表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

オリジナルSS集

モテたい男

作者: 山岸マロニィ

「……ほう?モテたいと?」

「はい」

 占い師の老女は、目の前で顔を伏せる男に、黒いヴェール越しに目をやった。

「なぜ?」

「ご覧の通り、四十を超えて、焦ってはいるんです。両親からは、早く孫の顔を見せて安心させてくれと、毎日のように言われて。けれども、職場は男ばかりで、そもそも出会いなんてなくて……」

「出会いがなくて、どうやってモテるんだい?」

「結婚相談所や婚活サイトですよ。いくら使ったか分かりません。でも、デートまでは何とかなっても、一度きりで連絡が取れなくなってしまって……」

「ふうん」

 老女は皺だらけの骨張った指を顔の前で組んだ。

「幾ら出せる?」

 心の奥底まで見抜く老練な目にまじまじと見据えられ、男はどぎまぎと視線を揺らした。

「い、一万、とか……」

「馬鹿だねぇ」

 老女は大きな石の付いた指輪を撫でた。

「私ゃ魔女だよ。あんたの望みを、確実に叶えられる力を持ってる。だけどね、安売りはしないよ」

「じ、じゃあ、十万……」

「今まで女にどれだけ注ぎ込んだ?」

「百万、くらい、かな……」

「これまでに出会った女どもとこの私、どちらを信じる?」

 男は歯ぎしりして、クレジットカードを、タロットカードが散らばったテーブルに投げた。

 老女はニヤリとした。

「毎度あり」




 全財産の代償に受け取ったのは、何の変哲もない封筒だった。表に、それっぽい文様が描いてある以外は、どこにでもある茶封筒。

 男は手を入れ、中身を取り出した。そして叫んだ。

「……な、なんだこれは!?」

 男の手にあるのは、メンズファッション誌数冊。コンビニでよく見る、ありきたりなタイトルの下で、粋がった表情の男性モデルが奇妙なポーズを取っている。

 ──騙された。

 その認識に至るまでにしばらくかかった。手が震え、呼吸が乱れる。

「あああああ!!」

 男は叫んで、雑誌を床に叩き付けた。それから、封筒を滅茶苦茶に破り、ゴミ箱に投げ込んだ。


 そして、少し冷静になった。

 そうだ、返品してやればいい。詐欺で訴える、弁護士の知り合いがいるとでも言えば、応じるだろう。


 男は雑誌を拾い上げ、一目散に占い師の元へと急いだ。

 ──だがそこには、占い屋どころか、それがあった形跡すらなかった。

 狐につままれた気持ちで、男は足を消費生活センターに向けた。

 窓口の職員は首を振った。

「領収書はないんですか?確かにお金を払ったという」

「……いや。で、でも、クレジットカードの利用状況を調べれば……」

「解約されてますね」

「………」

「この操作が不正である、という確かな証拠がある、というのでなければ、私どもは何とも……」

「ちょ、ちょっと待……」

「そもそも、騙したという相手が特定できない限り、訴訟も無理でしょう」

「………」

 奥へと下がっていく職員の背を、男は黙って見送るしかなかった。


 建物を出た男は、膝から崩れ落ちた。

 アスファルトに突っ伏し、慟哭する男にチラリと視線を送るだけで、人々は通り過ぎていった。




「──本当に、馬鹿だねぇ」

 老女は水晶玉に映る男の背中に蔑んだ目を向けた。

「あんたが欲しいのは、払った金に対する見返りだけなんだよ。自分を磨きもせずに、見返りだけを求めてちゃ、女は見向きもしないだろうよ

 それに……」

 老女が軽く撫でると、水晶玉から男の姿が消えた。

「私ゃ騙してなんかないさ。

 本物の魔法をかけておいたんだけどねぇ、あの封筒に」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ