行ったのだけど、今度は私の番だってね。」
母さんの声が震えている。
泣きそうになっているのだろう。俺も父さんも言葉を発さず、母さんの言葉を促す。
「リオンが生まれたとき、姉さんがリオンを抱いてくれてね。ティーも恐る恐るって感じだけど、リオンの手を握ったのよ。姉さんが、ティーに、今日からティーはお姉ちゃんだね、って。そう、言って……。」
遂に耐えきれなくなったのだろう。母さんが泣き出した。父さんがそっと母さんを抱き寄せる。
……俺が前世でも見たことがなかった、親の悲しみの涙だった。
俺が死んだとき、前世の両親も泣いてくれただろうか?きっと、泣いてくれただろう。
前世の父さんは結構勢いで行動するからなぁ。俺もヤンチャしていた時期はあるけど。
いつも母さんと俺で止めていたっけ。俺がいなくなって、母さんも大変だろう。妹も父さんに似て勢いで動くから、母さんの胃が心配だ。
前世の家族に、俺はこっちで元気に過ごしているよ、と伝えれることができればいいのだけれど。
父さんに母さんを任せ、俺はその場を後にする。
俺も今は一人になりたい気分になったしね。部屋に戻るか……。
ピカァァァァ!
「えっ!?」
部屋を出ようとしたとき、俺の足元に魔法陣が浮かび上がった。
なんだこれ!魔法陣……っ!?
◇◇◇◇◇
突然、リオンの足元で魔法陣が現れたかと思ったら強い光が発生した。
クラースやイリーナはいきなりのことに何もできなかった。
「……。リオン!」
光が収まると、そこにいたはずのリオンがいなくなっている。
魔法陣も消えており、そこには何もなかったかのように何の形跡も残っていない。
「いやぁ!リオン!リオン!」
イリーナが発狂する。
亡き姉のことを思い出していたため、今はかなりセンチメンタルな状態になっている。そこに愛する息子が目の前で消えたのだ。
クラースとイリーナの声で執事やメイド、衛兵達が次々と集まってくる。
イリーナはだいぶ混乱している。クラースはイリーナを落ち着かせ、休ませることが先決と判断した。
「イリーナ、大丈夫だ。リオンをすぐに捜索する。なに、アイツは賢い。何事もなかったかのように戻ってくるかもしれん。」
イリーナをなだめ、メイドに寝室へ連れて行くように指示をする。
「第一、第二部隊全員を招集しろ。リオンの捜索を行う。だれか、ルシタニアへ行く準備を。父にも手伝ってもらう。」
クラースは次々とリオンの捜索のための行動を起こす。
「リオン……お前にいったい何が起こっているのだ……。」




