陸
昨日投稿し忘れてました。
短いです。
5/11訂正しました。
夜中にふと、違和感を感じて目が覚めた。
ゆっくりと起き上がり、寝ながらも付けていたためにずれていた狐面を直す。
普段なら聞こえるはずの虫の鳴き声や微かな物音さえも聞こえない現状。
静かに布団から出て、外への扉を開く。
外に出れば青い満月が辺りを照らし、普段の夜より少し明るい。
「良い、月夜だ。そう思うだろ?我が半身よ。」
「…。」
言葉に言葉を返すことなく、静かに後ろを振り返り、屋根の上を見上げる。
そこには、杯に徳利の中身を注ぎながらそれを飲み満月を見上げる一人の青年。
濡れ羽色の長い髪を緩めに編んで左側に垂らし、翡翠色の切れ長の目はしかし見る角度によってその瞳が七色に変化する不思議な色彩を見せる。
纏う衣服は青みがかった神御衣で明らかに普通の者ではない気配を放っていた。
「ここは神殿でも神域でもありませんよ?創造神様?さっさとお帰りください。」
「冷たいな。何が気に入らない? 」
「貴方がこの身に与えた定めが一番気に入りません。それといつもとは違う偉そうな態度が。」
「楽しいだろ?それのお陰でお前は孤独にならずに済んだ。半分でも神の血が流れているお前にとって。なぁ?俺の可愛い息子。」
「気色悪い声でその名を呼ぶなクソジジイ。そして態度については流すのかよ…。」
「あっははは!この俺をそんな風に呼んだり、そんな無礼な口調を働くのはお前くらいだよ。で、この喋り方なら合格かー?」
神は楽しそうに笑う。
自分に向ける視線は親特有の優しさが込められているが、向けられた当の本人は冷たい視線を神に向けるがそれが面白いのかなおも神は笑い続けた。
「人を馬鹿にしに来ただけならさっさと帰れ。」
「もうすぐこの世界が救われた日、解放祭だったな?」
「それがどうした…。」
「英雄の生まれた国であるアリオクレイアに各国の王やそれに準じる身分の者が集まり、平穏が訪れたことを祝うこの世界に住まう者達にとって楽しい四日間だ。楽しいことは良いことだ。だが、……人族の動きに気を付けろ。」
「…何?」
神の纏う空気が変わる。
これは神託だと本能が告げた。
自分を見下ろす、今まであった感情が全て抜け落ちたような神の目。
昔に習ったことはまだ体に身に付いていたらしい。
神に対してこの国の巫が行う礼を取ると神はまた口を開く。
「今お前の周りで起きている出来事は全て繋がる。十年前のあの時のように。」
十年前、その時もこんな満月の日だったなと深々と頭を下げながら改めて思い出し、情報屋は舌打ちしたいのをなんとかこらえる。
あの時もこんな風にいきなり現れた、そして自分の生活が変わった。
「人族に気を付けろ。そして、止めてほしい。」
「…一体何を止めろと。」
「それは言えん。だが、お前の定めがそれを教えてくれる。」
神が側に降り立つ音が聞こえるが情報屋は顔を上げない。
裸足の神の足が目の前までやって来るが頭はあげない、これが自分にまた厄介ごとを押し付けてくる神への無力な精一杯の反抗である。
「俺はこの世界が好きだぞ。生きているもの全てが好きだ。……だが、お前とお前の母親だけは何よりも愛しているよ。」
すまない、とただ一言。
小さな声で言った神は頭を下げたままの自分の髪をくしゃりと撫でてからその姿を消した。
同時に周囲に音が戻ってくる。
「そんなこと、知ってるっての、クソジジイ。」
ため息をつきながらいなくなった父への言葉を返す。
姿が見えていては決して言えない本心。
「これから忙しくなるな…。」
げんなりとしたように言葉を吐き出す。
飄舞には話しておかないとと心の中で思いながら、朝までまた眠るために家の中へと戻った。