お姉ちゃん
泣いている。
少女が泣いている。
泣かないで。君が泣いている姿を見るのはとても悲しいんだ。
泣いている少女を後ろから抱きしめたくて駆け出す。
しかし、少女との距離はいつまで経っても縮まらない。むしろ、どんどん離れていく。
待って。待ってくれ!
「……。ここは?」
目が覚めると知らない天井があった。
何か、悲しい夢を見ていたような気がする。
ん?右手に違和感がある。何かに握られているような、そんな感覚だ。
右手を見ると少女の小さな手に握られていた。
どうやら少女は眠っているようだ。金髪から除く顔が可愛らしい。
「目が覚めましたか。」
少女の顔を見ていると、メイドに話しかけられた。
大分若いメイドだな。十歳前後だろうか?可愛い、というより綺麗な人だ。
「あ、えっと……。」
そういえばこの二人、見覚えがある。あぁそうだ、あの時の子たちだ。
「ここはピガース国の王都、マルカブの城にある一室です。……昨日のことを覚えていらっしゃいますか?」
「ピガース国?そうか、俺は誰かに呼ばれて……。」
記憶を辿る。そうだ、俺は誰かに呼ばれたのだ。
そして俺は……。
「んぅ?」
俺の手を握っている少女が目覚めたようだ。ごめんね、騒がしくしてしまったね。
無意識に少女の頭を撫でる。うん、体が勝手に動いたな。どうやら体が反射的に動くようアイちゃんに鍛えられたようだ。
「んぅー?」
頭を撫でられている少女は寝ぼけているようだ。俺に頭を寄せてくる。もっと撫でろということか。任せろ。
「ごほん、セレスティア様。起きてくださいませ。」
メイドが衛兵らしき人に何やら話しかけた後、少女を起こしに来た。
おそらくは他に人を呼んだのだろう。あの出来事が夢でないのであれば俺は不審者だ。人を呼ばれても当然である。
って、セレスティアだと?
「セレスティア……セレスティア王女?」
「んぁ?」
俺の呟きに少女が返事をするように声を返した。メイドは少女を抱えるようにして起こし、少女の体を揺すって覚醒を促す。
「はい、この方はピガース王国の王女、セレスティア様です。私はその侍女を務めさせていただいている、エミーリアと申します。昨日は危険なところをお助けいただきありがとうございました。」
「……ありがとう、ございました。」
少女もどうやら目が覚めたらしい。エミーリアさんが御礼を言ったことに続き、御礼を言ってくる。
「いえ、こちらこそ怖い思いをさせてしまい申し訳ありません。私の名はリオンと申します。」
「リオン?」
えっ?なに?俺の名前に何か?って、あぁ、そういえば。
「リオン?その白い髪。もしかして……。」
「リオン・フォン・インディナロークです。セレスティア殿下にお会いするのは赤ん坊の頃以来になるのでしょうか?」
母さんからセレスティア殿下は俺が生まれた場にいたという話を召喚?される直前に聞いていた。
「!!」
少女、いや、セレスティア殿下が目を見開く。驚いているようだ。
まぁ、俺も驚いているよ。まさかこの子に呼ばれたとはね。
「リオン!」
ガバっと勢いよくセレスティア殿下が俺に抱き着いてきた。
痛い。よく見れば体のあちこちが包帯を巻かれている。あぁ、そういえばあの時、最後は体中が切れたんだっけ……。
とりあえずセレスティア殿下をどうしたらいいのだろう。というか、さっき頭なでなでしちゃったけど、不敬罪とかにならないよね?
「お姉ちゃん。」
「えっ?」
「お姉ちゃん、呼んで。」
えっ?どういうこと?どうすればいいの?
エミーリアさん、どうすれば……って、エミーリアさんも固まってる!
「呼んで?」
セレスティア殿下が上目遣いで懇願してくる。そんな、そんな顔をされては断れないじゃないか。
「ね、姉さん、で。」
「ん。それでも、いい。」
お姉ちゃんはなんとなく恥ずかしいかったので、姉さんと呼んでみた。それでもセレスティア殿下は満足してくれたらしい。なんなんだこの状況は……。
「少年が目覚めたと聞いたが?」
金髪の偉そうな恰好の人を含め、何人か部屋に入ってきた。周りの人達の反応や立ち位置から、かなり立場が上なのだろう。王冠を被っていないが、おそらくは。
急いでベッドから下りようとするが、セレスティア殿下が抱き着いていてうまく動けない。
「このような恰好で申し訳ございません。リオン・フォン・インディナロークと申します。」
「……。」
おそらくこの人はピガース国の国王陛下だろう。が、なんだ?俺を見ていない?見ているのは……セレスティア殿下か。
「ごほん。」
「ん?あぁ。私はピガース国の国王、ロムルス・ファム・ピガースである。……今、リオン・フォン・インディナロークと名乗ったか?」
「はい。センタウル王国辺境伯、クラース・フォン・インディナロークの息子、リオン・フォン・インディナロークと申します。」
「そうか、おぬしが。そなたの髪は白。セレナの血筋ということか。」
ロムルス陛下は何かを納得しているようだ。セレナ……母さんの姉か。
「さっそくだが、いろいろと聞きたいことが、」
「リオンちゃん、お腹空いてない?ご飯食べる?」
先ほど咳払いした綺麗な女性がロムルス陛下の話を遮って俺に聞いてきた。
えっと、大丈夫なのかな?ロムルス陛下の話をぶった切って。
俺はどう反応すればよいのかわからなくてエミーリアさんにどうすれば?と目で訴えてみる。
なぜか俺に抱き着いているセレスティア殿下もエミーリアを見つめている。
エミーリアさんは、はぁ、とため息をついた。仕方がないですね、というのが伝わってくる。申し訳ない。
「陛下、セレスティア様もまだ朝食を召し上がっておりませんので、先にお食事でもいかがでしょうか?」
「ん?うむ、まぁよかろう。では落ち着いたら執務室へ呼びに来てほしい。大勢がいてはゆっくりできないだろうからな。」
ロムルス陛下はそう言うと部屋から出て行った。こちらを気遣ってくれたようだ。ありがたい。
「さ、セレスティア様もお立ちになってください。」
「んー。や。」
「あらあら、ふふふ。」
エミーリアさんと王女殿下のやりとりに女性が微笑む。
「ティー。君が離れないとリオンくんはご飯を食べられない。さぁ、離れるんだ。」
少年がセレスティア殿下を強引に立ち上がらせた。おぉ、なんてイケメンだ。カッコいいオーラを感じる。
少年によってセレスティア殿下は俺から離れたが、不機嫌な顔をしている。拗ねた、とも言える。
エミーリアさんが俺に手を差し出してくれている。ありがとう。ベッドから下りるだけなのに申し訳ない。
ベッドから下りると、今度はセレスティア殿下が手を差し出している。はて、これは?
「リオン、お手。」
「お手!?」
お手って。犬か何かですか。いや、まぁ手を繋ぎたいんだろうけど、言い方。
ほら、女性や少年も笑っているじゃないか。エミーリアさんは……めっちゃ堪えてる!どうしよう。あと一押しすれば吹き出すかな。ちょっと見てみたい。
俺の中のSの面がうずうずしているが、セレスティア殿下が我慢できなかったのか、俺の手を取った。どうやら食堂に連れて行ってくれるよだ。
可愛い手に握られた自分の手を見る。
一瞬、自分の手があの時のように血まみれになっているように見えた。




