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双月の輪舞  作者: 暁月夜
第一章
18/20

帰路

「……。(ふるふる)」


セレスティア殿下の吸い込まれそうなほど綺麗な緑色の瞳が涙で潤んでいる。

受け入れがたい現実に抗うように首を振る姿に胸が締め付けられる。

殿下の手は俺の腕を掴んでいる。だいぶ力が入っているようだ。絶対に離さないと言わんばかりの意思を感じる。


「……なぜ?」

「いや、ですから、インディナローク領へ一旦戻ろうかと思います。」


昨日もお伝えしたのだが……。

父さんも、これ、どうすればいいの?と困惑している。


「ティー、リオンくんを困らせてはいけないよ。なに、またすぐ戻ってくるさ。」

「そうよ。ティーがイイ子にしていれば、きっとすぐよ~。」


ロムルス陛下とフローラ陛下もセレスティア殿下を説得している。


「リオンくん。今度来るときは剣の相手をしてほしい。」

「そうですね、そのときはお相手お願いいたします。」


空いた方の手へ向かって握手を求めてきたクレス殿下の手を握り返答する。

クレス殿下は俺が城に滞在中も剣の相手をしてほしいと頼んできていたのだが、俺は断っていた。

自分はまだまだ未熟で、もっと自分の腕を磨かないと万が一が発生してしまうと怖い、万が一が起こって他国の王族相手にケガをさせてしまっては国際問題となる。と。

俺にはあの時のよくわからない力がある。ただ、発動条件が不明のままだ。もし万が一また暴走でもしたら大変なことになる。


(……いいわけだな。ただ単に、俺は怖いだけだ。)


人を殺したあの光景。訓練であっても剣を握り相手と相対するとフラッシュバックする。

領に帰ったら父さんやデュラン隊長達に相談しないと。


「セレスティア殿下はリオンくんをかなり好いているようだね。これは婚約者であるうちの息子もうかうかしてられないね。」


アルベルト殿下がニコニコしながら挨拶にきた。


パーティーの後、セレスティア殿下が精霊の愛し子と判明して一悶着あったようだ。

精霊の愛し子がいる国は精霊の祝福を受けやすいといわれており、そのために城内では婚約を見直した方がいいと声が上がっている。

エミーリアさんから聞いた話によると、去年婚約を決めたのはセレスティア殿下が引き籠りから脱出するための起爆剤になるのではないか?という意見があったらしい。

ピガース王国とセンタウル王国は同盟国だが、近年では王族同士での、いわゆる政略結婚もなかった。そのため、関係を強めるためにもどうだろうか?という流れらしい。

ただ、この婚約はピガース王国側から打診した話なので、精霊の愛し子だからやっぱりダメ、となると関係悪化は避けられないだろう。

これがもしもセンタウル王国側から打診された話だったら多少は交渉の余地はあったのだろうが。


「それとクラース卿。護衛をありがとう。」

「いえ、陛下や殿下の御身のためならば。……まさか殿下がお忍びのためとはいえ、まさかハンターに護衛を頼んできたとは……。」


アルベルト殿下はお忍びで今回のパーティーに参加したような話はパーティー中に聞いたが、なんと殿下はハンターギルドへ身分を隠して護衛を依頼してきたらしい。

といっても、ハンターギルド側はあっさり殿下の正体に気が付き、今動かせる高ランクのパーティーである『蒼穹の風』を付けてくれた。。

なお、その『蒼穹の風』には男爵の息子と伝えており、おそらくは正体はバレていないだろうとのこと。


「まぁ、あいつらなら気が付いてはいるだろうけどな。依頼者の意図を酌んで、気が付かないフリでもしたんだろうよ。」

「デュラン隊長のご存知の方々なんですか?」

「あぁ、昔馴染みさ。気のいいヤツらだよ。」

「彼らも隊長にはだいぶ振り回されたんですよねぇ。」


デュラン隊長にミリアルド先生が言い放つ。

デュラン隊長やミリアルド先生がうちに来る前にハンター活動していた時の繋がりかな?


「そういえばデュラン隊長やミリアルト先生のパーティー名を教えてもらっていないですね。なんていうんです?」


ハンターギルドのパーティー名は格好いい名前が多い。俺はネーミングセンスがないので、こういうのをパっと思いつく人は憧れちゃうね。


「別に教えても構いませんが、どうします?」

「坊主がハンターになる時に教えてやんよ。じゃあ、俺とミリアルドはアルガス陛下達を王都まで護衛するからしばらく留守にするが、訓練をサボるんじゃねぇぞ?」


デュラン隊長はそう言って俺の頭をガシガシ撫でた。頭がグワングワンするわ。

どうやら俺がピガース王国に来てからほとんど剣を握っていないことはバレているようだ。

そのことで相談があるのだが、デュラン隊長達はアルガス陛下達の護衛の補強として一緒に帰れない。次に会えるのは15日ぐらいだろうか?


なお、アルガス陛下達は最新式の自動車でこちらに来ている。王族仕様で豪華な外見と優雅な内面。そして多少の攻撃には耐えられる装甲をしている。

重さがある分、魔力消耗は高そうだ。予備としての魔石も大量に持ってきているのだろう。


前にインディナローク領で乗った自動車は乗り心地はあまりよくはなかった。前世で乗っていた自動車にどうしても比べてしまうからね。

馬車でもサスペンションの試みはしているようだから、後継機は改良されて前のより乗り心地はいいかもしれない。久しぶりにバイクに乗って風を感じたいものである。


アルガス陛下達の出立を見送り、ライエルおじいちゃんやギルバート叔父さん達への挨拶も終わらせた。遂に俺たちもインディナローク領へ出発する。


「姉さん。では、また。」

「リア、あれを。」

「こちらに。」


セレスティア殿下はエミーリアさんに合図を送ると、エミーリアさんは俺に小さな箱を渡してきた。


「開けても?」

「……。(こくり)」


開けてみると、中身は銀色に輝くハーモニカが入っていた。綺麗なハーモニカだ。俺は思わずハーモニカに口を添え、息を吹きかける。

うん、音もきれいだ。


「リオン、お姉ちゃんが居なくて寂しくなったら、それを吹いて?」

「うん、わかったよ。ありがとう、姉さん。」

「ん。」


セレスティア殿下は俺がプレゼントしたことになっている髪飾りに手を添え微笑んでいる。

まさかプレゼントを貰えるとは思わなかった。帰ったら御礼の品を探さないと。


「手紙、書くから。」

「えぇ、楽しみにしていますね。」


やっと俺の腕を離してくれたセレスティア殿下への挨拶をし馬車へ乗り込む。走り出した馬車を追って、セレスティア殿下も走り出した。

追いかけてくる姿に胸が締め付けられる。俺は精一杯の笑顔で手を振る。また会えるから、と。

ハーモニカは光を反射し、輝いていた。




馬車の中では、俺が突然消えたことでどれだけ大騒ぎになったかを父さんから聞いた。

バランおじいちゃんやマーガレットおばあちゃんにも協力してもらい、領内を総出で捜索したのは本当に申し訳ないと思う。いや、俺の意思で消えたわけではないのだけれど。

王都や他の領にも捜索願いをするところで、俺がピガース王国にいるという手紙が届いたようだ。


「お前のためとはいえ、あまり借りを作りたくないヤツラに頭を下げることにならなくて良かったよ。」

「あー……。隣の領とか?」

「そうだな。うちは辺境ということで領土は大きめだ。更に戦争が長らくなく。今では港もあり、貿易で潤っているからな。」


領の運営に関して、俺はまだ本格的に勉強を開始していない。これからだろうが、腹の探り合いとかそういうのは苦手だなぁ。駆け引きとかできる自信ないぞ。


「ともかく、帰ったら母さん達に心配かけてごめんと謝るんだぞ?」

「わかっているよ、父さん。」


こうして、俺は久しぶりにインディナローク領へと帰ってきた。

母さんやおばあちゃんは俺に会うなり抱きしめて来た。おじいちゃんも涙を浮かべながら良かった、良かったと呟いている。

あぁ、俺はこんなにも愛されているんだと実感する。

ただいま。おかえり。

そう言えるのがどれだけお互いに嬉しいことなのか。俺はたぶん、今一番身に染みてわかったのだと思う。

前世の家族への申し訳なさで、俺はたぶん、この世界に来て初めて泣いた。



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