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妖子の剣士  作者: ゆゆ
21/27

人魔教会

拙い作品ながらネット小説大賞9に参加させていただきました。

評価・ブックマーク等で応援していただけると嬉しいです!!

よろしくお願いします!

ドタドタドタッ


焔は休日返上の緊急招集に片腕しか着れていない羽織に苦戦しながら、寮から白虎棟まで全力で走っていた。

白虎棟にたどり着くと、いつも通り受付さんと清掃員のお爺さんに流れで挨拶をすると、清水隊長の隊長室まで階段を駆け上がる。


「元気ですねぇ〜。」


「そうじゃのう〜。」


隊長室まで辿り着くと、急いで羽織をしっかりと着て整えると、木製のドアをノックする。


「失礼します!白虎棟清水班、千景焔です!」


「どうぞー。」


清水隊長の声を聞いてから、ドアを開けて部屋に入ると清水班の他の3人はすでに清水隊長の前に並んでいた。


「遅いよ!焔!」


「すんません!遅れました!」


「ああ、気にしなくていいよ。急に呼んじゃったからね。」


琥太郎はいつも通りの笑顔で焔を迎える。


「じゃあ、早速だけど今回君たちを呼んだ理由を話そうかな。」


琥太郎は焔が3人と同じように前に並ぶのを確認すると、緊急招集の理由について話し始めた。


「この前君たちが調査してくれた、消えた隊員の件あっただろう?君たちが報告してくれた通り、原因は人魔教会を名乗る謎の組織の犯行だった訳だけど…、その人魔教会が潜伏していると思われる場所が見つかったんだ。」


「おお!」


焔達も隊員達を発見出来なかったことで、気がかりに思っていたところだったので、思わず声をあげてしまう。


「あの後も警察と協力して人魔教会を追って、見つけたまでは良かったんだけど…、そこに突入した警察官と陽滅隊の何名かと連絡が取れなくなったらしい。君たちの報告にあった例の注射器のこともあるし、嫌な予感がするんだ。」


「陽滅隊の隊員まで…?」


「そこなんだよ、薫さん。闘気を使える隊員までもがやられているんだ。例の村の時みたいに、寝込みを襲われたのならまだしも、日頃から鍛錬を欠かさない陽滅隊の隊員が普通の人間に正面から戦いを挑んで遅れをとったとは考えにくい…、つまり相手も闘気を使える人間がいる可能性がある。」


「闘気を使える人間…。」


闘気とは人間なら誰しも潜在的に持っているものであり、修行して解放さえすれば使えるものだ、陽滅隊以外にも扱える人間がいたとしても不思議ではない。


「でも、そんな相手がいるんじゃ警察の人では荷が重いよね?」


「そう。そこで警察は正式に陽滅隊に人魔教会を捕縛する様に依頼をして来た。実は、もうすでに個人で動ける隊員が2人と柊木班の3人が任務に向かってるんだ。」


「桜達が!!」


「でも、相手は隊員を退けられる実力を持った者がいる。それにそのような相手が何人いるかも分からないし、人数は多いに越したことはないからね。君たちも今すぐ彼らの援護に向かって欲しい。」


「「「「はい!」」」」


「あと、これは僕からの忠告だ。今回の相手は今までとは違い人間だ。君たちが今までに戦ったような知能の低い妖怪・妖魔とは違い、相手も頭を使って攻めてくる可能性もある。そこをしっかりと頭に入れて任務に挑むように。」


「「「「はい!」」」」


「よし、それじゃあ善は急げだ。準備が終わったらすぐにでも出発してくれ。」


こうして、焔達は緊急任務へと向かったのだった。







「ここが人魔教会の奴らがいる場所か。」


辿り着いたのは、町外れにひっそりと佇む廃墟のような場所だった。現在は、何に使われていたのかは分からないが、廃れてはいるもののかなり大きな建物である。


「なんだ、人魔教会って言うくらいだから教会か何かだと思ってたけど、違うんだね。」


「ワクワクすんな!」


「しねぇ〜よ!」


「何に使われていた場所なのかしら。」


4人揃ってその不気味な建物を見上げていると、建物の周りを見回っていたらしい、柊木班の雛形桜と蠱毒陽太の2人が声をかけて来た。


「みなさん、こんにちは。今回はよろしくお願いします。」


「よろしくお願いします…。」


桜がおしとやかに挨拶をすると、陽太も続けて挨拶をする。


「おお!そうか、お前らも一緒なんだよな!よろしく!」


「桜ちゃん、陽太くん!よろしく!」


「はぁ〜、今日も桜ちゃんは美しい…。」


「よろしく。」


焔達も若干一名を除いてきちんと挨拶を返した。


「あれ?響くんはいないの?」


「ああ、それが…。」


確かに、桜や陽太と同じ班であるはずの稲葉響の姿がないようである。


「他にあと2人先輩隊員がいたんだけど、その人たちが「こんな任務俺たちだけで十分だ。」とか言って、先に行っちゃったんだ…。」


「それで、稲葉さんが心配だからって追いかけていってしまったんです。」


「まずいわね…。」


どうやら先輩隊員2人と響は、焔達の到着を待つことなくこの廃墟に入っていってしまったようだ。


「式神で連絡は取れないの?」


「入っていってしまってから、すぐ取れなくなってしまいました。」


桜は残念そうに首を振る。


「でも、班を卒業してる先輩達だろ?意外ともう捕まえてたりして!」


「いくら、経験があるからといって作戦行動を乱すような者は半人前よ。この時点で実力者とは思えない。」


「厳しいね…、薫ちゃん。」


厳しい言葉だが言っていることは至極真っ当だ。それに、新入隊員とはいえ薫の言葉には説得力があった。


「それは、私も同感です。先輩とは言えああはなりたくないですね。」


「おお、桜ちゃんも意外に辛辣…。」


「大地くん、雛形さんは焔くん意外は大体こんな感じだよ…。」


「そうなの!?」


「そんなことありませんよ?」


桜は基本他人とは深く関わらないようにしているので、話す時は笑顔で柔らかい口調だが内心はどう思っているか分からなかったりする。

そして、今否定している笑顔も少し怖かったりする。


「まぁ、いっちまったもんはしゃーないし俺達もそろそろ行くか!」


「そうだね、響くんも心配だし。」


焔の提案に志乃も賛同する。


「私達は基本固まっていきましょう。分かれたとしても二人以上で動くこと。敵は見つけ次第捕縛して、連れ去られた隊員を捜索する。これでいいかしら?」


異議なし!


全員が薫の意見に賛成し、6人で廃墟に乗り込むことにした。


「お邪魔しまーす…。」


大地が先頭で恐る恐る廃墟にはいると、そこはコンクリート作りの建物で、天井はところどころ崩れ落ち、色々なものが散乱している。

当然明かりもないので薄暗く、その冷ややかな空気がこの廃墟の不気味さをより際立たせている。


「誰も居ないみたいだな…。」


大地が誰も居ないことを確認すると、後の5人も警戒しながら入ってくる。


「人の気配がないね…。」


志乃の言う通り、辺りを見回して見ても人がいるような気配はない。

この廃墟は外から見るに3階建てだったはずなので、一階にはいないのだろうか。


「シッ!何が来るわ。」


コンクリート作りの建物にやけに響く足音がコツコツコツとどこからともなく聞こえてくる。

先程まで人の気配はなかったはずだが、一体どこから現れたと言うのか、足音はなおも止まることなく近づいてくる。


「みなさん、前から来ます!」


現れたのは黒髪で背の高い男だった。白のワイシャツに白のジャケット、白のズボンと言うあまり見ない出立ちで、開かれた首元からは金色に輝く十字架がぶら下げられている。

その中で一番目を引くのは、顔につけられている異様な形の面だ。異形のものの顔の面で、おぞましい表情をしている。


「次から次へと…、今日は客が多いな。」


その男は焔達の前に立つと、めんどくさそうにそう言った。


「合わせて6人、一人多いな…。」


男は焔達を見回すと、何やら呟いている。


「人魔教会のやつだよな…?白フードって聞いてたけど…。」


「警察の方に聞きました。人魔教会には教徒に階級があるらしいのですが、大きく分けると下位と上位。下位と上位では、服装も分けられていて下位までは白いフード、そして上位の者の服装とあの方の服装は特徴が一致しています。」


「じゃあ、アイツ強いのかな!!」


「さあ、聖職者での階級のようだし階級イコール強さとは限らないと思うけれど、腰に刀をさしているところを見れば戦闘に心得があると見た方がいいかもね。」


薫の言葉に5人はより警戒を強める。


「お前達は陽滅隊とか言う組織の者だな?これは警告だ。痛い目に会いたくなければ、今すぐ立ち去れ。これ以上我々に関わるのであれば、こちらも対処せざるを得ない。」


男は読み上げるように淡々と告げる。奇妙な面もつけているため、表情も読み取れない。


「出来ねぇ相談だな。こっちも仲間を返してもらわねぇとだからな。それに、何が目的か知らねぇけど一般人拉致って魂奪ってる奴らなんてほっとけないからな!」


焔は一歩前に出ると、男の警告を一蹴する。


「そうか、残念だ。」


男は小さくそう呟くと、焔達に背を向け暗闇へと消えていく。


「待て!!」


慌てて焔達が追いかけようとすると、突然視界が揺れ建物全体が揺れているような感覚に襲われた。

そして、その直後焔達5人はその場から姿を消した。


「また面倒な仕事が増えた…。」


5人の消えた場所を振り返り、男は小さく呟いた。







〜大地sid〜


「あれ…、みんなは?」


気がつくと、大地は一人で薄暗い空間に立っていた。

よく見ると、建物の廊下のような場所で周りの荒れ具合から見て廃墟の中のどこかであることは分かった。


「おいおい、なんで俺一人なんだよ!薫ちゃんは?志乃ちゃんは?桜ちゃんは?」


周りを見渡しても見知った顔がいる気配はなく、大地の声は誰もいない廊下によく響いた。


「気味わるいな。」


建物内のどこかに飛ばされたらしいことは理解した大地は、留まっていても仕方がないのでなんとか仲間を探すことにした。


このような奇妙な状況に置かれているにも関わらず、パニックに陥らなかった理由は陽滅隊の入隊試験でも同じような目にあっていたからである。


しかし、分断されたのはかなりまずい。人を支援する方が得意な大地は一人で襲われた場合、かなり窮地に立たされることになる。


「ああ、とりあえず女の子に会いたい…。」


大地がなぜ未だにこのような事を考えられているかというと、余裕があるからではなく、あえていつも通りを装うことで自分自身に虚勢を張っているのだ。


「にしても、広いなこの建物。」


そんなこんなで、仲間との合流も兼ねて廊下を歩いていた大地だが、想像していたよりも広い構造に困惑した。


この廃墟は確かに大きな建物ではあったのだが、外から見て予想していたよりかなり広い。歩いても歩いても階段や部屋も見つからなければ、仲間にも会わない。

それに、外から見た廃墟には、窓らしきものや穴も空いていたはずなのだが、それも一向に見当たらず、外の景色が見えないので自分が何階にいるのかも分からなかった。


「ほんとにあの廃墟の中だよな…。」


そんな事を考えながらひたすらに歩いていると、歩いていた廊下の先に光が漏れている場所が見えてきた。どうやらその場所は長々と続いていた薄暗い廊下とは違い開けた空間になっているようだ。


恐る恐るその空間に足を踏み入れると、何もないただっ広い空間に二人の人間の影があるだけだった。

一人は、先程の仮面の男と同じような白一色の格好の男で、男にしては少し長めの黒髪をかきあげるような仕草をしながら立っている。そして、もう一人はボロボロの体をうつ伏せにして倒れていた。


「ああ、助際が言っていた客がもう来たのか。」


長髪の男は大地に気づくとめんどくさそうにそう言った。


「どう言う状況だこれ…?」


やっと仲間に会えるかと思えば、捕縛対象の人魔教徒とボロボロの人が一人倒れている。これは、一番会いたくなかった状況に陥ってしまったのだろうか。

倒れている人物は羽織を見るに陽滅隊の人間だろうし、長髪の男は先程桜が言っていた階級上位の者と見られる服装をしている上に、腰の得物を見るにこの隊員をやったのはこの男だろう。


(とりあえず、隊員の様子は確かめないとだな。)


大地は長髪の男を警戒しながら、倒れている隊員に近づき顔を覗き込む。


「あ!お前は!?」


大地が思わず声を出してしまったのは、その隊員の顔に見覚えがあったからだ。

黄色い髪に特徴的な雷型の耳飾り、そう倒れていたのは先に廃墟へ入っていったと言う、稲葉響その人だったのだ。


「おい、響!大丈夫か!!」


「大地…か…。」


響も目だけで大地を確認すると、少し掠れた声で応えた。

大地は急いで響を抱き起こそうとするが、何故か響は石にでもなったかのようにピクリともしない。


「なん…だ…、これ。うごかねぇ…。」


大地は思い切り腕に力を込めてみるが、やはり動かない。


「ああ、それ意味ないぞ。もうそれはロックしてあるからな。」


大地が試行錯誤していると、長髪の男が声をかけてきた。


「ロック…?」


「あの人魔教徒の…、闘気や。全然体動かん。」


「闘気…。」


やはり相手は闘気を操れるようである。その上、響がやられているとなるとかなり厳しい戦いになるだろう。


「安心しろ。お前もすぐ同じようにしてやる。」


長髪の男はそう言うと、腰にさしていた線のように細い剣を抜いた。


「人魔教会、副助際(ふくじょさい)鍵垢(かぎあか)閉司(へいじ)。神の名において貴様を裁く。」


「こっちも仲間助けに来てんだ。来い!」


大地は覚悟を決めて、刀を勢いよく抜くのであった。







〜陽太sid〜


「はぁ〜、なんで僕は一人なんだ。」


ここにも一人、独りを不安に思う者がいた。

陽太もまた、大地と同じように気がつけば廃墟内のどこかに一人で飛ばされていた。


「今、敵に会ったら相手を捕縛する前に僕が捕まっちゃうよ。」


この蠱毒陽太と言う男は、陽太という明るい名前に反して全く自分に自信がない自己肯定感皆無男子なのである。ちなみに、陽太と言う名前もコンプレックスだったりする。


そして、そんな事を考えながら歩いている内に陽太は開けた広い空間にでた。


「なんだ?ここ…。」


「ぎゃぁあーー!」


耳をつんざくような悲鳴に驚き、慌てて声のした方を見る。

そこには、足から血を流している陽滅隊の隊員らしき人物が倒れており、それを見下ろすように拳銃を持った坊主頭の男が立っていた。

白のジャケットに白のズボン、首から下げられた金色に輝く十字架を見るにこの男が人魔教会の上位に位置する者だと分かる。


「その人に何してる。」


「ああ?何してるって、のこのこ入ってきたネズミをこの人魔教会、副助際 源藤(げんどう)(けん)が成敗したまでよ。神の名の元にな?」


「アンタ達の神は人を拉致したり、人を拳銃で撃つような行為を認めるような神なのか?」


「当たり前だ。我らが神は下等な人間がのさばるこの世を嘆いていらっしゃる。それに、神には人間の魂、いや闘気(・・)が必要だからなぁ!」


「神が魂を…?どう言う教えだ?それにアンタ達も人間じゃないか。」


「だから、神に仕えてるんだろうが!いずれ神々が取り返すこの世界に我らを残して頂けるようにな!」


「聞いてた人魔教会の教えと違うようだけど?」


「あっと、いらんことを喋っちまったぜ。」


源藤はそう言いながらも、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。


「やっぱ、危ない組織だな人魔教会。」


「言っちまったからには証拠隠滅しないとなぁ。アホな一般人を騙すには、共存(・・)とか言う馬鹿げた理想が必要だからな。」


そう言いながら、源藤は拳銃のセーフティバーを下ろす。


「まさか!?アンタ達の神って…。」


「っとぉ!その前に…。」


源藤は陽太の声を遮るように大きな声でそう言うと、セーフティバーを下ろしたままの拳銃を下へ向けた。


バンッバンッ!!


鋭い銃声が響き渡り、発射された銃弾は真っ直ぐに倒れている隊員へと向かい、その頭に命中した。

隊員の頭から大量の血が流れ、地面を真っ赤に染めていく。


「殺…したのか…!?」


「言ったろ?証拠隠滅するって。コイツも聞いてた。」


「お前ぇ!!」


陽太は怒りで青白い顔を真っ赤に染め、腰の刀を素早く引き抜いた。


「お?やる気になったな。来いよ!」


「後悔させてやる。」


怒りを滲ませる陽太にはもう自分に自信がないことなどはすっかり頭から抜け落ちていた。

メンタルの弱さは今の陽太には無い。後は、この男を全力で倒すだけだ。



人魔教会編に突入しました!!

彼らの目的は、彼らが崇拝する神とは...!?

人魔教徒階級上位の服装割とかっこいいのでは...?と思った方は評価・ブックマーク等よろしくお願いします!!

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