拾弐
5/11、訂正しました。
「そう、あの方が貴方を選んだの。では、私はもうお役御免ということかしら?」
微笑んでいるも目がまったく笑っていない異界の巫女である母。
周囲の者達は母の発言に動揺を見せた。
ここにいる大半が彼女の存在が父にとってどのような影響を与え、この世界に平穏という恩恵を与えているかを知っていて、見てきた者達ばかりだから。
ただし、人族はその場面のあった場所にまったくといって良いほど欠席の姿勢を貫いてきたため、今回のような父の名を騙る神に騙されるのだ。
創造神の姿を像などでしか見ていないから。
しかし、側にいる自分は別な意味で冷や汗が止まらない。
母は、異界の巫女は有言実行の行動派なのだ。
この後に言う言葉がどんなものなのか気が気ではない。
もういっそ父神を呼び出して土下座させた方が良いかもしれない。
いや、むしろ今の現状を見てるだろうし、さっさと誤解を解きに降臨してほしい。
「えぇ、貴方のようなおばさんはもう創造主様も飽きたのですよ。ですから中古はさっさと消えてくださいませんか?私の邪魔になりますし。」
「……。」
あぁ、終わった…。と会場にいる人族以外の者は思った。
ここまで人族が愚かだったのかと自分も思う。
異界のチキュウという世界のニホンという国から創造神が見初め、連れてきた少女。
その時から神の力によって不老不死に近い状態になり、長年神の妻として恥のないように行動してきた。
父が住まう天上ではなく地上にいるのだって、創造神がニホンにいたときの少女が好きだから、自然体でいられる地上での生活を許しているのだ。
それに、神と人の間になかなか生まれないとされる子供までできているのに、飽きた等とあの子煩悩で妻を溺愛している父が言うわけないと知っている人達は確信しているため、虚言を吐く人族の王女を睨む。
「…シオン。」
「っ…はい。」
名を呼ばれ、自分、シオンは返事をして母を見た。
それは自分が英雄だということを認めること。
だが、構わなかった。
自分まで返事をしないことで母を傷つけることはしたくなかったから。
「一緒に帰りませんか?貴方がしてきた旅の話を聞きたいの。」
母は穏やかないつもの笑みを浮かべていたが、おや?と変化に気づくもすぐに察して気づかない振りをして微笑む。
「はい、長らくお側を離れてしまって申し訳ありません。是非聞いていただきたい話がたくさんあるのです。」
「それは楽しみね。…夫に捨てられたみたいだし、貴方とこれから旅に出るのも良いかもしれないわね。」
本気でしそうである。
いや、もし本気ならばそれはもう決定事項だ。
「紅玉ちゃん、騒がせてごめんね?シオンと貴女も話したいことがあるかもしれないけど、連れていくわね?」
「構いませんよ。シオン兄様とはレナ様とのお話が終わってから皆様と一緒に突撃して話をするつもりなので。」
「ありがとう。」
アリオクレイア女王、紅玉がそう言いながらニッコリと笑って自分を見る。
逃がしはしないという意図を長年共に過ごした妹分から感じ取り、小さくため息をつく。
しかし、消えたのは自分であるため、甘んじて何でも罰を受けようと思いながら母と共に会場を退出しようとする。
「ちょっと!なんでシオン様を連れていくのよ!」
王女の金切り声が聞こえ、自分も母も足を止めて振り返る。
周囲は何故邪魔をしたというような冷たい視線を向け、特に女王の視線は相手を射殺せるのではないかというように鋭い。
だが、当の本人はまったく周囲の視線に気づいておらず、怒り狂ったような表情で側に来ればあろうことか情報屋の腕に抱きつくように掴まった。
「シオン様は私のものよ!だって、創造主様と婚姻するんだから、おばさんの…きゃっ!」
「いい加減耳障りな声をやめていただけませんか?それに私は貴女のような馬鹿な女のものではありませんし、母をおばさんというクソアマには嫌悪感しか抱かないので。」
腕に掴まってきた王女を振り払いながら、自分は言う。
自分でもこんな言葉を言うほどストレスが溜まっていたのかと他人事のように思うが、言われた本人は言葉と一緒に漏れでていた神気にあてられ、しりもちをついたまま怯えた表情を浮かべていた。
「シオン、だんだんあの人に似てきたわね?」
「そうでしょうか?」
「いやー、うん、びっくりだわ。」
「母上、口調が素になってますよ。」
「別に良いかなって。面倒なんだよね、ちゃんと話すのってさー。」
「まあ、それもそうですね。」
いつの間にか頭から王女のことは消え、また退出するために歩きだす。
シオンはそのまま会場から出て、もう振り返ることはなかった。
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英雄殿が口が悪いのは巫女様似ですよと、二人の後をついていった巫女付きの神官達は全員一致で心の中で思ったが、誰も口には出さなかった。
誰もが頭を垂れ、会場を出る二人を見送る。
最後に異界の巫女が楽しんでねー。と言葉を残し退出したことで会場に音が戻り、全員がその原因である人族の王女を見た。
完全に怯え、側付きの騎士にすがっている光景は誰もが自業自得だと内心で思う。
「ドゥーベスタ国王女、リリア様。申し訳ありませんが、虚偽の言葉を神の眷族たるお二方に言い放った挙げ句、英雄シオン様に対する無礼な振舞いにより、拘束させていただきます。」
「っ…ただの獣の国の女王である貴女にそんな権限があると思ってるの!?下等生物のくせに!」
ブワリと殺気が狐人から溢れる。
自分達の王である彼女を侮辱した、それだけで、殺すには十分であった。
さらには英雄や異界の巫女と交流のあるものは今すぐにでも襲いかかりたい衝動が沸き上がるも、女王や自国の王の手前、理性を総動員して押さえ込んでいるのだ。
「黙りなさい、小娘。貴女のせいでこの世界から創造主の守護が消えるかもしれないことを言い放ったのは自覚がないようね。…この国で一番厳しい牢屋で反省しなさい。」
それでもキャンキャンと喚く王女を、城の衛兵と元近衛騎士団長が騎士ともども黙らせ、牢屋に連行していった。
その後、式典は続けられたが、各国の代表はこれからの異界の巫女や英雄の動向によって変わる世界の運命に頭を悩ませることになったのは言うまでもなく、彼らの中の人族への評価は地の底まで落ちた。




