襲撃
ついにセルペンス軍がシタラの街へ到着した。
各地に配属させていた部隊は間に合わなかった。外への警戒および防衛を主任務として持っていたのだ。まさか内から攻められることになるとは……。
俺は今、街の門の内側のところへ来ている。
さっきまで父さんが陣頭指揮のためいたのだが、屋敷にマルスさんが来て父さんに用事があるようだったので俺が呼びに来たのだ。
で、父さんは屋敷に戻ったのだけど、俺は屋敷に戻らなかった。理由は屋敷に居ても落ち着かなかったから。なんだろうか、妙に居心地が悪い感じがしたのだ。
アイちゃんもどうやら俺と同じ感じらしく、俺と一緒に行きたがっていたがマルスさんに止められて屋敷に残っている。
ここに残ったからといって俺に何かできることはないだろう。邪魔にならないようにするのが一番か。まだ避難していない人がいないか見回りでもしよう。
見回りをしばらくしていると変な感覚がした。直観といっていい。とても嫌な予感がした。
周りを見渡す。なんだろう?何かあるのか?
辺りを見回すと、空へ煙が上っているのが見えた。あの方角は……屋敷がある。
ここからだと周りの建物が邪魔でよく見えないな。屋根の上に上がるか?
足に魔力を込め、思いっきりジャンプ。同時に風魔法を使い、風に乗るようなイメージで空を駆け上がる。
無事屋根の上に着地し、煙が上がっているところを見る。やはり屋敷がら煙が上がっていた。
下がざわついている。どうやら他の人も気が付いたようだ。
「すみません、屋敷に戻ります!ここの事はお願いします!」
屋敷で何かが起こったのだろう。急いで屋敷へと向かう。屋根の上を飛び移るようにして一直線だ。
それにしても、火の回りが早いのかどんどん煙の量が多くなる。おかしい。父さん達は魔法が使える。すぐ鎮火できそうなものだが。
もうすぐ屋敷に到着するかという距離まで近づくと、庭で誰かが戦っているのが見えた。
あれは……マルスさんか!相手は知らない。だが、相手からは敵意を感じる。
空を思いっきり飛びながら五発のファイアーボールを、マルスさんが戦っている相手に放つ。相手はいきなり現れた俺に反応できなかったようで直撃してくれたようだ。
マルスさんは追い打ちをかけ、相手の首を刎ねて止めを刺す。
「マルスさん!」
「リオンくんか!賊が何人か入り込んできた!君は二階に行って娘たちの救出を!」
マルスさんはそう言うと屋敷の壁に空いた大穴へ向かっていた。おそらくは応接間で接敵して戦っているうちに外にでたのだろう。
マルスさんが先ほど殺した死体を思わず見てしまう。召喚されたときに殺した人さらい達の顔がよぎり、気持ち悪さで胃液が逆流しそうになった。
(……これがこの世界ではよくある光景なんだ。早く慣れないと。)
吐きそうなのを堪え屋敷へ視線を戻すと、二階の窓から人が移動しているのが見えた。
あれは……どう見ても襲撃者の仲間だな。あちこちから戦闘音が聞こえる。悠長に玄関から入っていってはアイちゃん達の元へたどり着けない。
ならば!一気に二階に行く!気合を入れて飛び、二階の窓を割って屋敷の中へ入る。窓を割って入るとか映画で見たことがあるシーンのようだな。
窓を割って入ったのは、さっき見かけた奴の進路上だ。相手は驚いた顔をしていた。
まぁ、普通窓を割って中に入ってくる人がいるとは思わないよね。
「てめぇ!」
驚いて少し硬直していたが、俺が走り出すとこちらに向かって剣を振り上げてきた。
回り込むように回避しつつ、敵の両足を狙ってウインドカッターを放つ。よし、片方の足に当たってくれた。
止めをさそうと剣を抜いて敵に向ける。その時、また召喚されたときに殺した人さらい達の顔がよぎってしまった。剣をもつ手がカタカタ震える。
「イヤァーーーー!!!!」
アイちゃんの声!きっと母さんの部屋だ。あそこには母さんとおばあちゃんもいるはず!
敵をその場に放置して急いで母さんの部屋へ向かう。部屋の扉は開け放たれていた。
「アイちゃん!母さん!おばあちゃん!」
コツン
何かを蹴ってしまったようだ。思わず蹴ってしまった物を目で追う。
ハーモニカだった。セレスティア殿下からもらった、ハーモニカだった。
銀色に輝いていたハーモニカは赤く染まっていた。
コツン
蹴られたハーモニカが何かにぶつかって止まる。
「あ、ああ……」
大量の赤い液体の上に、
「あ……あ……」
ピクリとも動かない、
「……。」
母さん達はそこにいた。
「あああぁぁぁああああああ!!!」
剣を落とし、両手で頭を抱える。目の前の光景が信じられない。受けれられない。
「リオン、また本を読んでいたの?」
「リオンは本当に子供らしくないわ。いったい誰に似たのかしら?」
「お兄ちゃん!」
母さんの微笑みが、拗ねたようなおばあちゃんの顔が、アイちゃんの笑顔が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。
ザシュ
……。体に痛みが走り目を下ろすと、お腹から刃物が突き出ていた。
ドンっと背中を蹴られ、倒れると同時に刃物が抜けていく。
首を動かして後ろを見ると、黒い髪をした男が俺を見下ろしていた。その目にはなんの光もなく、何を考えているのかもわからない。
あぁ、こいつか。こいつが。
「な、ぜ?」
どうして母さん達を?
「すまない。」
思わず零れた言葉にそいつは返してくれた。口から血が出ており、ちゃんと言葉として発することができたか怪しかったが察してくれたのだろう。
体は動かない。痛みは……もうない。麻酔にでもかけられたよな感じだ。
(許せない……。)
もう一度母さん達を見る。視界が霞んで母さん達の顔はよく見えない。もうすぐ、赤ん坊が……弟か、妹が生まれたのに……。
許せない。どうなってもいい。こいつを、黒い髪の男を……殺す。
自分の体から黒い靄が出ている。そうだ、あの時の力だ。あの力があれば。
(力を……力をくれ!)
(……このままでは死ぬだけか。仕方がないのぅ。気をしっかり持つのじゃぞ!)
頭の中で少女の声が聴こえると、感覚がなかった体を意図するように動かせれるようになったことに気が付く。立ち上がれるか?
のろのろと手や足に力を入れて立ち上がる。刺されたところを見ると、そこからが一番黒い靄が出ていた。
シュッ
自分の体の調子を確認していると、男が切りかかってきた。とっさに大剣で防御する。
俺はいつの間にか、あの時に手にしていた大剣を持っていた。
「……お前は精霊付きか?」
……?精霊付き?なんだそれは?
自分の持つ大剣が反射して自分の姿が映る。目が赤く輝き、背中にはどうやら翼が出ているようだ。あぁ、これがエミーリアさんが言っていた姿か。
黒髪の男はバックステップで距離を取ると、大きなファイヤーボールを放ってきた。
いつもの俺であれば回避を試みるが…大剣で強引に切り裂く。男は……
(左じゃ!)
頭に響く声に従い、左へ大剣を回すと男の剣とぶつかった。
ファイヤーボールで視界を塞ぎ、放つと同時に横へ移動したのだろう。大剣で男の斬撃を防ぎ反撃しようとするが、男は至近距離で次の魔法を放とうとしているのが感じられた。
強引に男を弾き飛ばし、大剣で叩きつけるように振る。剣で受け流された。
今の俺の状態だと男を吹き飛ばせたのだから力は勝っているだろう。だが、それ以外の面で勝てる気がしない。
このままでは負ける?母さん達の仇も討てずに?
心がざわつく。俺から立ち上る黒い靄が多くなってきたように感じる。
(いかん、しっかりせい!飲まれるぞ!)
大剣が光り、頭の中に少女の声が響くが湧き上がる衝動を抑えられない。
(そうダ、力ダ。力をモット……)
男が斬りつけてくるが、それを大剣で、しかも片手で振り吹き飛ばす。
(アァ、力トハ、コウシテ使ウ物ダッタナ!)
俺の攻撃に男が防戦一方になる。気持ちがいいな!
「ハッハッハ!ドウシタ!コノママダト殺シテシマウゾ!」
(……くっ、この未熟者め!)
剣が何かほざいているが構うものか。男を壁に叩きつけ思いっきり殴る。威力に壁が耐えれずに崩れ、そのまま男は外へ落ちていってしまった。
好都合だ。外の方が思いっきり戦える。意気揚々と俺も男を追って外へ向かうと、炎の嵐に巻き込まれた。
体が熱い。だが……
「残念ダナ!今ノ俺ニハ効カナイゾ!」
大剣を力いっぱい振り嵐を吹き飛ばす。男と戦っているうちに、今の状態だとあまり魔法攻撃が効いていないことに気が付いた。
理由はよくわからないが、おそらく通常では一瞬で焼け焦げて跡形もなく燃え尽きたであろう威力だった先ほどの炎の嵐、ファイヤーストームだが、今の状態だとほとんどダメージを受けていない。
男はやはりか、というような表情をしている。
「サテ、ソロソロ終ワロウカ。」
「そうだな。俺ももう限界だ。そろそろ終わろう。」
男は何か合図を出したようだ。いったい何の合
バァン!
激しい音がした。と同時に、腹部に痛みが来る。なんだ?
音のした方を向くと、複数の男が何かを構えていた。あれは……銃?
次々と激しい音が鳴り、俺の体に痛みが走る。
「まさかここで精霊付きと戦うハメになるとは思わなかったが……すまないな。」
男はそう言って、俺の心臓めがけて剣を突き刺した。
視界が暗転する。意識がなくなるとき、最後に思ったのは…
(あぁ、また銃か……)
第一章はここまでとなります。




