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第7話 スラム街

「…このようにスラム街ではスリを平然とする人もいるので注意が必要です」 


 昼過ぎの和み亭の部屋に今俺たちはいる。今スラム街に行く上での注意点をミラを中心に話し合っている。


「でも俺らは金目のものは指輪に入れてるから大丈夫だろ?」

「それはそうですが…とにかく注意したほうがいいってことは覚えておいてくださいね!」

「了解」

「承知した」


 スラム街に行く上での注意点を学んだところで俺はミラとシェンに昼までにしていたことを話し出した。


「俺はさっきまでの時間で簡単なトレーニングと銃の手直しをしていたんだ。それで出来たっちゃできたんだが…問題点があってな」

「どんな問題ですか?というかそもそも銃ってなんですか?」


 俺はミラの質問に答えるようにして指輪から革のホルスターに入っているリボルバーを取り出す。ミラが知らないということはこの世界には銃の概念が無いということでほぼ確定だろう。


「これが銃だ。俺が作ったのはリボルバーって言うんだが」

「これって大理石を粉々にした…!」

「いやそうなんだよ。そこなんだよ。その大理石を粉々にした威力がこの世界の魔物でどれくらい通用するかが分からなくてな…」


 俺はまだ異世界に来てから魔物と戦っていないから魔物の強さが分からない。もしあの弾で敵に傷をつけられないとまた火薬の量をいじらなければいけない。


「そうですね…私的にはあの威力は十分すぎると思うんですが。シェンさん、どう思います?」

「そうじゃな。ミラの言った通り大抵の魔物は大体どこにあたっても一撃で倒せるだろうが…一部の魔物は何発かいるかもしれんのう」

「そうか…じゃあ結構強いんだな。じゃあ火薬いじったけどいじる前の火薬量で行くわ」

「トレーニングって何してたんですか?」

「ああ、そうだな。トレーニングはこれを素振りしてた」


 指輪から大理石の片手剣を取り出す。取り出した瞬間に重さがかかるので落とさないように注意しなければいけない。


「重いけど2人なら簡単に持てると思う」

「へぇ…大理石の剣ですか。本当に訓練用って感じがしますね。ちょっと持たせてもらっていいですか?」

「いいぞ」


 ミラは俺から剣を受け取ると重すぎたようですぐに床に落としてしまった。


「!!これ重すぎじゃないですか!?」

「おいおい危ないぞ。足に当たったらけがするぞ」

「すいません。ですが本当にこれを振ってたんですか?」

「これを素振り100回で5セットやった」

「え!?こんなの500回も振ったんですか?すごく大変ですね…」


 そんな会話をしているとシェンが俺を上目遣いで見ていることに気付いた。多分上目遣いだと思うのだが…俺から見れば目線を俺より下にして見上げているようにしか見えない。


「マ、マスター我も持ってもいいだろうか…」

「いいけどミラみたいに落とすなよ。けがでもされたら大変だからな」

「うむ。分かっておる。では早速…うお!?これは中々重いな。これをマスターは500回も振ったのか…さすがに我でもきついな」

「最初の200ぐらいはきついけどそれからは筋肉がおかしくなってそれほど辛くなくなるぞ?ミラたちもやるか?」


 俺が近づくとミラたちは後ずさる。何故下がるんだ?そこは率先してやります!みたいな感じで来るべきだろう?


「い、いえ!遠慮しておきます」

「我も遠慮しよう」

「そっか…あ、ちなみに俺今リミッターかけてるんだけど分かる?」

「え?どこにリミッターかけてるんですか?というよりリミッターかける必要あるんですか?」

「それはだな。俺は自分の能力を過信して失敗を犯すようなことはしたくない。この力は本来俺が持っている力じゃないしな。だがリミッターのかけ過ぎで仲間を救えないっていうことも嫌だからそんなにリミッターはかけてない。ちなみにリミッターは手首と足首の4か所にしてある」


 2人に手首と足首を見せる。そこには枷のような黒い金属の輪がついていた。


「いやー本当に魔法ってチートだよな。〈エンチャント〉使ったら肉体にしか重さがかからないのと俺の意思で自由に指輪に移動する効果が簡単についたわ。これで緊急事態の時は簡単にリミッターを外せるし、重さで床がめり込むなんてこともないな」

「それって傍からみると拘束具みたいに見えるんですが大丈夫ですか?」

「そんなかんじに見えるのか…。たぶん大丈夫だと思う。大丈夫だと信じたい」

「マスター。それは一体どれぐらいの重さがあるのじゃ?マスターの身体能力は異常じゃから軽すぎるとリミッターにならないのではないか?」

「俺でもこの体のスペックの高さに驚いてるんだが普通の能力の6割に抑え込むのに1個当たりそうだな…さっきの剣が30kgぐらいだったからこれは100くらいあるかな?」


 俺は現在合計400kgの重さのリミッターをしている。それだけ魔王の体と元の身体能力は化け物級なのだ。


 1個100kgという数字を聞いて2人の顔が引きつっている。


「1つ100kgってことは今400kgのリミッターが働いていて普通の6割ですか…もうなんか驚きを通り越して呆れますね…」

「そ、そうじゃな。マスターは化け物だと思ってたが想像以上じゃな。もう我らが足手まといな気がしてきたぞ」

「お前ら感想ひどいな。あと足手まといじゃないぞ。お前らがいてくれないと俺はうさぎじゃないがきっと寂しさで死ぬからな。あと嫌ならいいんだが一応みんなにもリミッターをかけてほしいんだが…」

「い、嫌ですよ!そんな重たいものをつけたら死んじゃいます」


 ミラはそれはもうすごい速さで首を横に振る。別に1個100kgなんて言ってないんだが…。


「俺と同じ重さでなんて言ってないぞ?そうだな…1個30kgぐらいでどうだ?あと手首だけでいいぞ?特別にかわいいの作ってやるよ」

「え!?本当ですか?30kgは重い気がしますが重くないとリミッターになりませんもんね。我慢します」

「我は50kgでいいぞ?おそらく足にもあっても大丈夫だとは思うがそこは妥協しておくとしよう」


 こうして2人の手首にそれぞれのイメージカラーである赤と白のリストバンド風の物を作ってあげた。

 

 2人とも重さはちょうどいいようで気に入ってもらえたらしい。


「これはかわいいですね!重さも少し重いですがいい感じですね」

「うむ。絶妙な重さでいいのお。それに我の好きな白とはマスター、中々分かっておるなあ」

「いや、まあ2人の髪色とか鎧の色とかと統一したかっただけだけどな。気に入ってもらえてなによりだ」


 余計な事で時間つぶしたな…さてと、そろそろ行くか。


「もうそろそろスラム街に行くか」

「そうですね。行きましょう」

「そうじゃな。気を引き締めて行くとしよう!」


 俺たちは和み亭を出て、スラム街へ向かう。途中に聞きそびれた2人の昼までにやっていた事を聞いていると、どうやら主に装備の手入れをしていたらしい。鎧をよく見ると竜の鱗が輝いて見える。


 そんな会話をしているとスラム街についたようだ。さっきまでの賑わっていた大通りの脇道にあるような感じで空気がさっきまでと全然違いどこか暗い空気になってきた。


 そしてスラム街に入ったところからちらほらと言い方は悪いがぼろぼろの汚い服を着た人がまるで死んでいるように座っているのが見える。おそらくスラム街の住民だろう。


「一応覚悟はしてきたが、やっぱりなんと言うか…いたたまれないな」

「それは同感ですがここで気を抜くと襲われますよ。気を付けてください」

「ああ、わかってる。まずはスラム街の全体図を把握しておこう」


 このスラム街は迷路のように入り組んでいるため初見で来ると高確率で迷子になるとミラから聞いたので先になるべく構図を知っておきたい。


「ここの住民はなんというか精気が無いな」

「ここにいる人たちのほとんどが1年前の戦争で亡くなった人を家族に持つ人たちですからね…。」

「ん?ということはほとんど人間なのか?というか1年前の戦争がなんで関係しているんだ?」


 ミラは俺の質問にどこか申し訳なさそうな顔をして答えた。


「このスラム街は1年前の戦争のために引っ越してきた人間の冒険者の家族がほとんどなんです。一家の大黒柱である冒険者が戦争で死んだことによって少しずつ貧困になった者たちが集まってできたのがこのスラム街なんです」


 なるほど。1年前の戦争が原因でこんな所が出来たのか。ミラはきっと自分たちのせいだと思ってるんだな。魔王と勇者が戦うのは宿命だからしょうがない事なんだがな…。


 慰めてあげる言葉を探している間にシェンがフォローに入る。


「ミラ、別にお主が気にすることではない。元々魔王討伐隊の冒険者は自らが望んで入ったことじゃ。じゃからお主がどう思っても血の争いというのは止められんのじゃ」

「…そうですね。なんか元気出ました。過去は変えられないけど未来は変えられる。私はソーマさんにまたあのような戦争をしてほしくない!」

「そうじゃ。その意気じゃ。ミラは元気でいるのが一番なのじゃ」


 そして元気を取り戻したミラとシェンと再びスラム街を歩く。


 十字路に入ったところで事件は起きた。俺たちのいる十字路の横から逃げるようにして走る汚れた服を着て裸足で走っている少女とその後ろから何やら汚い笑みを浮かべながら少女を追う3人の男が走っていった。


「これが噂の地上げ屋か…」


 ソーマはこの状況が地上げ屋に追われている少女だとすぐに理解できたのはミラから情報を得ていたというのもあるが何より追っている男たちの着ている物が防具で更に腰には剣を携えていたからである。


 シェンが落ち着いた口調で問いかける。


「マスター。どうする?」

「後を追う。くれぐれも気づかれないように俺の後を付いてきてくれ」

「承知した」

「分かりました」


 俺たちが気づかれないように後を追っていると地上げ屋たちの足が止まった。どうやら行き止まりに誘導したらしい。


 この男たちが地上げ屋だと分かっているが確信がとれない限り俺たちから手を加えるつもりはないし少女が助けを呼ばなければ助けるつもりもない。地上げ屋と事を構えるというのはそれほど厄介なのだ。


「結構ピンチみたいですがどうしますか?」

「とりあえず待機だな。彼女が助けを求めるなら助けるし、求めないなら…その時はその時だ」

「分かりました」

「何やらあの男たちは彼女を売るつもりらしいぞ?」


 話を聞く限りほとんど地上げ屋なのは確定なのだが襲われている彼女が助けを求めるという肝心な事がまだ出来ていない以上助けに行っても余計なお世話の可能性もある。


「助けてやりたいのは山々なんだが地上げ屋と事を構えるのは面倒なんだ。助けるのは簡単なんだが(誰か!誰か助けて!)…って呼んだな。しょうがねぇな。俺1人で行くから2人は援護を頼みたい。それとミラ、頼みがある」

「なんでしょうか?」

「お前が持つオーラを見る魔眼で彼女を見ると同時に俺の事も見ておいてくれ」

「で、でもソーマさんのオーラは無いんじゃ…」

「それはやってからのお楽しみだ。頼めるか?」

「はい!分かりました」

「マスター。そろそろ行かないと手遅れになるぞ」

「任せとけ。援護は必要ないと思うが頼んだ」


 1人で俺は地上げ屋たちのもとに近づく。後ろから見ると本当にどうしようもない世界だと思ってしまう。


「…大の大人が寄ってたかって少女をいじめるとは…情けないな」


 言ってみたかった言葉が言えた!俺は15だから大人には入っていないと信じたい。


「だ、誰だお前!」

「そうだな…強いて言うなら救世主かな」

「お前!俺らを誰か知ってて言ってるのか!?」

「…うるせぇな。お前らなんか見たことねぇし雑魚に用はない」


 煽りで青筋を頭に浮かべている男たちを無視して俺は〈ワープ〉で彼女のところへ行き、ミラのところへ戻る。彼女も男も目を見開いて驚いていたが無視をする。


「ミラ、オーラはどうだ?」

「私も見たことがない程の白です。つまり善人ですよ!」

「そうか…じゃあそのまま俺に注目しててくれ。ちょっと驚くかもな…」

「は、はい。分かりました」

「おい!今何をした!」

「て、てめぇ!その女を返せ!」

「今ならお前の女も一緒につければ許してやるよ!」

「まぁお前の女は奴隷じゃなくて俺らの女にするけどな!」


 ん?今こいつはなんて言ったんだ?


「あ?すまんよく聞こえなかった。…もう一回言ってくれるか?今なら謝ったら許してやらんこともないぞ?」


 実際聞こえてはいたがその体から溢れんばかりの怒りと殺気を全力で抑えることで地上げ屋たちに謝れば許してやるとチャンスをあげたのだ。


 だが地上げ屋たちは俺の平常心ぎりぎりで言った救いの言葉を聞かなかった。


「へっ!何回でも言ってやるよ。お前の連れの女は俺らの性処理係になるんだよ!」

「そうか…よーく聞こえたよ…お前たちは本当に死にたいようだなぁぁー!!」


 その瞬間、俺の周りが凍り付いた。


 本当は凍り付いてなどいないがそれでも傍から見れば俺を中心に数mの範囲の空気が違う事だけは分かるだろう。


 俺はミラたちを怖がらせないためにミラ達には殺気を向けず、地上げ屋たちにも最後の慈悲で気絶ぎりぎりに保っていられる強さの殺気にわずかに残っている正気でコントロールした。俺の殺気は本気の殺気を浴びていないシェンすら気絶するレベルだ。本気の殺気を地上げ屋たちが浴びれば心臓が止まってしまうだろう。


 そんなことは誰も望んでいないので何とかコントロールしているわけだ。


 殺気が抑えられているとは言え、常人では出せない強さの殺気を浴びている地上げ屋たちはしりもちを付き、全身は震え、股間からは液体が漏れている。どんな液体とは言わない。


 だがそんなことを気にもしない俺は地上げ屋たちへと1歩づつ近づく。


「ひぃ!こ、殺さないでくれ!」

「お、俺らが悪かった!」

「あんなこと言ってすまなかった!」


 地上げ屋たちは後ろに下がりながらも謝罪してくる。謝るなら最初からあんな事言わない方が正解だったのだ。


「お前らの事はどうでもいいって言ってんだろ!それよりもだ。お前らは彼女を奴隷にするつもりでここに来たんだろう?」

「……」

「おい。人の質問はちゃんと答えた方がいいぞ?」


 返事が無いという事は図星なのだろうがもしかしたら違う可能性もあるので脅しをかける。


「あ、ああそうだ。俺たちはそのために来た!」


 あっさりと白状してくれた。メンタルが弱すぎるだろこの地上げ屋。本当に元冒険者だったのかと疑いたくなるレベルだ。それとも冒険者の中でも弱いランクのほうだったとかか?


「そこで交渉だ。俺は彼女を奴隷に出す予定の額の倍だそう。そのかわりお前らは俺らに今後手を出さないと誓え。…さっきは交渉だといったがお前らに拒否権はない。生かしてもらえるだけありがたいと思え」


 すこしだけ殺気を強めて威圧する。すると地上げ屋の内の1人が気絶してしまった。既にぎりぎりに抑えていたのを忘れていた。それに怯えた地上げ屋のリーダーらしい人物が焦るように答える。


「い、生かしてもらえるなら願ったりかなったりだが…払えるのか?」

「いくらだ?」

「た、確か売値は白金貨1枚だ。」


 内心人身売買にしては安すぎるがそれでも高い方なのか、と思いながら指輪から白金貨を2枚取り出し地上げ屋のリーダーらしき男放り投げる。


「ほら、やるからさっさとどっか行けよ。あと約束は守れよ?破ってもいいがその時は…分かるよな?」

「あ、ああ!分かってる!約束は守る!じ、じゃあな!」


 そう言って地上げ屋達は気絶する仲間を抱えながら逃げるように去っていった。

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