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I change you into an ideal figure : 3

 宇月。


 天木隊第四部零位。簡単にいうと《天木家直属の執事兼メイド兼SPといった役職の、天木淡雪専属の部隊の、リーダー》になる。宇月は何度か天木淡雪の護衛で何度も学校に来て影から護衛をしているので部隊の中で一番の顔見知りだと言ってもおかしくないだろう。最近ではそれに加えてリィベルテの管理や運搬も宇月に任されたようだ。ちなみに今日の護衛は三位の桜らしいのだが、桜は隠密派らしくこれまで一度としてその姿を見たことがない。

 宇月の電話は至極簡単なものだった。一切の無駄もなくただ事務的なことしか伝えてこない。その内容は『県外に芸術作品と思われる日本刀が見つかったから、それの回収を手伝って欲しい』というものだった。

 別に宇月と雑談しかった訳ではないが、一方的に用件だけ話して切らないで欲しい。せめてこちらに切らせて欲しいし、幾つか確認したいことだってあった。

 僕は何とも言えない悲しい気持ちで携帯電話を胸ポケットへと直した。内容が内容なので、そう簡単に了承することは出来ないが行き成りドタキャンしなくちゃならないようなことが起こる日常を過ごしていないので、引き受けても大丈夫だろう。そんなことを考えながら僕は、誰にも電話の内容を聞かれないように隠れていた空き教室を後にする。

しかし、


 「あれれ? こんなところで何しているのかなー」


 そんな声が僕の後ろから聞こえ、僕の動きが停止する。恐る恐る振り返り、声の主の姿を確認する。割かし何処にでもいそうな普通の少女。背は平均より少し低め、髪を左右で括りつけた人物がそこにいた。

 「日暮…?」

 「うん。偶然だね、こんなところで会うなんて」

 日暮は無邪気そうに僕に向かって微笑む。それは街中で親しい友人と偶然会ったかのような気さくな笑顔。しかし、僕は笑うことが出来なかった。寧ろ背中に冷たいものが流れるのを感じた。だってそうだろう。僕は空き教室を出たところで後ろから声を掛けられたのだ。扉を開けて、教室を出たところで声を掛けられた。扉を閉める前に、つまり日暮は教室、正確に言うと扉に対面する窓枠に腰掛ける形でいた。同じ部屋にいて気付かないなんて有り得ない。それなのに日暮は当たり前のように、そこに座っていた。

 「…そんな偶然、あるわけないだろ…?」

 僕の言葉に日暮は可笑しそうに笑う。屈託のない微笑で僕の言葉に答える。 

 「うん、確かに。あたしは君に用があったからね。わざわざこうして会いに来たんだ」

 勢いをつけて日暮は窓枠から飛び降り、僕の傍へと近づいてくる。

 「…どうやってここに来た…?」

 「別に、ただ壁伝いに来ただけだよ」

 何でもないことのように笑う。その姿からは朝出会った時のような、トーストを銜えて登校することを決して普通とは言わないけれど、それでも朝ぶつかった時や教室でクラスの皆に自己紹介した時のような極普通の女子学生の雰囲気は見事に消えていた。何か表現しようも無い、肌に纏いつくような雰囲気を日暮は放っていた。

 日暮は後ろ手で扉を閉め、隣に並び下から僕を見上げる形で、僕と顔をつき合わせる。一点の澱み無い瞳で、日暮はじっと僕を見つめる。まるで全てを見通すかのような瞳で、僕のことをただ見つめる。

 「改めて挨拶させて貰おうかな。あたしの名前は日暮春音。君の持つ識別【時間】と【空間】、感情【(おそ)れ】、作品【六面体(ダイス)】、(導きの箱)を頂こうと思ってやってきたの」

 笑顔で日暮は告げる。

 「時月瞬くん、大人しくそれを渡してくれるかな。あたしだって手荒な真似はしたくないんだよ」

 その言葉で僕は間違った選択肢を選び、非日常に巻き込まれたことを理解した。

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