陽滅隊入隊試験②
第6話です!
今回は、ほとんどキャラの登場回になってしまいましたが、楽しんで見てって下さい!
ギャーーーーーーーー!!
焔の絶叫が暗い森に響きわたる。
「な、なんだコイツ!」
目の前の青年が一瞬で繭のように変えられ、振り向いた先に立っていたものは蜘蛛だった。
今まで散々戦ってきた巨大蜘蛛である。
ところが、今までと違う点が一つだけある。
それは、その大きさである。今までの蜘蛛は焔の膝くらいほどのものだった。それでもじゅうぶんデカイのだが、今度のはスケールが違う。
焔の2倍、3倍はあろうかという特大蜘蛛だったのだ。
(デケー、てかそれ以上にこの状況ヤベー!)
離れているならまだしも、特大蜘蛛は焔のすぐ後ろにまで迫っていたのだ。
少しでも動こうものならすぐにでもその大きく長細い足で貫かれそうな勢いである。
(なんでこんな接近されるまで気づかなかった!)
焔の額から冷や汗が流れる。
今すぐにでも特大蜘蛛から離れたいが、動いたらやられる。しかし、このまま動かなくてもいずれはやられるだろう。
焔は、特大蜘蛛を警戒しながらもこの状況から抜け出す方法を思案する。
(そろそろマジでヤベー、どうしたらいい?)
そして、焔は捨て身の選択をする。
不幸中の幸いというべきか焔は自分を守る「纏い」を解いていなかった。
焔のした選択とは、あえて特大蜘蛛の攻撃を受け油断したところを炎を纏った攻撃で仕留めるというものだ。どうせ避けることが出来ないのならば受ければ良いのだ。
しかし、命がけの試みであることも確かで、もしも特大蜘蛛の攻撃が焔の「纏い」の強度を超えてしまったならば、瀕死の重傷を負うことになる。
(でもこれしか思い浮かばねえ。そん時はそん時だ!)
焔は、「纏い」に全神経を集中する。
すると、焔の様子を伺っていた特大蜘蛛が静かにその鋭い足を振り上げた。
(よし、来い!)
焔が覚悟を決めたその時、
「邪魔!どいて!」
鋭くも透き通った声が焔の後方から発せられた。
焔はその声に一瞬驚いたが、体だけは頭とは関係なく反応し、転がるように横に避けた。
「氷結・斬ッ!」
その声と共に冷気が、焔がさっきまで立っていた所を通り抜け、声に反応して一瞬動きが止まった特大蜘蛛を捉える。
すると、特大蜘蛛は瞬時に氷に覆われて固まり、次の瞬間には真っ二つに分かれて崩れ落ちた。
「す、すげぇ…」
焔が真っ二つになった特大蜘蛛を眺めていると、さっきの声の主がスタッと焔の横に着地した。
さっきの声の正体は、サラサラでショートカットの黒髪に、黒い瞳の少女だった。見た目は焔達と同年代で間違いないのだが、少し大人びた雰囲気をもっている。
その少女は、焔はを冷たい視線で見やると、
「君が何をするつもりだったのかは知らないけど、ボケっとつっ立って、死にたいの?」
「い、いや、そんなつもりは無かったんだけど…」
焔は、アハハハと頭をかきながら言った。
「どうせ、纏いでわざと攻撃を受けて隙をつくつもりだったんでしょ?」
「!、なんで分かったんだ!?」
「見ればわかるわよ。てゆうか、本当にやろうとしてたの!?」
「まぁな!」
「そうとう自分に自信があるのか、それともただのバカか…」
「いや、ただのバカね。」
「辛辣ッ!」
その少女は呆れたと言わんばかりに溜め息をついて、その場を去ろうとする。
「あ!ちょっと待った!さっきはありがとう、助かった!お礼したいから名前教えてくれよ。」
「名前は、氷河 薫。お礼なんていらない、私の邪魔さえしなければそれでいいわ。」
「えー!じゃあ、お礼の代わりに忠告ってのはどう?」
「忠告?どういう意味?」
薫は歩き出していた足を止め、怪訝そうな顔をして焔を見る。
「そのまんまだよ。あんまそっち行かない方がいいぜ。」
「?、なぜ?」
「俺たちどうやら囲まれちまったみたいだぞ?」
「!、そんなはずは…」
薫は驚いたように周りを見渡すが、広がっているのは先ほどと同じように暗い森の景色のままだ。
しかし、
「確かに、そうした方が良さそうね。」
目には見えないが確かに先ほどの特大蜘蛛に囲まれまっているようだ。それも十数体はいそうである。
「おっ、薫も気付いた?」
「急に馴れ馴れしいわね…、まぁいいけど。」
「で、どうしてあの特大蜘蛛に囲まれてるって分かったの?」
「匂いだよ、アイツの匂いを覚えたんだ。」
「匂い?へー、鼻が効くのね。」
「へへへ、まぁな」
焔は照れ臭そうに笑う。
そんな焔に目もくれず薫は刀を抜いて構える。
「どうやらゆっくりお話ししている場合じゃなさそうよ。ステルス機能を持っているようだし、結構厄介ね。」
どうやら特大蜘蛛が見えないのはその体の模様によって森の景色に溶け込んでいるからのようだ。
「君の闘気は?」
「炎を出せる!」
「私と相性最悪ね。」
「さっきからひどくない!?」
「闘気の話よ、私の闘気はさっき見たでしょ?」
「氷結、全てを凍らせる能力。」
薫はそう言って手を出すと、手の平の上で氷を作ってみせた。
「すげえ…」
「君、匂いで敵がどこにいるのか正確に分かるのよね?」
「ばっちり!」
「そう、ならここは手を組みましょう。私は気配は感じるけど正確な位置までは分からないわ。」
「それに、君もこの数は骨が折れるでしょ?」
「分かった、俺は何すればいい?」
「君が指示を出して私が氷で敵の動きを止める。
後は各自で仕留める。」
「どお?簡単でしょ?」
「りょーかい!」
そう言うと、焔も刀を抜き構えをとる。
「それじゃあ、準備はいい?」
「あ!ちょっと待った!」
「何?」
「焔。」
「え?」
「俺の名前!君じゃなくて千影焔!」
薫は少し驚いた顔をしたが、少し笑うと、
「そう、よろしくね。焔くん。」
「おう!」
そして二人は、特大蜘蛛との戦闘を開始した。
キャーーーーーーーー!!
志乃は思いのほか大声が出たことに驚き、慌てて両手で口を塞いだ。
涙目で顔は青ざめ、体はプルプルと震えている。
(ああ、私もう限界!)
志乃が見上げた先にいたのは、さっきまでとは比べものにならないくらいの大きさの蜘蛛だった。
もともと苦手なものが自分よりも大きな姿で現れたのだ。キモさも倍増である。
(ど、どうしよう!逃げるにしても距離が近すぎる。)
特大蜘蛛はまだこちらの様子を見ているだけだが、いつ襲ってくるとも限らない。
(でも、このまま何もしないわけにも行かないし…)
志乃は、決心したようにふーっと息をつくと恐る恐る立ち上がる。特大蜘蛛を刺激しないようゆっくりと。
(大丈夫。私は出来る!出来る!)
なんとか立ち上がることには成功。
(よし!出来た!後は…)
特大蜘蛛から目を離さずゆっくりと、しかし一歩一歩確実に後ずさり、特大蜘蛛から離れていく。
(よし、アイツの間合いから出れさえすれば…)
間合いを出るまであと少し、よし、いける!志乃がそう確信したその時、特大蜘蛛が急に志乃との距離を詰めた。
「ひっ!」
志乃は思わず声を出してしまう。慌てて手で口を塞ぐがもう遅い。
特大蜘蛛がギギギギッと聞き慣れない音を発し始める。
(しまった!もう一か八か!)
こうなったら先に相手を無力化した方が勝ちだ。
志乃は素早く構えをとり、刀に手をかける。
その時、
「志乃ちゃん!下がって!」
これまた聞き慣れない声が発せられた。
「へ?は、はい!」
少し驚いたが、今は藁にも縋りたい状況でこの声の主が誰で、なぜ自分の名前を知っているのかなど考えている暇はない。
志乃は素早く後ろに飛び退いた。
「土壁ッ!」
その声と共にゴゴゴゴッと地面がせり上がり、志乃と特大蜘蛛の間に壁を作った。
そして、特大蜘蛛の放った糸はその壁に防がれる。
「よし!間に合った。」
「君は!」
現れたのは、試験の前日に会った青年、寺門大地だった。
「覚えててくれた?昨日ぶりだね!」
(志乃ちゃんを助けた俺!かっこいいかも!)
「あ!変な人!」
「そんな覚えられ方してたんだ…」ガーン
「じゃなくて、えーとえーと…」
「寺門大地です…」
「そうそう!大地くん!お、覚えてたよ!」
(絶対嘘だ…)
「ほ、本当だよ!覚えてたからね!」
「いいよ、俺なんて俺なんて…」
「ご、ごめんね大地くん!許して?」
志乃は、両手を合わせて上目づかいに大地を見る。
「全然!全然気にしてないから!大丈夫!」
(ヤバイ、かわいい!もう、死んでもいい!)
大地はニヤニヤしながら笑っている。
「あ、ありがとう…」
(やっぱり変な人だ…)
そんな話をしていると、大地が作り出した土の壁が特大蜘蛛によって破壊され、音を立てて崩れた。
そして、1匹しか居なかったはずの特大蜘蛛が数十体に増えていた。
「志乃ちゃん、アレあんなに居たっけ…」
「あはは、見間違いであって欲しいなぁ〜」
「アレって俺たちを狙ってる感じ?」
「う、うん。そうみたいだね…」
特大蜘蛛たちは、ギギギギッと嫌な音を出しながら今にも襲って来そうである。
「と、とりあえず!土壁ッ!」
大地が地面に手を当てると、さっきよりも大きな土の壁を特大蜘蛛たちの前に創造する。
「わっ!大地くんの闘気すごいね!」
「そうかな?地面を変形できるくらいだよ?範囲もそんなに大きくないし。」
「十分すごいよ!」
「ありがとう、でもあの様子じゃああの壁もそんなに持たないけど…」
特大蜘蛛たちが暴れているのか、壁は衝撃で揺れ、今にもひびがはいりそうな勢いだ。
「確かに、あんまり時間なさそうだね。」
「そうだ、大地くん!あの蜘蛛たちを倒す間だけ協力してくれない?」
「もちろん!俺も同じ事考えてた!」
「本当!?良かった!」
「ちなみに、志乃ちゃんって接近戦は得意?」
「え?うん、どちらかと言うとそっちの方が得意かな」
「良かった、俺の闘気は遠距離向けだから。」
「 オッケー、じゃあ接近戦は任せて!」
「ありがとう、でも安心して!志乃ちゃんには傷一つつけさせないから!」
「うん、任せたよ!大地くん!」
(ああ、志乃ちゃんかわいい!しかもこれ共同作業っぽい!最高!)
そうこうしているうちに土の壁は壊され、特大蜘蛛がなだれこんでくる。
「じゃあ、頼んだよ!大地くん!」
「おう!」
大地は地面に手を当てて闘気に集中し始める。
志乃は、それを確認すると特大蜘蛛に向かって走り出す。
もう、蜘蛛を恐れる気持ちはない。
あるのは、必ずこの試験を乗り越えてみせるという気持ちだけだ。…
読んでいただきありがとうございました。
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