参
説明回のようなものなので会話文は少ないです。
「はぁ…。」
母から解放され、一人神殿の中庭に横になりながらシオンは小さく息を吐く。
今頃父は母に自分のことや人族の姫の言葉についてなどいろいろと話していることだろう。
創造神という立場であっても母には勝てないのはいつものことで、常に尻に敷かれているのだから。
こんな風に本来の姿に戻ることがこんなにも早まるとは思っていなかった。
飄舞が一人前になり、自分の手から離れたらこの神殿にひとりで戻るつもりだった。
母や神殿の者達、それに妹同然だった紅玉には怒られることは覚悟していたから。
「予定がいろいろ狂った…まあ、元凶はクソジジイなんだけど、さ。」
父の願いがなければ自分はこの神殿とアリオクレイア以外に出向くことはなかったはずだ。
今考えればその願いもとんだ無茶ぶりだったが、当時はまだ自分も父の役に立ちたいという子供であったから…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
幼少期、自分は唐突に母から離された。
神殿ばかりで過ごすのは成長にも良くないと、母が相手が幼い頃から可愛がっていた神殿のある森の隣の国、アリオクレイアの女王の元に。
ちょうど女王の娘が自分よりも年下ではあったが良い遊び相手になるだろうと。
母は父の妻となったことで神籍に入り、その身の時間は止まった。
神である父と同じ時間を生きるために。
父がその身を消滅させるとき、母も同じように消えるという誓約を母が一方的に――父は反対した妻を置いていく気かと怒ったらしい――施して。
それでも体は人間であるため、自分は半神半人という混血で成長するスピードは母寄りになったのか普通の人間の子供の成長スピードであったという。
父寄りであった場合は生まれながらに自我が確立していて、その成長も早いらしいが母はそれではつまらないとこぼしていたため、自分に似たのは嬉しかったらしい。
そうして普通のスピードで成長していたが、成長のためにもと母から離され、アリオクレイアで同時まだ四歳の紅玉の兄のような立場で一緒に育てられた。
一人っ子だった紅玉にとって自分のような兄ができたのがよほど嬉しかったのだろう。
すぐになつき、一日の大半を共に過ごすのが日課になっていたから。
紅玉の母で先代女王の瑪瑙様もまるで我が子のように可愛がってくれたし、母も時々やって来たため、とても充実していた。
しかし、それまでで一度も父に会ったことはなく、偉い神様だということしか聞いていなかった。
それから数年、アリオクレイアで紅玉と本当の兄妹のように過ごしていたある満月の夜に初めて降臨してきた父親と出会った。
「お前がシオンか。レナと俺の容姿をうまい具合に受け継いでるなぁ。」
「っ…父さん、ですか?」
「そうだよ、俺の可愛いシオン。」
そう言って抱き締めてくれた父のぬくもりが嬉しくて、今まで会いたいと思っていた父親に会えたことが嬉しくて、子供ながらに父のお願いを簡単に受けてしまった。
「ある神位を受け継いでほしい。」
「しんい?それがお願いですか?」
「あぁ、苦しむことになるかもしれないが、私はお前に受け継いでもらいたい。」
今考えればまだまだ子供の中身もまだ成長しきっていない自分の息子にお願いするには早いだろうと周りに誰かがいたら止めたであろう。
だが、そこには自分と父しかおらず、父も子供の成長は神の子供基準であるためにもう大丈夫だと勘違いをしていた。
「僕でいいなら!父さんの役に立ちたいです。」
「それでこそ、俺の息子だ。」
そうして与えられたのは該当の神が堕天して空席となった“破壊神”としての創造神に並ぶ高位の神位。
考えてもみてほしい、それを子供が受け継げるのかどうか。
答えは……否。
前任の神が持っていた神位に必要な知識も記憶も全て受け継ぐ創造神が行う儀式を終えた途端、それらは自分の中に流れ込んだ。
膨大な量のそれはまだ成長途中の自分にとっては容量過多。
全身を襲う激痛とそれを治そうとする神の血の力。
糞尿を漏らし、血反吐を吐き、涙を流して側にいる父に助けを請う。
生き地獄だった。
ただ父の役に立ちたいという子供心がこんな悲惨な目にあうなど分かるはずもない。
気を失うその時まで、父は助けることをせず、ただ静かにこちらを見下ろしていた。
助けてくれない、子供ながらの絶望感に一瞬にして心が壊れかけた。
それを守ったのも神の血であった。
目の前の息子の様子に父は混血による副作用だと考え、これも試練だとばかりに放置――本人曰く見守っていた――していたらしい。
破壊神としての問題なく――大有りだったが――神位は体に馴染み、息子の神の仲間入りを見届ければ力を使って部屋も息子自身も綺麗に整えてから天上へと戻っていったそうな。
翌朝、いつものように紅玉が挨拶に部屋にやって来れば自分の異変に気づき慌てて母を呼びに行くのがなんとか浮上した意識のなか見たのは覚えている。
父から受け継いだ神の血がその命を守ったが、反動により寝込んだ。
その原因は誰にも分からなかった。
知るのは父と自分のみ。
結果、紅玉は大泣きして側を離れず、慌ててやって来た母には何があったのかとしこたま怒られ、瑪瑙さんはそんな二人を慰め、落ち着かせていた。
しかしその時には人間の心、今までシオンとしての人格が壊れかけてしまっていたため、破壊神の神位としての人格が表に出ており、シオンの人格は深く微睡んだところにいた。
ゆえに無感情な瞳で側にいた三人を見ていたのはなんとなく覚えている。
そして、その時に思っていたのはただひとつ。
前任が地上に放った災厄の種――災厄の王のこと――を回収するということ。
その晩、自分は神位の意識の本能に従い、住んでいた場所をアリオクレイアを出た。
置き手紙なども残さずいなくなった。




