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妖子の剣士  作者: ゆゆ
23/27

人魔教会③

拙い作品ながら、ネット小説大賞9に応募させていただきました。

評価・ブックマーク等で応援していただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

〜志乃sid〜


ドガッン!!


「きゃあ!」


小規模な爆発が巻き起こり、志乃が爆風で吹き飛ばされる。


「2本目命中…、まだもう1本。」


追川はボソボソと呟きながら、懐から札のついた杭を取り出した。


「なんなの…、あれ。」


志乃はよろよろと立ち上がりながら、先程から志乃を苦しめている追川が持つ杭を見る。


そうこうしている間にも追川は、杭を強く握りしめるとプロ野球選手並みの投球フォームで振りかぶり、全力で杭を投げ放った。


「ふん!」


彼女の剛肩たるや凄まじいものがある。彼女が野球の道を志していたならば、プロになること間違いなしだったことだろう。


「きた!」


志乃はまっすぐに飛んでくる杭を素早くかわすと、杭が飛んで行った方向を振り返る。

案の定、通り過ぎて行ったはずの杭はクルリと志乃の方へ方向転換すると、スピードを落とすことなく向かってくる。


「追いかける…、どこまでも…どこまでも…。」


追川の言葉通り、杭は志乃がかわしてもかわしてもどこまでも追いかけてくる。

そう、これこそが追川樹里の闘気追尾である。決めた対象に対して、自分の触れたものをどこまでも追尾させる能力。一度追尾させたものは余程のことがない限り、目標に到達するまで追いかけ続ける。


「くっ!」


避けても避けても追ってくる杭は、体力はもちろんのこと精神的な疲労もかなりのものだ。


志乃は追尾する杭を上手く避けながら走りまわる。


(見たところあの人が操作してるんじゃなくて、自動追尾かな。だとしたら、蝶の舞は通用しないか…。)


そして、何よりも警戒しなければならないのは杭に触れた時に起きる小規模な爆発だ。これのせいで志乃はかなりのダメージを受けている。


初めは杭にくくりつけられている札が原因かと思われたがどうやらそうでもなさそうなのである。


(とりあえず、これ以上杭に触れるわけにはいかない!)


志乃は足に纏いを集中させると、追い迫る杭から逃げながらまっすぐに追川のいる方へ走った。


(あの人を倒せばこの杭も止まる!)


纏いを使っていることもあり、かなりのスピードで追川へと迫る。


「ひっ!」


迫る志乃に恐怖を覚えた追川は、慌てて懐からもう一本の杭を取り出す。迫る志乃に杭を投げつけるつもりだろうが、そうはさせない。その間に追川へと迫った志乃が刀を振りかぶる。


「はぁあ!」


ガキンッ!!


追川を仕留めたかと思われた志乃の刀は、なんと追川の握る杭でしっかりと受け止められていた。


「嘘…。」


「私の能力の性質上、私自身が狙われることはよくあるわ…。自身を守るすべを持っていないと思ったの?」


どうやら追川には見かけによらず、近接戦闘の心得があったようだ。人魔教会の教徒でもあり戦闘員でもあると言う肩書きは伊達ではないようである。


そして何よりも志乃を驚かせたのは、前髪で隠れていた追川の左目を覆うようにいつのまにか、異形の面が装着されていたことだ。

入り口で会った男の面とは違い、顔全体を覆っているのではなく左目から頬にかけてだけを覆っている。また、種類も違うようでこちらもまた不気味な顔をした面である。


「それは…!」


「いいでしょお?これ…。でも、そろそろ限界だから早く倒れてくれないと!」


追川は恍惚とした表情で不気味な面に触れた思えば、すぐに表情を変え、鋭い眼光を志乃に向けた。


ドガンッ!


「くっ!!」


不気味な面に気を取られていた志乃は、背後から迫る杭を避けることが出来ず、背中でもろに受け止めてしまった。


爆発をもろに受けた志乃は、背中から煙を上げながら膝から崩れ落ちた。


「私をほっといてくれればこうはならなかったのよ!」


感情の起伏の激しい追川は、今度は声を荒げながら膝を地面につけている状態の志乃を正面から蹴り飛ばした。


地面を滑るような形で後方に飛ばされた志乃だったが、かなり疲弊しているにも関わらず未だ刀を強く握りしめたままだ。


「まだ懲りないのね…。」


追川は明らかに苛立ちを見せながら、頭をくしゃくしゃと掻きむしる。


「うう、頭がズキズキする…、これは長時間使っていいような代物じゃないの!あなたがさっさと諦めないから!」


これとはあの不気味な面のことだろうか。どうやら、不気味な面を長時間つけていることによってなにやら副作用に苦しんでいるようだ。


「うう…、あぁあ!!」


追川が絶叫した直後、追川の周りでいくつかの小規模な爆発が起きた、ちょうど杭に触れた時に起こる爆発と同じくらいの威力だ。明らかに、追川の能力とは別の何かが作用しているようにみえる。


「もう限界…、これで絶対に仕留めるわ。」


追川は疲弊した様子で懐から杭を取り出すと、投球フォームに入った。


「まだ…、まだ…!」


そこでようやく志乃も刀を持って立ち上がる。闘気はそこまで消費していないが、防御の纏いを保ち続けていることと爆発の衝撃でかなりダメージを負ってしまっている。


「さっさと倒れなさい!!」


こうして、この戦いにおいて最後となる杭が志乃に向かって放たれた。








〜桜sid〜


「華栄・突 押花(おしばな)。」


桜の鋭い突きが鎖の持つ刀を捉え、鎖はその威力に耐えきれず後方に吹き飛ばされる。


「ぐっ!!」


刀を杖のように地面に突き立て、よろよろと立ち上がる鎖の姿を桜は冷たい表情で見つめる。


「アンタ、何者よ!さっきのやつとまるで違うじゃない!」


「階級で言うとそこの人より下ですが、あなたが実力不足なのでは?」


「チッ!この女…!」


「手加減するのも面倒なので、さっさと投降してもらえると助かるんですが。」


「ふざけんじゃないわよ!」


鎖は怒りに任せて手のひらから突き出る長い鎖を桜に向かって振るう。

鎖の闘気は、鎖を操る能力であらゆるところから鎖を出し、自在に操ることができる。


しかし、桜はこれを次々と避け全く疲れた様子も見せない。


「投降する気はなしですか…。仕方ないですね、あなたには少しの間気絶していてもらいますね?」


「なんで、当たらないのよくそ!」


桜は苛立ちを見せる鎖を無視して、足に纏いを集中させると鎖に向かって駆け出した。


「アンタなんかにやられるもんですか!」


鎖は左手に握られたくさりをムチのようにして、桜に叩きつける。

しかし、桜はそれを見越していたかのように避けると、それと同時にふわりと浮かぶように飛び上がった。


「な!?」


桜は空中で刀を構えると、鎖に狙いをすまして勢いよく突っ込んだ。


「華栄・突 落花(らっか)。」


「ひっ!」


桜の周りには綺麗な花びらが舞い、とても幻想的な様子だがその威力には凄まじいものがある。


「こんな奴らに…、私は!」


鎖は懐にしまってあった異形の面をチラリと見て少し躊躇った後、素早く顔に装着した。


(あの面…、あの男のものとは違うようですね。一体、何をする気?)


「調子に乗るな!」


鎖がそう叫んだ直後、今までの倍ほどの数のくさりが一気に桜に襲いかかった。


(くさりの数が一気に増えた!?今まで手加減していたと言うの?それとも…、)


桜が思考している間にもいくつものくさりが迫ってきている。


「はぁあ!」(空中にいる以上、くさりを全て避けきるのは不可能。だったらこの勢いのまま突っ込むしかない!)


桜の突きと鎖のくさりがぶつかり合い、激しく火花が散る。


「この数に敵うわけないでしょ!」


しかし、桜の突きから逃れたくさりが桜の体に絡みついたことによって「落花」の威力は殺され、桜の刀が鎖に届く前に止められ捕らえられてしまった。


「いい気味ね。調子に乗った報いよ。」


鎖は宙に浮いたまま動けなくなった桜にそう告げる。表情は不気味な面に隠されているため分からないが、声色が高揚しているのが分かる。


「その仮面は一体…?」


「これは神成(かみなり)の面っていうの。我らが神のお力を一時的にお借りすることのできる特殊な面よ。身体能力や能力の底上げ、異なる能力の使用まで、神成の面をつけることによってそれらを面から引き出せるのよ。」(体への負荷は馬鹿にならないけどね…。)


(神の力を借りる!?一体何を言ってるの…、)


「人々は昔から面や化粧で神を表してきたじゃない。現人神ってやつ?神成の面はそれの最たるものよ。」


「そんなものが実在するわけが…、」


「お喋りはここまでよ。情報を引き出そうたってそうはいかないんだから。」


「そう、つまりあなた達はその神とやらの力を借りないと何もできない人間の集まりということですね?」


「なんですって?」


桜の言葉に反応した鎖は、闘気を発動させて桜を捕らえるくさりの縛りをきつくし、桜を締め上げた。


「うっ!」


「その挑発は今の私には逆効果よ。口を慎みなさい。」


表情は分からないが、鎖のその言葉には怒気がこもっていた。


「そのように…、私の言葉に反応するのは…、その通りだと…認めているようなものですよ…。」


桜は苦しげに所々詰まりながらも言葉を続ける。


「そう。アンタよっぽど痛めつけられたいようね?安心なさい、今からその減らず口も叩けなくなるぐらい痛めつけてやるわ!」


その後、数分間にわたり音がよく響くコンクリートの空間にバシンッバシンッという痛々しい音が響き渡った。






〜焔sid〜


光弾(シャイニングバレット)


軌道がそう呟くと、焔に向けられた軌道の刀の切先に光が収束し、眩しいくらいに輝き始める。


「また、あれか!」


切先を向けられている焔はというと、かなり疲弊した様子で軌道の正面に立っている。

弾丸もしくはそれ以上の速さで飛んでくる光のレーザーを避けるため集中しているのだ。


軌道の闘気は光を収束させ、レーザーのように発射させる能力だ。光を限界まで収束させるため、速度も威力もかなりのものだ。


「発射。」


光輝くレーザーが焔に向かって真っ直ぐに発射される。


「危ねぇ!」


焔は間一髪で体を動かし、レーザーを避ける。

焔が避けたことによってレーザーは後ろの壁に直撃し、コンクリートの壁が黒く焦げてしまう。


「ふん、ちょこまかと。」


軌道は面倒そうにそう呟くと、またしても刀の切先に光を収束し始める。


「何度も同じ手は食らわないっての!」


今まで軌道のレーザーを避けることだけに集中していた焔だが、今度は一転して軌道に向かって一直線に向かって行った。


(アイツの闘気は確かに速いし当たったらやべえけど、よく見りゃ避けんのも難しくねぇし、何発も一気に来るわけじゃねえ。攻めんならアイツが光を集めてる今だ!)


先程までの一連の攻防で軌道の闘気を観察していた焔は軌道の攻撃を避けながら分析し、自分が攻めに転じる機会を伺っていたのだ。


「ほう。戦闘になると頭が回るたちか。」


「いつもぐるんぐるんに回っとるわ!」


焔はそう言いながらもグングンと距離を詰めていく。


(ぬ〜、距離的にあともう一発避けないと辿り着かなぇか…、)


思っていたよりも軌道の光の収束が早く、焔が軌道に攻撃を仕掛けるにはもう一度、レーザーを避ける必要がありそうだ。


光弾(シャイニングバレット)。」


(大丈夫…、しっかり見ろ。やることは単純だ。真っ直ぐ飛んでくるレーザーを避けるだけ…、)


焔は高速で走りながらもしっかりと収束する光を目で捉えていた。


(来る…!!)


焔が体を傾け回避の態勢に入った瞬間にレーザーが放たれ、焔のすぐ真横を高速で通り過ぎていった。


(うしっ!)


このレーザーも避けることに成功した焔は、一気に軌道との間合いを詰めると素早い動きで切りかかった。


「火炎・斬ッ!」


ガッキン!!


炎を纏った焔の刀が軌道に襲いかかるが、軌道は自らの刀でそれを余裕ありげに受け止めた。


「マジか…。」


普通の人間ならば反応出来ないようなスピードで切りかかったはずなのだが、やはり相手も闘気を使える者だからなのか綺麗に防がれてしまった。


「はぁあ!」


焔はなおも諦めずに刀を振るうが、軌道は全てをその刀捌きで受け止めてしまった。


「剣術もそれなりにやるようだな。だが、それでは俺は斬れん。」


軌道はそう言うと、力で焔の刀を押し返し、そのまま素早い刀捌きで焔に斬りかかってきた。


「うお、やるな!けど、それならまだ全然じっちゃんの方が速かったぜ!」


思わぬ攻めに一瞬押された焔だったが、すぐに体勢を立て直すと、軌道と互角に斬り合い始めた。


刀と刀がぶつかり合うたびに激しく火花が散り、この戦いの激しさを物語っている。


「ふん、なかなか骨がある。だが、何か勘違いしていないか?これは、チャンバラではなく実戦。命の獲り合いだぞ!」


焔が力強く横に薙ぎ払った刀を身をかがめて避けた軌道は、焔の大きく空いた腹に回し蹴りを食らわせた。


「ぐはっ!」


完全に不意を突かれた焔は体勢を崩し、後ろに後ずさる。


「そしてお前はもう一つ思い違いをしている。」


焔にそう告げる軌道の背後には、収束した4つの光が宙に浮いた形で輝いていた。


「俺の 光弾(シャイニングバレット)は、4つまで同時発動可能だ。」


「やべえ!」


光の収束を終えた4つの光が輝きを増し、やがて高速で発射される。


不意打ちをされ体勢を崩していた焔は、至近距離で放たれた高速のレーザーを避けることができず、衝撃で吹き飛ばされる。

纏いのために貫通はしなかったものの、倒れ込む焔の体からはプスプスと煙があがっている。


「あと一人…。」


軌道はピクリとも動かない焔を冷たい目つきで確認すると、行方が分からなくなってしまったもう一人を始末するために、その場を去ろうとする。


「待てよ…。」


「・・・」


「勝手に勝った気になってんじゃねぇ…。」


足を止めた軌道はゆっくりと焔の方に振り返る。


「ほう、あれだけくらってまだ立つか。」


「ばーか、まだまだこっからだ!」


そうは言っているが見るからに焔はボロボロである。


「そうか、だがこちらもお前にばかり時間を割いてはいられないのでな。気は進まんがすぐに終わらさせてもらうぞ。」


軌道は懐から異形の恐ろしい表情をした神成の面を取り出すと、ゆっくりと顔に装着した。軌道が初対面時につけていた面とはまた違うもののように見える。


神成の面をつけた瞬間、何か異質なものが軌道を包んでいくのに焔は気がついていた。常人では気がつくはずのないそれに焔が気がついた訳は、それが焔にとって身近なものだったからだ。


「これは神成の面と言ってな、我らが神の力を一時的に借りることのできる代物だ。これまでの俺と同じだと思わない方がいい。」


「神の力ってお前…、それは…。」


「何を恐れる?この力は常人では感知すらも出来ぬ力だ。」


「そらそうだろ…。お前のそれは神の力なんて良いもんじゃねぇ。妖怪の持つ特有の力、妖気(・・)だ!」


「何…?」


「妖気」とは人間の「闘気」と対をなす妖怪のみが持つ特殊な力のことで、「闘気」同様それぞれの妖怪が異なる能力を持つ。また「妖気」は妖怪の純粋な強さを指す言葉しても使われる。これまた「闘気」と同様に強さや量が個体によって異なるからである。

また、妖魔が使用する人間・物・動物などを喰らったり、とり憑いたりして得る能力とはまた異なるものである。


「だから!そんな良いもんじゃねぇって言ってんだ!今すぐその面を外すんだ、死んじまうぞ!」


焔の言葉通り、妖気は本来妖怪のみが使うことのできる力であり人間にとっては有害でしかない。人間が妖気を取り込んでしまえば、体はだんだんと蝕まれいずれは死へと至る人間にとっては危険なものなのだ。

焔のように闘気と妖気が並存しているというのは本来あり得ないことなのである。


「驚いたぞ。まさか妖気を感知できる者がいるとはな…。」


「お前、知っててやってんのか?」


「当前だ。言ったはずだろう、これは我らが神の力だと!」


「妖怪が神…?」


「それが人魔教会の教示だ。この国をもう一度神々の元へ取り返すとな。」


「そりゃあ、どういう意味だ?」


軌道の言葉に違和感を覚えた焔は、軌道へ質問を投げるが軌道は答えようとしない。


「言わねぇってか、でもこれでよく分かったぞ。お前らの怪しい行動も人間の魂を集めてた訳も全部その神様のためって訳か。」


「その通りだ。」


「大体、おかしいと思ってたんだ。人間の魂を吸い取る注射器ってなんだよ!そんなもん、人間が作れる訳がねぇ。」


「もう十分だろう。これから神の糧になるお前にはもう関係のないことだ。」


軌道はそう言うと、再び刀を抜き戦闘体勢に入った。


「人間は魂を抜かれたら死んじまうんだぞ…、分かってんのか!」


「承知の上だ。俺は俺のためにこの道を選んだ!」


「お前ぇ!」


神成の面で覆われているため、軌道がどのような表情をしているのかは分からないが、人魔教会をこのまま放っておく訳にはいかない。


神成(かみな)り、雲外鏡(うんがいきょう)。」


軌道がそう呟いたかと思うと、今まで暗く影になっていた面の目に妖しい光が灯り軌道の周りにいくつもの黒いもやが現れた。


「なんだなんだ!?」


黒いもやから現れたのは、雲のようなデザインがあしらわれた大きめの鏡だった。現れた鏡は重力に逆らうようにフワフワと浮いている。


「鏡…?」


「この鏡は全て異空間で繋がっていてな。触れたものを思い通りに転移させることができる。」


軌道は地面に転がっていた石を拾い上げると、一つの鏡に向かって投げつける。すると、投げられた石は鏡を粉砕することなく通り抜けるような形で鏡に取り込まれ、次の瞬間にはまた別の鏡の中から現れコツンと音を立てて地面に転がった。


「どうなってんだ、これ?」


焔は目の前で起きた不思議な光景に目を丸くしている。


「では、この石ころが俺の光弾に変わるとどうなると思う?」


ただでさえ、その速度と威力で焔を翻弄してきた光弾だ。それが、好き放題にワープされ四方八方から襲われたらと考えるとかなり恐ろしいことになりそうだ。


そんなことを考えていると、いつの間にかフワフワと浮いた鏡が焔を囲むように配置されている。


「お前のその体で防げるものなら防いで見せろ。」


神成の面の影響か光の収束のスピードも上がり、軌道の4つの光弾が一気に発射された。


発射された光弾はそれぞれ別の鏡に吸い込まれ、鏡から鏡へと高速で移動していく。


(完全にあのレーザーに囲まれちまった…)


高速で移動し続ける光弾は焔を囲うように鏡間を移動しており、軌道に攻撃を加えるにはこの囲いを抜ける他にない。しかし、いつこの光弾が焔に襲いかかってくるとも分からないこの状況では、下手に動くこともできない。


(あの面の体への負担は相当のもんな筈だ。このまま粘ってアイツが倒れるのを待つか?いや、ダメだその前にこっちがやられちまう…、なら!)


焔は自身に最大の防御の纏いを使用したまま、軌道を真っ直ぐに見据える。


(俺ならやっぱ正面突破だろ!)


焔は光弾が飛び交う鏡の間を突破し、軌道へと直接攻撃を加えようと考えたのだ。しかし、なおも高速で飛び交う光弾の間を抜い、軌道へと辿り着くのはかなり難しいと言っていいだろう。その上、焔の体力を考えた上でもこれ以上光弾に当たる訳にはいかない。


(よく見ろ…、チャンスは一瞬だ。)


焔はタイミングを伺いながら、両の足に力を込める。仮に光弾の隙間を抜えたとしても、焔のスピードが遅ければ確実に光弾に当たってしまう。それだけは避けなければいけない。


焔は纏いの力を最大限に使い、神経の全てを光弾の動きに集中させる。


(今だ!)


焔はその人並み以上の五感と卓越した身体能力を駆使し、完璧なタイミングと動きで高速で動き続ける光弾の隙間を通りすぎることに成功する。

焔はこの土壇場で絶対絶命の状況を切り抜けて見せたのである。


「見上げた根性だ。だが、俺は用意周到な性分でな。」


そう言いながら真横に移動した軌道の背後からもう一つの鏡が現れた。軌道の背後にあることで焔の位置からは死角になっており、焔はもう一つの鏡の存在に気づくことが出来なかったのである。


(あんなとこにもう一個隠してたのか!?)


そう思ったのもつかの間、焔の背後でワープを続けていた光弾の一つが、軌道の背後に隠れていた鏡へとワープし焔にめがけて一直線に発射されたのだ。


「ぐあぁ!!」


完全に不意を突かれた焔は光弾を防ぐことが出来ずに直撃し、その反動で鏡で囲まれたレーザーの檻へと再び戻されてしまった。 


「今度こそ終わりだ、陽滅隊。」


鏡の中心へと放り出された焔に高速で鏡間を移動し続けていた3つの光弾が一気に襲いかかった。

そして、次の瞬間には3つ全ての光弾が焔に命中しその体を貫いていた。


「これが奴らの力だ。人間が抗えると思うか?どうせ抗えぬなら初めから抗わなければいい。それが人間のとるべき選択だ。」


軌道は倒れゆく焔を見つめながら、吐き捨てるように言う。


ドサリと倒れ込んだ焔は微動だにしなくなり、コンクリートに囲まれた薄暗い空間には肉が焦げたような嫌な匂いが辺りを包んでいた。


読んで頂きありがとうございました。

遂に人魔教会の神の正体が明らかになりました!

陽滅隊の面々もピンチを迎え一体どうなってしまうんだ!?

神成りの面ちょっと欲しいな…と思った方は評価・ブックマーク等よろしくお願いします!

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