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Erster Unfall

「ディートリヒ、現在地からベルリンまで最短で移動する方法は?」

「今僕達が居るフランクフルトからベルリンまで、車で移動したら五時間程ですけど……。」

「……この中で運転出来る奴、挙手。」

「僕に運転させると死人が出ますよ?」

「車の損傷を気にしないのであれば、出来るよ。」

それは運転出来るとは言わないんだよ、フランツ。

「はぁ……お前らに聞いた俺が間違いだった。俺が運転する。」

リヒトが渋々ハンドルを握ると、後部座席に着いたディートリヒが口を開いた。

「あの、女の子一人をベルリンまで護衛するのにこんな人数要ります?そもそも何故、軍人でも公人でもないこの娘を護衛しなければならないのでしょうか……。ベルリンに送り届けるだけだったら、僕達のような所属の違う兵士を、しかもそれぞれの小隊長としての仕事を放棄してまでこの娘の護衛任務を命じられたのには意味があると思うんです。」

「ディートリヒ、それは流石に考え過ぎなんじゃないか?」

だが、ディートリヒの疑問は最もだ。俺達は助手席に座っている白髪の少女に渡された手紙に言われるがまま行動してはいるが、俺自身腑に落ちていないことが多い。例えば、アウレリアは一体何者なのかとか、そもそもあの手紙の差出人は本当にザイドリッツ隊長本人なのだろうか、とか。

「まったく……頭が良いってのは大変だねぇ。そんなんうだうだ考えたって仕方ないだろ?目の前に困ってる女の子が居たら助けてあげるのが男の使命ってモンじゃないの?」

「フランツ……貴方、極稀にいい事言いますよね。そ」

「極稀にってなんだよ!せめて……こう、もっと言い方あるだろ!?」

「最後のドヤ顔が無ければ素直に褒めたんですけどね。」

「ドヤ顔なんてしてねぇよ!?」

騒がしいやり取りが後部座席から聞こえてくるが、無視してエンジンをかける。

「ディートリヒ、今何時かわかるか?」

「10時32分ですね。」

「そうか……。それじゃあ、ここら一時間くらいの所にハイデルベルクがある。そこで昼食を兼ねた休憩を取るか。それでいいか?アウレリア。」

突然話を振られて驚いたのか、小さく肩を揺らすアウレリア。

「あっ……はい。大丈夫、だと思います。」

「よし、それで決まりだな。」

エンジンが暖まったところでアクセルを踏み、一行を乗せた車は第一の目的地ハイデルベルクを目指し発進した。


「ねぇーディートリヒー。ひまぁー。」

「何なんですか……。まだ出発してから三十分も経っていないというのに、暇も何も無いでしょう。」

「暇なモンは暇なんだよ!あ、そうだ。アウレリアちゃん、俺達まだ自己紹介してなかったよね。」

「え、あ……はい。」

それじゃあ、とフランツの自己紹介が始まった。

「俺はフランツ・ブリッツ。第一工作兵隊の小隊長をやってまーす!あ、工作兵の仕事はねー」

「はい、そこまで。女の子に工作兵の仕事を説明したって仕方ないでしょう。」

「そんな事ないだろ!あ、この口煩いもやし野郎がディートリヒ・ズィーボルト。山岳猟兵隊かなんかに所属しててね、いっつも土臭いの。」

「口煩いもやし野郎でもないし、土臭くもありません。……少なくとも今日は。」

「んで、今運転してるのがリヒト・シュテルン少尉殿だよ。」

「なんで俺だけ階級付きなんだよ。お前らと階級は同じだろう。」

階級は同じ、という所でアウレリアは何故か腑に落ちたような表情をした。

「あぁ……だから皆さん仲がいいんですね。」

その言葉にディートリヒが反論した。

「リヒトはともかく、フランツと仲がいいだなんて……死んでも御免です。」

「はいはい、照れ隠しはやめようねーディートリヒちゃん。」

「照れ隠しなんかじゃないです!あぁもう!抱きついてこないで下さい!!」

そうは言いつつも本気でフランツを振り払わないあたり、ディートリヒはフランツを好いているのだろうなとつくづく思う。

「ごめんなぁ、アイツらうるさくて。」

「いえ、うるさいなんてそんな……。寧ろ見てて楽しいですよ。」


そう言って微笑んだアウレリアに見蕩れていたのだろうか。

俺は、後部座席の二人が声を上げるまで前方の車が中央分離帯を越えて接近していることに気付かなかった。


「リヒト!前!車!!」

「くそっ……!」

反射的にハンドルを切ったものの、接触は避けられなかった。ぶつかった衝撃でフロントガラスが割れ、破片の一部がアウレリアを庇った腕に突き刺さる。が、そんな事はどうでもよかった。

「アウレリア、無事か!?」

「……大丈夫です。リヒト、さんのお陰で傷一つありません。」

その言葉通りアウレリアの身体には傷一つ付いていない。着用していた白いスカートには所々赤い斑点が付着していたが、それらはリヒトが負傷した際のものであった。

「あのさぁ……少しは俺達の心配してくれてもいいんじゃない?」

そう言ったのはフランツだ。

「貴方の場合、仮に怪我をしたとしても心配する必要は無いでしょう。それにしても、あの車何かおかしくありませんでした?」

そう言ってディートリヒはぶつかって来た車を指差す。

「おかしい?何のことだ?」

「あの車、運転手が乗っていませんでした。」

運転手が乗っていなかった……?

何かが背中を這うような、気持ち悪い感覚に襲われた。嫌な予感がする。あくまでも勘、だが。けれどディートリヒの見間違いかもしれない。どちらにせよ、確認せねばなるまい。

「まさかとは思うが……降りて確認してみるか。」


大破した車の運転席を覗くと、ディートリヒの言う通り運転手も人が乗っていた形跡も無かった。

「誰も載っていない……だとすればこの車はどうやってここまで来たんだ……?」

手元の地図で確認したが、事故現場付近に家屋は見当たらないし車を止めておけるような場所もない。

「ねぇ、これ何だと思う?」

車の持ち主が居ないのをいいことに、車内に怪しいものが無いか探していたフランツが二人を呼び寄せる。手には白くて細長い棒切れのようなもの。

「これは骨、ですかね。見た所牛か馬のモノでしょうか。」

「骨……?一体何の為に……。他には何かないのか?」

「うん、あとはね……この車、爆薬に似た臭いがする。……今すぐこの車から離れて!!」

フランツが言い終わる前に三人は地面を蹴っていた。だが、状況が把握出来ていないアウレリアは三人の様にはいかなかった。それに気付いたリヒトはアウレリアの腕を引き、地面に伏せさせその上に覆い被さる。それから三秒後。車から爆発音がした後、大きな火柱が上がり車全体を炎が包む。四人は車が燃えるのをただ茫然と見ているしかなかった。

「ねぇ、今思ったこと言ってもいい?」

「どうぞ」

「もしかして俺達、ヤバイ事に巻き込まれちゃったんじゃないの?」

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