雷魔術師の現実
6歳になった。
そろそろ将来のこともあり、魔王サタンを倒すためにしなければならないことをセクアナが教えてくれた。
「私たちが強くなることは前提なのですが、他にもやらないといけないことがあります。それは魔法騎士の試験に合格して、国を守る騎士にならないといけません」
おー、なんか、かっこいい響きの言葉キターー!
「騎士! いいですね」
まるでヒーローみたいで興奮した。
「はい! 響きがかっこいいですよね。男の子なら必ず憧れる仕事です。ですがこの試験はとても大変で、何千人と希望する中で毎年、数十人しか合格できないのです。だから、もっと強くならないと私たちは合格できません。分かりましたか?」
僕の世界で簡単に言えば、倍率の高い東大に合格するようなものだろう。
魔法がまるで勉強のようだ。
「うーーん、どれくらい難しいかわからないけど強くなればいんだよね」
「まぁ、その通り。ですがこの試験には貴族や王族も受けます。
まだ話していないかもしれませんが、貴族の魔力量はすごいんですよ。今まで私たちがやってきた修行をしなくても、魔法の才能を持っています。もし同年代の貴族の子と私が今、戦ったら負けると思います。それに王族はもう魔力量の格が違います」
大きく目を開いて、どれだけ魔法騎士の試験が難しいか必死に教えてくれた。
魔法騎士のことを軽く考えていたが少し不安になってきた。
「その貴族を倒すためにも、もっと修行をしましょう!」
そう言って、手を差し伸べてくれた。
僕はその手を握り、真面目に修行する。
今日は特に筋トレやランニングをやった。
魔法をだんだん操れるようになると、次はこっちの練習がキツくなってくる。
サボりたいと思うこともあるが、頑張っている。
一応、この結果は剣術に活かせているからとてもいい。
今のところ、初めにやった電気を手から出す修業が一番苦しかった。使えているのかわからず、同じことを繰り返し何日もやっていたからね。
最近は、トレーニングをたくさんして筋肉が引き締まり、強くなったように見える。
「298、299、300、 ふっ、はぁーー。よし、これで終わった!」
「よく頑張ったね、お疲れ」
ビシャーーー
そう言って手から冷たい水を放出して体を冷やしてくれた。
「今日はあとランニングをして終わり。すこし休憩したらすぐに行くよ!」
言われた通り、楽に呼吸ができるようになったらいつものコースを走った。
最近、セクアナは魔法の修行をよくしている。自分のことでいっぱいだからどんな方法で修行しているか分からない。だから聞いてみたい。
夕暮れ時に家に帰り、修行が終わった。お互い汗だくで家に入る。
「フーー、疲れた」
温かいお湯に浸かって一息つく。
今日は久しぶりのお風呂だ。
ここではお風呂もシャワーもないから毎日お湯に浸かれない。だから一週間に三回、四回くらい大きな入れ物に水を入れてお湯を沸かしてお風呂を作る。
土管風呂みたいなものだ。
セクアナに一緒に入ろうと、冗談で言うとビンタされた。あのビンタは痛かった。今でも顔が赤く腫れている。
その後しばらく口を聞いてくれなかった。
こんなこともあったが、リラックスして体を癒している。
何よりもここの夜空を見ながらお風呂に入るのは絶景だ。
この自然の恵みを感じることは前世ではできないなぁ……
風呂から上がると、セクアナが次に入るのかタオルなどを準備していた。そして母はご飯の用意をしている。
殴られたお返しに、バレないように覗いてやろうかな。
そんなことを考えていると、ご飯が出来たのか母に呼ばれた。
「いただきます!」
家族でいつものようにご飯を食べた。
「トモヤもセクアナも魔法の練習を頑張っているのねぇ。何か目指しているものでもあるの?」
「お母さん、僕たちは魔法騎士を目指しているの!」
「えっ!」
大きな声でそんなことを言うと、母は固まっていた。
「そっ、そうなんだ……」
そのあとは会話もなく無言で食事をした。
なぜだか分からないけど、僕の一言で一気に気まずくなった。
なんか爆弾でも踏んでしまったかな?
食事が終わると、「寝る準備をしなさい」と母は言わず、リビングに僕とセクアナは呼び出した。
「そろそろ話すべきね……」
そんなことを言いながら覚悟を決めて、こちらを向く。
「今から、トモヤに起こるかもしれない悲しい雷魔術師の話をするけどいい?」
「はっ、はい……」
怒るとはまた違う、初めての雰囲気を母から感じて緊張してしまう。
「トモヤ、本当に魔法騎士になるの?」
「はい、僕はセクアナと一緒に魔法騎士になって、魔王サタンを倒したいです」
「覚悟はある?」
「覚悟ですか?」
「ええ、雷魔法は本当に生きにくい魔法なの。お母さんは教えていないけど、サタンのことは知っているんだよね」
「はい! セクアナにいろいろ教えてもらいました」
「そうなんだ。セクアナは賢いね」
「えへへへへ」
そう言いながら頭を撫でていた。
そんなことをしながら暗いトーンで話を続ける。
「今までの魔法騎士の中で、とても強い雷魔術師が一人いたのよ。名はサンダー・ブラウン。
王都に初めて現れた時、民衆はサタンと同じ魔法だったから彼を怖がっていたけど、ブラウンはとても強かったから、それによってたくさんの人が救われて信頼や名声を手に入れたんだ」
ここまでの話を聞くとまだ生きにくいと思えないな。
すると母は深刻そうな顔になった。
「そこまではよかったのよ。でもサタンに恨みを持っている王族や貴族がそれを許せなかったの。絶対に勝てない無茶な戦いに参加させたり、聞こえるようにわざと陰口を言ったり。
無茶な戦いに行ったせいで大切な仲間が全員戦死してしまったの。それによって憎しみが溜まりすぎてブラウンの魔法が暴走。
王都は大惨事になったのよ。
魔法の暴走のせいでたくさんの人が死んでしまい、最終的にブラウンはサタンと同じ悪人と認定され、最期は魔法騎士によって殺された。
あれから王都ではこの噂がたち、それがこんな田舎まで広がっているわ。トモヤが雷魔法を操ると知ったら、たくさんの人に苦しい視線を向けられると思う。
合格したとしても民衆や騎士団に差別されることもあるかもしれない。それに、もしトモヤが雷を制御できず、暴走したら殺されてしまうかも……
だからお母さん、あなたのことが心配で、心配で……」
母からの目から滴が垂れていた。
僕のことを大切に思っていて、魔法騎士になって欲しくないと言っているように聞こえた。
だが、僕は大きな声で宣言する。
「魔法騎士になります。ちゃんと覚悟はできています!」
自信満々に言った。
今は苦しいことはなく、こんなことを簡単に言える。
でも僕はサタンを倒すためにたくさん努力している。
今更辞めることなんてできない。
それに女神様、セクアナは僕を選んで、一緒にこの世界へ転生してくれた。女神様だった人が今は人間になってこの世界を救おうとしている。そんな覚悟を見せつけられたら目標を変えることなんてできない。
必ず魔王サタンを倒す。
そう心に誓っている。
自信のある声を聞くと母は安心したのか、いつものように戻った。
「そう……やるなら、とことん修行して強くなりなさい。そして必ず魔王サタンを倒すのよ……さあ、明日も修行をするんだから早く寝なさい」
引きつった笑顔を見せながら、まだ終わっていない食器を洗いに行った。
明るくいつものように振舞っていたが、母の背中はいつもより小さく、今までで一番悲しんでいるように見えた……