セレスティア・ファム・ピガース
セレスティア・ファム・ピガース
若きピガース国王ロムルスと、アンドロメダ伯爵の娘セレナとの間に生まれた、ピガース王国の王女。今年で七歳になる。
セレスティアは愛する母を失ってから部屋へ引き籠るようになり、父であるロムルスでさえ、あまり会話ができない状態だった。
「……。」
今日もセレスティアは部屋に一人、ベッドの上で膝を抱えていた。
金髪の長い髪は寝ぐせでところどころ跳ねているが気にする様子もなく、緑色の眼は何かを見ているようで何も見ていない。
母を失って既に四年は経過している。それでも少女は部屋からまともに出ることができていない。
「おはようございます。セレスティア様。今日もいい天気ですよ。少し散歩しませんか?」
セレスティアの専属侍女、エミーリア・オシリス。
彼女はセレスティアより三歳年上の少女である。
オシリス家は、先祖代々ピガース王家に仕えており、エミーリアもまた、セレスティアに仕えるべく教育をされていた。
「……。」
セレスティアはエミーリアの方を見るが、すぐに顔を伏せる。
エミーリアはセレスティアの傍へいき、少女の頭をなでる。
「セレスティア様。ここには魔物は来ません。あれから魔物は来ていないでしょ?」
「……。」
エミーリアはセレスティアがこうなってしまった原因に心当たりがある。セレスティアはセレナと外出していた際、魔物に襲われたのだ。
セレナが亡くなったのは、魔物に襲われたことに起因している。
魔物は護衛などに目もくれず、セレナやセレスティアを追いかけ続けた。
幼いエミーリアも一生懸命、主たちを逃がすために動いたのだが、魔物はセレスティアに襲い掛かり、セレナはセレスティアを護るために己を盾とした。
魔物に追い掛け回され、自分をかばったがために母は深い傷を負い、そして母を失った。
幼い少女の心にトラウマを与えるには十分すぎる出来事だ。
コンコンコン
ドアがノックされた。
「私だ。ティーに話がある。入ってもよいか?」
「セレスティア様。陛下です。」
「……。」
訪れたのはロムルスだった。
セレスティアが無反応なので、エミーリアは代わりに部屋の外へ出て応対する。
「陛下、申し訳ございません。今日も……。」
「そうか。だが、今日はティーに話さねばならぬことがある。」
「話、ですか?」
「あぁ、セレスティアの誕生日にパーティーを行う。」
「それは去年も行いましたよね?しかもセンタウル王国の第一王子の息子と婚約まで決めて。」
エミーリアは去年のこのパーティーを快く思っていない。
センタウル王国の王族を招き、しかもその場で第一王子の息子と婚約まで結んでしまっている。
セレスティアは半ば無理やりその場に出されたが、終始怯えていた。
第一王子の息子はそんなセレスティアにイライラしたのか、高圧的な態度を取っており印象はかなり悪い。
「数年経っても状況が変わらなかったのだ。だから、思い切って刺激をと思ったのだが……。」
ロムルスは後悔したかのような顔をしている。ロムルス自身も、急ぎすぎたと反省はしているのだ。
「だが、今回ならば、と。」
「と、いうと?」
「それをティーに直接話たい。」
「……。かしこまりました。五分ほどお待ちください。」
エミーリアはセレスティアの部屋へ戻り、部屋を見まわす。日ごろからエミーリアが部屋を掃除しているため、綺麗な状態が維持されている。
エミーリアは改めて部屋を整える必要はなしと判断し、セレスティアの元へ向かう。
「セレスティア様。陛下をお招きします。さぁ、こちらへお着替えを。」
セレスティアは寝間着のままなので、部屋着のドレスへと着替えさせる。
その後、長い金髪に櫛を通していく。髪を左右に分けて結び垂らし、エミーリアは満足気に頷いた。本当は垂らした髪を結いたかったが、そこまでの時間はない。
セレスティアは大人しくエミーリアになされるがままにしていた。
「陛下、大変お待たせしてしまい申し訳ございません。どうぞ。」
「うむ。」
ロムルスは椅子に座り、セレスティアの顔を見る。
相変わらずの生気の乏しい顔に、ロムルスは悲しくなる。しかし、悲しい顔を表には出さず、セレスティアに話かけた。
「おはよう、ティー。」
「……おは、よう。」
セレスティアはぎこちない挨拶をした。
ロムルスは、そういえば前にセレスティアの声を聴いたのはいつだったかと記憶を辿るがすぐに思い出せない。かなり久しぶりのように感じる。
「今日はね、来月のティーの誕生日パーティーの話をしようと思ってね。」
「……。(ふるふる)」
セレスティアは首を振る。やりたくない、ということだろう。
「去年はすまなかったね。強引にやりすぎた。反省している。」
「……。(こくり)」
別にいいよ、ということだろうか?
ロムルスはどういう反応なのか判断できず、セレスティアの後ろにいるエミーリアを見るが、彼女は反応を返してはくれなかった。
「……ごほん。まぁ、今回はな、あの子を招待している。」
「……?」
「リオンだ。」
「!?」
セレスティアはビクンと大きく反応する。
エミーリアもわずかに反応している。エミーリアも彼が生まれた場にいたのだ。
去年の誕生日パーティー。
やるにしても招待するのはセンタウル王国の王族よりも彼の方が優先度高いだろうに。なぜ去年は誘わなかったのか。
おそらく政治的な何かか、先方の都合がつかなかったのだろうかと思ってはいるが、エミーリアは立場的にもロムルスへ問うことはしていない。
セレスティアは立ち上がり、おろおろしている。
「……。(オロオロ)」
「セレスティア様、落ち着いてくださいませ。まだパーティーまで時間があります。今日から準備をしていきましょう。」
「……。(こくり)」
セレスティアが自分から動こうとしている。
ロムルスとエミーリアは前に歩き出だそうとするセレスティアを見て密かにリオンへ感謝した。
なお、この時点で招待状はロムルスの書斎にある、本の山の間に挟まったままである。
クラースからの返答も当然受けていないのだが、ロムルスはリオンが来る前提で話を進めている。
第二王妃が手紙を見つけ、顔を青ざめたのは数日後の出来事である。




