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I change you into an ideal figure : 4

 僕の持つ二つの六面体(ダイス)、白色の『ローデッド』と黒色の『シャイブド』。それらはとても価値のあるものらしい。僕は感性が鋭くないから、いまひとつその本当の価値を理解出来ていないが、それでもそれがとても素晴らしいものであることは見た目で分かる。一切の傷の無い表面は光を鮮やかに反射し、面それぞれに刻まれた点は一つの狂い無く見事なまでの円を描いていた。聞いた話では通常の六面体はそれぞれの面に数字を彫るため、厳密に言うとそれぞれの面が出る確率は微妙に異なるのだが、この二つは完璧なまでの複雑な数式と完璧なまでの技巧の技術によって全ての面の出る確率は全く同じとなっている。それが《導きの箱》と呼ばれる天才芸術、イデア=メイザースの生み出した至高の芸術作品だった。

 当然ながらそんな高価なものを狙う輩は数多く存在する。この六面体を創り出したイデアは他にも多くの作品を生み出している。その作品全てには何億何千万と言った値段がつけられている。しかしその作品が人の目に触れることはほとんどと言って良いほど皆無である。ある絵画は発見されるや否や、何者かによって盗まれた。ある指輪は鑑定家が触れた瞬間、高熱を発しその鑑定士の手に大きな火傷を負わした。ある彫刻は夜独りでに逃げ出した。ある短刀はそれを手にした者に他の作品を奪わせる為に人を斬らせた。

 そしてある六面体はまるで持ち主を選ぶかのように、平凡な日々を過ごしていた一介の高校生だった僕の前に転がってきた。

【空間】の属性を与えられたローデッド、【時間】の属性を込められたシェイブド。二つを同時に遣うことで、【時間】を越えてその【空間】で起こることを知ることが出来る。だからこそ創り出した人物は《導きの箱》と名づけたのだろう。未来を予知し正しい選択をしたいという創作者の願いが込められているかのように、絶対的な確立で六面体は未来を導く。そんな限られた魔法のようなことさえ可能にしてしまう作品たちは、世界のあちこちで事件を起こしている。

 そんな事件が今僕の目の前で起こっていた。

 僕は全力で本来授業中の校内を駆けていた。一階の廊下を駆け抜け、階段を二段飛ばしで上がり、空き教室に身を隠し、階段を飛び降り、校庭を突っ切り、体育館裏で辺りを窺い、再び校庭を一気に駆け戻った。そして今僕は自分の教室のある二階に戻ってきた。流石に息が上がり、呼吸が上手くできない。しかし、どうやら撒いたらしい。日暮の姿は何処にもない。しかし、六面体は僕の手の上で転がった。一と二が出た。三階に逃げろということらしい。本来なら何処か手頃な教室に駆け込み、教師にでも助けを求めることが最良なのだろうが、この芸術作品の関わっていることに一般人を巻き込むのは好ましくないし、何より日暮が教師たちに問題児扱いされてしまうかもしれない。だからこんな芸術作品の事情を理解してくれている天木に話すことが出来れば状況は改善するのだろうが、日暮はそれを決して許してくれない。僕のすぐ後をずっと追い続けているのだ。

 「くそっ…!」

 僕は廊下の角を曲がって駆けてくる日暮の姿を捉え、慌てて駆け出す。一体彼女の体力はどうなっているのだ。一応こちらは男子なのだから普通の女子より体力はあるはずだ。帰宅部だからそんな一般常識が当てはまるのか微妙だが、それでも天木と一緒にこんな芸術作品を探しにあちこち行ってそれなりにあるはずだ。それなのに日暮は僕から遠く離れることなく黙々と追いかけてくる。

 「日暮、そろそろ疲れてこないか!?」

 「まだ、大丈夫―」

 語尾を伸ばすほど余裕があるらしい。台詞だけ聞くと可愛いものなのに、その行動は全力で少年を追い回しているのだから、ある意味ホラーだ。

 僕はさらに足を速め日暮から逃げ出す。

 再び僕の手の上で六面体が転がる。しかし今度は数字で何階に逃げろと言うことではなかった。ころころと二つの六面体は右側に手から落ちようとする。若干それが何を伝えようとしているか分からなかったが、寸前のところで僕は意味を理解した。


 右に行け、ということだ。


 理解し右に一歩足を踏み出した瞬間、僕の左側すれすれを凄まじい速度で何かが掠っていった。飛んでいったものを確認するとジュースの缶だった。恐らく校内に置かれていたゴミ箱から拾ったのだろう。

 「ちょっと、避けないでよ!」

 後ろで日暮が何か叫んでいるから、間違いなく日暮が投げたものだろう。本当に手荒になってきた。このままでは命を落としかねない。というか女子がこんな危険球を投げるな。

 「そろそろ導いてくれるか。一回ぐらい外れの選択をしたところで挽回できないほど人生は厳しくないだろう」

 手の中の二つの六面体にそう囁くと、ローデッドもシェイブドも一瞬思案するようにクルクルと廻ったが、漸くそれぞれ面を僕に指し示す。

 「全く、他人事だと思って怠けて…」

 僕は愚痴を零しながらも、僕は導きの通りその階に走る。三と三で合計六。この学校では屋上に当たる。僕は残った体力全てを振り絞り全力で階段を駆け上がる。

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