獲物?
「あっはっはっ、何、後方からの支援は任せてくださいよ」
「ほんとうに頼りになるわ」
「俺たちにも魔法使いがパーティに加わるなんてすごいな」
「のちのちに期待したいところではあるね」
周りの冒険者が口々に彼を褒め称え、甘い言葉でとろけさす。
ガリバーの左右に妙齢の女冒険者が、その職業は踊り子かそれに近しいか、そういう衣装を身にまといやれ酒よ肉よと差し出していた。
儂があんな子供に酒をと小声で言うとタマが
『何、この世界では洗礼ということで五歳から多少であればワイン程度の酒は飲めるようになるぞ。そもそもあまり酔いはしない軽いもの限定だがな』
そう言われたら、確かに進められているのはワインのみである。
ただ、杯を重ねすぎて彼の顔は赤くなっているが。
「それにしてもこんなところで魔法使い様に我がパーティに加わってもらえるとは光栄の至りですな」
「ええ、お貴族様なのでしょう。将来はこの国を守る御稜威の剣盾となる方でしょうに」
にこやかに彼ら彼女らが言うとガリバーがいっそうにこやかに答える。
「いえいえ、やはり、学園などと小さなところにいるよりもしっかりした実戦をこの場で積みたいですしね。それにここはかの有名な三大ダンジョンの一つ。ここはひとつ挑むのも人としての夢というものでしょう」
「きゃー、ガリバー様かっこいい」
「よっ、未来の大英雄」
「冒険者の希望の魔法使い!」
あまた褒めそやされ、どんどん杯を重ねていく。
『冒険者にとって魔法使いはかほどに称えられるものなのか』
とすればメルもここにくれば、いじめなどとは無縁のよりよい環境の中にいられるのでは。
そう思ったが、タマは目を細めてため息をついた。
『ああ、今年もまたあーいうのが出たか』
はぁ、とため息をついた。
『なんじゃ?あーいうのとは?そもそもあれだけ歓迎されているのにため息とは』
『ああ、気がついておらんのか?というかそうだな、パッと見では歓迎されておるな。だが端の男たちの視線をよく見てみろ』
そう言われて端で笑顔でバーニャカウダみたいなものをつまんでいる男二人を見た。
男はさも歓迎での笑顔になっているように見えたが、どうにもその視線はねばつくものがあった。
ん?と思い、目線を見れば、ガリバーを見ているというよりも、その持っているものを見ているようであった。
なんじゃ?と思ったがその答えはガリバー自身がしてくれていた。
「はっはっはっ、そうだ、僕はすごい魔法使いなんだよ。ほら、いっぱいものが入る魔道具もある、杖も魔力を高め、炎が出る魔杖。僕が持ってこそ真価を発揮できる数々。必ず、君たちに素晴らしいものを期待させてあげるよ」
と、腰に下げているボシェットやら杖やらを掲げてみせたりしていた。
それを見る眼差しが全員一瞬肉食獣のように見えたが、すぐにその視線はやみまたもとの歓迎ムードになった。
『なんじゃ?』
『ま、よくあることだ。一年に一度、この学園とやらの入学が終わった次か次の月のあたりにあのように学園が嫌で冒険者になりに来る者がいるが大抵は悲惨な末路をたどるものだ。うまく大成できるのはそれこそ何百人に一人いればいいほうだな』
『お、おい、悲惨な末路って』
『先の視線を見ただろ。冒険者は命を代価に迷宮で魔物を渡り合いながらその中の資源をとっていく。学園の中にある訓練用の安全装置が多少なりかかっている洞窟とはものがちがう』
『あ、ああ』
学園内の迷宮ってそういうものなのか。
『だが、そういうものにとってただ一旗揚げるだけが目的の学生というのは小憎らしい存在なんだよ』
『そう、か』
だとするとメルがくるとそれこそまずいな。あの弱々しいままではまず食い物にされて終わりそうだ。
『で、悲惨な末路って?』
『ああ、それはな』
「おお!ならちょっと俺の力を見せつけるためにひと狩りいこうぜ」
そういうとき、ガリバーがひときわ吠えた。
なんかはじめてあったときの気弱そうなイメージが吹き飛ぶがあれって屈折した思いがあったのだろうか?
少々同情するのぉ。
「そうこなくっちゃ」
「いこうぜ」
口々に冒険者たちは笑顔でいるが、ガリバーには見えないだろうが儂のほうが見ればよくわかった。
なんかうす寒い笑みを浮かべているんじゃからな。
『おい、もしかして』
『ああ、もしかしなくてもそういうことだな。貴族の坊ちゃん嬢ちゃんというのは総じてなんらかの魔道具を持っている。で、今回みたいに入った後日、闇市場にその貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが持っていたものが売られているということだな』
『・・・・・その貴族の坊ちゃん嬢ちゃんはどうなったんだ?』
『さてね、生きているのか死んでいるのか。少なくとも迷宮から出てきたところを見たことはないね。まぁ、四六時中俺がここにいるわけでなし、見てないだけなのかもしれないがまず録なことにはなっていないだろうな』
『そ、そうか』
『ちなみにこの世界、普通に奴隷制度とやらがあるぞ。一応言っておく』
『お、おう』
・・・・・なんというか骨の髄までしゃぶられて捨てられるイメージがわく。
そう思うと体が自然と動いた。
『おい、何処へ行く?』
『決まっている。とりあえず安全かどうか見に行く』
『はぁ、まぁ、どちらにせよ、なかに行くんだろ?ならついて行ってもいいが死ぬなよ。ダンジョンに取り込まれるからな』
『ああ』
『ついでになるべくこっそりとついてけよ。転送とかそういうのはないから穴に入るというだけだが、それでもただの猫が入るってことで魔物が餌と認識して襲ってくることがあるからな』
『・・・・・魔物を引き寄せるのか?』
『まぁ、そうだな。特に使い魔の体は極上だそうだからな。魔物からしたらだが。まぁ、魔物の目を見てそう思ったんだがな』
『迷宮入りしたことあるんだな』
『まぁな。ほら、あいつら言ってしまうぞ』
おっと、そうじゃった。
遅れてしまうな。
しっかし、あーも派手に注目されて犯行に及ぶものなのかな?
疑問がわいたがそれでも一応、わずかながらの縁もあるし、中に入るのは変わりないのじゃからいくとしますかね。
『ではな』
『ああ、あと、帰ってきてから多少この世界のこと教えてやれるからな。帰ってきてこいよ』
『あ、ああ、そうだな』
って、まてよ、なんか後ろ寒い感じがしてきた。
うん、ちょっと待てよ。
『と、とりあえず、死なないようにするからな』
『ん?うん、当然だろ。じゃな』
ほぅ、とりあえず、フラグはへし折って、さて、いくとする・・・・あ、見失った。
まず、そこそこ入口付近は並ぶとかでなくどんどん入っていく形式か。
というか、どっからこんなに人が湧いて出たってくらい人ごみに溢れてきておるぞ?!
ちょっと奥に進んだだけなのに。
階段がそこかしこにあって塀で囲われ巨大な階段によって下へと繋がる巨大な穴に見える迷宮に集約されておるからか。
ともあれ、あの集団どこいった?!
くそ、さっさと追おう。
そんなに間はあいていなかったはずだし。
そして、儂は初の迷宮入りをしていった・・・・・・




