初めての戦闘と力のなさ
「なんだこいつ?」
「ねこ?」
「ああ、ハズレの猫だよ」
「ああ」
くすくすと儂が威嚇しているというのに全く動じないガキども。
「メルティウス、お前の使い魔、従者には不適格な猫だってな」
「猫って気ままだし」
「言う事聞きづらいし」
「使い魔の種の中で唯一裏切るってこともあるっていうのにな」
「うわ、こいつ、牙向いてきてる。いっちょまえに出たばかりの小物使い魔が威嚇してるぜ」
「どうせでたばかりの使い魔だぜ。大した魔法なんかつかえねぇよ」
「だな、竜や虎とか強い使い魔ならともかく、こんあ猫じゃな」
はやしたて儂を馬鹿にするガキども。
ふん、そういうなら、これでも喰らえ!
「にゃっ!(ファイアボール!)」
「うわ、あつ!」
瞬時に炎の玉がひとつ、額のところに出現し少年の一人にあたる。
よし、魔法は成功。普通に使える。
コマンド選択とかしなくてもどうも念じて言えば言葉ででるみたい。
しっかし、しょぼ!
軽く火傷する程度か!
魔力がカンストしてた時はもっと派手なエフェクトで巨大な玉がでたものじゃが、今のは豆粒程度じゃったか。
ボールというよりも小さなバレットではないか
しかし、与えた影響はどうも大きいみたいである。
「こ、こいつ、火の魔法を」
「猫の使い魔だろ?攻撃系の魔法なんかないんじゃないのかよ」
ほぅ、攻撃系はないのか。
とすれば、件の猫魔術とやらにはそれ系はないのか?
まぁ、単に、しれんがな。
「とにかく、囲め。今の威力じゃ大したことできねぇし、これはこれで魔物退治の練習になる」
「おい、使い魔だぞ、私闘は」
「だいじょうぶだ。おい、アラン、試合要請しといてくれよ。メルティウスの猫が威嚇してきたが寛大にこちらが許すので代わりに俺たちの集団戦の練習を行いたいって言っとけ。そうしたらあそこでどうしようか迷ってる教師も黙るだろ」
「さっすが、ガレット。行ってくるぜ」
そういって、アランと呼ばれた少年が走っていく。
そしてガレットと呼ばれた少年が対峙する。
って、よく見れば、こいつの派手な服装・・・・確かあの教室で竜と契約したとかいってた小僧か!
「ふん、光栄に思えよ。次期公爵の嫡男、ガレット=フォン=シンクレオが直々にお前とし合ってやるよ」
じゃらりと袖につけた宝石が揺れる。
「じゃあ、連携だ。いくぞみんな」
「おぅ」
「や、やめて!」
メルティウスが足を踏み出そうとしたが
「おっと」
「やめときな」
大柄な少年が二人、メルティウスの腕を掴んでとどめた。
「は、離して」
「やーだよ」
「おとなしく見とけ、落ちこぼれ」
組み伏せられて止められた。
にゃろう、メルに何を。
「こっちだ、猫!我が炎の眷属よ、その身に集いて塊と無し、浄火の炎風で敵を焼き尽くせ!炎の風よ」
って、こっちもそれどこじゃない。
ガレットが炎の膜のようなもの両手から放ちそれがこちらに来る。
「見たか、これが本当の炎の力だ!」
「ち、にゃっ!(アクアボール)」
対抗するには水!
と思い、素早くウィンドウで確認後、コマンド内にあった魔法を念じ使用。
で、出てきたのはさっきの炎のたまよりは大きい水の塊・・・・
(使えん!)
一瞬ポカンとしたが、迫る炎に対し、咄嗟に水の塊をほおっておいて、横に飛んでさける。
炎の膜が水の塊を包み、瞬く間に消失した。
コマンド内でほかの属性の地、風、聖、邪、無と使えるものがないか確認していたが
「隙有り」
「げぶっ!」
確認している隙を狙われたか、回避のための見切りの瞳を使い忘れものの見事に別の少年に横腹を蹴られ軽くすっ飛んだ。
「集団戦だ」
「隙を見せるな。さっき水の魔法も使った。何をするかわからん。このまま押し込め」
「おぅ」
魔法の様子を見てそう思うのは結構じゃが、さっきの小さな水球程度でどうこうできるわけないだろ!
とはいえ、驚異は驚異と、さっき儂を蹴った少年がどうやら近接線で攻撃してくるようだ。
「風の眷属たちよ、私の周りに集まり、この身にかごを。風の足を」
詠唱の中の言葉より、おそらくスピードアップ系。
こっちは猫の敏捷性に見切りの瞳をしっかりと使用。どうにかプレイヤースキルもあるから避けて小さく反撃はできるが・・・・・きつい!
今のこの体は人でなく猫。それもまだ一日も経っていない。
それゆえに未だに体の動きがなじまない。
補助用の魔術の中に火魔術でステータスアップ用の魔術があるがレベルはまだ1だから使えん。
少しの間殴り合いと魔法と魔術の掛け合いを行ったが、その間、別方向から次々と炎が、風が、氷が儂に襲いかかる。
どうにか見切りの瞳を使いかわし続けたが、けっこう、魔力の減りが。
そして、なんとなく、酔ったような目眩を感じだした、そのとき、
「これで、どうだ!」
どうにも情報量が多く、死角からの攻撃には対処がおくれ、追加で魔力切れがおきたようで鈍った動きのところをさっきくらった横腹をまた蹴られた。
「うぎゅっ!」
くそ、もろにくらった。
かはっと大きく息をはくも動きが鈍る。
そして
「おらおらおらおら」
猫相手に動物虐待だ!
とばかりに蹴るわ投げるわ殴りつけるわ。
そして合間合間に儂に魔法が当たる。
「に、にゃ(サンドショット)」
大きなものには地魔術の砂の玉を使って誘爆をさそうも軽いものは放置。手数の差でどんどん儂は傷つけられていく。
(ジリ貧、じゃな)
教師は、ほかの生徒は、止めに入らんのか?
もう動きがうまくいかん。
まずい
ちょっと、しゃれに・・・
「やめて!」
意識が途切れそうになったとき、何かが覆いかぶさるように儂の視界が暗くなる。
メ、メル!?
「うあ!!」
そのまま少年たちの魔法を次々と見に浴びていく。
たらりと何かの固形型の魔法に当たったか地が流れる。
髪はややこげ、凍りついている皮膚の部分もある。
数秒、攻撃の魔法を浴びた、か・・・・・
「おいおい、勝手に飛び出すなよ。これは試合だぞ。というか威嚇するようないけない使い魔をわざわざ俺たちが教育してやってただけじゃないか。そもそも使い魔なんぞ体張って助けるってバカじゃないのか?」
覆いかぶさるメルの体の隙間からガレットのニヤケ顔が見える。
「所詮、道具に過ぎん連中だし、そもそもこの演習場では死にはしなんだろ。死にはな、ってうあ!」
儂はそれをききながら、なけなしのアクアボールをニヤケ顔にあててやった。
心なしか、水球の大きさが増したきがする。
あ、レベルが1上がったようじゃな。
「こ、この」
「おい、お前たち、それ以上はやめておけ」
大人の声。教師か?
やはりずいぶんおそいな。
「魔法の実践訓練は重要だが過剰にやりすぎるのはよくないぞ」
「はーい」
くるりと教師に向かい教師相手ににこやかに話し出す少年たち。
教師は和やかにそれに応対する。
それに引き換えわしらに対し、どこかぞんざいに扱われている。
この差はなんじゃ?
魔力がないのがそんなにまずいことなのか?
そう疑問に思ったわしじゃがその答えが応対する教師の口より聞こえた。
「魔物あふれる外の世界を止めるのは魔法使いの使命だからな。止められなければ意味がないからな」
・・・・つまりは戦力にならんものは用無し、か。
「ほら、お前たち、そろそろここも閉めるし帰るんだぞ」
「はーい」
そういって、少年たちは軽くいったあと、教師はやおら持っていた回復薬の瓶をあけて
バシャっとメルに投げかけた。
ついでにわしにも回復薬がかかる。
「ふん、さっさとおきて帰れ。落ちこぼれが」
教師は苦々しくいったあと、その場をあとにした。
どうやらいつの間にかほかの生徒はいなくなっていた。
さっきのガレットを追っていったのか向こうで歓声が上がっていた。
その間、うずくまりながら、メルが「ごめんね」と儂につぶやき続けていた。
手を上げ、瓶底眼鏡の下のすすで汚れたほほに触れようとしたとき、ふと、やたら脱力する感じがした。
回復?
いや、なんか違う。
何かが吸い上げられている感じが・・・・あ、本格的に、まずい感じが・・・・
くっ・・・もっと力があれば・・・・ついぞ持てなかった、孫みたいな年の子を悲しげにさせることも・・・・・
ないのに・・・・
そして、儂はそのまま意識が途切れさせた。
遠く、遠く、メルが「サン!」って悲しげに叫ぶ声を聞きながら・・・・・