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妖子の剣士  作者: ゆゆ
20/27

消失村②

私事ではありますが、拙い作品ながら、ネット小説大賞9に応募させていただきました。

評価・ブックマーク等で応援していただけると嬉しいです!よろしくお願いします!

「どうなってんだ、こりゃ…。」


志乃が忽然と姿を消したことによって、もう一度集めた情報のすり合わせをしていた焔と薫は、あまりの食い違いの多さに頭を抱えていた。


「本当に焔くん達は、炭屋の息子さんのまことくんに会ったのね?」


「ああ、間違いない。炭屋から出た時に会ったんだ。」


「そう…。こっちも八百屋のご主人に話を聞いたから間違いないわ。八百屋のご主人も行方不明になっていない。」


なんと、村人から聞いていた村の行方不明者の情報がことごとく間違いであることが分かったのだ。


「あれ?俺らが集めたの全部間違ってんじゃねぇか?」


「明らかにおかしいわ…。少しならガセ情報がでてきてもおかしくはないけど、全て間違ってるなんて。」


「ん?ってことは、ここの村人で行方不明になった奴って誰なんだよ?」


「・・・、全員が嘘をついてるとしたら…?」


「なんのためにそんなことすんだよ!?」


「分からないけど、隠したい何かがこの村にあるってことよ。」


薫の言葉に、焔はますます頭を混乱させる。


「もし、そうなら陽滅隊の隊員を見ていないと言うのも嘘の可能性があるわね…。」


「それも嘘なのか!?なんだよ、嘘だらけじゃねぇーか!」


「でも、その可能性が高いわ。私、昨日の夜ずっと考えていたの、昨日感じた違和感について。」


そういえば、薫は昨日村人に違和感を感じたと言っていた。


「今、村の人達が嘘をついてるという可能性を考えたとき思い出したの。何に違和感を感じたのか。」


「おお、なんだったんだ?」


「この村の人達は私たちが声をかけると明らかに動揺していた。それから話の途中、誰一人として目を合わそうとしなかったの。」


「言われてみれば、そんな気も…?」


「なぜ、私達に声をかけられただけで動揺したのか…。それは、私達が嘘を吐かなければならない相手だと分かったから。私達が何者なのかその瞬間に理解したからよ。」


「・・・?つまり、どういうことだ?」


「知ってたのよ、私たちの特徴を…。この羽織を。陽滅隊がこの羽織を着ていることを知っていた、つまり陽滅隊の隊員を見たことがあるということよ。」


確かに、陽滅隊が羽織を着ているということを知ってるということは、陽滅隊の隊員に会ったことがあるということになる。


「なるほどな、だから俺たちに反応したってわけだな?でも、なんでそんな嘘を…?」


例え、村人達が陽滅隊の隊員に会っていたとして、村人に行方不明者がいなかったとして、どうしてそんな嘘を吐かなければならないのだろうか。


どちらにせよ、村人たちは人が消える怪異の被害者であるはずである。それを焔達に隠す必要性がない。


「最初から私達は間違っていたのかもしれないわね…。村人達が被害者だと思い込んでいた…。」


薫は難しい顔をして考えながらそう呟く。


「それって、まさか…。」


「ええ。だって考えてみて、焔くん。村人に行方不明者がいないのならなぜ陽滅隊が呼ばれたの?」


焔は考えても見なかった可能性に言葉を失う。


「嘘だろ…。」


「まだ確証に至らない話よ。だから、話を聞きに行きましょう。この村で唯一(・・)隊員と会ったことのある人物にね?」


「え?」


こうして焔と薫はその人物の元へと向かうことにするのだった。


「おーい、焔、薫ちゃん!こんなん見つけ…た…。あれ?」


話に熱中していた二人が大地の存在を忘れてしまったのはわざとではない…。







「で?誰なんだよ、その人物ってのは?」


「もし本当に村人達が隊員を見ていなかったとしても、確実に見ていると断言できる人物がこの村には一人いるでしょ?」


「いたっけ?」


「あの人よ。」


薫の指した方向を見てみると、クワを担いだ強面の男がいた。この村に来て最初に出会った村人である。


「ああ、なんか怒ってたおっさん!」


「あの人が私達が声をかけた時なんて言ったか覚えてる?」


「えーと…、なんだっけ?」


「「また来たのか、お前らは。」て言ったのよ。「また」ってね。」


「あ!」


「そう。だからあの人だけは確実に隊員を見ている筈なのよ。」


薫はそう言うと、男に声をかける。


「もし。お話よろしいですか?」


「お前ら、まだこの村にいたのか。帰れと行ったはずだが?」


「あなたは、私達以前に陽滅隊の隊員を見ていますね?」


「知らんな。帰れ、俺がお前達に言えることはそれだけだ。」


男はそう言い放つと、焔達に背を向けて歩き出そうとする。


「仲間が一人、忽然と姿を消しました。」


薫の言葉を聞いた男は、ピクリと反応し足を止めた。


「あなたは私達に「また来たのか、」と言いました。知らないはずはありません。」


「それは…!言葉のあやだ。お前らに話すことは無い!帰れ!」


それでもなお、立ち去ろうとする男に今度は焔が声をかける。


「頼む!大切な仲間なんだ!」


「だから!お前らに話すことなど…!」


「頼む!この通りだ!!」


男が振り返ると、焔は地面に膝をつけ頭を下げていた。


「なんの真似だ…。」


「消えたのは俺の大事なヤツなんだ!家族みたいに思ってる。アイツを…、志乃を助けたいんだ!頼む!」


「焔くん…。」


焔の顔はいつになく真剣で、志乃を助けたいと言う気持ちが痛いほど伝わってくる。


「私からもお願いします。私にとってもかけがえのない仲間です。お願いします。」


薫を男に向かって頭を下げる。


「・・・!!、分かった…。俺の負けだ。俺の知ってることを教えてやる。ここじゃ人目につく、ついてこい。」


男は参ったと言うように両手を挙げると、ついてこいと手でジェスチャーを出した。


案内されたのは、男の家であると思われる木で作られた建物だった。

男は警戒する様に周りを見渡してからドアをあけ、焔達を中へ招き入れた。


「村のヤツらに見られたら面倒だ。俺は村のはぐれ者だからな。」


男は村人に見られるのを警戒していたのだ。

なにせ、村の秘密を話そうと言うのだ村人に見られるわけにはいかない。


「では、知っていることを話して頂けますか?」


「ああ。」


薫が話をふると男はうんと一つ頷いて話し始めた。


「まずはそうだな。1ヶ月前にヤツらが来たところから話さなきゃならない。ヤツらが来てからこの村はおかしくなったんだ。」


「ヤツら…?」


「ああ、1ヶ月前人魔教会だとか言う白いフードを被った奴らがこの村に来た。人と妖怪が手を取り合う世界を作りませんか?などと言ってな。」


「それって!」


そうだ、人魔教会と言えばこの前柊木班が追っていた男が語っていた名前だ。


「言っている事はいかにもだが、どうにも怪しい連中でな俺たちは適当にあしらって帰ってもらうことした。そしたら、ヤツら急に態度を変えて訳の分からんことを言い出しやがった。これは危ねえってことでその日は村の男連中で追い返してやったんだ。」


「おお!やるなおっさん達!」


「そしたら数日後、奴らは盗賊みてぇな物騒な連中を連れてきて、神に捧げる魂をこの村から徴収するから人を一人差し出せだとか言って来やがったんだ。」


男は苛立ちを隠せない様子で話を続ける。


「もちろん、俺たちは抵抗した。拳でな。しかし、俺たちはただの村人だ、盗賊を連れた奴らに敵うわけもない。そこで、俺たちは差し出す村人を選ぶから時間をくれと言って、話し合ったんだ。」


「許せねぇな、そいつら!」


「それで村の連中が出した答えが陽滅隊を呼ぶことだ。俺は最初、陽滅隊にヤツらを追い出してもらうもんだと思ってた。けど、違ったんだ。村の連中はヤツらの恐ろしさに完全に心が折られちまったんだろうな、陽滅隊の隊員を代わりに差し出すから村人は勘弁してくれと提案しやがった。」


「そんな…。」


「もちろん俺は止めようとした、しかし村の連中は聞く耳を持たなかった。皮肉なもんだよな、その時の村の連中の目は、人魔教会のヤツらと同じ目をしてた。イカれてる!」


男は悔しそうに机を拳で殴りつけた。


「それで、人魔教会は村の連中の提案を受け入れ、村の連中はお前らが派遣されるたびに人魔教会に引き渡すようになった。それがこの村の秘密だ。きっとお前らの仲間も村の連中が捕まえて奴らに引き渡したんだろう。」


「志乃ちゃん…。」


あまりの衝撃に薫は言葉を失っている。  


「俺は最後まで反対したから、どうやって隊員を捕まえてヤツらに引き渡しているのかは知らない。知っていることがあるとすれば、宿屋の爺さんが代表してやってるってことぐらいだな。」


「あの爺さんが!?」


「ああ、それ以外のことは何もしらん。人魔教会のヤツらがどこに潜伏しているのかも分からない。」


その一件から男は村の人々と関わらないようにするようになり、詳しいことは知らないようである。


「じゃあ、あの爺さんに聞いてみるか?」


「正直に答えるとは思えないわね。もう、この村の人達には頼れないと思った方がいい。」


「俺たちだけで見つけるしかねぇか…。」


この村で起きていることの真相は分かったが、肝心の人魔教会と名乗る者達の居場所は分からずじまいだ。


「ありがとうございました。この異変の真相を聞けただけで大きな収穫です。」


「そうだな、ありがとなおっさん!」


「ああ。村の連中を止めてやってくれ。」


「おう!任せとけ!」


焔は笑顔でそう答えると、男の家を後にした。


「ぬ〜、人魔教会って奴らはどこにいんだ。人なんかさらって何してんだ!」


「焔くん落ち着いて、村人が直接引き渡しているのならこの村の近隣にまだ潜んでいるはずよ。手掛かりは必ずあるはず。」


「そうだよな、分かってるんだけどよ。あー、くそ!イライラする!」


焔は志乃がいなくなったと知った今朝からどうも落ち着きがなく、イライラしている感じだ。


「おーい!薫ちゃーん、焔ー!」


そこにやって来たのは、宿屋で志乃の個室を調べていた大地だった。

ここで二人は大地を置いてきてしまったことに初めて気がついた。決してわざとではない。


「はー、はー、見てくれ!志乃ちゃんの部屋からこれを見つけた!」


「これは…。」


大地が持っていたのは、真っ二つに破られた式札だった。志乃の個室にあったのだ、志乃のもので間違いないだろう。


「なるほど…、本部に連絡がいかないわけね。」


「犯人が人間なら知ってさえいれば、式札を破ることは出来るだろうな。」


「でも、なんで俺たちが式札を持っていることを知ってんたんだ?」


「さあ、以前に隊員を襲った際に偶然知ったのか、はたまた別の理由か…。」


「まあ、偶然知ってもおかしくはないよな。」


「てか犯人、人間なの!?聞いてないんだけど?」


これで、志乃の式神に居場所を案内させることも出来なくなってしまった。


式神には様々な権能があるが、主人の居場所を常に把握しており、案内することも可能だ。


「あっと、これを忘れてた。これも志乃ちゃんの部屋に落ちてたんだ。」


大地が懐から取り出したのは布の切れ端のようなものだった。


「なんだこれ?」


「いや分かんねえけど、志乃ちゃんのものじゃねぇと思うんだよな。」


「確かに、志乃の持ち物にこんな布のものはなかったはずよ。連れ去られた際に引きちぎったのかもしれないわね。」


確かに、その切れ端は何かをちぎったような形をしている。


「やっぱり、そうだよな!焔これの匂いを嗅いで志乃ちゃんをさらったヤツを探せないか?」


「おお!貸してみろ!クンクンクン…。」


焔は奪いとるように切れ端を受け取ると、匂いを確認し始めた。


「ぬー、ダメだ!匂いが混ざってるうえに薄い。これじゃ、辿れない!」


「ダメか…。」


ようやく見えた光が途絶えてしまい、二人の空気は暗いものになる。


「二人とも、諦めるのはまだ早いわ。こんな時のための式神でしょう?」


「え?」


「忘れたの?式神は連絡手段意外にも色々な権能を持っているのよ?鼻だって焔くんのキツネちゃんなら焔くんより効くんじゃない?まぁ、普段は式札が勿体無いからそんな使い方しないけど…。」


「おお!そんなことが出来るのか!頼むぞ、俺の式神!」


焔はぱっと顔を輝かせると、早速懐から式札を取りだすと、式神を召喚した。


ボンッ


やがて、白い煙が消えると小さな黄金色の毛をしたキツネが現れた。これが焔の式神である。因みに、志乃の式神は犬で、大地の式神はモグラの姿をしている。


「頼む、俺たちを志乃のところへ連れてってくれ。」


「キュイキュイ!」


焔が布の切れ端を嗅がせてやると、キツネの式神はすぐに反応を示し、道をクンクンと嗅ぎながらどんどんと進んでいく。


「上手くいったようね。」


「やった!」


「うっし!待ってろよ、志乃!絶対助けに行くからな!」


こうして、焔達はキツネの式神の後を追って志乃救出へと向かうのであった。







〜志乃sid〜


「んっ、んん…?」


志乃が目を覚ますと、そこはジメジメとした薄暗い場所だった。どこかのほら穴だろうか、周りはゴツゴツとした岩のような壁に囲まれている。

しかし、所々に人工的なものが目につき前方には木製のドアも見える。


「ここ…どこ…?」


村の宿屋にいたはずが、なぜ自分はここにいるのだろうか。未だにボーッとする意識の中でなぜこのような状況にいるのか記憶を巡らせてみる。


「そっか…!私…。」


そうだ。思い出した。自分はあの宿屋で数人の何者かに襲われたのだ。途中で意識を失いどこかの知らない場所に連れてこられたようである。

格好は宿屋で借りたゆったりとした寝巻きのままで、刀や他の荷物も全て宿屋に置いて来てしまったようだ。


「うっ!痛っ!」


慌てて動きだそうとして、何かに足を引っ張られる。

どうやら木の柱に金属の鎖で足が繋がれているようである。


「逃げれない…。でも、どうしてあの人が。」


志乃は連れ去られる際に、志乃を襲う連中の中にあの宿屋のお爺さんがいたことを確かに見ていたのだ。


「まさか、私たち騙されてたのかな…。」


そんなことを考えていると、コツコツコツと数人の足音が前方から聞こえて来た。

そして、木製のドアが開かれたかと思うといかにも盗賊風の3人の男が入ってきた。


「おお、なんだ。目を覚ましてやがったか。」


3人のうちの一人が志乃を見つけるとそう声をかけて来た。どうやらこの男がリーダーのようである、他の2人を引き連れているように見える。


「嬢ちゃんも災難だったなぁ?村人を助けに来たつもりが、村人に裏切られて身代わりにされちまって。」


「ギャハハハハハッ!」


リーダー男の言葉に、何が面白いのか他の2人が大笑いをする。


「身代わり?なんの話?」


「嬢ちゃんは、人魔教会とか言うイカれた教団に村人の代わりに売られたんだよ。まぁ、俺たちも金で雇われた、ただの盗賊だ。詳しいことはよく分からんがな。」


「人魔教会…。私は身代わりになったのか。」


少ない情報だったが、志乃は大体の状況を察した。

そして、それはほぼ正確に村の状況と今回の怪異の正体を読み取っていた。


「他の隊員達は?私の前にも陽滅隊の隊員がここに連れてこられてるはずでしょ?」


「さぁな?どうなったと思う?」


リーダー男はいかつい顔に悪い笑顔を浮かべて志乃を見やる。


「人魔教会の目的は何?人を攫って何をするつもりなの?」


「ん?まぁ、嬢ちゃんには話しても構わないか。魂を神に捧げるんだとよ。嬢ちゃんのお仲間も人形みたいになっちまったぜ?イカれた連中のやる事はよく分からんな。」


「魂を捧げる?神ってなんのことを指してるの?」


「さぁな。そこまでは俺たちの知るところじゃない。興味もないがな。」


どうやら、この男達は本当にお金で動いているだけで詳しいことは分かっていないようである。


「そんなことより、嬢ちゃんは自分の事を心配した方がいいんじゃないか?俺たちは連れてこられた人間は魂さえちゃんと渡せば、体はどうしようと構わないと言われてるんだぜ?」


リーダー男は卑下た笑みをこぼしながら、志乃の身体を舐め回すように見つめる。


「ギャハハハハッ!お頭、今回のはまたどえらい上玉ですぜ?」


「ええ、ガキのくせにいい身体してやがる。それに顔もべっぴんと来た。こんな女そうはいませんぜ!」


男達の嫌な視線に、志乃は肌を隠すようにギュッと服を握る。

また、このような時に限ってラフな寝巻きでサラシも巻いていない。志乃の他人より育った胸が服の上からでもその存在を主張している。


「ああ、そうだな。これは楽しみだぜ。」


「ヒュー、さすがお頭!全く悪いお人だぜ!」


「全くだ!そこにシビれる!憧れる〜!」


「へへへ!それじゃ、さっそく…。」


リーダー男は手をワキワキとさせながら志乃にゆっくりと近づいてくる。


「近づかないで!近づいたらタダじゃおかないから!」


「へへへ、いいねぇ〜!俺は気の強い女は好きだ!」


それでもリーダー男は止まることなく近づいてくる。


「来るな!」


志乃は男から離れるように後ろに下り、警戒体勢をとる。

しかし、遂にリーダー男は志乃の目前まで迫ってくる。


「いや!」


「これをぜひ着てくれ!!」


「え…?」


志乃は抵抗しようと振り上げた手を思わず止める。


男が志乃に差し出したのは、可愛い今どきのブレザーにスカート、いわゆるコスプレ衣装と言うやつだ。


「これを着てポーズをとってもらおうか!」


「は…、はぁ〜〜〜!?」







〜数分後〜


「いや〜、やっぱり最高の被写体だったなぁ!これで俺のコレクションも潤うってもんだ!」


「さすがは、お頭!ここでチャイナ服をチョイスするとは感服だぜ!」


「確かに!だが、俺はやっぱり最初の制服が最高だったな!」


男達は志乃のコスプレ姿を写真に収め大満足の様子である。

この数分間、男達はどこから取り出したのかいくつもの見たことの無い衣装を持って来ては、志乃の写真を撮りまくった。そして、志乃は志乃で戸惑いながらも、持ち前の綺麗な顔と抜群のスタイルで全ての衣装を完璧に着こなしてしまったのだ。


(はぁ、よく分からなかったけど変な事されなくて良かった…。着替える時もちゃんと出てってくれるし…。)


「さて、撮影会も終わった事だしそろそろ仕事をさせてもらおうか。」


先程までの雰囲気はなりを潜め、リーダー男は真剣な顔付きになる。


志乃はなんとかこの状況を打開する方法はないかと辺りを見渡すが、鎖を切れそうなものもない。


「おい、お嬢ちゃんを押さえとけ。」


「「へい!!」」


「ぐっ!」


リーダー男に支持された2人の男は志乃の両腕を押さえつけ、首筋をリーダー男に差し出すように頭も手で押さえる。


「へへへへ、自分の体とおさらばする準備は出来たかい?嬢ちゃん。」


リーダー男はニヤリと笑うと、懐から何かを取り出そうとしている。

と、その時…、


「無事か!志乃!!」


ドアを蹴破って入って来たのは、小さなキツネの式神を肩に乗せた千景焔その人だった。







「な!?てめぇ、どこから来やがった!」


いきなり現れた焔にリーダー男は心底驚いた様子だ。

それも、よく見てみると焔の後ろには薫と大地も立っていた。


「みんな!」


「志乃待ってろよ!今、助けてやる!」


焔は志乃を安心させるように声をかける。


「おい!無視してんじゃねえ小僧!」


「うるせ〜な!正面からに決まってんだろ。」


「なんだと!?」


リーダー男は耳を疑った。ここに来るまでに50人近くは居たであろう部下達を退けてここまで来たのだろうか。それに、ここは村の近くとはいえ見つからないように細工してあるアジトだ、どうやってここに辿り着いたのだろうか。


「お前ら、志乃に手出して無事で済むと思うなよ。」


焔は刀を片手に男達を睨みつける。


「ふ、ふん!陽滅隊だかなんだか知らんが俺達相手に勝てると思ってるのか!今までの雑魚どもと同じだと思うなよ!」


男達は一斉に腰の刀を引き抜く。ここにいる3人は盗賊団の中でも指折りの強者だ。これは脅しでもなんでもなく、男達の自信の表れだったのだ。


「薫、大地。」


「ええ。」「おう。」


しかし、焔は動じる事なく静かに薫と大地の名を呼ぶ。すると、2人は一気に闘気を発動させ、志乃の両隣に立っていた二人の男を一瞬で無力化してしまう。


「な、なんだと…?」


一瞬の出来事にリーダー男は何が起きたのか理解出来ずに呆然と立ち尽くす。


「サンキュー、二人とも。コイツは俺にやらせてくれ。」


「そう。分かったわ、志乃ちゃんを頼むわよ。大地くん、隊員がどこかに捕まってるかもしれない。行きましょう。」


「分かった。焔、頼んだぞ。」


薫と大地は、焔の肩をポンッと叩くと他の隊員の救出に向かった。


「く…、くそ!こっちには人質がいるんだ!一歩でも動いてみろ、この嬢ちゃんの魂を抜く!」


焔の怒気をふくんだ雰囲気に気圧されたリーダー男は、志乃の首筋に注射器のようなものを突きつける。


「なんだよ、それ?」


「へへへ、これはな人魔教会の奴らに渡されたブツだ。これを首筋に刺してピストンを引けば、一気に嬢ちゃんの魂はこの容器に吸いとられる!お前の、大事なお仲間が人形みてえになっちまうぞ!」


「そっか、人魔教会ってのも危ねぇ連中だな。」


「そうだ、嬢ちゃんを人形にされたくなきゃ道を開けろ!」


「でも悪いなおっさん、俺は今機嫌が悪い。」


「はぁ?何言って…」


次の瞬間、リーダー男は腹に大きな衝撃を感じ、そのまま後ろに吹き飛んだ。


「ぐはっ!」


焔は足に纏いを纏い、超スピードでリーダー男に接近するとリーダー男が反応する間もなく刀の峰で吹き飛ばしたのだ。


ゴツゴツとした硬い岩に叩きつけられたリーダー男は完全に気を失った。


「ふー。」


焔は一息ついて心を落ち着かせると、志乃と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「大丈夫だったか、志乃?」


「うん…。」


「うし!」


焔は笑顔で志乃の頭をポンッと撫でると、刀で足の鎖を切ってやり、丁寧に足の枷を外してやる。


ここで初めて焔は志乃がラフな寝巻き姿であることに気がついた。盗賊の男達に押さえつけられたこともあり寝巻きが乱れ、少し危うい感じになっている。


「・・・。」


志乃は焔の視線で服が乱れているのに気づき、慌てて服を整えると少し顔を赤らめた。


「あんま…、見んな…。」


「悪い…。」


焔も慌てて視線を逸らす。


ガバッ


「志乃…?」


志乃はいきなり焔に抱きつき、焔の胸に顔を埋めた。


「ごめん、嘘ついた…。ちょっとだけ、このままでいさせて。すごく怖かった…。」


志乃の声は少し震えていた。


「しししし!」


「なに笑ってんのよ…。」


「いや、志乃が無事で本当に良かった!」


「なにそれ…。」


しばらくの間、焔は志乃を落ち着かせるために志乃の頭を撫でていた…。







その後、消えた隊員達を捜索していた薫と大地が戻って来たが隊員達の姿はなかったという。

どうやら、人魔教会と名乗る輩に引き渡した後だったようである。


当然、焔達は捕まえた盗賊達に居場所を聞き出そうしたが、どうやら盗賊達は人魔教会がどこから来ているのか知らないようだった。式札の情報を教えられたくらいで、その他は何も知らされていないという。


大胆な犯行の割には証拠を残さないように徹底されており、人魔教会の行方を追うことが出来なかったのだ。


もちろん、その後も調査を続けてみたが遂に人魔教会を見つける事はできず、後は警察に任せることになった。隊員を見つけることが出来なかったのは無念だが、陽滅隊は事件の捜査は専門外である。ここは捜査のスペシャリストである警察に任せた方が良いという判断をしたのだ。


ちなみに村人達はというと、脅されて仕方なくということを理由に焔達は警察に共犯であったことを話さなかった。何度も頭を下げられ、反省している様子も確認したため、今回のことは目をつむることにしたのだ。


こうして、焔達は僅かの心残りを残したまま人が消える村の調査任務を終えたのである。



次回から人魔協会編に突入していく予定をしております!

人魔教会編...?ようわからんけどちょっと面白そうやなぁ...、という方はぜひ評価・ブックマーク等よろしくお願いします!

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