拾参
この話でアリオクレイア編は終了です。
「義兄様!」
廊下を母とその付き人の神官達と歩いていると追ってきたと思われる飄舞の声が聞こえたため、振り返る。
「義兄?シオン、お前、義妹がいたのか?」
「はい、拾い子ですけれど。それと、一応義弟で通してますので。」
母の問いに素直に答えていれば走ってきたために息を切らした飄舞が側に来る。
「行ってしまうんですか?…僕は…。」
「しばらくしたら必ず迎えに行きます。それまで“紫”を付けておきますから、待っていてくれますか?」
「っ…迎えに来てくれるなら待ちます!だから、絶対来てくださいね?」
「はい、約束します。」
そこまで言えば安堵したように息を吐き、飄舞が体から力を抜く。
置いていかれると思い、怖かったのだろう。
飄舞は自分に会うまではずっと一人だったから。
だが、今側にいるのは自分だけではない。
「とういうことですので、私が迎えにいくまで預かってていただけませんか?イクトゥビス陛下、リルフィリア陛下。」
「もちろんよ!!」
「任せてください。」
飄舞の後を追ってきた双子にそうお願いすれば、二人は一瞬で顔を輝かせ、大きな声でそう言った。
この解放祭が終われば飄舞と離ればなれになると不安になっていた双子のことを陰ながら護衛につかせていた子飼いから報告を受けていたため、双子にとっては断る理由はないだろう。
こちらとしても都合が良い。
「では、飄舞。ミザルイスで待っていてくださいね。」
「はい!」
最後にもう一度頭を撫で、離れれば振り返ることはなく、母とともにまた歩きだす。
人の好き嫌いが激しい母が横で飄舞に向け手を振る姿に次会うときに母が会うのにも問題はないと思えば笑みが浮かぶ。
「良い子みたいだねぇ。でも、なんで女の子に飄舞なんて名前付けた?」
「彼女がそう望んだんですよ。名付けるときに女の子っぽい名前は嫌だって。義妹ではなく、義弟として扱ってほしい、と。」
「へー。まあ、次は紹介しなさいよ?お前の義妹なら私の義娘でもあるんだから。」
「義弟で貴女の義息子ですよ、母上。」
「嫌だね。女の子なら私は娘として扱う!いやー娘が欲しかったからよくやったよ、シオン。」
これは何度言っても訂正する気はないと感じれば深いため息をつく。
次会うときはきちんと飄舞に説明しないとなんて内心で思う。
「さぁ、我が家に帰ろうか、シオン。」
「はい、母上。」
久々の我が家。
自分が幼いときにいた記憶しかないけれど、母にとっては唯一の場所。
これから我が家と思えるように過ごしていけたらいいなと思い、城に設置されている神ノ森の神殿へと繋がっている魔方陣の部屋へと向かって歩を進めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうして!!どうして私がこんなところに閉じ込められなければいけないのよ!」
王城の地下牢に拘束された王女の声が響く。
本来の囚人などのなにもない牢とは違い、質素ながらも生活するには問題ない貴族専用の牢に入れられたというのにずっと叫びつつけていた。
周囲に見張りの兵などはいないが、歴代女王が自ら施した協力な結界やら魔方陣やらが常時発動しているため、逃げ出すのはまず無理である。
「リリア様、落ち着かれなさいませ。」
「落ち着けるわけないでしょ!私は王族であり神に選ばれた娘なのよ!こんなの許されないわ!」
向かいの牢に入れられた彼女の騎士が宥めようとするも、王女はまったく聞く耳ももたず、手当たり次第のものを投げて癇癪を起こした子供のような態度を取っている。
「だって!言うとおりにすればあの方は創造主様はシオン様も手に入るとおっしゃったのよ!なのに、なんで…。」
女王は幼い頃から英雄シオンに憧れており、自分のものにしてしまいたいという願望があり、その思いは年々強くなっていた。
娘を溺愛し、なんでも与えていた父王にある時いつものようにシオンが欲しいとお願いしたが、父王はそれだけはできないと初めて彼女の願いを断ったのだ。
それでも彼女は諦めきれず、ある時ドゥーベスタにある神殿に公務で訪れたとき、創造神を名乗る神が彼女の前に降臨したのだ。
神の妻となり、自分の言うとおりにすればシオンを手に入れることも可能だ、と。
彼女はすぐに飛びついた。
「なんでって、俺が創造主じゃないからだよ。」
そう、まるでその時のように目の前にその神はいつの間にか現れた。
「創造主さ、ま…?な、何を言っていますの?それに…その格好…。」
「だーかーらー。俺は創造主である兄貴じゃねーの。残念でしたー。君らを騙すために大事な神気を見た目に使ったからねー。騙されたでしょ?」
ケラケラと嘲笑う創造神に良く似た、しかし決定的に違う真っ赤な血のような赤い瞳。
両手両足に付けられた枷とそれに繋がる途中で切れた鎖。
襤褸の服を纏った異質な雰囲気をもつ神。
「いったい…あなた、は…なんですの…。」
「なんだって良いじゃん。お前ら人間はもう俺が天上と地上を混乱に陥れるためだけの捨て駒なんだからさぁ。ほら、まだまだ働いて貰うから、よろしくねぇ?」
そう言えば神の足元から闇が広がり、そこから現れた無数の手が王女と騎士を引きずりこもうとする。
声にならない悲鳴をあげながら抵抗しようともがくも二人はすぐに闇のなかにその体を沈ませてしまう。
「クククッ…アッハハハ!漸くここまで来たぁ。せいぜい残り少ない幸せを噛み締めてろよ、クソ兄貴ぃ。」
そう言って神は牢の窓から見える空を見上げ嗤いながら姿を消す。
翌日、食事を持ってきた兵が見たのはいるはずの王女のと騎士が消えた部屋だった。




