新技
今の季節は秋で、さまざまな植物が紅葉によって黄色や赤に色づいている。特にここは田舎だから、辺り一面がきれいな景色だ。
今日もまた魔法や剣術など、いろいろな修行をした。特に魔法は使えても操作するというのは難しかった。
3歳くらいの時にできた雷魔法の放出は、まぐれだったようで、実際に操作できるようになったのは5歳だ。
また、一度魔法を使いすぎたせいで気絶したことがあった。
次の日から体がだるくなり、高熱が出た。これは魔法不足症という病気らしく2、3日安静にしていたら治った。
初めてだったから怖かったけどすぐに治って安心した。
セクアナは修行の時、いろいろなことをこの3年間で教えてくれた。
例えば魔力量。
小さい頃から魔法をたくさん出すことによって、出した分だけ魔力量として増えていくことや、体力や筋肉をつけることによって魔法の威力が上がるなどを知った。貴族や王族はこの能力が元からあるから修行をしなくていいらしい。
身分の差がここで、でるのって不公平だよね。
そのことを聞いてから、気絶しない程度に毎日魔力を出した。その甲斐あって、今の僕は一日で全ての魔力を使い果たせないくらいの量になった。
今のところ修行は順調にできている。魔法が使えるようになったから筋トレやランニングは昔より少なくなった。
一応、剣術は一週間に一度くらい組み手をしている。僕は毎日朝早く起きて、素振りをしているから負けることが少なくなった。剣に関してはセクアナが乗り気でないことや、僕が勝ち越していることもあり、この修行はなくなりそうだ。僕は魔法剣士のようなものを目指しているから素振りは続けている。
セクアナも続けてほしいな……
そして今日は新技の特訓だ。
「さぁ、今日は新技を考えましょう。もうあなたの魔力は多くなったから、基礎である魔法の放出は十分だよ! 技を考えるためには電気で何か細かいものを具現化すると、応用の技術が高まって、さまざまな技が出せるよ。まずはイメージをかためよう!」
いつものように家の庭で練習が始まった。
紅葉もあり、ここの景色は最高に綺麗。
今日はゆったりとこ景色を見ながらお茶でもしたいなぁ。
おっと、ダメだ、ダメだ。
僕は最弱の魔法だからもっと努力しないと。
そんなことを思っていると、セクアナがニヤニヤしてこちらを向いていた。
おそらく新技ができていて、僕からの質問を待っているのだろう。正直無視したいが、相手をしなくて拗ねられるのもめんどくさい。
「セクアナは何か新技が出来たの?」
「フフフ、そうだよ。私はいくつかできているよ!」
わざとらしくそんなことを言うので、顔を引きつらせながらも「すごい」と褒めた。
「いきますよ。ちゃんと見ていてね。あの木の的に向かってやりますよ……アクアカッター!!」
そう言った途端、薄っぺらい刃の形をした圧縮された水が飛んでいった。
見事に的を切って、木が真っ二つに割れた。
「おー!」
威力はとてもすごかった。だから人に向けてその技をされたら危ない。
死んでしまうかも……
仁王立ちで自慢げに立っていた。
まだまだセクアナには追い付けないと実感させられる。
ある程度自慢すると申し訳なさそうな顔をした。
「自信満々にやっていますが、私は元から魔法は使えるので、楽です。それに比べてトモヤは何もないところからやるので大変ですよね。頑張ってください」
自慢した後、いつものように優しくなるから余計に悔しくなる。自慢するならするで、突き通してほしい。なんだか惨めになる。
んん……何かあるかな?
そう思いながら個別で、いつも通り魔法を放出する。
技を考えるのは簡単だけど、それをどうやったら具現化できるか分からず、難しい。
考えても意味ないし、実戦あるのみ。
まずは……難しい!
どうしよう、いいアイデアがでてこない。
んん……魔法はイメージが大切か。
それじゃあ雷の特徴から考えてみよう。
雷の凄いところは高圧の電力と、とてつもなく速いスピードかな。
おっ、これだけの特徴で新技できるんじゃない?
僕の電気の放出は雷と比べると圧倒的に遅い。だからまずはスピードを鍛えよう。
目標が決まり、速く雷を放出できるように努力する。
……やっぱり難しい!
まぁ、練習あるのみだな。
それから何日も練習して、ずっと電気を放出している。
だんだん慣れてきて始めより速くなったが、まだまだ遅い。
「セクアナ、どうやったら応用技はできるの?」
「やっぱり壁にぶつかるよね」
頑張ってはいるけど、成長できないからセクアナに助けを求めた。
「自分なりのことだから合うかわからないよ。
私は魔法を圧縮したり、逆に緩めたりしてうまく形を作って具現化しているよ。そうですね。
うーん……刀を例とすると、鉄を柔らかくして形を作り、叩くことによって圧縮して硬くなりますよね。魔法も同じで、力を抜いて形を作り、圧縮して威力を固めたらいいと思うよ」
圧縮か。まずはやってみよう。
「圧縮……圧縮……圧縮……はっ!」
ビリビリビリリ
うーーん……
確かに威力は上がった。いつもより太い電撃が放出された。これでいつもより強い電気を発射された。でもやっぱり速度は変わらない。
何度も挑戦したが、今日は早くならなかった。
次の日から様々な試行錯誤をした。
圧縮する強さを変えたり、形を変えたり……
一度、矢のような形を作った。でもうまくいかない。
そして約一週間くらい練習して、ようやく上手になった。
最終的にできるだけ細い形で電気を圧縮して、雷が落ちるイメージを強く持つことで、速くできた。
「はっ!!」
シュッ
電気を細くしたから威力はとても落ちたと思う。だけど本物の雷ように高速で電撃を放出できた。
「セクアナ、どう?」
「うわぁ、すごい! 速いねこの攻撃」
「フッフフフ。この速さはセクアナにはだせないでしょ?」
「そうだね。私もやってみるよ」
そう言って、人差し指を前に出した。拳銃を打つような構えだ。
目を瞑って集中する。
「無理無理、そんな簡単にできないよ。僕がどれだけこのために練習し……」
「水鉄砲!!」
バッ
えっ!
僕の電撃よりは遅かった。だがしかし、まるで拳銃を撃っているように水は速く、実際に向けられると裂けきれないくらいのスピードだった。
うん、やっぱり負けた。
平気な顔をしてできている。
努力してやっと完成したのに、そんな簡単に追い抜くの!?
悔しかった。
「そうだそうだ。せっかく技ができたなら技名を 考えよ!}
「技名?」
「そう、技も自分の体の一部だし、技を出すためにいちいちイメージしていたらすぐに出せないでしょ。始めはイメージも必要だけど、だんだん慣れてきたらそっちの方が使いやすいよ」
「わかりました。それじゃあ……電気ショックです」
「ぷふ、なんなんですかその技名。まあいいでしょう」
「今、バカにしましたよね。真面目に考えたのに。そんなことを言うならセクアナ技だって水鉄砲とか、水遊びですか? その技名をこれからも使うなんてダサいって思わないの?」
その言葉と同時に僕たちは睨み合い、口喧嘩が始まった。
「言ったなー。まぁまだ一つしか魔法を覚えただけで調子に乗っている人の言うことなんて気にしませんけどね」
「チッ、覚えておけよ。夜遅くに森の奥まで連れて行ってやる」
「どうやって? 私を捕まえられる手段でもあるの? 無理なこと言って脅すなんて卑怯だよ」
「ふっ、僕を舐めてもらっちゃ困るな。筋肉も鍛えているし、今日使えるようになった電気ショックで痺れさせたら簡単に連れていけるよ。先に謝らないと、もっと怖いことが起こるよ」
「そんなこと言って本当にやらないくせに」
僕は何も答えず、真顔のまま黙っていた。
「えっ、嘘よね……嘘なんだよね? ねぇ、嘘って言ってよ」
「……」
「ごめん、ごめんなさい! ちゃんと謝るから暗くて怖いところはやめて、怖いの嫌い」
ちゃんと謝ったので、僕も許してこの喧嘩は終わった。
でもちょっと悪戯で驚かしたいな。
魔法の修行を続けていると、すぐに夕方になった。
「お疲れ! 今日の練習も終わり。新技もあって疲れたね」
「あーー疲れた。もっとたくさんも魔法を早く使いたいな」
「そうだね。水飲む?」
「お願い」
「じゃあ口開けて」
そう言って手を僕の口の前に出した。
「クリエイト・ウォーター!」
「ぷはぁー。美味しい」
たまにこうして給水機のように使っていることもある。人の手から出ているけど、すごく美味しい。なんでだろうね。
「そう思えばセクアナって、女神様だったからとてもすごい魔力とか持っていないの?」
「昔だったらここら辺を洪水にできるほどの水は出せたけど、今は普通の人間だからね。そんなことできないよ」
「へぇ、今はできないんだ」
「……ん? 今自然な顔して洪水にできるって言った……?
女神様の魔力ってすごいな。
ていうか怖!
でも大丈夫なの、水の女神がいなくなっても」
「あーー、それは他の女神が私の代わりにやってくれるんだ。もうこの世界に来てしまったから女神には戻れないしなぁ。死んでしまったら、トモヤと同じように天国に行くと思うよ」
すこし天界のことが懐かしがっているのか、寂しそうだった。
「それにしてもセクアナはすごいね。この世界を守るために女神様だった人が人間になるなんて。本当、尊敬するよ!」
「……そ、そっか、ありがとう」
ふいっと顔を背けて足を早めて家の中に入ろうとする。
「あれ? 照れてるんですか。照れてますよね」
「うるさい、うるさいです。照れてません」
「顔を背けなくても、耳が赤くなってるよ」
「あーも、うるさい。それ以上女神をからかうと天罰が降るよ」
「アハハハ、照れ隠しですか。珍しくかわいいですね」
「はいはい、もう私の命はあなたに預けているようなものです。サタンを倒すまで、ずっと守ってくださいね! 約束ですよ」
「はい! その代わり、セクアナもどれだけピンチでも生きることを諦めないと約束してよ」
「うん、私も約束する」
お互いに小指を出して握り合う。
この時の約束は忘れない!