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妖子の剣士  作者: ゆゆ
10/27

初任務②

ーー志乃・薫組ーー


「すいません!虎のような模様をした猫を見かけませんでしたか?」


「いやぁ、知らないねぇ。」


「そうですか。ありがとうございました!」


西側を担当している志乃と薫は焔たちと別れてから小一時間ほど村人たちから情報収集をしていたが、未だに有力な情報をつかめないでいた。


「はぁ~、こんなに探してるのに見かけた人すらいないなんて...。」


「まだ一時間よ、と言いたいところだけど小さな村だしもうそろそろ全ての家をまわってしまいそうね。焔くんたちが何か掴んでいるといいけど...。」


「本当だよ~、それにやっぱり村の人達が襲われてるって件も気になるよね?」


志乃たちはトラのことを聞いてまわるついでに菊さんから聞いていた件についても調べており、実際に襲われた被害者にも会うことに成功していたのだ。

襲われたのは日中は村の外に働きに出ている若者が多く、仕事から帰ってくる夕方ごろに皆襲われていた。被害者たちの話によると一人も何に襲われたのか見た者はおらず、高速で何かが走り去ったと思ったらその瞬間にはもう奇妙な傷をつけられていたと言う。

そしてその「奇妙な傷」を見せてもらったところ、背中や腕や足にまるで猛獣の爪で引き裂かれたような深くて大きな傷が残っていた。いっけん、熊にでも襲われたのではないかと思われるがこの村周辺で熊がいるのを見かけた人は一人もいないし、自然豊かな村ではあるが熊がでるほどの山でもないのだ。第一、その何かは熊などでは到底だせないスピードで走り去ったと村人たちが口々に言ったのだった。


「ええ、妖怪や妖魔の類がいると考えたほうがいいかもしれないわね。」


「うん、私もそう思う。念のために本部に報告したほうがいいかな?」


「それが先決でしょうね。それに、今回私たちには妖怪退治の命令はだされていないわ。」


「そうだよね!えっと、こういう時はどうするんだっけ...、あ!そうだ!こういう時のための「式神」だった!」


「任せて。」


そう言うと薫は、懐から一枚の紙を取り出した。その紙は和紙でできた「式札」というものであり、表面には五芒星が描かれている。


「いでよ、式神!」


薫はそう唱えると、式札を地面に叩きつけるように投げつけた。

するとその瞬間、地面に青白い光で五芒星が浮かび上がりボンっと煙が上がったかと思うと一匹の鷹が現れた。


「わあ!やっぱり、薫ちゃんの式神はかっこいいね!」


「そうかしら。志乃のワンちゃんもかわいくて素敵よ。」


説明しよう。

「式神」とは陰陽師が使役する鬼神などの位の低い神のことであり、陽滅隊ではあらゆる動物に変身した式神が連絡手段などのいろいろ場面で活躍している。隊員は全員一人につき一体は式神を使役しており、陽滅隊において数少ない陰陽師の名残でもある。ちなみに入隊試験の時、虎太郎がフクロウの目を通してモニターで試験の様子を見ていたこのフクロウも式神の一種である。


「これを本部まで届けて。お願いね。」


薫は「妖怪・妖魔出現の恐れあり。」と書かれた紙を式神の足にくくりつけると、そう声をかけた。

それに式神はコクッとうなずくと本部に向けて飛び去っていった。


「よし!これでとりあえずは連絡を待つしかないね。」


「ええ、早く届くといいけれど...。」


「うん、そうだね。あと、もう一つ気になることがあるんだけど...。」


「「誰かにつけられてる気がする」かしら?」


「!、薫ちゃんも気付いてたの!?」


「ええ、だいたい誰か予想がついていたから泳がしていたんだけれど。」


「ええ!?誰につけられているのかも気付いてたの!?誰?誰?」(小声)


「そうね、そろそろ出てきてもらいましょうか。」

「いるんでしょ?浩太くん?」


薫が斜め後ろに立っていた大きな木に向かって声をかける。

すると、木の枝がビクッとしたように揺れると申し訳なさそうにうつむいた浩太くんがでてきた。


「浩太くん!?なんでこんなところに!」


「あ、あの、ごめんなさい!その、あのお兄ちゃんに怒られてぼ、ぼくも親友のトラを自分で探そうと思って、そしたらその、お姉ちゃんたちを見つけたからついて来ちゃった。」


「そっか、じゃあちゃんとお母さんには言ってきたの?」


志乃がそう聞くと、浩太君は少しうつむくと黙って首を横に振った。


「そっか~、じゃあきっと菊さん心配してるよ~!」


「ご、ごめんなさい...。」


「あ!ごめんね!えっとそうじゃなくて!えっと...」


志乃は少し困ったように考え込むと、何かを思いついたように薫を見る。


「ねえ、薫ちゃん!このまま浩太くんも一緒にトラちゃん探したらダメかな?」


「ええ、私はいいと思うわよ?」


「ほんと!?ありがとう!」

「浩太くん!お姉ちゃんたちと一緒にトラちゃん探そうか?」


「え!?いいの?」


「うん!お母さんには私も一緒に謝るから!ね?」


「ありがとう!志乃お姉ちゃん!薫お姉ちゃん!」


「よし!それじゃあ行こうか!」


「うん!」


こうして、志乃と薫は浩太と一緒にトラ探しをすることになったのだった。











ーー同時刻 焔・大地組ーー


「う~、疲れた~!てか、全然猫いねぇじゃねえか!」


「同感だぜ、焔~!もうちょっと簡単に見つかると思ってた...。まさか、何の情報すら出てこないとは...。」


焔と大地も村人から情報を集めながら村の隅々までトラを探していたが、志乃と薫同様なにも成果をあげられず途方に暮れていた。


「俺たち、もう全部の家まわったよな?」


「ああ、もう完全にお手上げだよ。」


「なあ大地、これ一生見つからなかったらどうなるんだ?」


「さあ、考えたくねぇよ...。」


「俺たち一生初任務のままこの村から帰れなかったりして...。」


「お、お前、怖いこと言うんじゃねえよ!」


大地は、心底恐ろしいという顔で言い返している。

ツッコミのいないアホ同士の会話ほど恐ろしいものはない。


「こっからどうすっかな~。ん?」(クンクン)


「どうした焔?」


「向こうから飯の匂いがする!あ~、腹減った~!!」


「なんだよ、飯かよ!何か見つけたのかと思ったじゃねえか!」

「てか、さっき飯食ったとこだろうがアホ!」


「もう一時間も前だぞ!しかも、アホとはなんだアホ!」


「ったく、お前の鼻どうなってんの?俺全然わかんないんだけど...。」


「ん?別に普通だろ。」


「お前何言ってんの?」という顔でこちらを見てくる。


「はぁ~、やめろその顔。」

「ん?ちょっと待てよ...。鼻、鼻?」


「大地?」


「ああ!!なんでこんな簡単なこと思いつかなかったんだ!」


「お!なんだ?なんだ?」


「鼻だよ!鼻!」


「鼻?」


「お前のその人間離れした鼻で菊さんの家にトラが使ってた何かがあれば探せるんじゃねえか!?」


「!?、なるほど!まだ匂いさえ残ってたらいけるぞ!頭いいな、おまえ!」


「ふふふふッ!だろ?よっし、そうと決まったらさっそく菊さんの家まで戻るぞ!」


「おー!」


焔は元気よく応えると、そのまま全速力で野村家に向けて走って行ってしまう。


「ちょっと待て!てか、速ッ!」


大地の天才的な発想?により焔と大地の二人は野村家に戻るべく来た道を帰っていった。









ーー志乃・薫・浩太組ーー


「よし!ここが最後だね!ほら、ここにトラのこと知ってる人がいるかもしれないし元気だして!浩太君!」


「う、うん!」


浩太と合流してから何軒かの家を回っていた志乃たちであったが、未だに何も情報がないままであった。

家の扉を何度かノックした後、声をかける。


「ごめんくださーい。陽滅隊の者なのですが誰かいらっしゃいますかー?」


少しすると、「は~い!」という声とともにドタバタと足音が聞こえ中からちょうど浩太と同じくらいの男の子と女の子がひょいっと顔を覗かせた。


「お姉ちゃんたち誰?」


しばらく志乃と薫の顔を交互に見つめると、不思議そうな顔で男の子の方が尋ねてきた。


「お姉ちゃんたちお家の人に聞きたいことがあるんだけど...、お父さんかお母さんいるかな?」


「呼んでくる!」


男の子はそう言うと奥に走って行った。

残った女の子のほうはというと、志乃の後ろで隠れている浩太のほうをジっと見つめている。


「もしかして...、浩太くん?」


女の子は思い出したように浩太にこえをかけた。

それに対し浩太は驚いたように体をビクッと震わせると、志乃の後ろから少し顔を覗かせて...、


「う、うん...。」


と答えた。


「え!?なに?なに?二人は知り合いなの?」


なぜか一番テンションが上がっている志乃が目をキラキラさせながら女の子に質問した。


「うん、みんなで何回か遊んだことある!浩太君、あたしのこと覚えてる?」


「うん...、こ、小春ちゃん。」


「おお!!浩太君いるじゃんお友達!!」


そこに、先ほどの男の子が戻ってきた。


「あれ?浩太じゃん!久しぶり。」


「おお!!!この子も知り合いなの!?浩太君!」


「うん...、春斗くん。」


どうやら、春斗という男の子のことも知っているようである。


「あ!そうだ!!」


すると、何か思いついた風の志乃が浩太を少し離れたところに連れていき耳打ちをし始めた。


「浩太君!せっかく、お友達に会えたんだしトラのことはお姉ちゃんたちに任せて二人と遊んできなよ!!」


「え、でも友達っていうほど仲良くないし...。」


「じゃあ、この機会にお友達になっちゃおうよ!」


「で、でも僕、人見知りであまりうまく話せないし...。」


「そっか...、じゃあ、お姉ちゃんがいいこと教えてあげる!」


「実は昔、私もいろいろなことがあって他人を信じられなくって人と喋れなかったときがあったんだ...。でも、そんなときに毎日私に話しかけて笑わせようとしてくれる人がいて...。最初はなんでこの人はこんなに話しかけてくるんだろうって思ってたんだけど、その人の話で笑ってるうちになんか全部どうでもよくなって悩んでたことも忘れちゃって心から笑えるようになったんだ。そんな時にその人が、「また人と話せなくなったり悲しいことがあったときは笑え!」って教えてくれたんだ。「そしたら、なんかうまくいくんだ!」だって。おもしろいでしょ?でも、ほんとにそうなんだ。笑顔でいると、なんだか周りの人も笑顔になってその笑顔を見てまた私も笑顔になるんだ。」


「楽しくなくても笑うの?」


「無理にとは言わないよ?泣きたい時は泣いたっていい。それでも最後には笑うの。そしたらきっと、次に踏み出せるはずだよ。ふふふっ!ごめん、熱くなって話がそれちゃった。つまり、何が言いたいかというと...、笑顔でお友達と話せたらうまくいくんじゃないかってこと。例えば、相手の話を聞くだけでもいいんだよ、浩太くんが笑顔で聞いていれば相手もうれしくなってたくさん話しかけてくれるようになるよ。

自分が話すときも、もちろん笑顔ね?そしたら、たとえ上手に話せなくてもきっとうまくいくはずだから。

ほら、だまされたと思って一回やってみて!」


そう言って、志乃は浩太の背中を押す。


「わ、分かった。やってみる!」


背中を押された浩太は覚悟を決めて、小春と春斗のところへと向かう。自分から遊びに誘うなんて人生で初めてである。


「あ、あの、小春ちゃん!春斗くん!」


「??」 「??」


小春と春斗はきょとんとした顔で浩太を見つめる。


「ぼ、僕と一緒に遊ばない?」


浩太は、今自分ができる最高の笑顔をつくって言った。少しひきつってはいるが、これが浩太の最高である。


「!?、ふふふっ!浩太君が笑ってるとこ初めて見た...。いいよ!一緒に遊ぼ?」


「なにそれ!?変な顔!お前面白いな!!裏の広場で遊ぼうぜ!」


「え!?う、うん!ありがとう!」


浩太はそう答えながら、驚いたように志乃に振り返った。

それに対して志乃は笑顔とグットサインで返す。

それを見た浩太は、うれしそうに笑うと小春と春斗と共に裏庭にかけて行った。


「志乃、今のは本当の話?」


いつの間にか隣に立っていた薫が興味深そうに聞いてきた。


「!、うん、本当だよ?」


「へー、いい話ね?もしかして、その人のこと好きなの?」


「な!?なんでそう思うの?」


「浩太君に話している時の顔がそんな風に見えたから...。それと、今も顔が真っ赤。」


「へ!?嘘!?」


慌てて志乃は顔を隠す。


「冗談よ。志乃はこういうことには弱いのね?」


「もう、薫ちゃん!」


「ごめんなさい?それはそうと、その人ってもしかして...。」


「へ?」


「...、いや、やっぱりやめておくわ。ここで聞くのは野暮ってものね。」


薫はフっと笑うと、もうすでに玄関まで出てきていた小春と春斗の父親と思しき人物へと向かって歩いていった。


「ちょっと、薫ちゃん?それってどういう意味!?」


薫はそれには答えず、もう一度振り返って笑うだけだった。


                   ーー続くーー

未だにつかめないトラの行方...、焔たちは初任務を完遂することはできるのか!!

それっぽいやつを書いてみましたww

次回お楽しみに~

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