出かける前に
朝が来て、いつの間にか寝てしもうていたのか。
といってもまださほどの時間は経ってはいないようじゃ。
乗っている膝の上では机に突っ伏して縫っている服を枕に眠っているメル。
話を聞いて思うことはなんというか、価値観が完全に実力主義、魔力主義なんじゃなということである。
ふと、横に空になったベッドを見る。
確か、ガリバーといったか、その子はこうしていなくなったということは、その中で耐えられなくなって外へ出たということなんじゃろうな。
実際に演習場なりいっている最中など、彼の姿はかけらも見つからなかったし、それに、そう考えると、さっさと園内からでてしまったと考えてもおかしくはないじゃろう。
ふと、この子の家族状況も鑑み・・・・
あまりにも不憫になった。
生きてるこの子よりも死んだ子を尊ぶとか。
まじでありえない
同室の友達も耐え切れずにいなくなり、一人ぼっちとなってしまったか。
そのとき、儂、この世界に来る前のことをぼんやりと思い出す。
(儂、一人じゃのぉ)
そして、こうも思った。
(せめて気心知れる人と・・・・)
と。
この子は儂を使い魔としてよんだわけじゃが、ほかの連中と違い、きちんと物ではなく家族のような、とにかく体を張って守る対象として見てくれておるようじゃった。
なんか、前世でもはじめてのことのように思えた。
思えば、そういうふうに守ってもらえたことは親からもあまりなかったように思う。
儂にはもう何年もあってはいなかった弟と妹がいたわけじゃがほとんど出来のいい弟妹に親はずっと取られていたように思える。
守られる対象ではなく、弟妹を守るものとしており、親からはどこか出来の悪さから見捨てられていたように思える。
現に、就職後なぞ、一流企業に行った弟妹の方が可愛がられていたような気がしている。
ふと、思う。
せめて、この子だけでも、本当にきっちりと育てねばならん。
天凛持ちゆえに?
違う。
周りの評価のために?
それも違うきがする。
なら何か。
とにかく、苦笑いでなく、ほんとうに心の底から笑顔でいて欲しい。
昔のわしを鑑みての、ものじゃからな。
わりとガチでどうにかしたいから。
うし、なら、行動に移らなくてはな。。
ひょいと、さりとてそっと膝の上からおり、わしは部屋をあとにしようと思う。
とはいえ、勝手にいなくなるというのも具合が悪かろう。
このあとわしが何をするか、心配しないで欲しいということは伝えんとな。
ほうれんそうはしっかりとじゃったか?
床に都合よく紙が数枚落ちておる。
すきま風で落ちたものか。
さて書くものは・・・・インク壺発見・・・・って蓋がかなりしっかりとしまってそう。
うーぬ、この肉球ぷにぷにお手手ではあけるのも難儀しそうじゃな・・・・むぅ、しょうがない。
しゃきんと爪を伸ばし、反対のほうの皮膚にちくっと
「にゅっ!」
ちょいと痛みは走るものの、さほどの痛みではない。
ぷっくりと血が滲んでくる。
ちょっとほっとした。
この体にはちゃんと赤い血が流れているんじゃな。
使い魔じゃし、血とか流れていなかったり、青かったり透明だったりしているわけじゃないことにほっとした。
うーむ、普通の猫とは違う魔力を持った猫?もしくは使い魔は魔力が固定した生き物擬き?
そのあたり使い魔のオリエンテーションでねずみと話してて聞き逃したのもあったやもじゃが、まぁ、こうして生きて動き回ることが大切じゃからな。
さて、で、この出たわずかばかりの血を爪に・・・・ほんのちょいアクアボールで嵩増しするか。
「にゃ(アクアボール)」
ふわりと水球が出る。
別に放出するわけではいのでちょっとだけ拝借。
で、倍に希釈した血で、紙にさらさらさらっとわしが何をするかということを絵で伝えた。
書き始めのときは文字にしようと思ったが、そもそもここの文字を儂、知らんわけじゃし、ならわかりやすいように絵にしたわけじゃ。
おし、これでおっけー。
けっこう簡易ながらもいい出来になったな。
これで伝わるじゃろう。
では、いくとします・・・
ばしゃ!
かというところで思いっきり顔に水がかかった。
濡れてべちゃっとした毛が顔に張り付く。
ふるふると水を飛ばす。
あー、そういえば出したままじゃったか。
さっきの水球が形態維持できずに顔にかかったと。
だしたらしまう、徹底せんとな。
そう思い、一部の床をぬらしたが、すぐ乾くじゃろうとそのままにし、そっと扉をあけた。というかそもそも幸い、扉の脇に隙間が空いていてそこからするりと抜けることができた。
ほんとうにぼろい部屋じゃ。
待遇改善を要求したい。
とにかく、全てはこれからじゃ。
わしはそっと、目の前に走る下り階段を駆け抜けていった。
今日は休日。
なら今日、ある程度の目算を立てられるようにせねばな。
儂とメルの強化計画のために
より一層の決意を込めて。