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英雄は静かに暮らしたい  作者: 雅樹
アリオクレイア編
3/20

5/11、情報屋目線に訂正しました。



「やはり彼は?。」


「えぇ、情報屋。貴方が思っている通りの御方ですよ。」

 

「しかし、貴方が保護していてくれるのでしたらこちらとしても安心できますなぁ。」



 アリオクレイアの王城の一室にて。

 そこで顔見知りで付き合いの長いある女性高官と外交ギルドの長の三人で話をしていた。

 

 本来の目的は高官にイクトの許可証について外交ギルドへの訪問許可とそのイクトのことについて軽く情報を得ようという腹積もりだった。

 だが、かの少年はやはり自分が思っていた人物とやはり関わりが強い子のようで、軽く昨日のことを話すと速攻で高官の執務室の隣、簡易的な書斎のような部屋にすぐさま投げられるように放り込まれ、後から行く筈だった女性高官直轄の外交ギルドの長がその部屋にやって来た。



「しかも、将軍の話によれば陽華姫も昨晩脱走したようで。」


「場所はこの王都の南西、滞在人が王都にくるなら必ず通るシュラック街道の途中らしくてのぅ。」

 

「…匂いを辿り、王都に来ていそうですね。イクト様がはぐれたのもシュラック街道の入り口にある花の街フェルシ、でしたか?」

 

「もうそこまで情報を手に入れていましたか。相変わらず貴方の子飼いは優秀ですね、情報屋。」

 

「流石というべきか…。」

 

「情報屋に情報はとても大事ですから当然ですよ。それよりも…。」

 


 曖昧に答えたものすぐにめんどくさそうにため息を吐き出す。

 そのため息は書類を片付ける音や筆を走らせる音だけが響く隣の執務室の全員にもはっきりと聞こえていたのだろうか。

 隣の部屋からガタガタという物音がして、何か驚かせてしまっただろうかと一瞬不安になる。

 だが物音は一瞬だけだったため、不安に思ったことを一度頭の端に移動させ、目の前の二人と向き合う。



「こちらとしては穏便に静かに事を済ませたいのですが…。」


「陽華姫が貴方が保護している御方のところにやって来る可能性は十分にあり得るでしょうな。」

 

「でしょうねぇ…。」



 二人の言葉に同意しながらも軽く眉間に皺を作ってしまう。

 何故ただ静かに暮らしたいだけなのにこうも面倒なことが起きるのか。

 原因は分かっているが、もう少し放って置いてほしかったと思うのは駄目なのだろうか。

 

 その様子に本当に申し訳なさそうにする高吏とギルド長。

 だが、この二人も目の前の自分がこのことに関わっているとは全く予想だにしないことだったのだから致し方ない。



「…分かったよ。この件に関しては協力しよう。このまま誰かに任せるっていうのも嫌だからね。それとあちら側には私から子飼いを通して連絡しておく、ちょうど知り合いが向こうの責任者のようだし。…狐面の情報屋の噂や話くらいは知っていてくれればらくなんだけど。」


「よ、よろしいのですか!?」


「あぁ。その知り合いに今回の件でバレるとちと面倒だが、仕方ない。ただし、“彼女”には近衛で対応すると伝えるんだ。私がいると彼女に知られるのはまずい。近々行われる式典に集中するように君らがなんとかするんだよ。」


「かしこまりました。一応月花王発見報告と陽華姫の捜索に関しては此方からも将軍に報告しておきましょう。その方が貴方の子飼いも会いやすいでしょうし。」

 

「申し訳ありませぬが、よろしくお願いします。証明書等は我がギルドが責任をもって用意させていただきますゆえ。」



 頭を下げる相手方にまた何かあったら来るよと言い残し部屋を出る。

 隣室にいた補佐の文官達にも挨拶をと思い、彼らを見てしまった。


 隣でお互いに声を抑えて喋ってはいたが隣の執務室で高官の補佐をする文官達にはその声は聞こえていたらしい。

 しかし、その緊張の含まれた上司の声と上司の信頼の厚いこの国でも有名な情報屋(じぶん)、そして滅多に姿を表に出さない外交ギルド長の登場により重要なことなどだと誰もが分かればここで聞いたことは墓場まで持っていくことを誰もが心で誓ったことだろう。

 それくらい珍しい組み合わせなのだ。


 挨拶をしようと彼らを見れば大丈夫です、と何処か悟りを開いたような表情をしていて、聞かせてしまったことを申し訳なく思いつつ、執務室を出る。


 王城の人気のない長い廊下を一人何度もため息をつきながら裏門に向かって静かに歩くことになってしまった。

 文官達に対する罪悪感でいたたまれない。


 途中書類を抱えている官吏や見回りの憲兵とすれ違うが、誰も自分の存在に気づいていないかのように横を通り過ぎていくが気にしている余裕はなかった。



「お、情報屋、もう帰るのか?」



 使用人や商人のみが使う裏門までくるとそこに立っている年季の入った風貌の男の憲兵にそう声をかけられる。

 対照的に他の憲兵達は普段通りにしつつも誰だろうという視線だけを自分にに向けるが気にせず男の側にいく。



「用事は終わったからね、警備御苦労様。」


「アンタからそう言われんのはやっぱり嬉しいねぇ。というか、なんか疲れた顔してるが、なんかあったのか?」


「ちょっと予想していたことが現実になってその対応が、ね…。」



 本日何度目かのため息をつくと憲兵の男は複雑そうな表情を浮かべながらも苦笑した。



「そういう定めに生まれたと諦めるのが一番でしょうに。アンタが関わることで楽なことは今まであったか?」


「…ないね。」


「だろ?」



 またため息をつきながらこんな定めなんて欲しくなかったと内心でぼやきつつ、目の前の憲兵になんとかならない?みたいな視線を向けるが、当の相手は自分は一般人なのでというようなとても良い笑顔を浮かべていた。

 

 

「元騎士団長殿にはここは暇でしょ?代わってあげてもいいよ?」

 

「平和が一番ですから。遠慮しますね。」


「だよね。…はぁ…それじゃ、邪魔をしないようにそろそろ行くよ。式典まで警備強化大変だろうけど頑張って。」



 話していた憲兵だけでなく他の憲兵にもそう声をかけるとそのまま帰路へとつく。

 

 途中、何度目かもう分からないため息をつきながら鳥のような黒い何かを空に放つのを忘れずに。





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