歌
エミーリアは目を覚ますと、そこはどこかの倉庫のようだった。
男達に両手を縛られ、セレスティアを眠らせたであろう匂いを嗅がされたところまでは覚えている。
眠っている間に運び込まれたようだ。隣にはまだ眠っているセレスティアがいた。疲労もあったのだろう。
周囲を見渡すと、他に三人の少女がいた。いずれも泣いている。
(奴隷に売る、といったところでしょうか。)
ピガース国では奴隷の売買は禁止している。
しかし、他の国では奴隷の売買は行われているのをエミーリアは知っている。
奴隷には爆発する首輪をつけられる。これは乱暴に取ろうとしたり、主に逆らうと爆発するのだ。
自分を含めここには少女しかない。その手の愛好者に売るのだろう。
エミーリアはなんとか脱出できないかを周囲を見渡す。眠らされたために、現在位置がどこかわからないのが厳しい。
太ももに隠しているナイフを確認する。両手を縛られているので目視はできないが、重さからあると判断する。
どうやら人さらいはナイフには気が付かなったようだ。
時間が経てば経つほど城の人達が捜索に人を出すだろう。脱出は難しても、なんとか時間を稼ぐか騒ぎを起こすことができれば、とエミーリアは思考する。
「んぅ?」
セレスティアが目覚めたようだ。もぞもぞと体を起こす。
「……?」
辺りをキョロキョロしている。状況が分からないのだろう。
「状況をお伝えします。」
「……。(こくりっ)」
小声で話しかけてきたエミーリアにセレスティアは頷く。
何か不味い状況なのだろうとは察しがついているようだ。
「現在、私たちを含め、ここにいる者は人さらいに会いました。おそらくは奴隷として売られるかと思われます。また、現在位置は不明です。それと申し訳ございませんが、私の太もものところにナイフがあります。お手数ですが私の両手を縛っている縄を切っていただけないでしょうか?」
エミーリアは現在の状況を嘘偽りなくセレスティアに伝え、自分の両手を縛っている縄を切ってほしいとお願いをする。
セレスティアは頷き、エミーリアのスカートを捲ってナイフを取り出す。そしてエミーリアの両手を縛っている縄を切った。
「ありがとうございます。」
「……。(こくり)」
縄を切ったあと、セレスティアは周りにいる泣き続ける少女たちを見る。
恐怖や不安、絶望が伝わってくる。
「……。」
「セレスティア様?」
セレスティアは立ち上がり息を吸い込むと言葉を紡ぎだした。
「会いたくて、でも会えなくて。それでも私の願いが叶うなら……」
(これは、歌?)
エミーリアはセレスティアが紡ぐ言葉を聴き、これはセレナが歌っていた歌だと思い出す。
セレナはよくセレスティアの前で歌っていた。
セレスティアの歌に少女たちは泣き止む。そして、セレスティアをじっと見つめている。
セレスティアの歌はどこか魅力がある。セレスティアが知らない人の前で歌ったことはないはずだが、堂々と言葉を紡いでいる。
(セレスティア様の周囲に光?これは?)
言葉を紡ぐセレスティアの周りで光の玉が現れ、ぐるぐる回っている。
エミーリアはセレスティアが気になるが、脱出の手がかりを探すことを優先した。
扉は当たり前だが、鍵がかかっているようだ。窓はない。
(扉を力ずくで破って先を見にいくか?)
エミーリアが扉をどうするか迷っていると、複数の足音が聴こえてきた。どうやら人さらい達が来たらしい。
「皆様、一か所に集まってください。」
エミーリアは少女たちをセレスティアの傍へ集める。
エミーリアはナイフを手に扉が空くのを待つ。
ガチャ
扉が空くと同時、エミーリアは風の魔法を放つ。
「ウィンドカッター!」
「ぐおぉ!」
完全に油断していた人さらいは魔法を無防備に受ける。
「くそっ!魔術師が紛れ込んでいたか!」
エミーリアは次々とウィンドカッターを出入口に向かって放ち、男達を近づけさせない。
このまま騒ぎを大きくし、城の者が来ることを祈る。
エミーリアは風の魔法は得意ではない。だが、他に攻撃に使える魔法は火の魔法しかなく、ここで火事になれば自分たちの方が危ない。
「何してやがる!」
大男だ。大男は大きな斧を持って入ってくる。
「ウィンドカッター!」
「はん!」
大男は斧を振りかぶり、風の刃を切りつける。風の刃は斧の勢いに敗れ、霧散してしまった。
「くっ」
大男は続けてエミーリアに接近する。エミーリアはナイフで迎撃するが、大男の力にナイフを弾かれてしまう。
「いけない子にはお仕置きが必要だなぁ」
大男はエミーリアを見て舌なめずりをする。と、そこへセレスティアがエミーリアをかばうように前へ出た。
「セレスティア様、お下がりください!」
「……!(ふるふるっ)」
「ははっ!健気なもんだなぁ!」
大男はセレスティアの胸倉を掴んで持ち上げ、エミーリアへ投げつける。
エミーリアはセレスティアを受け止めようとするが、後ろにいる少女たちと共に吹き飛んでしまった。
セレスティアは痛む体を起こし、ぎゅっと目を瞑って祈るように手を組む。
「祈りは済んだか?じゃあ、お仕置きの時間だ。」
「セレスティア様!」
大男がセレスティアに向かって歩きだした瞬間、セレスティアの前に光の柱が降り注いだ。




