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妖子の剣士  作者: ゆゆ
14/27

一本松

~ある村はずれの宿屋~


「これが例の松の木か?でっけ~松だな~!」


初任務から数週間、焔たちはいくつかの簡単な任務を終え、初めて妖怪・妖魔の関連が予想される任務を受けていた。初任務やその他の任務の功績から、妖怪・妖魔の関連が予想される任務も完遂できるだろうと陽滅隊本部から認められたのである。


「ほんとだね。すごく立派な木。でも、本当にこの木が原因なのかな?」


「だよな~、志乃ちゃん!俺もただの松の木にしかみえないぜ。」

(今日も、志乃ちゃんと薫ちゃんは素敵だ~!俺は幸せ!!)


「ええ、私も同意見よ。でも、状況から見てこの松の木が原因である可能性も無きにしも非ずよ。十分に警戒しましょう。」

「あと、大地君。今日も下心が顔からにじみ出てるわよ。不快。」


「辛辣ッ!!」(だが、それもいい!!)


今回の任務の内容とは、この村はずれにある宿屋「松乃屋」に起こる不可解な現象について調査し、解決することである。その怪奇現象とは、ある日を境にこの「松乃屋」に泊まった者たちが、次々と魂を抜かれたように倒れ、未だ誰一人として目を覚まさないという現象だ。そして、その者たちは必ず松乃屋の横にポツンと生えている松の木の下で倒れていたというのだ。


「じゃあ、とりあえず。宿のじいちゃんにでも話聞きに行くか!」


「うん、そうしよう!」


「げ!?また、焔がまともなこと言ってる!?」


「意外ね。」


「おい!お前ら!!俺のことなんだと思ってんだ!!」


「脳筋バカ?」


「野生児。」


「おい!!!ひどいなお前ら!大地はともかく、薫まで!!」


「まあまあ、落ち着いて。みんな、焔の言った通りにとりあえず、宿の人に話聞きに行こうよ!」


こうして、焔達は宿の主人である高齢の男性。松野さんに話を聞きに行くことにしたのだった。






「なるほど、それでいつもあの松の木の下で倒れていたということなんですね?」


「はい、そうです。それで、私の宿に泊まると松の木の呪いにかかるという噂がたってしまって、ついにお客さんも来なくなってしまいました。私もこの歳なので、この先どうやって生きていけばいいのか…。」


もともとは、大きな松の木を売りにしてかなり繁盛していたようだが、最近はお客さんも減っており、そこに追い討ちをかけるように呪いの噂がたってしまい、遂に生きていくのもやっとの生活になってしまったそうだ。


「なるほど、それで、お客さんが倒れるようになったのはいつ頃からですか?」


「最初に倒れられた方は、3ヶ月前ほどです。それから今まで合わせて5人もの方が倒れられました。」

「聞いた話では、最初に倒れられた方は危篤の状態だそうです。」


「どれくらいのペースで呪いが?」


「月に一人、二人くらいでしょうか?」


「倒れられた方意外にここに泊られた方はいますか?」


「はい、人数までは覚えておりませんが何人もいらっしゃるかと。」


「倒れられた方に共通する特徴とかは、ありませんでしたか?」


「いえ、年齢も性別もバラバラで…。でも、倒れられたのはいつも夜の間だったと思います。朝、松の木を見に行くときにいつも倒れられていましたから。」


「なるほど…、そうですか。」


志乃が代表して、主人である松野さんに色々と質問をしてみるが、特に手掛かりになりそうなことはなさそうだった。


「う〜ん、何も原因になりそうなことは無さそうだし、倒れた人に共通する点もなしか〜。」


「やはり、松の木に何かあるのかしら。」


「被害は完全に無差別っぽいな。怖ぇよー。」


「むむむむ、分からん…。」

「なぁ、じいさん!なんか心当たりとかねぇのかよ?」


「うーん、そういわれましても…」


焔に聞かれた松野さんは困ったような顔をする。


「ばっか、焔。そんなのあったらこんなことになってねぇっつーの。」


「うるせえな、大地!あるかもしんねぇだろうが。」


「もう、二人とも騒がないの!」


「はい…」「はい!」(怒ってる顔もかわいい!)


依頼人の前でも、アホ二人は健在のようである。


「あ、あの。もしかしたらなのですが…。」


「おっ!!やっぱなんかあんのか?」


「妻の呪い…なのでは、ないかと…」


「奥さん…ですか?」


「ええ、妻が亡くなったのが今から半年前でして、その後からこんなことが起こるようになったので、もしかしたらと…」


「じいさん、その奥さんになんか恨まれるようなことしたのか?」


「ちょっと、焔!聞き方!」


「いえ、おかまいなく。何かした覚えはないのですが、もしかしたら言わなかっただけで何か不満があったのかなと。妻には、家事も全て任せきりでしたから。」


「そうですか、分かりました。参考にさせていただきます。お話ありがとうございました。あとは、私たちで原因を探ります。」


「よろしくお願いします。」


「あ!あと、部屋を借りさせていただきたいのですが…。」


「ええ、部屋は余るほど空いておりますので、ご自由にお使いください。」


「ありがとうございます!では、」









〜松乃家の一室〜


「さて、松野さんに話は聞いた訳だけど…。みんなはどう思った?」


「俺は全然分かんなかったぞ!!」


「自信満々に言うな。でも、俺もサッパリだ。」


「そうね。やっぱり、情報が少な過ぎると思うわ。あと、松野さんが言っていた奥さんの呪いなのではないかと言うのは、正直ないと思う。」


「なんで、そう思うの?」


「いくら恨みがあったとして、普通の人間の魂がここまで強い力を持てるはずがないと思うわ。それこそ、気の修行でもしてない限りね?それに、松野さん個人への恨みなのだとすれば、松野さん意外の人が被害に遭っているのは、説明がつかない。」


「うん、確かにそうだよね。」


「さすが!薫ちゃん!!」


薫の説明に、志乃も大地も感心したように言う。


「じゃあ、これからどうすんだ?」


「被害にあった人を訪ねるのは、どうかな?正直、今のところ倒れて意識がないってことしか分からないし、直接見たら分かることもあると思うし!」


「ええ、私もそれを考えていたわ。良い考えだと思う。」


「うんうん、志乃ちゃんと薫ちゃんが言うなら間違いないな!」


調査の方向性は、被害者に会いに行くということに決まったようだ。


「ふーん、じゃあ俺は今日ここに泊まる!」


「な!?お前だけゆっくりしてどうすんだよ!」


焔の提案に大地は、驚いたように返す。


「そう。その役を引き受けてくれるのね。私もこの呪いの原因を確かめるために、一番手っ取り早いのはここに泊まることだと思っていたわ。」


「ええ!?」


「やっぱり、そうなるよね。でも、危険だと思って、それ以外で原因を探る方法を考えたんだけど…。」


「気にすんなって!俺は、呪いとやらにやられるほどやわじゃねえよ。それに、これが妖怪や妖魔の仕業だとすれば、俺が一番に退治できるしな!」

「だから、志乃と薫は被害にあったって奴を見て来てくれ!」


焔は、言葉通りの自信満々な笑顔で言った。


「アハハハ、そうだよな。それが一番早いよな?分かってたよ俺も!」


「嘘つけ!」


「分かった。じゃあ、それは焔くん達に任せるわ。危なくなったら、すぐに式神をよこして。無理はしないことよ。」


「絶対だよ?」


「ああ、分かった。気を付ける。」


「その通りだ焔!気を付けてな!俺は、志乃ちゃんと薫ちゃんを何があっても守るから安心しろ!!」


「は?」


焔は、デレデレしながらサムズアップする大地に「何言ってんだ、コイツ?」と言うような顔を向けた。


「え?」


「アホか、大地!お前は俺と一緒にここに泊まって原因を探るんだよ!」


「へ?焔だけが泊まるんじゃないの?俺は、志乃ちゃんと薫ちゃんとムフフな時間を過ごすんじゃないの?」


「被害者の様子見に行くのに3人もいらねぇだろ!この宿が今一番危ねぇんだぞ?分かってんのか?それに、まあ二人いれば、どっちかやられてもなんとかなるだろうしな。」


「なにそれ怖い、嫌だ!!俺は絶対にここには泊らないぞ!!俺は二人とムフフな時を過ごすんだ!!」

「だよね?二人とも!俺は二人についてった方がいいよね!ね?」


大地は、助けを求めるように志乃と薫を見る。


「さて、話はまとまったようだし、私たちは早速被害者のところに行ってくるわ。二人とも気をつけてね?さあ、行きましょうか?志乃。」


「え?でも…、もしあれだったら私が残ろう…」


「いいのよ、志乃。気にしないで。さあ、行きましょう。」


薫は、志乃の背中を押してさっさっと行ってしまう。


「そん…な…」


「まぁまぁ、大丈夫だって!俺がなんとかしてやっから!」


焔は、大地の肩に腕をかけて嬉しそうに笑顔を浮かべている。やっと、陽滅隊らしい依頼を受けられて内心ワクワクなのである。


「最悪だーーーーーー!!!!」


置いて行かれたショックから、しばらく呆然とする大地なのだった。







〜志乃・薫組〜


先程の会話から数時間後、志乃と薫の二人は松乃屋がある田舎の一本道をずっと行ったところにある小さな村へと辿り着いていた。


「確かこの村に一人、呪いで倒れた人がいるって松野さんが言ってたよね?」


「ええ、確か中年の男性だって言ってたかしら。」


松野さんが経営している松乃屋は、村と村を繋ぐ一本道のちょうど中間の辺りに位置しており、村を行き来する商売人がよく利用していたようである。


「確か、ここら辺って言ってたかな?」


「あそこの家じゃないかしら。」









〜被害者宅にて〜


「ええ、夫はあの日から一度も目を覚ましていません。日に日に衰弱していって、もうどうしたらいいのか…。」


「そう…ですか。」


被害にあった男性の奥さんは涙ながらにそう語った。


「旦那さんを見せて頂いても…?」


「ええ、どうぞ。」


志乃と薫は、男性が寝かされている部屋へと案内された。

男性は、明らかに衰弱しているように見えた。しかし、心臓や脳、体に何一つとして異常はなく、健康そのものだそうだ。


「これは…、どう思う?薫ちゃん。」


「持病も何もなく、心臓や脳にも異常は見られないにもかかわらず、目を覚まさず、衰弱がすすんでいるということは…。」

「魂を吸われた…、としか考えられないわね…。」


「だよね…。」


妖怪・妖魔の類は精神生命体なので、基本的には食事を必要としない。しかし、悪に堕ちた妖怪・妖魔は人を喰らうことがある。身体ではなく、精神(魂)を喰らうのだ。

なぜ、本来する必要のないその様なことをするのか…、多くの場合は自信を強化する為である。人は誰しもが潜在的に気(闘気)と言うものを持っている。

人は修行でもしない限りは、使うことはないが、妖怪・妖魔はそうではない。人を喰らうことで、眠っているその力を引き出し自分のものとするのだ。

そして、精神を吸われた人はどうなるのか…。

魂であり、生命活動を支えているものを失った人は、衰弱していき、やがては生命活動を停止する。

すなわち、死を迎えるのだ。


「魂を吸われた人間を救う方法はただ一つ、魂を吸った妖怪・妖魔を倒すこと。それしか無いわ。」


「うん…、これで呪いの正体は分かったね。こうなったら早く倒して、村の人達を助けないと!」


「ええ、最初に襲われた人が3ヶ月前だとしたら相当危ない状態のはず…、急ぎましょう。」


「うん、早く戻ろう!焔達、無事だといいけど…。」


それから、志乃と薫は被害者の奥さんに挨拶を済ませると、急いで家を出た。

外に出てみると、いつの間にかかなりの時間が過ぎていた様で、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。


「思ったより時間かかっちゃったみたいだね?」


「そうみたいね。」


「陽滅隊のお二人さん!ちょっとお待ちを!」


後ろから声をかけたのは、先程の奥さんだった。


「どうしましたか?」


「いや、もしかしたらお二人が松乃屋まで戻ろうとなさってるのかと思って追いかけてきたんです。」


「はい、そのつもりだったんですが…。」


「やめておいた方が良いと思います。」


「どうして…ですか?」


「実は、松乃家へと続くあの一本道は昼間だと見通しの良い分かりやすい道に見えるんですが、実は夜になると印象が変わってとても迷いやすくなるんです。だから、あの道に慣れている村の住人でも夜にあの道を通ることはありません。迷って帰れなくなる恐れがありますから…。」


「そんな…」


「ですから、今日はうちにお泊まりください。明日の朝に戻られた方が良いと思います。」


「ど、どうしよう。薫ちゃん?」


「ふー、仕方ないわね…。志乃、今日は奥様のお言葉に甘えましょう。今、焦って迷うよりは明日の朝早くに出た方が確実よ。」


「そう…だよね。分かった、そうしよう。すいません、奥さん。お言葉に甘えさせていただきます。」

(焔、大地くん、どうか無事でいてね…)








〜焔・大地組〜


志乃と薫を見送った後、焔と大地は松乃屋の部屋をひとつひとつ丁寧に見てまわった。

しかし、やはり不審なところは一つもなく妖怪・妖魔がいたというような痕跡も一つも見つからなかった。


「やっぱこれなんかな〜?」


「さぁな、てか一部屋一部屋見ていくのマジで疲れた〜。焔は疲れてねぇの〜?」


「うーん、ここか?ここにいんのか?」


「聞いてねえし…」


焔と大地は今、もう一度松乃の建物の横にポツンと佇む、一本松を観察していた。

松乃屋の部屋をひとつひとつ調査して疲れきっている大地に対して、焔は疲れひとつ見せずに松の周りをぐるぐると回って手掛かりを探している。


「焔のやつ、いつも大雑把でテキトーなことばっかり言ってるくせにこういう時だけは結構真剣なんだよなぁ〜。」


「ん?なんか言ったか?」


「いや、なんでもねぇよ。」

(俺も少しは見習うか…)

「よっしゃ!手掛かり見つけるぞ!!」


「なんだ、急に?」


「俺も頑張らないとってな!」


「なんだそれ…」(変なやつ…)


この後も焔と大地は、至るところを調査するが結局何か手掛かりになるようなものは見つからなかった。

そしてそのまま時間は過ぎて行き、すっかり日も暮れて夜になってしまった。


「志乃と薫は、結局今日中に帰ってこれなかったな?」


「あ〜、ほんとだぜ!あっちに着いていっていたら今頃二人とお泊まり…ごにょごにょ」


「あ〜、それにしてもここの晩飯うまかったな〜!」


「いや、話変わりすぎだろ!確かに美味かったけども…」


焔と大地は、食事と湯浴みを終えて貸してもらった部屋でくつろいでいた。


「で?これからどうすんだよ?志乃ちゃんと薫ちゃんは帰って来そうにないし…。それに、今までの被害者は夜の内にやられてたって話だぜ?」


「よし!今日は寝ないで見張るぞ!!寝てる間に来られたらなんもできねぇしな!」


「やっぱ、そうなるよなぁ〜。今日はオールかぁ」


「くは〜、それにしても風呂も気持ちよかったなぁ〜!」


そう言って焔は、畳にゴロンと寝転がった。


「うわぁ、コイツめっちゃ寝そう…」








〜朝方〜


「むにゃむにゃむにゃ…、ん?あれ…、俺寝てた…?」


そう言って体を起こしたのは、焔だった。

どうやら、あれから知らぬ間に寝てしまったようだった。


「あれ…?大地がいねぇ…」


しばらく眠気まなこであたりを見回していた焔は、同じ部屋で見張っていたはずの大地の姿がないことに気がついた。


「しょんべんでもしてんのかな?」


焔はのそのそと立ち上がると、まだ薄暗い松乃屋の中を大地を探す為に歩きだした。


「あれ?ほんとにいねぇな…」


松乃家の中をぐるぐると見回ったが、大地の姿は見当たらない。途中で、松乃屋の主人の松野さんの部屋の前も通ったが、まだ時間も早いためぐっすりと眠っているようだった。


「松の木でも見に行ったんかな?」


焔は、松乃屋の中を2周回ったところでその可能性に思い至り、松乃屋の玄関を出た。


「おーい、大地?いるか〜?」


松の木のある方へ、声をかけてみるが返事はない。

仕方なく、松の木の方まで歩いて行くと、松の木の下に何か黒い影があるのを見つけた。


「お、おい…、まさかな…」


嫌な予感が頭をよぎり、慌ててその影に走り寄り正体を確認する…


「大地ッ!!!」


なんと、その影の正体は眠ったように倒れている大地だったのだ。


「おい、大地!!大丈夫か!!何があった!?」


大地の体を抱き起こし、軽く揺さぶってみるが返事はない。慌てて、脈を確認するが特に異常はないようである。


「呪いにかかっちまったってのか?くそ!なんでだ!」


そこまで言った時、焔はふと、とてつもない違和感に気がついた。


「お、おい…、どうなってんだよ、これ…」


異様で不気味な雰囲気が漂うその場所で、本来起こりうることのないはずのことが起きていた。


「木は…?あの松の木はどこいった!!!」


なぜ今まで気がつかなかったのか、先程まで目の前にあったはずの大きな松の木が忽然と姿を消していたのである…




読んで頂きありがとうございました!!

実は、今回から今まで書いていなかったあらすじを更新して書きました!!そちらの方もぜひチェックしていただけると嬉しいです!!

評価、コメントしていただけると作者のモチベーションが上がります。よろしくお願いします!、

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