捌
5/11、訂正しました。
「すごい…。」
「あぁ…王城に入るのははじめてだったね、飄舞。」
「はい、初めて来ました。」
双子との出会いから数日経ったある日、自分と飄舞はアリオクレイアの王城、クレイリオ城の中にいた。
格好はいつもの普段着ではなく、アリオクレイアの正装である国独特の和装を纏っている。
あの日、落ち着いたと思われる隣の家に戻ったコクロウは双子を連れて帰ると言った。
しかし案の定二人は帰らない、まだここにいると言い張り、飄舞にくっついたまま。
言うことを聞かない双子にコクロウは強行措置を取ろうとし、無理矢理にでも連れ帰ろうと試みる。
だが、飄舞が双子の味方になるという自分としても予想外の事態に彼は仕方なく最善策を提案した。
『ではこうしましょう。陛下方は身分を隠してこの家にしばらく滞在する。将軍は本来滞在する予定であった王城に滞在しうまいこと事情を話し、毎日ここに様子を見に来る。というものはどうでしょうか?』
元々双子はアリオクレイアで行われるの解放祭に虎の国の代表として参加する手筈になっており、王城にも部屋が用意されているという情報は仕入れていたためだ。
その提案にも最初は反対していたコクロウだったが、自分の説得で仕方なく折れ、その案を受け入れた。
「義兄様、その…あの時はごめんなさい…。」
「いや、大丈夫だよ。飄舞はリル様、イクト様の意見を尊重して彼等を助けたのだろう?」
コクロウに意見したことを謝っているのだろう、そう口にした飄舞。
しかし、そんな義弟に怒ることはなく、優しく頭を撫でそう言うだけにした。
「ひょーぶ!!」
「リル、走っちゃ危ないよっ!」
パタパタという走る音とともに聞こえる双子の声に振り返る。
虎の国の正装に着替え終えたのだろう二人はこちらにやって来ると直ぐ様飄舞に飛びついた。
あれ以来双子は飄舞に非常に懐き、今日まで毎日のように側にいた。
まるで本当の兄弟のように。
この二人になら飄舞を任せても良いかもしれないと思えるほどには。
「リル様、イクト様、王様が走ってこういうことをしてはいけませんとあれほど…。」
「あ、飄舞、また敬語使ってる!前みたいに普通に話してよっていつも言ってるでしょ!」
「僕もその方が嬉しい…駄目?」
「いや、その、あの…。」
涙を浮かべながら見上げてくる双子に飄舞は慌てている。
双子が王と確信が持ててからというもの飄舞は敬意を払うため様を付けて呼び、敬語で話すようになったのだが、双子にとってはそのよそよそしい態度がお気に召さないらしい。
毎度同じ会話を繰り返しているのだ。
「リルフィリア様、イクトゥビス様…。あまり彼に迷惑をかけることは…。」
後を追ってきたのだろう、コクロウが呆れたように進言すれば飄舞は余計に慌てる。
そんな目の前の光景が面白いため、自分はいつも傍観に徹していた。
飄舞が自然体でいられる現状が大変好ましいから。
「あ、いえ!迷惑だとは思ってないので!ただ、むしろ申し訳ないというか、その…。」
「飄舞のは迷惑じゃないの、口出ししないでよ、コクロウ。」
「僕達はただ、お願いしているだけだよ。」
「「ねー。」」
双子の言葉にコクロウの額に青筋が浮かぶ。
まぁまぁ、落ち着いてというように肩を叩くと彼はすまないというように目礼しながら長いため息を漏らす。
「それよりもリルフィリア様、イクトゥビス様。そろそろ各国の方々が控え室に集まる時間ですよ?」
時間を確認しながらそう助け船を出すように声をかけると双子はそうだった!と思い出したような顔をすれば名残惜しそうに飄舞から離れ、控え室の方に駆け出す。
「飄舞!後でまた行くから!ほんとにその敬語やめてねー!」
「また後でー。」
手を振りながらそう言い残した双子をコクロウはまたため息をつきながら速い足取りで追いかけていった。
「まるで嵐のようだね。それに、随分と気に入られたようだし。」
「兄のように慕ってくれるのは嬉しいですけど…。」
「身分が気になると?」
「はい…。それと…。」
「それはもう終わったことだよ。」
孤児という自分、そしてある秘密を抱えていることに負い目がある飄舞は複雑そうな表情で双子を見送っていた。
あの双子ならそんなことは気にしないと思ったがあえて口にはしない。
どうするかは当事者達が決めることである。
「さて、私達もそろそろ会場に移動しよう。君は双子王の付き添いとして、私はある貴族様の招待で来ている身だからね。」
「あ、はい。」
双子が向かった方向とは別の方向へ廊下を歩く。
本来なら毎年の解放祭の式典への招待状が自分へ届いてはいたが不参加で、飄舞と一緒に城下の祭りに参加していた。
だが、今回は双子の強い要望で付き添いという形で飄舞が参加することになったため、行くつもりのなかった情報屋も参加のむねを招待状を送ってきた相手へと連絡していた。
相手方にものすごく驚かれたが。
「あの、兄様。解放祭ってこの国ではどういう行事なのですか?」
元々この国出身ではなく、いつもはその行事に合わせるように行われる城下のお祭りに参加していたため飄舞は詳しいことは知らない。
故にそう尋ねると一瞬複雑な表情を見せたがすぐにいつもの笑みを浮かべ口を開く。
「解放祭は誰もがよく知る英雄殿が“災厄の王”と呼ばれる不定期にこの世界に現れる存在を倒した日から四日間のことだというのは分かるね?」
「…はい。他の国でもこの四日間は解放祭か行われていて、賑わっているのは知っていますが、何故か各国の代表がこのアリオクレイアに集まりますよね?自国で祝うのではなく。」
「そうだね、必ずこの閉鎖的な国に代表が集まって四日間を祝う。…多分一番希望が大きいからじゃないかな。」
「希望が大きい、ですか。」
「英雄サマがこの国に隣接する神ノ森の創造神の神殿に住まう異界の巫女様との間に生まれた神子。それに幼少期はこの城で女王陛下と兄妹のように育ったからだよ。だから、消えた英雄サマがここで祝っていればやって来るじゃないかと各国の代表、英雄サマと面識がある者達は思ってるんだよねー、オレも含めて。」
「へ?」
「…。」
突然後ろから声をかけられ、飄舞はそんな声をあげながら振り返る。
一方の声の主を知っている自分はただその相手に視線だけを向けた。
そこにいたのは額から後ろに反るようにのびる立派な二つの角を持ち、鱗のついた長い尾の龍族の男だった。