人魔教会④
参加させていただいていた、ネット小説大賞9がついに終わりました。結果、審査に通ることはありませんでしたが、とても良い経験になったと思います。応援ありがとうございました。
また、これからも積極的に参加していこうと思うのでよろしくお願いします!
〜桜sid〜
バシンッバシンッ!!
音のよく響く空間に、鎖が身動きのとれない桜を痛めつける痛々しい音が規則的に響いている。
「うっ!」
鎖がその鞭のようにしなるくさりを体に打ちつけるたびに、桜はそれを耐えるように唇を噛めるが、あまりの痛さに思わず声が漏れてしまう。
何度もくさりを打ちつけられた桜の羽織は、所々破けてしまっており、そこから覗く白い肌には痛々しい鬱血の跡がいたるところに出来ていた。
「いい気味ね。あれだけ挑発しておいてこのザマ!アンタの綺麗な顔が苦痛に歪む様は見ていて気持ちが良いわ!」
怪しげな面をつけた鎖は、桜を嘲笑うかのようにそう言い放つ。神成りの面をつけてからというもの、大幅に能力が強化されただけでなく、どことなくハイになっているようなところが見受けられる。
「さて、アンタの余裕顔を崩してやったことだし、そろそろとどめといきましょうか。あなたの魂はその体とおさらばする準備はできているのかしら?」
「・・・。」
鎖はからかうように問いかけるが、桜は答えようとしない。
「ふん、つまんないの…。まぁ、いいわ!最後に何か言い残したことは?」
「なら…、最後に質問を1つ…、」
今度の問いかけには桜は反応し、少し掠れた声を発する。
「百鬼夜行をご存知ですか…?」
「!!?、し、知ってるわよ?有名だもの。大昔に大量の妖怪達が一気に押し寄せて都を襲ったっていうあれでしょ?それがどうしたって言うのよ?」
鎖は桜の問いかけに一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに取り繕うように質問に答えた。
「そう、私の知りたいことはよ〜く分かりました。これで心おきなく貴方にとどめを刺せます。」
「は?」
鎖が驚いたのは、桜の先程とは違ったハキハキした声と状況に似合わない発言、そして何よりも不思議だったのはその声が自分の真後ろから聞こえてきたことだった。
すぐさま、後ろを振り向くとなんとそこには傷一つない無傷の桜がにっこりと鎖へ向けて微笑みかけていた。
「やっと気づきました?」
鎖は全く何が起こっているのか理解できず、もう一度捕らえていたはずの桜の方を見ると、その姿は跡形もなく消え去っており、そこには何も捕らえずただ複雑に絡まっているだけのくさりの塊と、微かに香る花の香りが残っているだけだった。
「一体…、何が!?」
「説明してあげましょうか?何が起きたのか…。」
それを説明するには、少し時を遡る必要がある。
〜少し前〜
「私は…、あんた達なんかに!!」
鎖が神成りの面を装着し、一気に数を増やしたくさりが桜の体を捕らえようとしたその瞬間、桜は咄嗟の判断で「落花」を中断し、すかさず別の技を発動していたのだ。
「華栄・姫金魚草。」
この桜の「華栄・姫金魚草」は、桜が戦闘中に自身を中心とした広範囲に振りまいている花の香りを嗅いだ者に幻想を見せるという技だ。
そこからの鎖有利な展開は鎖が見ていた幻想であり、実際は鎖が糸が切れたようにボーッとしているのを桜が後ろから見守るというシュールな絵面が今の今まで続いていた。
つまり、鎖が花の香り(闘気の匂い)を嗅いでおり、桜が「華栄・姫金魚草」を発動した時点でこの戦いの決着は着いていたということだ。
〜そして今に至る〜
「では、また後ほど。」
桜はそう言うと、練っていた闘気を一気に解放する。
「ちょっ!ちょっと待って!」
自分に都合の良い幻想に捕らわれ、勝ち誇り油断していた鎖に目前まで迫った桜の剣技を防げるはずもない。
「華栄・斬 華吹。」
一閃。桜の剣撃の前に神成りの面は真っ二つに割れ、鎖は意識を飛ばし地面に伏した。
桜が斬ったのは面だけだったが、斬られたと勘違いした鎖が都合よく気を失ってくれたようだ。
「百鬼夜行…ですか…。」
桜は冷たい表情で真っ二つになり転がっている神成りの面を見下ろすと、拳を強く握りしめる。
こうして、陽滅隊と人魔教会との戦いにいち早く着いた決着は桜の完全勝利で終わった。
〜大地sid〜
「施錠。」
ガチャリ
鍵垢は真正面から斬りかかってきた大地に触れて闘気を発動させると、そのまま素早く体勢を入れ替えて大地を後方へ蹴り飛ばした。
「うぐ!」
大地は地面にゴロゴロと転がった後、蹴られた腹部を押さえるようにして呻き声をあげる。
「これで二つ目だ。」
鍵垢は大地をロックしたことで生成された金色の鍵を指でクルクルと回しながら、未だ地面に倒れている大地を冷たく見やる。
先程から大地が真正面から突っ込んで来て、それを鍵垢がいなしながら大地にレイピアをお見舞いするという一連の流れが何回か繰り返されている。
(こいつ…、左腕をロックしてやってからというものひたすら闘気も使わずに突っ込んで来やがる。)
初めは何かの作戦なのかと警戒していた鍵垢だったが、どうやらその様子はなく、ただただ刀を振り回してぶつかるように突っ込んで来るだけなのだ。
先程まで、あの地面を変形させる闘気に手を焼かされていただけにどこか拍子抜けである。
(大方、左腕が使えなくなった恐怖で我を見失ったとかそんなところだろう…、まぁこっちにすればあの厄介な闘気が来ないだけ楽になったがな。)
今までの相手にもそんな輩が沢山いた経験から鍵垢は深く考えることをしなかった。
そんなことを考えている内に、再び大地がよろよろと立ち上がり刀を構え始めた。
見るに、右足をだらりと引きずって全く力が入っていないように見える。どうやら今回は右足に施錠がかかったようだ。
「うおぉ!!」
大地は声をあげながら闘気を発動させ、今度は柱状に隆起した地面に乗って鍵垢に近づき、刀で斬りかかってきた。
片足がダメになり走れない為、地面を隆起させて伸ばし鍵垢に近づいたのだ。
「やり易くて助かるぜ!」
鍵垢は大地の攻撃を軽々と避すと、レイピアを叩き込むと同時に掌底のように大地の腹部に左手をねじ込むと闘気を発動させた。
ガチャリ
「ぐはッ!」
大地がその場に倒れ込むのと同時に大地の右腕からフッと力が抜け、刀が地面に転がった。
「ふん、遂に得物すら掴めなくなってしまったようだな。ここら辺で諦めたらどうだ?俺を手こずらせた褒美だ、今すぐ降参するならすぐに魂を抜いて楽にしてやる。」
鍵垢の問いかけに大地はフッと鼻で笑うと、
「誰が…諦める…もん…か。お前なんかに…絶対…負けねぇ!」
大地は動かなくなった右足の代わりに、左足一本で踏ん張り立ち上がろうとする。
「根性だけは一人前だな。自分の戦況を見誤り、無策で俺に突っ込んで来た時点でお前に勝ちなどない。それにこの至近距離で俺とどう戦うつもりだ?」
「地変・突 岩砕きッ!」
大地は左足だけで踏ん張り、鍵垢に顔を近づけると、自分の後ろに2本のコンクリートの槍を創り出した。
「!?、なるほど…、博打勝負というやつだな!俺の闘気でお前の闘気を施錠するのが先か、お前の闘気が俺を貫くのが先か!」
かなりの至近距離の為、流石に鍵垢が大地に触れる方が速いが、それで施錠されたのが大地の左足であれば大地の槍が鍵垢を貫き、勝つことも出来るかもしれない。
しかし施錠されたのが大地の闘気であった場合、その瞬間に大地の槍は消失し、手足も動かせない大地では勝ち目がなくなってしまうという寸法だ。
「うおぉぉぉお!」「うおぉぉぉお!」
大地と鍵垢が同時に声を上げる。
この危機的状況でこの博打にまで持ち込んだ大地の機転には素晴らしいものがあるが果たして…。
「施錠ッ!」
大地の槍が鍵垢に襲いかかったのと同時に鍵垢は大地の体に触れ、闘気を発動させる。
ガチャリ
大地の体の中で何度目かの嫌な音が鳴り響き、体のどこかの機能が完全に停止する。
次の瞬間、鍵垢の目前まで迫っていた大地の槍がボロボロと崩れ始め、最終的には槍であったものがコンクリートの破片に変わり、あたりにバラバラと散らばった。
「く…そ…。」
大地は踏ん張りがきかなくなったのか鍵垢に寄りかかるようにして倒れ込む。
「どうやら、賭けでも俺に勝てなかったようだな?」
鍵垢は寄りかかってきた大地を押し戻すようにして、体を離すと、その顔にニヤリと笑みを浮かべる。
「最後だ。何か言い残したことあるか?聞いてやる。」
大地はしばらく問いには答えず俯いていたが、しばらくして唐突に顔をあげると口元を緩ませニヤリと笑った。
「ヘヘッ、へへへへッ!」
鍵垢は大地の表情に不気味さを覚え、思わず顔をしかめる。
「何がおかしい?」
その問いかけに大地はベッ!と舌を出すと、鍵垢に向かって言い放った。
「お前の負けだ、ば〜か!!」
大地が出した舌には、金色の小さな鍵が一つ張り付いていた。
「それは…!?」
鍵垢は慌てて自分のジャケットの懐を確認する。
そこには響を施錠した分の5本の鍵と大地の分の4本の鍵で合計9本の鍵がぶら下がっているはずだった。
しかし、そこにあったのは大地の分の4本の鍵だけで、響の分の5本の鍵が忽然と姿を消していたのだ。
(そんな…まさか…!?)
鍵垢の額から一気に冷や汗が溢れ出る。
息を荒げながらもう一度大地を見やると、その舌に張り付いていた小さな鍵がちょうど消失していく最中だった。
鍵垢の厄介な闘気には一つ弱点がある。それは生成した鍵が鍵垢以外の人物の手に渡った場合、自動的にその鍵は消失しその鍵の効果が消えることだ。
つまり、施錠された体の機能が解放されてしまうのだ。
「お前が必要以上に何度も何度も突っ込んで来たのは、俺の懐の鍵を奪うためだったというのか!?」
鍵垢の問いに大地はニッと笑うことで応える。
実際、鍵を奪う為にこんなにボロボロになるまで突っ込み続けたのは事実だ。奪っただけで鍵が消失し、能力が解除されることまでは予想していなかったが…。
「あと…は、まか…せた…。」
ここまでで流石の大地の左足も限界を迎え、フッと全身から力が抜けたかのように地面に崩れて落ちていく。
そして崩れ落ちていく大地の後方から姿を現したのは、腰の刀に手を添えて静かに闘気を練っている稲葉響の姿だった。
「ようがんばったで、大地!あとは俺に任せとけ!」
響の闘気はかなり練り上がっており、響の周りにバチバチと帯電しているのがよく見える。
「くそ!やってくれたな!!」
鍵垢は動揺を隠すように吐き捨てると、響に向けてレイピアを構える。
「鳴雷・斬 霹靂神ッ!」
バリバリバリッ
雷のような音とともに、目にも止まらぬ速度で迫ってくるその姿はまさに稲妻そのもので、さながら神の裁きが下ったかのようだった。
「く…、くそがぁぁぁぁぁ!!!!!!」
凄まじいで駆け抜ける響の雷は遂に鍵垢を呑み込み、後に残ったのは体中から煙をあげ、完全にのされてしまった鍵垢の姿だった。
「アンタが負けたのは俺にやない。大地にや…。」
響は刀を鞘に戻しながら、倒れた鍵垢に向けて言葉をかける。
「ま、聞いてへんやろうけどな…。っと、そんなことより、大地!大丈夫か?」
響は思い出したように手をポンッと叩くと、未だ倒れて動けないでいる大地の元へと向かうのだった。
〜陽太sid〜
「なん…で…?」
源藤の放つ弾丸をやっとの思いで全てかわし、遂に刀が届いたかと思った矢先、左肩に鋭い痛みが走り、気付けば地面に転がっていたのは陽太の方であった。
(やばい…、痛い…。すごい、痛い…。撃たれたのか?なんで…?弾は全部避けたはずなのに…。)
左肩からは激しい痛みと共にドクドクとかなりの血が溢れて出てくる。唯一、幸いだったのは弾丸が体内に留まることなく貫通していたことだ。下手なところに弾丸が留まってしまえばかなり危険な状態になっていただろう。
「なんで自分が倒れてるんだって顔してるな?そらそうか、さっきまで追い詰めていたのはお前の方だもんな?」
源藤は拳銃に弾を一つ一つ込めながら、陽太を見下ろすようにして言う。
「お前は勘違いしてたみたいだが、俺は別に弾の数を把握してなかった訳じゃないぜ?ブラフだよブラフ。そうすればお前が油断すると思った。まぁ、俺もお前のブラフには騙されちまったけどな?」
源藤は坊主に悪人ヅラという見た目通り、頭は良くない男だが、こと戦闘になるとずる賢く立ち回るのが得意な男なのである。
「お前も途中までは良かったぜ?5発目を俺が曲げないことを読んだところまでは完璧だった。だが、そっからが甘かった。言ったろ?俺の闘気は物体に一度だけ干渉する。5発目はまだ曲げてねぇんだから、お前が避けてから干渉すれば死角から攻撃できるだろ?」
(そういう…ことか…。)
つまり源藤は5発目の弾を陽太が避けた後に、能力を使い反転させ、背後から陽太の左肩を撃ち抜いたのである。
「さて、最大のチャンスを物に出来なかったお前はもう俺に近づくことはできませ〜ん!」
「うっ!」
源藤はいきなり倒れた状態の陽太を蹴り飛ばし、陽太はその勢いで地面をゴロゴロと転がった。
「こっからどうする?陽滅隊!肩を撃たれ、距離も空けられ、相手は拳銃を持ってる!どうやって勝つんだ!ああ?!!」
源藤は拳銃を陽太へと向けながら、大声を張り上げる。
「ああ、ほんとアンタ良く喋るな…。」
陽太はあらかじめ持っていた血液を止める成分を含む薬品(自作)を傷口にぶっかけながら立ち上がる。
「なんだ?強気だな。勝つ自信でもあんのかよ?」
「ねぇよ、そんなもん。僕は自己肯定感皆無男子だからな。自分に自信なんてない。でもな、自分に自信はないけど、陽滅隊には、仲間達には自信がある!」
「はあ?」
「僕の仲間は強いし優秀だ。雛形さんや響、それに清水班の4人だって、アンタらになんかに絶対負けない自信がある。」
「ハンッ!なっさけねぇ自信だな!用は他人頼りで自分は何も出来ませんって言ってるようなもんじゃねぇか!」
「違うよ、逆だ。仲間が心強いから、信じてるから僕が全力で戦えるんだ!たとえ僕がアンタに負けようが、仲間が絶対にアンタを倒す。だから僕はここで自分の精一杯でやる!何発撃たれようが、アンタを倒すまで立ち上がり続ける!」
それを聞いた源藤は驚いたように目を見開くと、今度は表情を突然暗くした。
「そうかよ…、だがな。何人仲間がいようが、諦めない覚悟があろうが、太刀打ちできねぇもんがあるってことを教えてやるよ!ここでお前を認めちまったら、あの時の俺たちが間違ってたことになる!」
源藤は何かを思い出したかのように拳を震わせながら、陽太を睨みつけるように拳銃を構えた。
(来る…。本当は使いたくなかったけど…。)
陽太は懐から紫色の栓がついた2cmほどの小さな小ビンを取り出すと、それを口に放り込みゴクリと飲み込んでしまった。
「なんだ?ドーピングでもするつもりか?」
「そうだね、似たようなもんだよ。今のは「紫薬」といって僕の闘気を強化する薬だよ。自作だけどね。」
この紫薬の中身は陽太が闘気で生成した紫毒より一段階強化された毒が入っており、これを飲むことで体内で新たに毒を生成し、身体中に浸透させ、元の毒と切り替えるという作業を短縮することができる。
簡単に言うと、今陽太の体内で生成されている毒と瓶の中の毒を入れ替えるようなイメージだ。
ちなみに、毒が上位互換に変わるだけでなく身体能力なども一時的に強化される。てか、もうドーピングで覚えてください。
「ふぅー。」
すると、陽太の体を覆っていた闘気がより濃い紫色へと変わった。
「お前が今更何をしようと、俺の弾丸が避けられなければ意味がない!」
源藤は関係ないと言わんばかりに拳銃のセーフティバーを下ろすと、一気に6発全てを陽太に向けて発泡した。
放たれた6つの弾丸はそれぞれ別の軌道を進みながら、陽太へと向かってくる。
「全弾曲がれ。」
源藤の声と共に弾丸はぐにゃりとその方向を曲げ、全方位から陽太に襲いかかった。
「紫薬もメリットだけじゃないんだ。早くかたをつけないと。」
陽太は紫薬の効果により上がった視力と身体能力を駆使して全方位からから迫りくる弾丸の隙間を体を捻りながらくぐり抜ける。
「全部避けやがった!?」
そして、その勢いのまま源藤へと向かって一直線に走り始める。纏いで強化した速度よりもさらに速い速度で走っている。時間制限がある分、効果は絶大なのである。
凄まじい勢いで迫ってくる陽太に恐怖を覚えた源藤は慌てて、弾を込め直すと陽太に標準を合わせる。
「捕まる訳にはいかねぇんだよ!!」
ドンッドンッドンッ!!
銃口が火を吹き、3つの弾丸が発射される。狙いは足、陽太の機動力を潰してしまおうという作戦だ。
「やっぱそうくるよな。作戦変更、もう避けるのは沢山だ。」
陽太はそう呟くと懐から今度は黄色い栓のついた小瓶を取り出すと、またもやゴクリと呑み込んだ。
「黄薬。実は僕の毒は紫毒だけじゃないんだよね。」
やがて、陽太の身体中に浸透した新たな毒は刀身から滲み出て、地面に落ちた黄色い毒は煙を上げながら地面を溶かす。
「「黄毒」。物質を溶かすことに特化した特性の毒だ。もちろん人体も例外じゃないけどね。」
陽太が、刀の刀身から滴る黄毒を迫りくる弾丸へと飛ばすと、黄毒に触れた弾丸はたちまちドロドロに溶けて、液体のようになって消えてしまった。
「弾を溶かしやがった!?」
源藤は今目の前で起きたことに理解が追いつかず、大きく目を見開き固まる。
しかし、そうしている間にも陽太はどんどんと源藤との距離を詰めてきている。
「く、くそ!!」
源藤は慌てて我に帰ると、再び陽太にむけて拳銃を発泡する。
ドカンッ!!
「ぐあぁ!!」
しかしその瞬間、いきなり源藤の拳銃が暴発し、拳銃を握っていた源藤の右腕からぽたぽたと血が流れる。
「焦りすぎだよ。さっき僕の黄毒でアンタの拳銃の銃口を溶かして塞いでおいた。撃てる訳ないだろ。」
そして、遂に陽太は自分の間合いに源藤を捉える。
「黄毒・斬 埿泥。」
今度こそ陽太の刀は源藤を捉え、源藤は膝から崩れ落ちる。
「から…だ…が!」
陽太の刀を通して黄毒を体内に取り込んでしまった源藤は、たちまち全身に痺れが走り、指一本動かせなくなってしまった。
「本当は体もドロドロに溶かす毒だけど、今回は全身が痺れるくらいで留めて置いた。」
陽太は刀を鞘に収めながら、源藤を見下ろす。
「そういえばあの人は…!」
陽太は源藤に撃たれ動かなくなってしまった隊員の元へと駆け寄る。
「生き…てる…。」
陽太からは頭を撃ち抜かれたように見えていたが、実際には額にかすってだけだったようで、血はかなり出ているものの、命に別状は無さそうだ。
「はぁ〜、良かった…。」
陽太はホッと胸を撫で下ろすと、力が抜けたように座り込む。
見ると、陽太の肌がところどころ紫色に変色している。これが、「紫薬」のデメリットである。短時間で毒を体に浸透させ、自信を強化できる反面、急激な毒の変化に体がついていかず、自分の毒に自身が侵されてしまうのだ。
この程度ではまだ大したことはないが、陽太の全身が紫色になってしまうとかなり危険な状態になる。
そんな時の為にも、陽太は解毒薬を常に持ち歩いている。これさえ飲んで仕舞えば、数分で毒素が中和され肌も元の状態に戻る。
「そこの隊員は無事だったのかよ…?」
「?、あ、ああ。」
ちょうど解毒薬を飲み干した陽太に、倒れて動けなくなっている源藤が声をかける。
「まぁ、わざと外してやったからな…。」
源藤は倒れたままニヤリと笑う。
(わざと…、一体何の為に…。)
「不思議そうな顔だなぁ…、殺しちまったら魂取れねぇだろうが。」
確かにその通りだ。殺して仕舞えば同時に魂も死ぬことになるので、魂を奪うことはできない。
つまり、源藤は陽太を動揺させるようにわざと隊員を殺したふりをしただけで、元々陽太や隊員を殺すつもりはなかったようだ。
「なるほどな…、ほんとにアンタよく喋る奴だな?」
陽太はようやく戦闘の緊張が解け、それを噛み締めるように天井を仰ぎ見るのだった。
前回とは一変、次々と勝利を収める陽滅隊の仲間たち!!
次回、人魔教会編が完結する予定なのでお楽しみに~!!
陽滅隊さすが!!と思った方はぜひ評価・ブックマーク等よろしくお願いします!




