I change you into an ideal figure : 0
人にはそれぞれなりたい自分を持っている。強くなって誰かを守りたかったり、明るくなって皆の人気者になりたかったり、格好良くなって異性から好意を寄せられたかったり、それは人によって様々だ。しかし、理想を持ったところでそれはなかなか叶わない。ある程度強くなったとしても絶対的に誰かを守れる訳ではないし、明るくなったとしてもそれを疎む人からは嫌われる。格好良くなったとしても中身が伴わなければ無理だろう。結局理想というのはただただ頭で思い描くだけのものでしかなく、理想に向かい努力することが物事の本質なのだ。昔の哲学者もそんなことを言っている。この現実世界で真善美など存在しない。真善美が見たければ本質界であるイデア界に行くしかないだろう。やはりこれも哲学者の提唱したものであるが、その場所には十全で過不足のないもので満ち溢れているようだ。
―イデア―
高度に抽象的な完全不滅の真実の実在的存在。
理性によってのみ認識されうる実在。
感覚的世界の個物の本質・原型。価値判断の基準となる、永遠不変の存在。
それと同じ名前を与えられた芸術家がいた。
イデア=メイザース。
嘗て世界中に己の存在を轟かせ、そして社会から抹殺された芸術家。現実世界で己の理想を叶えようとし、最高の芸術作品を生み出し、それと同時に最悪の芸術作品を撒き散らした類まれなる才能を有していた天才。
イデアの残した芸術作品は皆全て何らかの力を有していたらしい。それは作者の求める理想に少しでも近づくために用意された欠片。
そんな欠片と一介の高校生だった僕は十二月一日に出会い、行き過ぎた芸術家とその作品たちとの日常に巻き込まれることになってしまった。
そして話は僕が巻き込まれて一週間が経った、十二月十七日の出来事を語ることになる。
十二月十七日と言えば、クリスマスイヴの一週間前というだけで何の記念日でもない、ただの三百六十五日の内の一日に過ぎない。十二月に入ると人々は、特に僕のような学生たちは一週間後に控える聖夜に思いを馳せ、手紙をそっと靴箱に入れたり、体育館裏に呼び出してみたり、伝説の木の下で自らの想いを告げてみたりと、様々な方法で聖夜を過ごす相手を得ようと浮き足立つ。連日の休み時間には誰と誰が付き合いだした、とか、誰が誰に告白して振られた、などといった噂が学校中を走り回っていた。真実味のある噂から明らかにデマだろうと思われる噂までそれは多種多様だった。一番真実味があったものは日頃から男子の間で評判の好かった女生徒がクラス中の男子から一度に告白され、その全員が見事に玉砕したというもので、逆に一番デマっぽかったのは校長と教頭が白昼の校長室で二人の未来について語り合っていたというものだった。
そんな多種多様、千差万別、大小様々な噂の中に日暮春音に関する噂も確かにあった。近々我が校に転校生がくるという、それは確かに僕も耳にしていた。『少女漫画のヒロインみたいな女生徒』というのが、皆が口を揃えて噂していた転校生の印象だったらしい。僕は珍しい時期に行われるのだなと少し思った程度で、別段その噂に何の興味も示さないまま日々を過ごしていた。名前さえ調べることはなかった。勿論人生の分かれ目だと思い、六面体を振ることもなかった。もしその時に六面体を振っていたら何かが変わっていたかもしれない。少なくとももう少しましな出会いだったのではないだろうか。
兎に角その頃の僕は、朝は学校で勉学に励もうと努力は一応するものの睡魔に負けて居眠り、夜は自宅で何をするわけでもなくただダラダラと過ごす、そんな僕にとってはいつもと変わらない日々を過ごしていた。だから学校でも私生活でも浮いた話の一つもなかった。
十二月十七日。その日を簡単に言葉にすると、僕のクラスに転校生の日暮春音がやって来て、ちょっといざこざに巻き込まれ命を危険に晒し、放課後、靴箱に入っていた手紙を見つけ、指定された体育館裏に行き、冬なので花も葉もなにもない枝だけの桜の木の下に日暮の姿を見つけ、近づいていったら告白された。
そんな一日だった。
初投稿です。初めてで戸惑いまくりまして、あらすじ書くだけで四苦八苦してしまいました。
この話はプロローグ的なものです。なのに、結構量ありますね…(汗
続きはすぐにでも投稿したいと思っています。
少しでも読んでくださった皆さんに面白いと言われるような作品に近づけるよう頑張ります。