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双月の輪舞  作者: 暁月夜
第一章
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精霊の愛し子

「セレスティア殿下。歌を歌ってください。」

「や。」


セレスティア殿下に直球でお願いしたら速攻で断られた。

まぁ、想定通りですよ。


「姉さんの歌が聴きたいなー。もし歌ってくれたら、今後は姉さんって言っちゃうかもしれないなー。」

「……。(もじもじ)」


おー悩んでる悩んでる。しかしこのチョロさ。将来が不安である。悪い男に騙されないといいのだけど。


「セレスティア様。こんなことがあろうかと、ステージを用意しております。いいところを弟に見せるのも姉の仕事です。」

「……。(こくり)」


エミーリアさんの後押しで陥落したもよう。あと数個は策?を練ってきていたのだけれど使わずに終わってしまった。

セレスティア殿下に姉や弟という単語の効果は抜群らしい。

ところで、こんなこともあろうかと、というセリフは一度でいいから言ってみたかったセリフだったんだよね。エミーリアさんに言われてしまった。


なお、歌う曲は数日前に決めさせてもらっている。伴奏をするためだ。

セレスティア殿下のお母さんがよく歌ってくれていた歌。これまでも何度か口ずさんでいるのを聴いている。

俺が伴奏するのはサプライズだ。セレスティア殿下には本番まで内緒にしている。前世で妹に付き合わされていたから、ピアノは少しは弾けていたんだよね。

セレスティア殿下が勉強中にこっそりと練習させてもらっていたんだけど、こっちの世界でも楽器の作りや楽譜の読み方が同じで助かった。


「リオン様自身は数日前からきっちり練習しておいて、セレスティア様には当日連絡とか……。」

「いや、エミーリアさんも了承していましたよね?当日の勢いでそのまま押し切った方がいいって納得してくれましたよね?」

「女の子は準備が大変なんですよ?」


エミーリアさんがやれやれ、という感じで言ってきたけれど、むしろエミーリアさんが当日の方がいいって言っていたのに……。解せぬ。


「それにしても、わざわざドレスを着替える必要はないのでは?」

「ここは一つ印象を変えて注目させようかなと。セレスティア殿下はどちらかというと控え目なドレスを好まれていますので、ここで派手目なものにすることで会場の空気を持っていければと思っています。あとは気持ちの切り替えですね。これから歌うんだ、という気持ちにしてくれると思います。」

「なるほど。考えてはいるのですね。」


もともとは結婚式のお色直しを参考にしたものだけれど、こちらではそういう習慣はないみたい。パーティーの時期や時間、目的などでドレスを決めるけれど、そのパーティーの途中でドレスを変えるというのはないと教わった。

パーティーにゲストとして参加している人がドレスを変えて主賓よりも注目されるのは問題になりそうだけれど、主賓が中座してドレスを変える分には失礼にあたらないだろう。


問題は、セレスティア殿下が注目されて耐えられるかどうか、だけど。

その対策が、俺が伴奏するということに繋がっている。弟の前では恥ずかしいところを見せられないという姉心を利用するのだ。

うーん、我ながらちょっとヒドイなと思わなくもない。


「リオン。」

「うん、綺麗だよ、姉さん。」

「……。(もじもじ)」


セレスティア殿下がドレスを着替えてきた。とてもよく似合っている。


「あれ、その髪飾りは?」

「リオンのプレゼント。着けてみた。」

「良く似合っていますよ。身に着けてくれてありがとうございます。」


普段は髪を左右に分けて結び垂らしているが、今はゆるふわストレートな髪型になっている。小さな翼を広げたような髪飾りを、結っている髪を後ろで結んでいるところにを付けていた。

このプレゼント、当然だが俺が選んだものではない。俺は召喚されてからプレゼントを買う元手はなかったし、街へも出ることはできなかったからだ。

これはフローラ陛下が気を利かせて、インディナローク領へリオンの生存連絡をする手紙に混ぜていた成果である。

チョイスは母さん。とてもいいセンスだ。父さんが選んだものでなくて本当に良かった。

ありがとう、フローラ陛下!ありがとう、母さん!


「さぁ行きましょう、姉さん。伴奏は俺がやるよ!」

「……。(ぱぁー)」


おぉ、嬉しそうな顔だ。眩しい。これは気を引き締めて努めねば。




セレスティア殿下の登場で会場が静まり返った。派手目だが、清楚な感じを損なわない見事なドレスを着こなしていたことで、誰もがセレスティア殿下に注目している。

静寂な中、セレスティア殿下はステージの中央へと進む。俺は目立たぬようにピアノの前へ。

中央へと到着したセレスティア殿下はゆっくりと会場を見回し、そして振り返った。その目からは強い意志を感じる。

頷いて返し、鍵盤を引き始めた。


曲が始まるとセレスティア殿下はもう俺を見てはいない。堂々と前を向いている。

彼女は今どういう心境なのだろうか?無理やり人前で歌わされて嫌々?俺から見えるセレスティア殿下の後ろ姿からは、そのような雰囲気は感じない。

自分から鳥籠に閉じこもっていた小鳥が、開け放たれていた扉の外へとやっと飛び立とうとしている。そのような印象がある。

あぁ、そうだ。外は広い。思いっきり翼を広げるんだ!


「あなたのその瞳には何が映っているの?この世界の中で何を見つけていくのだろう?……」


透き通るような声が響き渡る。誰もがその声に魅了される。彼女は自由に羽ばたいている!



目を瞑り集中しているとそれは起こった。


(……この音は?俺以外の誰かがセレスティア殿下に合わせて奏でている?)


会場から、おぉ!という声が聴こえる。なんだ?誰かが飛び入りで演奏をしているのか?

目を開け、セレスティア殿下を見ると何が起こっているのか解った。

セレスティア殿下の周りにいくつもの光の玉が漂っている。そして、どうやら音はその光の玉が発しているようだ。


(精霊?エミーリアさんが言っていたやつか。)


精霊

この世界において、精霊はとても希少な存在だ。マナに溢れるこの世界において、マナそのものの力を扱うことができる精霊は強力な存在となっている。

だが、精霊は人の前には基本的に姿をみせない。精霊に祈りを捧げ、力を借りるために精霊に顕現してもらうことはとても難しい。

しかし、この精霊に稀に好かれる人が生まれることがあるという。

その人のことを、”精霊の愛し子”と呼ぶ。


(セレスティア殿下が精霊の愛し子?)


セレスティア殿下は光と戯れながら歌っている。とても嬉しそうに。

会場の興奮もかなり上がっているようだ。今回のステージは大成功といっていいだろう。


(精霊の愛し子、か。何事もなければよいのだけれど……。)


こうしてセレスティア殿下の誕生日パーティーは、精霊の愛し子の誕生を祝う場も兼ね、大いに盛り上がった。



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