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妖子の剣士  作者: ゆゆ
8/27

入隊

えええええええーーーーーーー!!!


焔達を含め志願者全員が驚きの声を上げる。


「うんうん、100点のリアクションをありがとう。」


琥太郎はその反応に満足げに頷いている。


「倒した数で合格が決まるんじゃなかったんですか!?」


志願者達から当然とも言うべき質問が上がる。


「いいや、この試験に合格する条件は時間制限まで脱落することなく生き残ること。ただそれだけだよ?」


「そんなぁ〜、俺けっこう頑張ったのに…」


それを聞いた焔はガックリと肩を落とした。

そんな焔を志乃が「まぁまぁ」と慰める。


「倒した数を競えなんて僕は一言も言ってないからね。」


「ちぇ〜」


「でも、自信持ってくれていいよ。それだけ過酷な試験だったということだからね。」


事実、琥太郎の言ったことはお世辞でもなんでもなく今年の入隊試験はかなりの難易度に設定されていた。


「さて、これから見事試験に合格した君達に陽滅隊入隊について説明したいところなんだけど…。

ちょうど日も暮れてきたし、君達も疲れているだろうから君達がこれから入る寮を軽く紹介して今日は休んで貰おうと思います。」


琥太郎はそう説明すると、この広大な本部の敷地の一角にある陽滅隊員専用の寮へと案内し始めた。







ー陽滅隊新隊員寮ー


これまた大きな和風の建物で、何本かの廊下が6階ほどの二つの建物を繋いでいるような造りの建物で、右の建物が男子寮で左が女子寮らしい。

琥太郎によると、毎年新しい隊員が入ってくるごとに作られるらしく年代ごとに区画で分けられているらしい。

十数人しかいない合格者の為に一つの建物を建てるなんてかなりの大判振る舞いである。

ちなみにそれでも土地の余裕はかなりあるそうだ。


「うわぁ、デケー!!」


「村じゃ見たことないよ…」


焔と志乃はかなりの田舎者なので驚くことばかりである。

確かに焔と志乃は極端な例だが、普通の村出身者からしても大きめである。


「それじゃあ、食堂から紹介するね。」


どうやら一階だけは二つの建物が繋がっており大きな食堂になっているようだ。


「ここは共同の食堂です。基本的にはいつでも空いてるから好きな時に好きな物を食べることができるよ。」


「おおー。」


「2階から6階までは君達一人一人に部屋を用意しています。生活に必要な物は大抵揃えてあるから今日から部屋で休んでね。まぁ、任務が始まったらほとんど宿ずまいになるだろうけどね。」


「おお!」


「湯浴みは男女それぞれの大浴場を使ってください。

ちなみにウチは各種たくさんの効能があるお湯を揃えてありますから是非お楽しみ下さい!」


「おお!!!」


「なんだここ!天国か!?」


新入隊員達から次々と歓声が上がる。


「スゴイな!志乃!」


「うん、確かに。てか清水さんが旅館の女将に見えてきたよ。」


嬉々として寮について説明する琥太郎は志乃の言うように旅館の女将さながらである。


「とまあ、寮の説明はこのくらいかな?入隊に関してのことは明日説明することにするから、今日はそれぞれ明日に備えて英気を養うように。以上。」


琥太郎はそう言ってニコリと笑うと、寮を出て行った。

それをかわきりに新入隊員達はそれぞれに休息をとり、明日に向けて早めに就寝するのだった。






ー翌日ー


(あれ…、ここどこだっけ?)


目が覚めた焔は、見慣れない和室の部屋で新品の布団に包まれていた。


(ああ、そうだ。俺、昨日から寮に入ったんだった。)


布団から起き上がり大きな伸びをする。

昨日は試験でかなり疲れたのか、早めに布団に入るとすぐに寝てしまった。

寝起きでボーっとしたまま改めて部屋を見回す。

8畳ほどの畳の部屋に押入れや机など必要なものがあらかた揃えられている。

十蔵と志乃とそれなりに騒がしく過ごしていた焔からすると静かで少し寂しい気がした。


「じっちゃん元気にやってっかな?」


ふとそんなことを考えていると部屋の入り口の襖の前に一枚の紙が落ちているのに気がついた。


(ん?何だあれ?)


紙を拾って読んでみる。


「辰ノ刻(午前9時)までに陽滅隊本部別館白虎清水隊長まで来るべし」


「本部別館…?ンなのあったっけか?」


陽滅隊の本部自体は広い敷地の真ん中に門を構えており、またそれを囲むように本部別館である4つの建物

朱雀・青龍・玄武・白虎がそびえ立っている。


「とりあえず行ってみるか…」


そうして焔はまだ半分寝たまま寝間着から着替えると本部別館へ向かうのだった。







ー本部別館白虎ー


「デケー!!!」


驚きと共に白虎の建物を見上げる。

本館には及ばないもののかなりの大きさと豪華な建物だ。白を基調にした建物はその名の通り伝説の生き物白虎をモデルに造られたもので、さすがの焔でも少し緊張するというものだ。

中に入ると正面に受付があり、陽滅隊の隊員なのだろうか女性が一人座っていた。


「えっと…、清水隊長はいらっしゃいますでございますか!!」

(あんま使ったことないけど、敬語ってこんな感じだよな…)


「フフフフッ!新入隊員の方ですね?」


「は、はいッス!」


「お名前を教えていただけますか?」


「千景焔です!」


「ちょっと待っててくださいね…。はい!確認とれました!清水隊長は、3階の右側の廊下2番目の扉の部屋でお待ちです。」


「はい!あざっした!」


「フフフフッ!いいえ。元気ですね?」


「え?は、はい!ありがとうございます!!…?」

(ん?これで返事合ってっかな?)


「いってらっしゃい!」


「は、はいッス!」


焔は、終始にこやかに対応してくれた受付さんに不自然なくらい直角のお辞儀をすると清水隊長が待つという部屋に向かった。


「えーと?右側の2番目…。おっ!ここか!」


木製のドアの横には隊長室と書かれた札が貼ってある。

リラックスする為、一息つくとドアを2回ノックする。


「陽滅隊新入隊員!千景焔です!」


「はーい、開いてるから入ってきていいよー。」


聞き覚えのある優しげな声が中から聞こえてきた。


「失礼します!」


そう言って中に入ると昨日試験官を務めていた優男、清水琥太郎とよく見知った顔がもう一人いた。


「あれ!志乃!?」


オレンジがかった薄茶色の髪を片側だけくくったスタイルの美少女、志乃であった。


「焔!?」


志乃は志乃で驚いた表情をしている。


「よし、これでみんな揃ったね!10分前集合、優秀優秀!」


小さな部屋に机と椅子だけがある部屋で、これまで椅子に座っていた清水琥太郎が待ってましたとばかりに立ち上がった。


「ほらほら、二人とも固まってないで僕の前に立ってもらえるかな?」


「はいッス!」


「は、はい!」


琥太郎は見つめ合って固まっていた焔と志乃を呼び寄せると説明を始めた。


「知ってるとは思うけど一応自己紹介するね?今日から君達の班の隊長となる清水琥太郎です。よろしく!」


「よろしくお願いします!!」


「よろしくお願いします!」


「はははは、そんなかしこまらなくていいよ。一応君たちの直接の上司になるんだけど…、そういうのガラじゃないっていうか…、なんなら敬語も使わなくていいからね?」


「あっ、じゃ遠慮なく。」


「ちょっと!焔!」


「うんうん、そっちの方が僕もやりやすいからね。それに陽滅隊は基本、階級みたいなものがないんだ。君達のような班で行動する新人隊員と、一人でも任務を受けられる一人前の隊員が分けられてるくらいかな?」


「ん?じゃあ、清水隊長はなんなんだ?」


「確かに、清水隊長は隊長なんですよね?」


「ああ、隊長って言うのは言わば教育係みたいなものかな。歴代の隊長達が一人前の隊員の中から特に秀でた者達を選抜して決めているらしい。だから隊員達は隊長を目標として頑張る者も多い。まぁ、自分で言うのもなんだけどね。」


「清水隊長ってすげえんだな!」


「しかも隊長ってまだ若いですよね!」


「君達から見たら23歳なんておじさんだろ?」


「ん?言われてみたらそうか?」


「こら!焔!」


「さすがに傷つくなぁ〜。」


かなりひどいことを言われているが清水琥太郎は若手のホープでかなりの実力者である。入隊13年目で隊長になった者は長い歴史の中でもそうはいない。

(琥太郎の時は10歳から入隊可能だった。)


「じゃ、そろそろ本題に入ろうか?これから君達は陽滅隊の清水班に入って任務に就いてもらうんだけど、実は陽滅隊って言う仕事は無いんだ。じゃあ焔くん、僕達は何の職業になると思う?」


「え!?えと、えと…、退治屋?」


「残念!でも、しっかり本質は捉えてるね。そう、僕達の仕事は妖怪・妖魔を退治すること。僕達は一応、陰陽師なんだ。」


「陰陽師!?」


「陰陽師ってお祓いや祈祷をするあれですか?」


「そうそう、驚きだろ?僕達はお祓いや祈祷は出来ないし、かなりの武闘派だからね。実は、陽滅隊は衰退した陰陽師の代わりに作られた組織なんだ。陽滅隊の「陽」は陰陽師の「陽」だからね。」


「へー!!俺はてっきり最近巷で有名な「○滅の○」を意識した組織だと思ってた!!」


「焔!思ってても言っちゃダメでしょ!」


「あはは、確かに似てるよね〜。」


「ちょっと、隊長まで!」


*某物語とは一切関係ありません。


「冗談はこれくらいにして、陽滅隊の起源についてだいたい分かったかな?」


「はいッス!」


「はい!」


「よし、あともう一つ大事なことがある。僕達は妖怪・妖魔を退治することを生業としているけど、人間以外のもの全てが僕達の敵だということではないと知ってほしい。」


琥太郎のいつもの笑顔が真剣なものになっている。

焔と志乃も焔の体質のこともあり、一番理解しているつもりだが理解しているからこそより真剣に琥太郎の話に耳を傾ける。


「確かに人に危害を加える者もいる。だけど、人との共存を願う者や中には陽滅隊に協力してくれる者もいる。彼らにも僕たちと同じく命があるということを決して忘れないように。」


「はい!!」


「はい!」


「うん、君達は問題なさそうだね。」


そう言うと琥太郎はいつもの優しい笑顔に戻っていた。


「あと何か言うことあったかな?あっ、そうだこれを渡さないとだね。」


すると、琥太郎は机の中から何かを取り出して焔達に渡した。


「なんだこれ?」


「白い服…?」


「羽織だよ。新撰組みたいでカッコイイだろ?隊服っていうほど堅苦しいものじゃないけど、一目で陽滅隊だって分かりやすいから目印になるんだ。ほらほら、着てごらん?面白いことが起こるよ。」


琥太郎の言葉に首を傾げながらも渡された白い羽織を着る。

ちなみに二人の服装はというと、焔の上は一般的な着物で下は忍者が履くような動きやすい細身のものを履いている。足にはこれまた動きやすいように足袋を履いている。

志乃はくのいちのような袖のない着物を着ており、お腹の辺りに帯を巻いている。下は太ももの半分辺りまであり、かなり短めだが大事なところはしっかりと隠れている。足は焔と同じく足袋を履いている。

これは二人が特別なわけではなく、ほとんどの隊員が同じような格好をしている。

動きやすさを重視すると自ずとこの服装になるのだ。

それを証拠に琥太郎も羽織を脱ぐと焔と同じような服装になる。


「?、なんも面白いことおこんないぞ?」


「うん、変わらないね?」


「いいや、二人ともよく自分の羽織を見てごらん?」


琥太郎に言われるがまま、改めて自分の羽織を見てみる。

すると、真っ白だった羽織がみるみる色を変えていくではないか。

焔の羽織は燃え盛るような紅色、志乃の羽織は陽の光のような優しげなオレンジ色である。


「なんだこれ!すげえ!」


「すごい!綺麗な色!」


「驚いたかい?実はその羽織は特殊な糸で作られていて、着た人物の闘気の色に染まるんだ。それに、闘気の適応純度が高いから「纏い」も纏い易くなるすごい代物なんだ。」


琥太郎は自分が作ったわけでも無いのになぜか自慢げである。


「さて、陽滅隊から君達に支給するものはこれで以上なんだけど…、君達には外部から贈り物が届いているんだ。これを君達にだって」


机の奥にある部屋から袋に入った細長いものを二つ持ってくるとそれぞれ二人に渡す。

持てばズシリと重い持ち慣れたソレが何であるか二人はすぐに分かった。


「これ刀だ…」


「一体誰がこれを?」


「二人に合った刀を二人の為に知り合いの刀鍛冶に作って貰ったらしいよ。まさか鬼と恐れられたあの十蔵さんが君達の前では子供想いの普通の親だったなんてホント驚きだよ。」


「じっちゃんが!?」


「師匠が私たちの為にこれを…。」


「そうだよ?本当なら陽滅隊から支給するところなんだけど、試験前日にまるで君達が落ちることなんて考えていないみたいに送られてきたんだ。」


「じっちゃん…」


「ホント師匠には敵わないな…」


焔が想いにふける隣で、志乃も目を潤ませながら呟いていた。


「こんなことが出来るんなら、僕らにももう少し優しくして欲しかったよ…。」


そう言って琥太郎は、思い出すように笑う。


「清水隊長は、師匠のこと知ってるんですか?」


「ああ、期間は短かったけどかなりお世話になってね。君達の事情も十蔵さんから聞いてる。」


「・・・。」


「あ!じゃあ、清水隊長が師匠の言ってた…!」


「うん、その中の一人だよ。大丈夫!絶対に焔くんを悪いようにはしない!それに、清水班のあとの二人も僕が信用足りうる二人を選抜して事情を説明してあるから安心してね。」


「へ!?」


「あとの二人って?」


「あれ?言ってなかったっけ?清水班にはあと2人いるんだ。陽滅隊の新人隊員は少なくとも3人か4人で行動することになってるんだ。」


「聞いてないっすよ!」


「うんうん!!」


「ごめんごめん!実は、あとの二人は先に説明して待機して貰ってたんだ。 二人とも〜!こっちに来てくれる〜?」


琥太郎がそう呼びかけると、机の奥にある扉が開いて二人の男女が出てきた。

茶色の髪に土色の羽織を着た人の良さそうな青年と黒髪ショートに水色に白を混ぜたような色の羽織を着た大人びた雰囲気を持つ少女だ。


「薫!?」


「大地くん!?」


「あれ、顔見知りだった?それはそれで好都合だけど…。とりあえず紹介するよ?寺門大地くんと氷河薫さんです!」


琥太郎に紹介されると二人は前に出て自己紹介を始める。


「寺門大地だ!よろしく!焔は試験前日にあったよな!それと、志乃ちゃんは俺と共同作業を…ゴニョゴニョ」


「焔くんはいいとして、志乃さんは初めてだったわね?氷河薫です。よろしく。」


「お、おう、よろしく…」


「よろしくね!二人とも!」


琥太郎は自己紹介が終わったのを確認するとまた話し始めた。


「これからは命を預け合う仲間になるんだから仲良くするようにね。」


はい!!!


「・・・。」


3人が返事をするなか、珍しく焔だけが返事をせずに不安そうな顔をしている。

自分を理解してくれる仲間が増えたことを嬉しく思う一方で人を傷つけかねない能力を持つ自分をすんなり受け入れた二人を前にして少し困惑してしまったのだ。


「焔くん?不安なのかい?」


「ちょっとな…、お前らは半分九尾の俺をなんとも思わないのかよ?」


「不安な気持ちはよくわかる。仲間になるんだから理解の共有は必要だ。二人はどう思ってる?」


琥太郎に問われた大地と薫は深く考える様子もなくすぐに答えた。


「なんとも思わねえな!逆に羨ましいくらいだよ!イケメンで美少女と暮らしてた上に九尾の力だと!?主人公補正てんこ盛りか!!ふざけんな作者め…!ブツブツ」


「興味ないわね。私の足さえ引っ張らなければそれでいいわ。」


との答えである…。


「ね?僕は信用のおける人物を選んだって言っただろう?」


琥太郎は自慢げに焔の方を見ている。


「・・・」


それに対して焔は口を開けて驚いたような、なんとも言えない表情でかたまり、それを志乃が心配そうに見つめている。


「…、プッ!ククククククッ、ハハハハハハ!」


「焔?」


「ごめん、いやコイツらの返事聞いたらなんか俺が不安に思ってたのがバカみたいに思っちまって!」


「焔…!」


焔の顔からは不安が消え、いつも通りの笑顔に戻っていた。

それを見た志乃もこころなしか嬉しそうである。


「これで分かったと思うけど、少なくとも清水班のなかには君の力について気にするような人間はいない。それに僕たちはもう仲間だ。僕はもちろん全力でサポートするし、ほかの3人とも大いに助け合って欲しいと思う。どうかな?」


はい!!!!


今度は焔も元気に返事をした。


「よしそれじゃあ、清水班が全員揃ったところで君達が一番気になっているだろう初仕事について話そうかな?」


初任務きたーーーー!!


ついに陽滅隊での初任務が始まる。

それは、4人にとって試練にもなるだろう。

4人の不安や期待などの感情がこの小さな部屋に渦巻いているようだった…。

陽滅隊本部、豪華すぎやしませんか!?一体どこからそれだけのお金が…

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