第6話 ソーマの人騒がせ①
この①というのは前編後編という意味ではなく、これからもちょくちょく今回のような話の時に②、③と使えるようにするためです(多分)。
「…マスター」
シェンの呼び声で目が覚める。
「…おはようシェン。…どうしたの?まだ全然暗いけ…ふぁ!?」
眠たい目をこすりながら体を起こして周りを見る。窓の外は暗く、月明かりがうっすらと入り込んでいる。ミラはまだ寝ているようだ。そしてシェンに目をやると胸のあたりに盛り上がった2つのお山とその山頂に突起が1つずつ見えて慌てて視線を上に向ける。
「…シェン。なんで裸なの?」
シェンは裸だった。上だけでなく下の方も脱いでいるらしい。俺らはもちろん防具は脱いで中の服はみんな寝る前着てたはずなのにどうしてこうなった?とまだフル回転していない頭を頑張って回して考えているとシェンが色っぽい声で囁いてきた。
「逆にマスターは女の子が2人も隣で寝ている状況なのに何とも思わんのか?」
「お前変態だったのか…。失望したよ」
「ち、違うのじゃ!我は異性といっしょに寝たことが無くての…ちょっと興奮して寝付けんだけじゃ。」
「ふーん…それでなんで裸なの?」
「そんな悲しいものを見る目で見ないでほしいのじゃ!ただ亜人化したまま寝たことがないのと、服を着るとなかなか寝れんのじゃ」
お前寝るときの条件厳しすぎませんか!?この3つの条件ってしばらく続くよね…ってことは俺は夜になると必ずシェンの裸を見なきゃいけんのか。あれ?俺ってなんで起こされたんだっけ。裸を見せるためじゃないよな。
「なぁシェン。なんで俺を起こしたの?俺に裸を見せるためだったらもう終わったから寝ていい?」
「ああ、そうじゃった。ちょいと話に夢中になって忘れておった。聞いてほしいんじゃ。今は鳴らなくなったんじゃがさっきまで壁を誰かが叩いて(ドン!)ひぃぃ!か、勘弁してくれい!我の肉は美味いと思うが食べないでくれ!」
「はぁ…そんなんで俺を起こしたのかよ。ちょっと服着とくか布団に隠れてろ」
「りょ、了解した。任せたぞマスター。ご武運を祈っておる」
大袈裟だなぁ、と思いつつもシェンは布団に隠れてうずくまってるようなので布団から起き上がりドアへ向かう。シェンは「武器と防具もつけずに大丈夫なのか!?」なんて言っていたが手をひらひらして返事をしておく。
ドアをゆっくりと開ける。そこにいたのは予想していた通りジェームズさんだった。
「やはりジェームズさんでしたか。しかし夜中に無言で客室をノックするのはあまり感心できませんね。で、何の用でしょうか」
「夜遅くに押し掛けたのは申し訳ない。だがこちらも中々に緊急事態でな。こうしてわざわざソーマ殿を起こしたのはソーマ殿の実力を見込んでの事なんだ」
ジェームズさんが頭を下げる。めんどいな。
「絶対めんどくさいやつでしょ。嫌だからもう寝ていいですか?」
「せめて話くらいは聞いてくれんかの。損はさせないよ」
「まぁいいですけど。何をするんですか?」
「わしは明日従業員確保のためスラム街に行くんだがその護衛を頼みたくてな。どうかの?金なら払うぞ」
「すみません。俺らも明日スラム街で情報収集するつもりだから断らさせてもらいます。…あとその従業員は奴隷として雇うんですか?」
少しだけ声のトーンを落としてジェームズさんに尋ねる。俺は別に奴隷制度があろうがなかろうがその世界の仕組みなのだからどうでもいいのだが、日本人のジェームズさんが奴隷制度に賛成しているとなると少し見過すわけには行かない。
「いや従業員として雇うからちゃんと休みもやるしここで住み込みで働いてもらうだけだな。しかしソーマ殿にも用事があるならしょうがない。諦めるとするか…」
「すみません。そうしてくれると助かります。代わりと言ってはなんですが俺の前の体の事を教えます」
「いいのか?さっきは言わないって…」
「そのうちバレそうだし。でもこれを誰かに言ったりあからさまに怯えたりしたら俺はあなたを処分しなくちゃいけないことになります。俺としては同胞であるあなたを殺したくはないです」
脅すつもりはなかったのだが、随分と怯えてしまったようだ。そんなに俺の言葉は怖かっただろうか?
「う、うむ。分かった。できるかぎり善処しよう。それでそんなに前の体は危険な奴かそれとも周りに恐れられていたのか?まさか魔王とか…」
「おっ!察しがいいですね。ご名答、俺が第100代目魔王らしいです」
ジェームズさんの顔が青ざめていく。それもそうだろう。巷では諸悪の根源として恐れられている魔王がこんな間近にいるのだ。怖くないほうがおかしい。
「…そ、そうか。お主の言う事ならおそらく本当なのだろう。だが何故そんな下手すれば拡散されてしまうような事を言ったのだ?」
「ん?そんなの俺はジェームズさんの事を本気で信頼してるからですよ。あ、別にジェームズさんがバラしたところで別に殺したりしないですよ?」
「いきなりわしの従業員を攫ったりせんのか?」
「俺は犯罪に手を染めたこともないしですし、するつもりもないです。あとそんなことをしてもメリットが見つからないです」
「そうか…ソーマ殿を信じよう。改めて夜遅くに押し掛けて申し訳なかった」
ジェームズさんは深々と頭を下げる。俺を魔王と知りながらも態度や言動を変えないのは経営者としての強靭なメンタルと、もともと転生者であるが故魔王についてそれほど詳しく知らなそうな事が大きいのだろうか?。
「気にしないでください。それよりこちらからも改めてお願いしときますが俺の正体を知ってもいつも通りに振る舞ってくれるとありがたいです。一応肩書は魔王ですが魔王として生きるつもりは今のところないんで」
「分かった。では失礼させていただくソーマ殿」
「はい、お疲れさまです」
そういってジェームズさんは去っていった。部屋に〈ワープ〉で戻る。さきほどから廊下の俺たちの話を盗み聞きしていた2人の後ろに立つように。
俺はドアに耳を当てている2人に幽霊のように話しかける。
「2人とも…そんなところで…何しているんだい…?」
「ひゃーーー!おば…むぐぅ!」
夜中なのに大声をあげるミラに急いで口をふさぐ。しばらくもごもご言っていたが俺だと分かると大人しくなった。
「はぁ…夜中なのにうるせぇな。もう少し静かにできんのか…」
「ソ、ソーマさんがいきなり後ろから声をかけるのがいけないんじゃないですか!」
「その通りじゃ。別にマスターがほかの女性と話していないか監視していたわけじゃ…あ」
「ふーん、そうなんだー。そんなに俺の事信用されてないんだ…。話は聞いてたんでしょ?もう寝るわ」
若干の不機嫌を装い、そのままそそくさと布団の中に潜り込む。横から「違うのじゃ!マスターを信用していなかったわけでは…。」とか「そうなんです!私たちの話を聞いてください!」と訴えかけているが無視をする。一応逆切れされて逃げられないように部屋全体にばれないよう結界を張った。やっぱり人の話をわざと無視するのは心が痛いんだが、ドッキリみたいなものだと考えているうちに眠気が来て寝てしまった。
朝起きると2人は寝ていた。しかも2人とも目元は涙の跡が付いていて、泣きつかれて寝たのだろう。体が布団からはみ出している。そして一番驚いたのが2人とも裸だったことだ。
「ミラは寝る前ちゃんと服着てただろうが。…はぁ。2人とも全裸で寝てると風邪ひくぞ」
俺は2人が起きないようにそっと布団の上に戻し掛け布団をかけてあげる。何よりも逆切れされていなくならなくてよかった。
「さーてこいつらが起きるまで何して過ごそうかな…。そうだな…〈クリエイト〉でなんか作ってみるか」
2人を見て伝言を残さなくてもいいかな?と思ったが俺のこと信じてるなら大丈夫だろと思い、結界を解いてジェームズさんが押し掛けたときにいろいろ実験に使っていいと許可をもらっていた裏庭に移動する。
裏庭についてから俺は早速〈クリエイト〉でいろいろなものを作り始める。まずは剣を作ることにした。
「剣なんかでも作ってみるか。素振り用の剣でもいいかな。大きさは90cmぐらいで素材はたしか指輪に大理石が入ってたからそれを圧縮して密度を高くすればいいか」
そして〈クリエイト〉で全長90cmぐらいで重さは軽く30㎏はあるだろう大理石の片手剣を作りだした。
〈クリエイト〉は錬金のように何もないところや例えば石ころから他の物を作りだす場合とすでにある物の形などを変えたりできる魔王の固有魔法というかスキルらしい。
「重さは重いが振れないこともないって感じだな。これで毎日素振り100回5セットぐらいいけるかな?でも今日は他に作りたいものあるから時間があったらやろうかな。
さて、次は…銃って作れるかな」
俺は先ほど作った剣を指輪にしまって、そこから鉱石と火薬を取り出す。今回作りたい銃はリボルバータイプだ。
というより俺には銃に関する知識なんてないからアサルトライフルみたいな複雑な構造の銃なんて作れない。
なんでもこの世界にはたくさんの鉱石がありそのなかでも特にアダマンタイト→オリハルコン→ミスリル→タングステンの順で硬い鉱石と言われているらしい。そのなかでもタングステンが一番熱に強いようなのでソーマはタングステン鉱石を選んだ。
まずタングステン鉱石と火薬で薬莢を作る。〈クリエイト〉大量生産が効くのでたくさん作る。
薬莢が出来たら次は銃身作りだ。今回は6連式でスイングアウト(回転するやつが外に出て弾を入れ込む)方式の銃にする。
いろいろあって2時間ぐらいで完成した。外見と色はコルト・パ○ソンによく似た感じになった。銃身と弾(実弾と麻痺と睡眠を合わせて一時的に仮死状態になるよう付与してあるゴム弾の2種類がある)はタングステン鉱石を使った。一応隠密行動も出来るようにサプレッサーも作った。
「よし、完成したぞ!」
さっきの剣を作ったときに余った大理石を壁のように設置して10mぐらい離れる。防音結界も張ってあるので建物や他の客に影響はない。
「こんぐらい離れればいいかんじか?そして弾を入れて狙いを定めて…」
そして引き金を引く。サプレッサーを付けてあるのでパシュンと音が鳴って大理石に着弾した瞬間ドゴォォンと爆発音のような音が鳴って煙が上がる。
「…まじ…か。火薬の量多すぎたか?」
煙が引くとそこに大理石は無かった。威力が強すぎて大理石が粉々になってしまったみたいだ。
「…これゴム弾も試さなきゃいけないのか。一応火薬少なめにしてあるけど俺…死ぬかも」
だが非殺傷性とはいえ人に撃つ前に自分に試さないといけない。腹を括るしかない。
ゴム弾をリボリバーに入れて呼吸を整える。サプレッサーは耐久力があまりないため外したし、仮死状態は10分あれば解けるので呼吸を整え…。
――バン!
そのまま床に倒れる。体が動かず薄れゆく意識の中誰かが駆けつけたような気がしたが誰かを確かめる前に俺は意識を失った。
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《ソーマが倒れる少し前の事。》
「うーん…あ!私寝てた!」
ミラは布団の中で自分が寝ていたことに気が付いた。そして自分が寝てしまうまでしていたことを思い出した。
「そうだ!私確かシェンさんと一緒にソーマさんの会話盗み聞きしてて…それで機嫌悪くさせちゃって…それで…ソーマさん寝ちゃって…あれ?なんで私裸なんだろ。そうだ…ソーマさんにちゃんと説明しなきゃ……ソーマさん?」
あたりを見回す。しかしソーマは見えない。ソーマの代わりにシェンが座っていた。裸だったが、どことなく落ち込んでいる感じがした。ソーマがなぜいないのか、それは自分自身何となく想像がついていた。だが認めたくなかったためシェンに恐る恐る質問する。
「シ、シェンさん…。…ソーマさんはどこですか?ト、トイレですよね?ね?」
ミラの質問にシェンは俯いたまま元気のない声で返した。
「…ミラ。お主も分かっておろう…。マスターはここにはいない」
「冗談ですよね…?そ、そうだ!きっと私たちを驚かせるためにどこかに隠れてるんですよ!ソーマさん!出てきてください!出てきてちゃんと話しましょうよ!」
シェンの返事は想像どうりだったがやはり認めたくない。だからあり得もしないことを言うしかできなかった。
「ミラ!そろそろ現実を受け止めろ。さっきも言ったじゃろう…。マスターは…マスターは、いないんじゃ…」
「嘘だ!いやだいやだ!信じたくない。信じたくないよ!シェンさん。探しに行きましょうよ!まだ近くにいるはずです!」
「我もそう思っておったから1人で行かずお主が起きるのを待っておったんじゃ。早く服を着て探しに行くぞ!」
「はい!」
(使い魔のシェンさんがいるってことはソーマさんはまだ死んでないってことだ。それに遠くにも行ってないみたいだからもしかしたらまだ宿のどこかにいるかも。そうだオーナーさんの…なんだっけ。ジェームズさんだ!ジェームズさんに聞けば居場所を知っているかもしれない)
ミラたちはすぐさまジェームズのところへ駆けつける。ソーマに旅館内は走ってはいけないといわれていたので走るぎりぎりのスピードで歩く。
ジェームズは受付で受付のお姉さんと話していた。
「ジェームズさん!」
「お主たちはソーマ殿のところのミラ殿とシェン殿だったか?何の用かな?あとここではあまり大声を出してはいけないよ」
「すいません。えっと、ソーマさん見ませんでしたか?」
「ソーマ殿なら2時間ぐらい前だろうか、裏庭を借りるといって裏庭の方に行ってしまったぞ?」
「そうですか。ありがとうございます」
「我からも礼を言おう」
「気にするな。それよりもソーマ殿とはぐれたならさっさと行ってあげなさい」
「「はい!(うむ)」」
ミラたちはジェームズに礼を言い急いで裏庭へと向かう。
裏庭へ向かうと半透明の青っぽい結界が見えたため足を止め柱に隠れる。中をのぞくとやはりソーマがいた。
「ソーマさん!」
ソーマのもとへ向かおうとするミラだったがその前にシェンに止められた。
「シェンさん!なにするんですか!?」
「ミラ、よく見ろ。マスターは何かを作っている。終わるまで待つのが基本じゃ。飛び出したい気持ちは分かるがもうしばらく待て」
「…分かりました」
しばらく待っていると完成したらしい。なにやら点検をしているようだ。
「シェンさん。あれなんでしょうか?」
「分からぬ。おそらくマスターの世界にあったものだろう。一見して見ると武器のように見えなくもないが…」
「あ!ソーマさんが大理石の壁を作りましたよ!武器なら飛び道具か何かでしょうか?」
そしてソーマが大理石から10mぐらい離れて武器のような物に指をかけ引いたと思ったら結界内は煙に包まれた。
そして煙が引くとそこに大理石の壁は無かった。大理石が壊れる音がしなかったことからこの結界には防音の機能も備わっているらしい。
「うわー!すごい武器ですね。大理石が粉々じゃないですか」
「うむ。本当にすごいな。あれなら我らの体も貫けるかもしれんな」
「シェンさん!そんな怖い事言わないでくださいよ!…でも本当にあの武器私たちを殺すために作ったんじゃ」
「…そうかもしれんな」
そんな物騒な会話をしてふとソーマの方を向くと何かを込めているのが見えた。やはりあれを発射する道具らしい。そしてソーマが深呼吸しているのを見たときミラの背筋が凍った。その時のソーマの顔は何やら迷っているような顔をしていたからだ。
ソーマが深呼吸をやめたとき何故か嫌な予感がした。それはミラだけではなくシェンも感じたようだ。
「シェンさん。何か嫌な予感がします」
「我も何かマスターの身に何か起こる気がしてならんのだ」
「「…まさか」」
ソーマが持っている飛び道具がこめかみに当てられた時、2人はその予感は間違っていなかったと思った。同時に2人はソーマの元へと走っていた。
「ソーマさん!」
「マスター!」
――バン!
ソーマが引き金を引いたのとミラたちが結界の中に入ったのはほぼ同時だった。
結界内に響く火薬の音と同時にソーマが倒れる。そして倒れたまま動かなくなってしまったソーマの元へと駆けつける。
「ソーマさん!何してるんですかー!?」
「マスター!?マスター!しっかりしてくれ!」
シェンがソーマの胸に耳を当てる。しかしソーマの心臓の鼓動は聞こえない。シェンの顔がどんどん青ざめる。
「ミラ…マ、マスターの心臓が動いておらん…。じゃが…我が消えていないと言う事はマスターは死んでおらんのじゃろ?どう言う事じゃ!ミラ!」
「わ、私に聞かれても分かりませんよ!で、でも心臓が止まってるなら早く心臓マッサージしなきゃ!」
シェンは心臓マッサージを始め、ミラは回復魔法の準備をしている。
心臓マッサージという技術は今の時代ではほとんどの人が知らない。回復魔法が発達したが、今でも復活の魔法は一般的には知られていない魔法だ。そのためもし心臓が止まった場合、心臓マッサージをすれば生き返るかもしれない命すらも無駄にしているのだ。
奇跡的にシェンとミラは心臓マッサージの心得があったので出来たというわけだ。
「ソーマさん起きてください!〈メガヒール〉!……だめです。シェンさんどうしましょう。効果がありません!」
「落ち着くのじゃミラ!我もやってはいるがどうやったらいいのかよくわからん。じゃから変わってくれ!」
「は、はい!分かりました」
シェンの代わりにミラが心臓マッサージを始めたが、ソーマが目を覚ます気配はない。
それもそのはずだ。ソーマがかかっている仮死状態は体が損傷していない限り時間経過で自動的に生き返るのでそれまで何をしても意味がないのである。それを知らない2人は無駄な労力だけを使っていく。
「ミラ…時間が経ち過ぎている。もうじきマスターは…」
ソーマの心臓が止まってからもうすぐ10分が経とうとしている。シェンはなぜそんなに時間が経ってもソーマが生きているのかと不思議に思っていたが、それと同時に諦めてもいた。
だがミラは決して諦めたりしなかった。
「シェンさん!諦めたらだめですよ。私は決めたんです。どんなことがあってもソーマさんと一緒にいると…だから……だからソーマさんが死なないように頑張っているのに私だけ諦めるなんてできないんです!」
ミラが諦めずに心臓マッサージを繰り返している間にソーマが倒れてから10分が過ぎた。
その時だった…ソーマがゆっくりと目を開け始めた。
「ソーマさん!?」
「マスター!!」
「……ん?ミラと…シェンか。起きたんだな…おはよう」
ソーマの言葉にソーマが生きていると実感したのだろう。2人から止めどなく涙が溢れ出す。
「…もう。死んじゃったかと思って心配したんですよ…」
「実際心臓が止まってからずいぶん時間が経っておったはずじゃが生きておったのか…まったく心配をかけさせる主じゃ」
ソーマは体を起こそうとしたら胸に激痛が走り、起こすのをやめた。どうやらミラの心臓マッサージが強すぎて胸骨かどこかが折れたようだ。
「ミラ。くっそ胸が痛いんだが…回復魔法使ってくんね?」
「あ、はい。分かりました。〈メガヒール〉」
ミラは回復魔法で少し回復したソーマの体をゆっくりと起こしてあげる。
「ありがとう。そういえば2人はなんでここにいるの?ちゃんと布団に寝かしたつもりだったけど…もしかして寒かった?」
「起きたらソーマさんがいなくて急いでシェンさんと一緒に探してたんですよ!あの時は…昨日の事で嫌われて出て行っちゃったんじゃないかと…心配で…」
「あの後マスターは寝てしまって我らも機嫌をなおそうと色々しておったら我らも寝てしまったんじゃ。起きたときにミラはいるのにマスターがいなかった時の喪失感と言ったら……」
2人は昨日の夜と朝起きたときにソーマが突然いなくなった時の心情を涙ながらに語ってくれた。
「2人ともよく俺の場所が分かったな」
「ジェームズさんに聞いたんです。それで言われた通り裏庭に行ったらソーマさんが結界を張ってて何かしてたんです」
「ほぉ…銃を作る時からいたってことはあの威力を見たってことか。すごいだろ!」
「うむ。あれはたしかにすごかったのお。あれで我らを殺すのではないかと思ったぐらいじゃ…我らを殺すために作った武器ではないのか?」
シェンの最後の発言に驚いたソーマだったがそんな心配をさせるような行動をした自分が悪いと思い頭をぽりぽり掻きながら少し申し訳なさそうに答える。
「そんなわけないだろ。あれは俺の実験用に作った物だからそんな心配すんな。あれを実用化するつもりは今のところ無い。あともう別に昨日の事で怒ったりしてないから」
ソーマ自身もともとこの銃は試しに作った物だから本気で活用するつもりはない。だが実験の結果、火薬の量が多すぎたのと、あの仮死状態は危険だという課題ができた。
「そうか…分かった。マスターの言葉を信じよう。それで、さっきマスターの体はどうなっておったんじゃ?」
「そうなんですよ!ソーマさん大理石が粉々になるほどの攻撃をもらって心臓が止まってるのに回復魔法や心臓マッサージをしても何の変化もなかったんですよ。どう言う事なんですか?」
「あー、あれはだな。そもそも大理石に使ったのが普通の弾で、自分に使ったのがそれより火薬の量とか弾頭を変えて非殺傷性にした弾に麻痺と睡眠の〈エンチャント〉を付与して一時的に仮死状態を作る人間用の弾を使ったんだ」
そういってソーマは普通の弾とゴム弾を2人に見せる。
「…まぁ。効果とかも確かめずにぶっつけ本番で人に使う訳にはいかないからな。俺が実験体になったってわけだ。心配かけさせたようで申し訳ない」
ソーマの言っていることが難しすぎて頭に?を浮かべていた2人(主にミラ)だったが少しは状況を理解したようでシェンが口を開く。
「なるほど…。少しは理解できたがマスターよ。実際に使ってみてどうだったんじゃ?後遺症とか残っておらんか?」
シェンの言葉にはっ!としたソーマが軽く結界内を動き回る。
「記憶と身体能力については大丈夫だし問題ないだろうが、仮死状態は危険すぎるから使うなら麻痺だけにしとくよ。……さて2人とも、もうそろそろ朝だし部屋に戻って着替えて飯でも食べてくるといい。今日は昼頃にスラム街に行くからちゃんと準備しとけよ」
「ソーマさんはどうするんですか?」
「俺は飯はいらんしこれから実用的な銃を作るし、それにちょっとトレーニングもする。いままでの事を考えると信用してもらえないかもしれないけど危険なことはしないから安心してくれ」
「いえ、私たちはソーマさんの事を信じているので気にしないでください!」
「では我らは先に行くとしよう。マスター気をつけてな」
「おう!お前らもトラブルとか起こすなよ」
そしてソーマとミラ達に分かれてソーマは主にトレーニング、ミラたちはご飯や支度をして昼までの時間を過ごすのだった。
今回も半分にしようか迷いましたが、今回のちょうどいい区切れできると片方が3000字ほどになりそうだったのでやめました。