漆
5/11、訂正しました。
翌日、家に一人の来客がやって来た。
来客がくる前から、双子は気配を感じていたのだろう、大人しく出入り口の前に正座をし、怒られるのを覚悟するように身を縮込ませていた。
「お邪魔する。」
低い声と同時に出入り口の扉が開く。
入ってきたのは長身の青年。
青みがかった黒の短髪に翡翠色の瞳は左が隻眼で一筋の傷が額から閉じられた目元にかけてある。
体格は細身だが、纏う雰囲気は歴戦の将の風格を嫌でも感じるほど。
本来あるはずの耳と尻尾は意図的に隠しているのか見当たらない。
蛇足だが、獣人は一人前になると尻尾と耳を意図的に視覚できないようにでき、普通の人間と同じような容姿になることができるのだ。
その原理はいまだに分かってはいない。
「コクロウ…。」
「…ご無事でなによりです。イクトゥビス陛下、リルフィリア女王陛下。」
双子が青年の名を小さく呼べば、安堵の表情を浮かべ、その場に片膝をつき、臣下の礼を取る。
「はぐれたこと、お、怒ってる?」
「怒ってはおりません。呆れてはおりますが。」
「私も勝手に抜け出してごめんなさい。」
「はい、次はお気をつけくださいね。」
漸く安心できたのか、双子は体の力を抜き、その場に倒れる。
一瞬、コクロウと呼ばれた青年がはしたないと嗜めようとするも、すぐに今はいいかと口を閉じる。
「ジークレイド将軍自ら迎えに来られるとは思いませんでしたね。ですが、良かったですね、陛下方。」
今まで見守っていたがそう口を開く。
それにより、二人がいたことを思い出した双子は慌ててこちらを見て、飄舞を見る。
自分の隣に座っていた飄舞は視線を向けられると曖昧な笑みを浮かべていた。
「保護者の方が迎えにいらっしゃって良かったですね。えっと…イクトゥビス陛下、リルフィリア陛下。」
と、今までとは違い、目上の者に対する口調で話す。
途端に双子は泣きそうな顔になり、そのまま飄舞に飛びついた。
「やだ!やだよ!飄舞、今まで通りに離してよ!」
「そうよ!なんで…なんでそんな喋り方するのよ!」
「え、いや、私のような平民とは身分が違いますし…。」
「飄舞は飄舞でしょ!親友なんだから今まで通りにしなさいよ!!お願いよ…。」
「そうだよ!寂しいよ!…身分を隠してた僕達も悪いけど、飄舞にそんな態度を取られるのはやだよ…。」
「えぇ…。ですが…。」
「「う、うわぁぁぁぁん!」」
「っ!?」
同じタイミングで泣き出してしまい、飄舞は明らかに動揺してしまう。
なんとか泣き止ませようとするも双子は泣き止まず、自分に助けを求めてくるがその前にコクロウと共に隣の部屋に移動した。
「良かったのか、あのままで。」
「義弟にもああいう経験は必要ですから。」
わざと義弟を見捨て、隣の部屋にコクロウをつれて移動してきたのは育ての親としてそうした方が良いと思ったから。
本心は面白そうだったから、だが。
相手を座らせ、前にお茶を相手に出したとき、そんな風に聞かれ、彼は口元に笑みを浮かべてそう言葉を返しただけ。
本心は言うつもりはない。
そうか、と一言言えば出されたお茶を飲む、コクロウ。
本来ならば主人たる双子の側にいなければならないが、目の前の自分の仮の正体を知っていて、なおかつそんな人物の家なら問題ないと判断でついてきたものと察する。
「昨夕、ある密偵が私のところにやって来たときはまさかと思ったが…やはり貴方だったか狐面の情報屋殿。」
「おや、コクロウ・ジークレイド将軍に知られているとは随分私も有名になったものですね。」
「先王ご存命の時から城に王の許可のもと入城していただろう。そこで何度か会っていると思うが?」
「えぇ、確かに会っていますね。」
「…今回の陛下達の保護の件、誠に感謝する。何分他国でのこと、公に探すことも出来なく、焦っていたところだったのだ。」
深々と頭を下げる相手を見ながら相変わらず真面目なことだと懐かしき戦友を見ていたが、頭を下げていた相手が気づくことはない。
「…成り行きですよ。別に普通の子供だったら助けなかったですよ?…お世話になったあの人、ミザルイスの先王、グラディウス様の御子かと思ったから助けたまでです。…彼は白虎でしたし、その後我が義弟が連れてきた彼女は金虎だった。…噂には聞いていましたから。」
「そうか、だが、それでも礼を申し上げる。」
「真面目ですね。」
「そういう性分なのだ。黒虎というものはな。我慢してくれ。」
顔を上げ笑う相手につられるように自分も笑う。
そう、彼はこういう人物なのだ。
「陛下方の泣き声も聞こえなくなりましたし、そろそろ戻りましょうか。」
「そうだな。…しかし、あの懐き具合を見てしまっては素直に一緒に帰ってくれる気がしない。」
「そうですね。まあ、私も出来るだけお手伝いしましょう。」
「あぁ、頼む。」
深々とため息をつきながら立ち上がるコクロウを見て、あの双子に随分と手を焼いているようだと思いながら、これからもっと面倒なことになりそうだという勘が働き、静かに心の中でコクロウに手を合わせておいた。




