エピローグ
ひとつの賭けだったのだと旦那さんは言った。
街の人々に訊いて何とか私の家に辿り着いた旦那さんは父に告げた。
「娘さんが死にましたよ」と。
その言葉を聞いて傷つかないようなら、私をこの家に戻すことは出来ない。そう思っていた。
父は傷ついたのだと言う。震えた手で奮い立たせるように酒をあおり、「連れていけ」と言ったのだそうだ。
そうして、父はやって来た。
大人になった私の幻と私の願いに触れ、その思いに答えてくれた。
父は酒を止め、真面目に働くようになった。
母を亡くした悲しみから酒に溺れるようになったが、元々腕のいい靴職人であった父。私が履いていた母の靴も父が作ったものだった。
私は相変わらず、マッチ売りの少女を続けている。
みすぼらしい格好ではなく、しっかりと防寒した温かな格好、父が作ってくれた自分にぴったりの靴を履いて少しでも家計の助けになればと街でマッチを売っている。
少年は子どもを亡くした夫婦の家に引き取られることになった。夫婦は街でパン屋を営んでおり、看板娘ならぬ看板息子として元気いっぱいに愛されながら働いている。
時々、歌を愛する女性の家にみんなで集まってお茶会をする。おいしいものを食べてみんなで歌を歌って。女性は相変わらず歌を愛しており、少しづつではあるが、歌と両思いになってきているようだ。
マッチの魔法は本当になくなってしまった。どんなに擦っても、もう誰の願いも叶えることはない。
でも、今はそれでいいと思っている。
私の願い事は叶ったのだから。
たったひとつ。大好きなおばあちゃんと天国にのぼることを除いては――。