陽滅隊入隊試験
第5話、試験開始です!焔たちの戦闘シーンも書きました!薄々分かってるとは思いますが焔たちの能力も楽しみにご覧下さい!
始め!!
琥太郎の合図と共に全員が一斉に走り出す。
「よっしゃあーー!」
「焔!下手こいて落ちないでよ?」
「志乃もな!」
「当たり前でしょ!」
また後で!、と互いに合図を送りあい、二人も他の志願者に続いて走り出す。
前を走る志願者達が森の中へ次々と消えて行く。
当然、焔と志乃も森の中へ入り、消えた。…消えた?
「ん?あれ?他の奴らどこ行った?」
森の中へ入ったと思った瞬間に、先ほどまで周りに居たはずの志願者達が消えたのだ。
振り向くと森の入り口も消え、暗い森の景色が広がっている。
「なんかよく分からんけど、飛ばされたっぽい?」
とにかく、周りに他の志願者は居ないようだ。
それに、それ以外の足音がたくさんこちらに向かって来ている。
「まあいいや、考えても分かんねー。とりあえず、狩りまくりゃあいいんだろ?」
焔はそう言ってニヤリと笑うと、刀を両手で構える。
依然、足音は止まず接近し続けている。
焔の心に恐怖心はない。あるのは好奇心のような気持ちだけである。
日頃の修行の成果を発揮できる日がやっと来たのだ。
焔は内心ワクワクなのだ。
「確か、心を落ち着かせて氣に集中するんだったな。」
焔はフーッと息を吐くと、目をつむり、自分の氣に集中する。
まずは、ダメージを軽減する為に体に纏う氣、
「纏い」。
薄い膜で体を覆っていくようなイメージだ。
少し赤みを帯びた氣が、焔を覆っていく。
「よし、出来た。次!」
次は、個人によって異なる特殊な氣、「闘氣」だ。
この氣の発動は、氣を練るだけでなく人によっては発動条件がある。まぁ、焔は無いに等しいのだが…、
イメージをするだけでいい。
発動条件と言っても、本人がそうした方が出しやすい、使いやすい、というだけの話である。
「イメージ…、燃えさかるイメージ。それを刀に纏わせる。」
すると、焔の刀を覆うように炎が上がる。
「よし!完璧!」
目を開けてもう一度息を吐くと、刀を構え直す。
「よし、来い!」
気づけば足音は目前まで迫っていて、目に見える位置にまで接近していた。
その正体は、前方から大量に迫り来る蜘蛛。
焔の膝あたりほどある大きな蜘蛛だった。
先頭の蜘蛛が焔に飛びかかる。
「火炎・斬」
焔は先頭の蜘蛛を素早く避け、後に続く蜘蛛を移動しながら連続で切りつけていく。
焔に切られた蜘蛛は、切られた瞬間に燃え尽き灰になる。
「よし!いける!じっちゃんの修行やっぱすごかったんだ!」
順調に数を減らしていき、ものの数分で残り数匹になる。
「これで最後!」
「火炎・斬ッ!」
最後の一匹が灰に変わる。
「うっし!終わった。ふー、楽しかった!」
「今のでざっと30はいったかな?」
先程まであれだけ動きまわっていたというのに、息ひとつ乱れていない。まだまだ余裕ありげである。
「でも、まだまだ足りねえよな?」
周りを見渡すが、蜘蛛がいる様子はない。
「ちょっくら探すか!」
すると、焔はクンクンと鼻をひくつかせて周りの匂いを嗅ぎ始める。
「うーん、こっちかな?いや、こっちのが多いな。」
実は焔は、九尾の妖気を多く取り込んだ為に異常な嗅覚を得ていた。ちなみに、他の五感も異常である。
「うん、やっぱこっちだな!」
そう言うと、焔はずんずんと暗い森の奥深くへと歩いていった。
「あれ?おっかしいな〜、こっちから面白そうな匂いしてたんだけどなぁ…」
焔は、首をひねりながら歩いていた。
もちろん、先程から何匹かはでてくるのだが、最初に大群に遭遇してしまった焔からすると、物足りないことこの上ない。
「うーん、匂いは近づいてんだけどなぁ…」
「はっ!」
何かの気配を感じ木の影にサッと身を潜める。
そこに飛び出てきたのは一人の志願者の青年だ。
それに続いて10匹ほどの蜘蛛が後を追って来ている。
「はぁはぁはぁ、くそ!来るなぁ!」
見るからに志願者の青年は疲労しており、ところどころ傷も負っているようである。
しかし、蜘蛛の方は容赦なく攻撃を仕掛けている。
「あいつ、大丈夫か?」
焔が飛び出そうか迷っていると、青年が石につまずいてこけてしまう。
青年の刀がカラカラと音を立てて茂みに消える。
「やべぇ!」
焔は一気に駆け出し、青年と蜘蛛の間に割って入る。
「火炎・斬ッ!」
迫り来る蜘蛛の攻撃を刀で弾いて斬り捨てると、次々と他の蜘蛛も斬り伏せ、灰に変える。
「フー、危なかった。大丈夫か?」
何事も無かったように振り返り、笑顔で問いかける。
しかし、青年は答えずガタガタと震えている。
「おーい、聞こえてっか?お前その様子じゃあ、棄権した方がいいんじゃねぇか?棄権の狼煙もらったろ?」
志願者にはもしもの時の為にすぐ助けが呼べるよう棄権の狼煙を持たされていた。
「まだだ…」
「ん?」
「まだだ!まだなんだよー!」
青年は鬼気迫る表情で縋るように焔の服を掴む。
「何が!」
「うわぁ!」
焔は何かあると感じ聞き返すと、青年は何かに驚いたように後ろに飛び退いた。
「だから何だって聞いて…」
焔がもう一度聞き返そうとすると、青年は焔の後ろを指差し、声にならない声を発している。
「もしかして、俺の後ろなんかいる…?」
焔が顔を引きつらせて聞くと、青年はコクコクと頷く。
シュッ
すると、焔の後ろで音が鳴り焔の横スレスレのところを何かが通り過ぎる。次の瞬間、目の前で尻もちをついていた青年が糸に捕らえられ、繭のようになって転がった。
青年は、ん〜!ん〜!っと苦しそうに呻いたが、糸が何重にも巻かれているため身動きが取れずにいる。
「マジ…か」
嫌な予感しかしないが確実に何かいるようだ。
焔は恐る恐るふりかえる。
ギャーーーーーーーー!!!
遠くの方で絶叫?のような音が聞こえ、志乃はビクッとする。
「びっくりした〜、何よもう!」
ただでさえ暗い森の中に一人で、少し歩けばデカイ蜘蛛が襲って来るのだ、不愉快極まりない。
試験が始まり森に入ったと思った瞬間、気づいたら一人で暗い森の中にいた。
「はぁ〜、ほんとあの蜘蛛苦手〜」
カサカサと素早い動きや細くて毛の生えた足、その上今日は特大サイズである。正直早く終わって欲しい。
そんなことを考えていると、またまた蜘蛛の群れが遠くの方から現れた。
「もう!また来た!」
志乃は運が良いのか悪いのか、蜘蛛の群れに会うのは5回目だ。本当は逃げてしまいたいが、落ちるわけにはいかないので渋々戦うことにする。
幸い修行のおかげか大した相手でもないのだが、なにぶん見た目が悪い。
「わかったわよ!来なさい!」
「纏い」
声とともに、志乃の身体を赤みを帯びた氣が覆っていく。息を整えると志乃は刀を構えた。
「はぁあ!」
志乃は、踊るようにしなやかなステップで蜘蛛の間をくぐり抜け刀を振るう。すると、突然刀が発火し斬られた蜘蛛は灰に変わる。
「炎の舞・斬」
これが志乃の「闘気」、焔と似た炎の能力なのだが、その性質は少し違う。
焔の闘気が、練った氣をそのまま炎に変換しているのに対し、志乃の闘気はそのまま炎に変換しているわけではない。
志乃の闘気は炎に変換するのではなく、空気中の酸素に反応して炎になるのだ。つまり志乃は、酸素に反応する闘気を纏い、舞うことによって酸素と反応させ発火させていたのだ。
ちなみに、舞うことが発動条件ではなく動くだけでいい、志乃が舞っているのはしなやかな身体を生かすことができ、戦闘においてこれが一番最適だったからである。
「はっ!はぁあ!!」
志乃は次々と蜘蛛を倒していく。
志乃の身体を炎が渦を巻くようにまわり、華麗に舞う姿はとても美しい。
「ふー、終わった。」
流れるように全ての蜘蛛を倒しきったが、動きを最小限に抑えているため疲れた様子はない。
しかし、
「はぁ〜、キモかった〜!」
メンタルの方は酷く疲れたようだ。
刀を鞘に納めると、しゃがみ込むように座り込んだ。
「早く終わらないかなぁ〜」
志乃は、木々の間から微かに漏れる光がつくる自分の影を眺めながら呟く。
少しの間ボーと影を眺めていると、不意に自分の影が消えた。いや、消えたというより隠されたという方が正確だろう。志乃のよりも大きな影が志乃の影を覆い隠したのだ。
「ん?」
志乃の体は決して大きい方ではないし、この影は明らかに人間のものではない。
「あっははは…、ま、まさか…ね」
志乃は顔を引きつらせて前に立つソレを見上げる。
キャーーーーーーーー!!!
森の外では、琥太郎が簡易のテントの下で楽しそうにモニターを眺めていた。
「いいねぇー」
モニターには森のいたるところに配置してあるフクロウの見た光景を送り映し出している。
「なーにニヤニヤしてんのさ。」
すると、後ろから一人の女性が顔を出し琥太郎に声をかけた。
「やぁ、明日香!任務は終わったのかい?」
この女性の名は、柊明日香。
薄い紫の瞳に妖艶な笑みを浮かべ、紫がかった黒の髪は肩の下あたりまで伸び、毛先は癖っ毛なのかカールがかかったようになっている。
「まぁね〜!で?どうなのよー、今年の子達は?」
「へー、明日香って全然興味ないんだと思ってたよ。」
「今まではねっ!でも今年の子達は、直接私達の下に入るわけでしょ?そりゃー、気にもなるわよ!」
「あんまりいじめたらダメだよ…?」
「何よそれ!まるで私が人をいじめるのが大好きな、ドSだとでも言いたいの?」
「その通りでしょ…?」
「まぁね〜!」
琥太郎は今までのことを思い返し軽く身震いをする。
「で、本当にどうなの?」
「うん、いい子たちが揃ってるよ。特にこの子。」
画面には蜘蛛の群れを薙ぎ払う焔の姿が写し出されている。
「この子、防御の為の「纏い」は使ってるけど身体強化系の「纏い」は使ってないんだよ。」
「あの蜘蛛くらいなら普通じゃない?」
「僕たちはそうだけど、彼らは初めての実戦なんだよ?それにただでさえ妖怪は人間離れした動きをするんだ、普通の人の運動神経なら無理だよ。君だって入隊試験の時は使ってた筈だよ?」
「う〜ん、確かに…」
「運動神経だけなら彼が一番かな?でも、他にもすごい子がたくさんいるんだ。」
「なるほど…、しごきがいがありそうね!」
「また悪い顔してる…」
「あれ?バレた?」
明日香はそう言って、ケタケタと笑っている。
琥太郎は密かに明日香の下にだけはつきたくないと思った。
ギャーーーーーーーー!!!
すると、モニターから絶叫が流れてきた。
「お!なんだなんだ!やっぱり今回も何かしら仕掛けがあるわけ?」
「もちろん、これは落とす試験だからね。」
「いいねぇ、おもしろくなりそう!」
「さぁ、未来ある若者たち。」
ここからが本当の試験開始だ!
ありがとうございました!
もっとダイナミックに戦闘シーンを書きたかったのですが、なかなか難しい笑笑
もっと努力したいと思います!!
評価をしていただけると作者のモチベーションが上がります!よろしくお願いします!