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I cut all the things which you hate : 6

 虹ヶ崎ショッピングモール西館二階。

 本来ならば人が集まる場所であるが、現在その場所には僕を含めて四人の人影しか見えない。

 「時月君、もう大丈夫? 」

 女子高生の平均よりも少し低めの体躯に、二つに縛った髪の毛。学校指定の体操服を身に纏った少女は手には何も持たず丸腰で、二階のフロアを縦横無尽に走りながら、労るような言葉を僕に掛けてくれる。

 僕は片手を上げて日暮に大丈夫であることを示す。日暮は安心したようににこやかに笑い、再び本来の自分の役割に戻る。

 それと入れ替わるように僕の傍に女性がやって来る。

 「無理はしない方が良いのですよ? 」

 長い長い黒い髪に、埃で汚れ所々破けたり血で滲んでいたりする巫女装束姿の女性。彼女は心配そうに僕の顔を覗き込みながら告げる。そっと、僕の手を握り締めて悲しそうな表情で僕に逃げる事を勧める。

 けれど僕は路城さんにはっきりと怪我は最早治った事と、この場所から逃げない事を告げる。路城さんはそれでも尚僕に何か言おうと口を開こうとしたが、その前に黒い太い腕がそれを遮る。

 「 ――――――! 」

 芸術作品によって姿を持った不法投棄されたゴミの集まり。裕に二メートルを超える全長はそれ程多くのゴミが捨てられているのだという現状を示しているのだろうか。ゴミの積もり積もった感情は、いつしか所持者も無しに芸術作品の力を呼び起こすものへと変化していた。ゴミの周りには黒いもやみたいな物が覆っている。リィベルテにゴミだと知らされるまでずっと《黒い闇》としか表現出来なかったのも、その靄みたいなの所為だろう。この靄みたいなのは、こいつを動かしている芸術作品から出ているものに違いない。なら手っ取り早く、《導きの箱》でこいつを動かしている芸術作品の位置を探り、奪ってしまえばこいつは止まると思う。

 が。

 「うわ! 」

 解決方法は分かっていても、そいつの巨体が繰り出す動きでなかなか近付くことが出来ない。路城さんが奇襲で片腕にしたというのに、時に床を壊し、時に陳列していた商品を投げつけてきて徹底的に僕たちの接近を拒む。

 「時月君、その芸術作品を取るのはあたしたちがやるから、何処にあるのか教えて」

 日暮は見事なまでの反射神経と運動神経で飛んでくる物を全て避け続けていた。

 「っ! 」

 路城さんはその場で必死に飛んでくるものを日本刀で両断していた。黒い闇に斬りかかって行く様子はまるで無かった。《うしとら》があるならば斬りかかって行く事も充分過ぎるほどに可能であると思えるのに、路城さんはそれをしなかった。

 リィベルテの言うところの『甘さ』故、だろうか。

 今はそんな事を考えている場合でもないか。日暮はまだまだいけそうだが、路城さんは結構長い時間戦い続けている。心身共に疲労がピークになっているだろう。今も足がふらついている。黒い闇から少し離れた安全な場所を探し、僕は身を隠し六面体を取り出す。

 女性二人が前線で危険と隣り合わせで戦っているのに、自分は壁で身を護っている事を若干情けなく思いながらも、先程のリィベルテのキツイ言葉を思い出しながら、手のひらで六面体を転がす。

 出た目は『一』と『一』。合計したら『二』。

 「…どういう意味だ…? 」

 滅多に無い事だが、ローデッドとシェイブドの指し示す意味が全く分からない。確かに六面体であるローデッドとシェイブドは全ての選択肢を数字で答える。だからこそ、伝わり難いように思えるかもしれないが、それでも時間を掛けたり、工夫すれば六面体がどういう導きをしてくれているのも読み取れる。

 僕は六面体に導き方を設定する。

 「ローデッドは頭部、上半身、下半身をそれぞれ上下二つに分けて、全六パーツの何処にあるか『一』から『六』で表せ、シェイブドは縦に六パーツに分けた何処にあるか教えてくれ」

 僕の言葉に六面体は僕の手のひらで転がる。

 白い六面体ローデッドは『一』を上にして止まった。

 黒い六面体シェイブドは『三』と『四』を僕に示しながら、動くのを止めなかった。

 「…って事は頭部の上側の方で真ん中近く…」

 人間のような姿のそいつ。人間の体で頭部の上側、中心近くにあるものを考える。それだけでも大分と絞れる。考えられるのは丁度人体の中心にある、脳か鼻に当たる部分。それか中心近くに二つあるという事で、眉毛か目。そんなところだろうか。

 「時月君、まだー!? 」

 危険な場所にいるにも関わらず、少しむくれたような、けれどからかうような調子で日暮が叫ぶ。恐らく僕の気分を少しでも軽くしようという日暮なりの気遣いだろうが、全く良い神経をしてる。

 「頭部の上側、中心近くにあると思う」

 明確な場所が分かった訳ではないが、それでも一応伝えておく。

 僕の言葉に日暮は大きく頷き、黒い闇に突っ込んでいく。自分に向かって飛んでくる拳を飛び越えるようにかわし、頭の上の方に思いっきり蹴りを喰らわせた。

 カアァーーン、と明瞭し難い音が辺りに響き、黒い闇が後ろ向きに倒れる。フロアがそいつが倒れた事により振動した、それと一テンポ遅れて日暮が着地する。

 「っつ〜〜。やっぱりちょっと無理だったかな」

 そう言って、蹴った方の足、右の足が段々と変な色へと変色していく。

 「春音ちゃん、足が…」

 路城さんが心配そうに覗き込むが、日暮は笑顔で『大丈夫です』とだけ答えるだけだった。

 日暮の身体能力は正しくトップクラスのものだ。人体の限界まで極めたものだと言っても良い。けれど、それでも人体で・・・鉄を砕く事が・・・・・・出来るものだろうか・・・・・・・・・

 そいつの全身はゴミで構成されている。不法投棄されたもので、自動車の扉やエアコン、テレビなど様々だ。日暮が蹴ったそいつの顔の中心部分には何処かの工場が使用した余りなのだろうか短い鉄工が位置していた。日暮は鉄工を何の工夫もされていない普通の運動靴で力一杯蹴り抜いたのだ。それで怪我一つ負わない方がおかしい。

 「日暮! 」

 「大丈夫だって。強度の方も限界まで上がってるから」

 笑顔でそう言うものの、顔中に脂汗がびっしり浮き出ている。顔色も悪く、笑顔も少しぎこちなく感じる。

 無茶苦茶だ。大体、日暮があいつから芸術作品を奪おうとしなくて良いだろう。路城さんなら、路城さんの持つ《うしとら》なら、いとも簡単に奪えたはずだ。全くの無意味。日暮が大怪我をしなくても上手く行ったはずだ。

 けど――

 「路城さんはあいつ・・・、ううん、あの子・・・を斬ることが出来ないんだよ。流石に理由までは分からないけど。けど、これ以上被害を増やす訳にはいかない。だったら、あたしがやるしかないんだ。あたしが『あいつを壊すあのこをころす』っていう罪を負うよ」

 日暮は痛みの為ぎこちなく微笑んで、路城さんに告げる。

 「だから路城さんには、あたしのサポートをお願いします」

 「けど、春音ちゃん」

 路城さんも日暮の言葉には同意しかねて止めようとしたが、日暮は構わず黒い闇に向かって突っ込んでいく。

 日暮の動きは通常の人の動きより確かに速い。芸術作品《理想像》の力により身体能力を極力まで発揮したその動きは速い。けれど、先程までの日暮のそれと比べると格段に衰えている。ただ単に駆けるだけでも一歩一歩を庇うようで速度が出ていないし、跳躍距離は半分ほどにまで落ちている。

 そんな状態にも関わらず日暮は黒い闇に挑んでいき、さらに隙を見ては黒い闇の頭部に蹴りを見舞わす。

 「瞬君、春音ちゃんを止めないといけないのです! 」

 路城さんが慌てたように駆け寄って来て僕に向かって訴えかける。それはそうだろう、今はまだ日暮は辛うじて黒い闇の攻撃をかわしているが、あのまま前線にい続ければやがて大怪我を負うか、或いは足の怪我が悪化して取り返しのつかない事になりかねない。

 けれど。

 「日暮は絶対止まりませんよ」

 例え僕がどれ程静止するよう言ったところで、例え日暮の足の怪我が激痛を与えるものであっても、日暮があれの前から退く事はないと確信を持って言える。今この現状で黒い闇を倒せる可能性を持っている奴は日暮か路城さんしかいないのだ。路城さんが倒すことを躊躇しているというなら日暮がするしかない。日暮はそれを充分に理解した上であの場所に立っている。そんな日暮が退く訳がない。

 それに僕にも日暮を止める気などさらさらない。他人からどう思われたって構わない。


 『時月君は自分の思う通りに行動してくれて良いんだよ』


 そう日暮が僕に言ってくれたように、僕も日暮の行動を尊重してやろうと思う。友達として今の僕が出来る事なんてそんな事しか出来ないのだ。後は的確な指示を出す事で早期に戦闘を終了させるくらいのものだろう。

 「瞬君、正気なのですか!? 」

 路城さんが取り乱し、僕の体を揺すってまで訊ねてくるがそれでも考えは変わらない。

 全てを日暮に賭けてみようと思う。

 「……」

 路城さんは僕と日暮、それから黒い闇を順に見て手に持った《うしとら》を強く握り締める。まるで何かを決心したかのように真剣な目で僕を見つめ告げる。

 「分かったのです。あの子は私がきちんと止めるのです。だから、春音ちゃんには退いて貰いたいのです」

 それは路城さんが覚悟を決めた瞬間だった。

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