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妖子の剣士  作者: ゆゆ
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初任務①

「あー、つまんねー!!」


田んぼに囲まれた細い小道に焔の不満げな声が響く。

現在、焔をはじめとする清水班の4人は初任務のため依頼人の待つ田舎の村へと向かっていた。


「もー、いつまで文句いってるの!任務なんだから仕方ないでしょ!」


「そうだぞ焔!志乃ちゃんもこう言ってんだからあんま拗ねんなって!」


「そうね。確かにずいぶんと拍子抜けだけれど、ここで文句を言っても無駄な体力の消費なのは明白ね。」


「ほらほら、薫ちゃんだってこう言ってるぞ!」


「うーん、けどよ〜。」


他の3人に怒られながらも、焔は隊長から初任務のことを聞かされた時のことを思い出していた。







ー前日ー


「それじゃあ、君達が一番気になっているだろう初仕事について話そうか。」


初任務きたーーーー!!


「うんうん、気合いは十分だね。一応説明しておくと、僕たちの任務のほとんどは全国各地から寄せられる依頼をこなしていくことなんだ。もちろん、それぞれ内容が違うし危険性が高いものもあるから、基本的には本部が整理してそれぞれの隊員に合った依頼を振り分けていくんだ。で、君達は今回初めての任務だから危険性で言うと一番下の依頼を受けてもらうことになる。」


「なるほど。で、どんな任務なんだ!?」


焔が待ちきれない!といった様子で質問する。


「じゃあ、さっそく依頼書を全員に渡そうか。」


そう言うと、全員に依頼書を渡してまわる。


「よっし!どんな任務でもサクッと解決だ!」


焔は、ワクワクで依頼書を受け取りすぐに目を通す。

そして、固まる。

どうやら他の3人も同じ反応のようである。


「やっぱり、新人くんはこれくらいやる気がないとだね。どうだい?初任務の感想は?もっとやる気出たんじゃない?」


清水隊長は隊長でなぜか無理にテンションを上げている。


「なんだ…これ…?」


「そう!君たちの初任務は迷い猫の捜索だ!うん、いいよね!猫!可愛いし!」


「そん…な…」


焔はあからさまにガッカリし、志乃と大地は苦笑い、薫はあまり顔にはでないが拍子抜けだという表情である。


「あー、やっぱりダメだった?気合い入れてたところ申し訳ないんだけど…。新人隊員だし初任務だしで、危険性のない任務しかまわってこないんだ。僕たちの仕事はどうしても危険がついてまわるから、徐々に経験を積んでからじゃないと任務を受けられないことにしてるんだ。」


「いや、それはわかるッすけど猫の捜索って!任務ですらね〜!」


「ん〜、でも陽滅隊って妖怪・妖魔の退治以外はこんな感じだよ?色々な依頼が全国から来るからね。」


「そんな〜」ガックシ







ーそして今に至るー


「猫を探すって…。どーもやる気でねーんだよな〜。」


相変わらず焔は肩を落としながらフラフラと歩いている。

そんな焔になぜか機嫌がいい大地が後ろから勢いよく肩を組んで話しかける。


「まぁまぁ、そんなカリカリすんなって!安全に越したことねぇだろ?」


「そうだけどよ〜、てかお前今日うざいくらいにテンション高いな?」


「当たり前だろ! 考えても見ろ、あんな美少女二人と旅できるなんてテンションも上がるってもんだろ?」


「旅行じゃねーんだぞ…」


「片や明るい系笑顔が可愛い美少女、片やクール系なんでもそつなくこなす美少女!うん、最高!」


「話聞けよ…」


大地はそれにも反応せず、緩みきった顔で楽しげに会話している志乃と薫を眺めて何かブツブツ言い始めた。


「ああ、ダメだコイツ…」


そんな大地を見て珍しく不安を覚える焔であった…








「ん?なんか村が見えてきたぞ?」


どれくらい歩いただろうか、騒がしく歩いているうちに田舎の小さな村にたどり着いていた。


「どこだ?ここ?」


「も〜、ここが依頼人さんの村でしょ!ちゃんと、依頼書見なよ!」


「お!やっと着いたか!じゃあ、何から始めようか!」


「とりあえず依頼人に会って話を聞くことが先決でしょうね。」


「じゃあ、行くかー。」


焔はいかにもやる気なさげに歩いてく。


「ちょっと焔!ちゃんと家わかって歩いてる?」


「あ…」


真面目にやれ!!!


「すいません…」


そうして、4人は依頼書に記載されている住所に向かい一軒の小さな家にたどり着いた。


「すいませーん!陽滅隊から参りました!どなたかいらっしゃいますかー!」


志乃が代表して扉を軽くノックしながら声をかけた。

するとしばらくして扉が開き、中から一人の女性が出てきた。


「陽滅隊の方々ですか?わざわざこんな所までありがとうございます。どうぞ中にお入り下さい。」


「失礼します。」


その女性の名は村田菊さんといった。

菊さんは4人を客間へ通すと、座布団を敷き全員にお茶を出すと自分も同じように座布団を敷いて4人の前に座った。

志乃は軽くお礼をいうと、さっそく依頼について話しを始めた。


「それじゃあさっそく、依頼についてお話を聞いてもいいですか?」


「はい。1ヶ月前にうちで飼っていた猫が家を抜け出したきり帰ってこなくなりまして…。猫が家出をするのは珍しいことではないんですが、ここまで長い家出は初めてでして。」


「それは心配ですね…。」


志乃は心底心配そうな顔で言う。


「私も探してはみたんですが、村中探しても見つかりませんで。家出と言っても散歩程度なのでそんなに遠くへは行っていないと思うのですが。」


「そうですか。では、その猫ちゃんの特徴を教えていただいてもいいですか?」


「はい。毛の色は茶色で虎のような模様をしていたのでトラと名付けていました。」


「へ〜、トラちゃん!可愛いんだろうな〜!!」


「ありがとうこざいます。…。」


そう答えたものの、なぜか菊さんは申し訳なさそうな顔をしている。


「どう…されました?」


「あ、いや、すいません!お忙しいでしょうにこんなことで陽滅隊の皆さんに来て頂いて!」


「そんな!謝らないで下さい!」


「ありがとうございます。実は、トラは私の息子の浩太がよく可愛がってまして。息子はどうにも友達づくりが苦手なようで、村の子供たちと遊んでいるところを見たことがなかったんですが、ある日拾ってきたトラには心を開いたようでまるで友達のようによく遊んでいたんです。でも、トラが居なくなってからずいぶん元気をなくしてしまって、ずっと外にも出ないで部屋に閉じこもってしまって…。」


「そうでしたか…。」


「それに…。」


「?、他にも何か?」


「実は…、最近この村の周辺で怪我をして帰ってくる人が何人もでていて、怪我をした人はなぜ自分が怪我をしたのか分からないそうなんです。それに、詳しくは分からないんですが、その傷跡がどうにも妙らしくて…。自分でトラを探すのもなんだか怖くなってしまって…。」


「なるほど…、事情は分かりました!トラちゃんの捜索は私たちに任せて下さい!」


志乃は安心させるように明るい笑顔でそう答える。


「よろしくお願いします。」


菊さんも少し安心したように軽く頭を下げた。


「それじゃあ、私達は…」


ガタッ!


志乃が話を切り上げようとしたところ、奥の部屋の襖が音を立てて少し開いた。


「…?」


少し開いた襖から7歳くらいの小柄な男の子がこちらを窺うようにのぞいている。


「男の子?」


「ああ、先ほど話した息子の浩太です。ほら浩太、こっちに来て挨拶なさい。」


菊さんに呼ばれたその男の子は少し躊躇いがちにゆっくりと出てくるとチョコンと菊さんの隣に座った。


「君が浩太くん!初めまして!」


浩太くんの緊張をほぐすように笑顔で志乃が話しかける。


「う、うん…。」


しかし、浩太くんは少し俯き気味にそう返事するだけだった。


「こら、浩太!きちんと返事なさい。」

「すいません!緊張してるみたいで…。」


「ああ!いいんですよ!気にしないでください!」


そんなやりとりをしている間にも浩太くんは常にぎゅっと菊さんの服の裾を握っている。かなりの人見知りのようである。


「ふーん、お前が浩太か?」


すると、今まで黙って話を聞いていた焔がいきなり浩太くんに話しかけた。


「!、う、うん」


浩太くんは少し驚いたように焔を見たが、すぐに俯くと小さく返事をした。

志乃たちも驚いたように焔を見たが、焔は気にせず続ける。


「お前、友達いないんだって?」


「…、うん」


「ふーん、で?猫が友達ってか?」


「と、友達じゃないよ。トラは、ぼ、僕の親友なんだ…。」


「へー、じゃあ、なんで自分で探さないんだ?」


「へ?」


浩太くんが俯いていた顔を上げる。


「トラは親友なんだろ?その親友が1ヶ月も居なくなってるってのに心配じゃねーのかよ?」


「そ、それは…」


「母ちゃんに全部やってもらって、自分はいかにも傷ついてますって顔で部屋で引きこもって。それでなんか変わんのか?」


「で、でも…」


「でもじゃねぇ!そんなんだから友達もできねぇんじゃねぇのか?」


少し声を荒げた焔の声に驚いたのか、浩太くんはビクッと体を震わせる。


「ちょっと!焔!」


さすがにマズイと思い志乃が焔を止めに入るが、もう浩太くんは涙目になってしまっている。


「お、お兄ちゃんなんかに僕の気持ちなんか分からないよ!!」


浩太くんはそう叫ぶと、自分の部屋に走って戻って行ってしまった。


「待て!浩太!お前はそうやっていつも逃げて来たんだろ!なにもしてねぇクセに一丁前に引きこもってんじゃねえ!」


「ストーップ!ストップ!!ちょっと落ち着けって焔!ほら行くぞ!」


「な!?離せ!大地!まだ話は終わってねえ!!」


慌てて大地も焔を止めに入り、引きずって家の外へ連れて行く。


「菊さん、ほんっとにごめんなさい!!今日のところは失礼します!また、伺います!」


「いえいえ!お構いなく。トラのことよろしくお願いします。」


「はい!!」


志乃も深く頭を下げて謝ると、いそいで焔たちの後を追う。


「失礼します。」


薫も軽く頭を下げると志乃について家を出たのだった。








村田家を後にした4人は昼食がてら村のお団子屋さん前の長椅子に焔を座らせ落ちつかせていた。


「ほら、ちょっとは落ち着いたかよ?」


暴れる焔を引っ張って来た大地は、ゼーゼー肩で息をしながら尋ねる。


「フンッ!」


しかし、焔はまだ納得がいっていないようだ。


「なんであんな言い方したの?」


志乃はまるで子供を叱るお母さんのように両手を腰に当てて焔の前に立ちはだかる。


「俺は、自分でなんにもしてねぇクセにメソメソしてる奴を見てるとムカつくんだよ!」


「言いたいことはわかるけど、あの言い方は無かったんじゃない?」


「でも、あいつが!」


「言い訳しない!」


「ぐっ!ああ、もう!悪かったよ!」


「分かったらよろしい。ったくもう。」


どうやら焔は志乃には頭が上がらないようである。


「プッ!なんか志乃ちゃん焔の母ちゃんみてー!」


「ええ、そして焔くんが怒られる悪ガキってとこね。」


「ああ?」ギロッ


「ひっ!?」


焔をバカにしていた大地は慌てて薫の後ろに隠れる。

薫は薫で涼しい顔をしている。


「焔?」


「ぐっ!」


今度は志乃が焔を睨んで焔が静かになる。


「ほら、もう任務の話するよ!トラちゃんの捜索だけど今のところ何も手かがりはない感じだね。」


「そうね、とりあえず村で情報を集めてみるのはどうかしら?何か目撃情報があるかも。」


「俺も薫ちゃんに賛成だな。闇雲に探すよりはマシだと思う。」


「そうだよね、私もそれがいいと思う。トラちゃんの件はそれから始めるとして…、怪我人が何人もでてるって話どう思う?」


「トラちゃんがいなくなった件と関係があるかは分からないけど、少し気になるわね。」


「確かに、トラの件と一緒に村人にそれとなく聞いてみるか?」


「そうだね、そうしようか!じゃあ、固まっても仕方ないし二手に分かれて行動しよ!」


「ええ、その方が効率がいいわ。私と志乃は西側を行くから、大地くんは焔くんと東側をお願いできる?」


「え!!こ、ここは男女組んだ方が…」


「わかった、任せろ。」


「って、焔!?」


「なんだよ?お前が志乃か薫と組むとロクなことしない気がする。」


「同感ね。」


「ちょっと酷くない!?」


「あははは、なんか清水班で初めての任務なのにいつもの感じに戻ったって気がする!」


「!、うん…、確かに。えっと、その…、さっきは熱くなってごめん!」


焔は、少し照れくさそうに3人に頭を下げて謝った。


「うん、いいよ!焔なりに浩太くんを心配して言ったんだもんね?浩太くんもきっと分かってくれるよ!ね?二人とも?」


「ええ。」


「おう!」


「あ、ありがとう。」


「うん!じゃあ、大地くんをよろしくね!焔!」


「おう!任せろ!」


焔はもういつもの笑顔に戻っていた。


「あ、あれ?さっきまで焔の方が問題児感出てたよね!?」


「よっしゃ!行くぞ大地!」


「って、おわ!引っ張っんな〜!!」


大地の訴えも虚しく焔に引っ張られて行ってしまった。


「じゃあ、私たちも行こうか!薫ちゃん!」


「ええ。」


こうして、焔たちの4人の初任務が始まったのだった…。

遂に焔たち4人の初任務が始まりましたね!

一体どうなることやら…

評価やコメントをしていただけると作者のモチベーションが上がります!!

よろしくお願いします!

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